Re:ゼロからはじめる俺のハンター生活は間違っているのだろうか   作:名無し@777

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十四話

 俺が愛用している防具───ナルガシリーズを着用し、再度集会所に戻る。

 というか、俺は今日一日で何回集会所の門くぐればいいんだよ。俺は集会所が嫌いな訳ではないが、とりわけ門は好ましくない。むしろ嫌いなまである。だって、仕事の始まりを告げる門なんだもん。

 中に入れば、皆の姿を探すまでもなく、クエスト出陣口の方から声が掛かる。

 

「あ、ヒッキー!こっちこっち!」

 

 駆けつけると、古代林に行くためにアプトノスを引き付けた荷車に乗っていた。台車の上には大タル爆弾や痺れ罠といった狩の援助道具は無く、三人が広々と座っている。今回の目的は狩猟ではなく模索が依頼内容だ、特段、用意するものはないと踏んだのだろう、個人的には広々と座れるのだから大いに賛成だ。

 皆、完全武装をしているため、仰々しく感じるが、唯一馬鹿っぽさを残した女性が驚きの声をあげた。

 

「わっ、なんかヒッキー怖い……なんか……」

 

「不審者みたいで悪かったな」

 

「違うし! そうじゃなくてなんか黒色で刺々しいというか」

 

 

 言葉で上手く伝えることができずに、悶々としている由比ヶ浜の傍らから、ぼそりと声があがる。

 

「八幡の防具は『死神』が使用しているナルガシリーズ一式だからだろう。我も何時かは着てみたいと思っていたが、まさかルーキーに先を越されるとは……無念」

 

 材木座は恨みがましそうに俺に顔を向け、由比ヶ浜に教えた。

 なんで俺が愛用している装備がナルガシリーズだと材木座にばれていたのかは一抹の不安を感じるが、『死神』当人である事はばれていないのならば問題ないだろう。

 

「へー!『死神』ってナルガシリーズ?ってやつなんだ! 平塚さんも下位の時は使ってたんですか?」

 

「いや。弟子にプレゼントするために作ったんだが、法に触れることは出来ませんと断られてしまってな。ずっと倉庫に眠ってたのを引き出してきたのだろう?」

 

「え、ええ。平塚さんの家の倉庫の奥深くに眠ってましたよ」

 

「ふーん。ね、ヒッキー」

 

「なんだ?」

 

 

「静さんの家の鍵、持ってるの?」

 

 

 由比ヶ浜。お馬鹿なのに何で勘づくんですか。

 俺と由比ヶ浜の雰囲気は安穏としたものから戦場のような空気を切り裂くほど緊張感漂うものになった。平塚師匠に目線を向けても視線を逸らされ、援軍は見込めない。敵陣には変なところに悟い由比ヶ浜と興味津々の様子な材木座が待ち構えている。

 材木座、お前は一体何を期待している。気持ち悪いから此方を見るな。

 変に嘘をつけば速攻で負ける。 とは言え、無視は敗北と同義だ。敗北は、ハンター生活の危機だ。

 数多の死線を乗り越えてきた俺は幾通りものパターンを算出するが、何れも結論は敗北に等しいものになる。言葉が出てこず、固まっている間にとうとう由比ヶ浜の口が開かれようとした刹那。集会所の看板娘の奇跡の一手が下された。

 

「あー、それは私がさっき渡したからですよ。平塚さんの家に一時期お世話になってましたから、その名残で合鍵を持ってたので。ていうか、皆さんまだ行ってなかったんですか?」

 

「う、うむ! 比企谷も来たことだし行くとするか! さぁ、出発だ!」

 

 この機を逃さないとばかりに平塚師匠は瞬時に運転席に移動し、アプトノスに繋いでいる縄をひく。

 

「お気を付けてー!」

 

 一色の声を聞き、俺達は古代林へと向かった。

 

 一色。お前の事は五分間は忘れない。

 

 

 

 

 

