Re:ゼロからはじめる俺のハンター生活は間違っているのだろうか   作:名無し@777

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八話

 胃液が喉元まで逆流してきているの解る。

そんな不快な感覚に恐れたのは平塚師匠がから喰らった一撃が響いているからだ。

しかし、バケツが付近に在るわけもなく、汚物を出す袋もない。

 だが、心配するなかれ。

 

 弟子時代に何千回と師匠の拳を食らってきたお陰である程度の衝撃では吐かなくなったのだ。そう、八幡は暴力を受けて進化した。いや、まて、これではドMではないか。違うからね。八幡は何事も学ぶ事が出来る子なの。

 

 そう、だから、吐かなくなった。

 

 しかし、だからと言って吐き気を催すことが無くなったとは言って無い。

完全に目は冴えたが、引き換えに気分は最高に悪い。

ここで寝てしまえば楽にはなる。しかし、師匠の生滅のセカンドブリットが襲ってくる。

まさに悪循環。ブラック企業に就職した錯覚をしてもおかしくないレベル。

 

 意義抗議文句を脳内で永遠と繰り広げながらも体を動かし、言われた通りに狩りの支度をする。

 

だが。ここで在る事に気が付いたのだ。

 

「俺の防具と武器、一色が持ってるじゃん……」

 

 昨日、俺の愛用している装備一式はドンドルマのアイドルこと一色いろはに預けていたのだった。

 

 一色の事だ。集会所の保管庫にしまっているはず。ならば集会所で着替えればと思うが生憎それは出来ない。

 

 俺が『死神 』と呼ばれるハンターであることが発覚する恐れがあるからだ。

ドンドルマの集会所の造りは死角となる場所がない。

便所に装備を丸ごと持って入れば怪しまれるし、スタッフルームはハンターは特に入室禁止とされている。

外で着替えるのは思わぬアクシデントが発生する確率が高い。

どの選択肢をとっても不安要素があるのならば、これはもう、一度集会所に行って、装備品を持って帰ってくるのが安全だ。

 

 些か面倒ではあるが、今後のハンター生活の平穏を守るためだと思えばこの程度の労力は惜しまない。

 

 自室から平塚師匠の部屋へと移動し一度集会所に言ってくると伝え、俺は足早に集会所へと歩き出す。

 

 

 太陽が俺を焼き尽くさんとばかりに燦々と輝きを放ち、石膏の焦げる臭いが鼻孔をつく。

 ドンドルマという街は工房や鍛冶技術が発達し栄えた街だ。

 

 技術向上だけではなく、この街の立地場所も大きく繁栄に影響を来していた。

周囲を大きな山々で囲まれているため、モンスターの侵入を大きく拒む自然の砦が成型されている。だが、完全に安全だとは言えず、むしろ、古龍種にこれまで何度か潰されそうになったらしい。

まぁ、そんな機会は早々起こるものではないため気にしても仕方がない。

さて、そんな比較的安全な街であるドンドルマの人口は多いかと言えば多い。いや、とてつもなく賑わっている。というか喧しい。

 

 人混みの嫌いな俺にとっては住みにくい環境であるが、「街」という機能に関してはミナガルデ、ロックラックといった周辺都市と比較しても頭一つ抜き出ていることは確実だ。

 

 あの家出騒動の際はロックラックに旅立つかと考えもしたが、雪ノ下はドンドルマ近郊に名を馳せる「雪ノ下財閥」の娘、財務係の大黒柱となっている。小町も将来的に雪ノ下財閥の組織下で働くため日々勉学に励んでいるのだ。

ドンドルマに残る方がいいに決まっている。

 

 世話しなく動く人々を糸を縫うようにして移動しながら、過去の選択が間違ってなかったと納得していた。

集会所についた俺は早速とばかりに一色の元へと向かう───が。

 

「貴様! 何故『死神』を愚弄するっっ!!」

 

集会所の中央から聞こえる叫び声に気が引かれた。

 

「はぁ?あーしらが、たまたま不調だったから逃がしたリオレウスを狩っていい気になってんのがムカつくっていってんの」

 

「だべだべ!ちょっと、あのリオレウスが規格外だったつーの? あれはもう仕方がなかったしょ!つか、お前に関係なくね?」

 

「ちょ、止めなよ優美子、あと戸部くんも加勢しないでっ」

 

 小太りの男と金髪女が向かい合っていがみ合い、そこにチャラ男が金髪女に加勢している。

それをよく思わなかったのか、ピンク色の髪の毛を団子状にまとめたビッチ臭漂う女が仲裁に入っていた。

 思うのは一言。

 

え、何この茶番劇。

 

 取り巻きは小太りの男を嘲笑するような雰囲気を醸し出し、金髪女の肩を持っているのが大多数らしい。空の王の番とされている飛竜 陸の女王こと リオレイアの素材をで作られるリオレイアシリーズで身を固めていた。

如何にもリア充ですよ言わんばかりの態度に皆は流されたと見える。

 

 いや、それだけではない。力量の差が見てとれたことが大きく起因しているだろう。

 

 女王様に敵対意識を持たれた哀れな小太りの男は全身をカブラシリーズで固めていた。

体型や装備からして重量級の武器を使っているのかと思えば背に掛けているのは太刀。

 

「ごらむごらむ! 我の名は剣豪将軍……材木座義輝である!

