Re:ゼロからはじめる俺のハンター生活は間違っているのだろうか   作:名無し@777

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十五話

古代林の奥地に野太い悲鳴が木霊する。

 

「うぐぉぉぉぉぉっ」

 

ヤツの突進をモロに食らった材木座は自身の武器である骨刀【狼牙】の柄を両手で握り締め、数十メートル先まで吹っ飛ばされた。防具をしているとはいえ、モンスターの攻撃をくらえば少なからず防具を越えて身体にダメージを及ぼす。

 

「ブモゥ!」

 

 茶色の毛をした四足歩行の小型モンスター、ファンゴは材木座を倒すだけでは満足しなかったのか、鼻息を荒らげ、俺に向かって突進してくる。その驚異はリオレウスの突進と比べれるとひ弱なものだが、口元に生やしている鋭利な牙は俺を刺し殺すには十分な物だ。移動速度も速く、開いていた距離は刻一刻と縮められていた。

 

 ハンターの定石であるならば即座に回避し、追撃を行うのだろう。しかし、俺、比企谷 八幡の狩りスタイルの定石は違う。

 

『攻撃が当たる刹那に回避する』。

 

 目前に迫る鋭利な牙が俺を貫かんとする瞬間、背中に収めていた漆黒の太刀、 ヒドゥンサーベルを勢いよく抜き出し、ファンゴとすれ違い様に刀身をファンゴの肉質を斬りつける。

 

「ブヒィ……」

 

 肉質を裁断したことで対峙していたファンゴは絶命した。

 

 これが俺の定石なのだ。

 正確には攻撃を食らう瞬間に回避すると同時に敵に強烈な一撃を刻む。

この一連の動作をハンター協会は「カウンター」と名付け、ブシドースタイルのみが唯一行使できる技術である。しかし、平塚師匠曰くは、この技術は異郷の地にて研磨された技術の模倣であるらしい。その技術を異国の民達は、「居合い」と呼ぶ。

 

「ヒッキーなんかすごいね!飛ばされちゃうと思ったのに!」

 

「我、あんなのできないんだけど……」

 

 足元に転がるファンゴの死体から毛皮などを剥ぎ取っていると賛美の声を浴びせられた。

 

「ま、ルーキーはルーキーなりに努力してんだよ。つか、材木座の場合はヒットアンドウェイ過ぎるだろ」

 

「む、むぅ……なかなか癖が抜けなくてな……」

 

 ふらつきながら、材木座は面目無さそうに語尾を萎ませる。

 このエリアに踏み込んだ直後、複数にファンゴに襲われた。警戒を怠っていた訳ではないが突如の事態だっため、連携がとれず各個撃破という形になったのだが、ガンナーである由比ヶ浜の心配はしものの、馬鹿で阿呆で間抜けな様子から想像できない動きで敵を翻弄し、ライトボウガン ヴァルキリーファイアから正確無比の銃弾を放っていた。むしろ、問題があったのは材木座の方だった。

 

 一太刀入れる度に回避を行うのだ。

 

 確かに、危険性を考えるのならば正しい選択なのかもしれないが、太刀使いは攻撃の手を休めてはならない。何故ならば、太刀使いはモンスターにダメージを与えることで「気」を練ることが重用だからだ。この「気」というのは神経を研ぎ澄ませることにより、身体能力を上げる力がある。だが、その力は無限ではなく、有限。時間が立つ事に薄れ始めていってしまう。よって、連続的にモンスターにダメージを与え、「気」を保たせる事に繋げるのが太刀使いの基本である。

 材木座の戦法では確実に気が切れてしまい、太刀使いの本領を発揮できないだろう。

 

 ……やはり、俺は間違いを犯していたらしい。

 

 暗雲とした気分を振り払うため、空を仰げば、木々揺れ、独創的な音色を奏でる。だが、この音色は何時もの安らぎを与えてくれるものではなく、重々しく、罪を咎める喚声に変わる。これは俺自身の問題によって感覚が変わっているのなもあるが、それだけではない。

 

「……由比ヶ浜、材木座。空気、おかしくないか?」

 

「……うん」

 

「うむ。龍魔王と対峙しているかのようだ」

 

 魔王ってなんだ、魔王って。

 材木座の相変わらずな言い回しに顔をしかめながら、俺だけではなく皆がこの異変を感じているのだ確認している。

 

 

 平塚先生と別れ、探索を続けている間に俺達は二つの異変に。気がついた。

 