 ガタゴトと音をたてながら車輪は回り、荒地を進む。

 程よい風が防具の隙間に入り込み、湿気を追い出してくれる。日差しは爛々と輝きを放ち、俺たちを照らしていた。

 

「ね、静さんの防具。凄くない?」

 

 由比ヶ浜の一言に、俺と材木座は頷く。

 

 平塚師匠は上空で光を放つ太陽にも負けないほどに燃え上がるような風貌をしていた。背に業火を灯し、それは火球など物ともしないと語っている。

 炎剣 ディノバルドの素材をしようしたディノバルドSシリーズ一式。

 近頃発見されたモンスターから作られた装備だ。

 ディノバルドというモンスターを実際に眼にした事は無いが、曰く、刀を扱うらしい。太刀使いである者達にとっては興味を引かれるモンスターだがその獰猛性や生態の情報の少なさから、ハンター協会に信頼におかれているハンターしか狩りに出向く事は出来ない。

 故に、ディノバルトから作られた装備をしている者は相応の実力があるのだという証明にもなっている。

 

「平塚さんだからな。あの域に達すれば当然とも言えるだろ」

 

「そうだけどさ……。もう、レベルが違うなーって感じるよ」

 

「我もそう思うが、それを言うならば御主らの事も少なからずそう思うぞ」

 

「えっ!? 」

 

「我はやっとテツカブラを狩ることが出来るレベルになったのだ。八幡に関しては借り物だが、やはり御主らの防具も強者のものよ」

 

 借り物ではないがな。

 心中で否定しながら、材木座の言いたい事は解る。

 俺が装備しているナルガシリーズ、由比ヶ浜が装備しているラギアシリーズは共に幾重の経験を積まねば装備できない代物である。

 由比ヶ浜の防具の素材となっている海王 ラギアクルスは俺が先日、悪戦苦闘しながらも死闘の末倒した空の王者 リオレウスと肩をを並べるほどのモンスターだ。それに比べ、材木座の装備、カブラシリーズはテツカブラという初心者ハンターが狩ることで代表的なモンスターである。

 一目で実力の差が解ってしまうのはやはり悔しいものなのだろう。

 俺も材木座のくらいの時は飛竜種の防具を着用している者達を興味がない振りをしていたが、本音では羨んでいたことがあった。他者と自分を比べるのは悪いことにしか転ばないものだが、それをわかっていたとしても、羨む心根は育ち続けていくのだ。

 

「まぁなんだ。お前も今日平塚さんから盗めるもん盗めば技量が上がるんじゃねーの?」

 

「……うむ。肝に命じておこう」

 

 材木座は俺の言葉を受け、ゆっくりと頷く。

 彼の真剣さは俺に初心を思い出させてくれるものだ。少しばかり思い出に浸っていると、由比ヶ浜は思い出したように質問をしてきた。

 

「そう言えばさ、ヒッキーは『死神』と会ったことあるの?」

 

「ない」

 

「そうなんだ! てっきり静さんから紹介されているかと思ってた」

 

「お馬鹿さんか。『死神』は正体がばれるの嫌がってんだがら平塚さんが俺に紹介するわけねーだろうが」

 

「馬鹿じゃないもん!馬鹿って言った方が馬鹿なんだから!」

 

 じゃあお前結局馬鹿じゃん。そんなこと思っても口にはだしません。空気が読める男、ならぬ、空気になれる男だからな俺は。

 

「……我はそれでも『死神』に会いたいと思っておる」

 

 材木座は重々しくそうこぼした。

 

「『死神』の意に削ぐわない事でもか?」

 

「それでもだ」

 

 ハッキリと言い切った声色からその覚悟伝わってくる。

 

「……材木座君はさ、『死神』にあって何がしたいの?」

 

「弟子入りをお願いする。というのもあるが、真の目的はあの時の約束通り、『我は強くなれたのか』と問う事だ」

 

「弟子入りか……って、材木座は『死神』と話したことあるの!?」

 

「うむ。一度だけではあるが、我は『死神』と約束をしたのだ」

 