そして、先の件は貴様達の不備であって『死神』の不備ではない。何より!『死神』は普通に狩りをしただけなのに『 死神って一匹狼気取ってますみたいな?あーゆーのが雑魚に殺られんだっつーの』だと?ふっ、笑止!」

 

 小太りの男はまるで演劇の真っ最中なのかと思えるほど彼方此方と動きながら暑苦しく喋る。

俺の事を援護してもらっているところ悪いが、正直うざい。

 

 小太り男の言葉に堪忍袋の緒が切れたのか、女王様は付き人にやれと目で伝えている様だった。

実際に付き人はへらへらと笑いながら拳を慣らしている。

 

 俺は別にあの小太りうざ野郎がどうなろうと構わないが、俺の事を援護したせいで肉体的にも精神的にもダメージを負うのは目覚めが悪い。

 つまり、これは俺のためだ。

 

「あー、『アベクター』の方々ですかぁ」

 

 俺は如何にもルーキー感を醸し出し、茶番劇の舞台に上がる。

 

「あ?だからなんだし。つか誰?」

 

「俺、『アベクター』のファンなんですよ。この付近で最近の話題騒然のチームじゃないですか、『死神』なんて得体の知れない奴と違って格好いいっすね」

 

 俺の腐った目を死ぬ気で耀かせ……若干濁りを中和させ、女王様に言い寄る。

 

「ふ、ふーん。まぁ、あーしらは最強たし。『死神』とか目じゃないし?」

 

「ですよねー、てっきり『アベクター』の方々が『死神』ごときを気にしてるはず無いですもんね」

 

「っ! ……まぁね。」

 

 よし、皆聞いたな。聞いたよな。

 あとは適当に話の方向性をずらしていけば終わりだ。

 

「まてぃ!新参者、貴様も『死神』を愚弄するのか!」

 

 ……も、なんなのこいつ。

信者なの?ならこいつは異教徒だよ。

教祖自ら助けに来てやってんのに邪魔するな。

 

「あ? うるせーなデブ。『死神』のことなんか知るか。あんなボッチ野郎が───」

 

 俺が女王様の期限を損ねる前にこのデブを黙らせるために罵詈荘厳を浴びせようとした時。

 集会所の出口の方から声が掛かる。

 

 

 

「これは、一体なんの騒ぎなのかな?」

 

 

 皆一様に声の発生源の方へ向き直る。

 そこには数日前、死闘の末に倒した飛竜の素材で造られる、リオレウスシリーズを兜以外身に付け、背には小太り男───材木座と同じく、太刀を下げているイケメンがいた。

 『アベクター』のリーダー 葉山隼人。

 巷で話題の男である。基本を全て忠実にこなし、危なくなることなく狩りを成功させるらしい。

『アベクター』の狩猟失敗回数はあのリオレウスの一回のみ。

この驚異的な成功率を叩き出しているのはこの男の力だと言われている。

 

「隼人君!助かった……」

 

 ビッチ女は直ぐ様葉山に駆け寄り、事の顛末を説明する。

説明を聞き終えた葉山は、悩む事もなく、材木座に近付く。笑顔のままで。

 

「君、すまなかったね。俺の仲間が君の信じている者を馬鹿にしてしまった」

 

「隼人!なんであーしらが悪い事にっ」

 

 女王様の言い分に手を突き出して黙らせる。

 振り返り、女王様に解っている、という顔を向けて。

そして材木座に少しドスの効いた声で話を続ける。

 

「でも、君も俺の仲間を馬鹿にするような発言があったと思うんだ。だから、これでチャラにしないか?」

 

 イケメンスマイル全開フルスロットル。

材木座は声も出せずに頷く事しか出来ない様だった。

先刻まで殺伐とした雰囲気を笑顔一つで一気に変える。

これが出来るのはイケメンな彼だからこそ。

俺がやろうとしていた解決手段とは違い、遺恨が残ることもない。

 

 何処か焦燥感に駈られていると葉山が此方に近づいてくる。

 

「やぁ、君が僕達のファンなんだって?」

 

「あ、はい」

 

「ありがとね。これかれも出来れば応援してくれると嬉しいな」

 

 そういって手を差し出してくる。

さらりと握手まで事を運べるとかコミュ力高杉。

 

 俺はそろりと葉山の手を握る。

 

「……君は本当にルーキーなのかい?」

 

 笑顔を張り付けたまま問いただしてきた。

なんの変鉄もないただの握手。

 力比べをしてるわけでもなく、特段変わった事はしていないにも関わらず、疑われてしまい、俺は心を掻き乱されてしまった。

 

 は? え、なに。握手しただけで力量解るとか何者だよ。

 

 狼狽えながらも声の抑揚に気を付けながら返答する。

 

「……そうですけど」

 

「そうか、変な質問をしてごめんね。じゃあ、俺達もういくから」

 

 葉山は俺を疑うこともなく手を放し、彼は仲間を連れだってクエストボートの方へと消えていった。

そもそも、こんな弱そうなやつに興味は無かったのだろう。

『アベクター』一同が消えた事により、周囲の人間も元の作業に戻っていく。動けていないのは材木座と俺のみ。

 

 何故か次の行動が取ることが出来ず、突っ立っていると甘ったるい声で俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 

「せんぱーいっ! 部屋の件、とれましたよ! ……せんぱい?」

 

「あ、ああ。ありがとさん」

 

 一色に話し掛けられた事で此処に来た本来の目的、武具を取り替えるために来しのだと思い出す。

 先刻の騒動で二十分近く経っているだはずだ。師匠が首を長くして待っているだろう。なんなら軽くジャンプしながらワンツーを決めている。

 

 

「はい! ちょっと話しがしたいのでいいですか? 」

 

「悪い。ちょっと今急いでるんだ、防具を───」

 

 一色に俺の装備品を取りに行かせようとした時、あの暑苦しい声に呼び止められる。

 

 

「待たれぃ!新参者よ!」

 

 

 この声を無視しても良かったのだ。

ただ、なんとなく待ってしまった。

 

 

 この時、俺は選択を誤ったのだ。

 

 

 この声を無視していればこの後に起こる面倒な出来事は起こらなかったのだから


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