 一つはモンスターの獰猛化だ。先刻対峙していたファンゴというモンスターは此方がある程度接近しない限りは、特に襲ってくることはない。が、俺達を確認するや否や、攻撃を仕掛けてきたのだ。

 二つ目は感覚によるものだが大気が重いのだ。空中に舞う粒子の中に錘があるのではないかと錯覚するほどまでにキツい。推測するに、この二つの現象がこの古代林に悪影響与えるだけではなく、モンスターの身体にまで及んでいるのではないかと推測できる。故にイャンクックはこの古代林を離れ、別の地へと向かったのではないだろうか。しかし、では何故ハンター協会がその行方を終えなかったのかと、疑問は残るがこの線が一番妥当だろう。

 

 きっと平塚師匠この異変に気づいているはずだ。ならば、合流して今後の方針を決めるのが吉ってもんだ。

 別に俺が決断したくない訳じゃないんだよ。ほら、ちゃんと上の指示を待てる部下なんだよ。さすがは社畜精神の八幡くんだ。会社に入る気はないが。

 

「とりあえず古代林の様子が変だ。平塚さんと合流するぞ」

 

「わかった!」

 

「うむ。わかつた!」

 

 各員の同意を得た俺は、平塚支障と合流するためにこの奥地から中央区に向かうことにした。平塚師匠との狩りでは合流地点は中央区と決まっているのだ。

 

 生い茂る草ぐさを掻き分け、最短ルートで中央区に辿り着く。

 

 このエリアは所々にテントの残骸があり、何が起こったのかを物語っていた。俺が無力なために成す統べなくモンスターに蹂躙された俺の故郷。その犠牲となった親父を思い出させられるエリアはやはり好きではない。

 

「八幡よ、何を睨んでおるのだ?」

 

「あ? 別に……なんでもねぇよ」

 

「ならばいいが。ま、戦闘があれ以来起こらずに此処まで来れたのは助かったでおじゃるな」

 

 そう、何故だが道中でモンスターと遭遇することはなく、戦闘はあのファンゴの群れ以外とは起こらなかったのだ。周囲を見渡し、モンスターの気配が一つもな無いこ確認して一息つく。

 

「とりあえず、平塚さんをここで待つ。ま、のんびりとしてようぜ」

 

「ふふっー、ヒッキー甘いね! 此処はフィールドなんだよ、気を抜いたらダメなんだかんね!」

 

 先輩風を吹かせながらどや顔で言われるとムカつくものだが、由比ヶ浜がやると頭を撫でたくなるな。あれか、幼児がやっているのと同じに見えてくるかからか。

 

「そうでしたねー、ベテランの由比ヶ浜さん」

 

「 ヒッキーはルーキーだからそう思って仕方がないよ!」

 

 嫌味も通じないベテランハンター由比ヶ浜さん。そちらもベテランでしたか。

 

「ルーキーで悪かっ……これは……」

 

 ため息混じりに返答している最中、慣れ親しんだ独特な臭気が鼻を突く。

 

「ヒッキー、イャンクックいたみたいだね」

 

「だな。援軍に向かうぞ。まぁ、平塚さんなら一人で倒しちまうだろうがな」

 

「あははは……。否定できないや……」

 

 匂いのする方へ足を向け、走り出すが、皆、足を止める。

 

「む。移動して……此方に向かってくるぞ」

 

「はっ。平塚さんの猛攻から逃げてきたか。走らずにすんでラッキーだったな」

 

「もう!そんな事言ってないでさっさと準備するよ!」

 

 由比ヶ浜の言葉と同時に俺達は陣形を組み直し、各々武器を構え、敵を待つ。数分後に始まる戦闘を脳内でシュミレーションしていると。

 

 

「あ?」

「え?」

「む。」

 

 臭いが強くなるにつれて異変が起こり始めた。

 

 温度が極度に低くなり。

 

 目に見えて大気は黒く、いや、毒々しく染まり。

 

 風が、木々が、悲鳴を上げ。

 

 俺の体は震え始める。

 

 突発的なこの異変に対処する間もなく、俺達の前に「ソイツ」は降り立った。

 

 

 ナルガクルガやティガレックスと似た骨格を持ち、俺が今まで対峙してきたどのモンスターよりも禍々しく殺気を放つ。頭に紫色の触覚を生やした「ソイツ」は俺達を一瞥し───

 

 

「ギシャァァァァァァァァァァァアアアッッ!!」

 

 

───絶望の咆哮を辺り一面に撒き散らした。

 

 

 

 

 

 

 

 


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