「その約束って?」

 

「……すまんが教えることは出来ぬ」

 

 そう言い切った材木座は目前に迫ってきた古代林に眼を向けた。

 

「……由比ヶ浜、誰にも言いたくないことはある。それよりも、今からの事を考えるぞ」

 

「……うん」

 

 平塚師匠にリードされているアプトノスは更にスピードを上げて古代林へと向かう。平塚師匠の獣術により五分も掛からずに古代林のベースキャンプに着くことが出来た。先刻まで激しく回転していた車輪は止まり、平塚師匠の声が上がる。

 

「着いたぞ。各々、狩の準備をしろ」

 

 言われるまでもなく、俺達は武具の不備とポーチに入っている道具の確認を行う。三人とも問題はなく、先に荷車から降りている平塚師匠の元へと向かった。

 

「今回のクエスト内容はイャンクックの存在の有無だ。よって二手に別れて探索を行う。班分けは私以外の三人と、私で別れる」

 

 平塚師匠の指示に材木座と由比ヶ浜の顔は曇る。それもそのはず、今回の目的は平塚師匠から技を盗み、自身の技術力向上にあったはずだ。二人の不満を代表して俺が平塚師匠に異議を唱える。

 

「平塚さん、それじゃあ意味ないでしょ」

 

「解っている。だか、先ずはイャンクックの確認を行うことが先決だ。イャンクックが居れば四人で狩りを行う。居なければジャギィ相手にでも指南してやろう」

 

 勝手に技を盗めといっといて、結局は教えてくれるらしい。不満はあるものの、どのみち教えを乞うことが出来るならばいいと、二人とも納得したようだった。

 

「では行くとするか! 私は広野を中心に見てくるから君らは最深部の方へ行ってくれ」

 

「解りました」

 

 平塚師匠の指示通り、俺達はフィールドに駆け出そうとしたが呼び止められる。

 

「忘れていたが、私がいない間の指示は比企谷がするように。異論抗議質問は一切受け付けん」

 

 

「……解りましたよ。お前らには俺が指示を出す。いいか?」

 

「全然大丈夫だよ! でも、困ったときは言ってね!」

 

「我も意義なし。同胞である八幡よ、悩まれたときは我を頼るが良い!ワーハッハッハッハッ!」

 

 実力が下の者に従わねばならい事に不平をあげることなく、了承してくれた。材木座に関しては高笑いが五月蝿いが。いや、本当に五月蝿い。

 口に苦虫突っ込むぞ。

 

「じゃ、行ってきます」

 

「うむ。イャンクックを発見したらペイントボールを当てるように」

 

 俺は軽く頷き、今度こそ古代林の中へと向かった。

 

 俺達は皆、フィールドに入れば瞬時に思考は切り替わる。何が起こるか解らないこの戦場で気を抜けば一瞬にして命を落とすことになるからだ。誰が言うまでもなく、隊列構成は俺と材木座を前衛に置き、後衛に由比ヶ浜が構える形となった。ある程度の知識と経験がなければ相談もなく陣形は組めないものだが、由比ヶ浜はパーティでの狩猟をメインにしているために慣れを感じる。材木座は少しばかりぎこちないがおおむねよしといった処だろう。かくいう俺だが、修行期間、平塚師匠とコンビ経験がここで役に立つ。もし、あの経験がなければ材木座以上に挙動不審であったと自負できるな。

 

 俺は隣を歩く材木座を横目で伺いながら荷車で話していた事を思い出す。

 

 

 材木座は俺と会ったことがあると言った。しかし、俺には材木座のような奴と会った覚えない。

 

 だが。

 

 唯一、一度だけ大剣使いの男と『約束』をした事を思い出した。

 

 俺はあの時は失態を犯した。

 それが今の材木座の大きな妨げとなっていることは明白だ。

 

 責めての罪滅ぼしとして、俺は───

 

 

 

 

 

───材木座に太刀を捨てさせなければならない。


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