Re:ゼロからはじめる俺のハンター生活は間違っているのだろうか 作:名無し@777
村中に鐘の音か鳴り響く。
部屋の中で何時もの三人組。
二歳下の妹と同い年の友人である雪ノ下。そして比企谷八幡こと、俺。
この三人で遊んでいる最中の事だった。
何事かと思い、小町達を部屋の中で待機させ、外に出てみれば村人が必死の形相で走り回っていた。
皆一様に顔を青ざめて走る姿はまだ八歳になったばかりの俺ですら事の大きさを体感することが出来る。
「なんだよ……一体何が」
呆然と立ち尽くしていると真横からぽかりと頭を叩かれる。
「親父!」
全身防具で武装しているため、顔を見ることが出来ないが体格や俺への態度、なにより親父が愛用している黒色の装備をしているため見分けることが出来た。
「空を飛ぶ化物に村が襲われているだけだ、心配するな。
八幡、お前は小町と雪乃ちゃんと一緒に村長の指示に従って逃げろ」
「親父はどうするんだよ。化け物に勝てるわけねーよ、諦めて逃げるのが吉だと思います。むしろ、一緒に逃げて俺達の盾になりやがれください」
親父は俺の言葉に苦笑しながらも柔和な表情で微笑む。この時、幼かった俺には分からなかったのだ。
これが覚悟を決めた男の表情だとは。
「馬鹿野郎。俺はこの村のハンター様だ。パパっと片付けてくるさ」
「……ちゃんと後で戻ってこいよ馬鹿親父」
「ああ」
俺は親父の返事をしっかりと聞いて、指示通り、後ろで待っている小町と雪ノ下の元へと走るため、親父に背を向ける。
その時だ。
背中の方から抱き締められたのだ。
「いいか、八幡。俺がいない間、お前が
小町と雪乃ちゃんを守るんだ」
「へーへー。俺ができる範囲内で守るよ。大事な妹と妹の友達だからな」
抱き締められたことに戸惑いながらもしっかりと答えた。それに満足したのか、親父は即座に離れ、疾風のごときき速さで、ヤツの方へと向かっていったのだ。
その後俺は小町と雪ノ下を連れだって村人と共に付近の街、つまりはドンドルマへと逃げ込んだ。
村長はドンドルマの商業団から住居地を貸して貰い、村人全員をそこに住まわせた。
一変した生活環境ではあったが、村長達の支援もあり、特に不自由もなく生活はできる。だが、親父は一週間たっても帰ってくることはなく、母も避難の際に行方不明になってしまっていた。
ある日、親父と母の帰りを待ち続けている俺に村長は言ったのだ。
お前の親父は我々の英雄だと。
その時は凶悪な化物に立ち向かった事を指しているのかと思っていたが、違う。
『村全体を救うための贄になった事』に対する事にだったのだ。
無論、親父は帰ってくることは無かった。母親も行方不明と来たものだ。
村長を含めた村人達は俺の親を見殺しにした。
一つの事実のみが俺の頭の中で反響し、憎悪を膨らませ、俺の人格を蝕んでいく事になった。
村長は親の仇に変貌し村人は皆敵に変る。
仲が良かった友達もいた。
でも、彼奴らでさえも、敵に見える程までに俺は醜く、落ちてしまった。
この傷は治る事もなく、ましてや癒すことも出来ない。一生背おうべき業であると認める他ない。
だが、これは雪ノ下や小町には関係のない、俺一人だけが背負うべき業なのだ。
この事に気付いた翌日、皆寝静まっている中、俺はこの敵だらけの巣から旅立つ事を決意した。
しかし、問題は起きた。
小町と雪ノ下。
彼女達は何故か俺の行動を察して玄関の前に立ち塞がったのだ。
そして、幼い頃から共に生活をしてきた兄弟と兄弟と言っても過言ではない友人と初めて敵対することになる。
俺はこの家をでなければならない。
彼女達は俺と暮らしたい。
あの理路整然とした雪ノ下でさえ、感情を剥き出して暴論を振るほどに俺達は意見をぶつけ合う。
そこで約三時間にも及ぶ口論の末に出させれた結論。
『三人でこの家を出る』。
無論、俺は反対した。
小町と雪ノ下は俺が行き着いた答えとは無縁の生活を送ることが出来る。
にも関わらず安定した生活を捨てて危険極まりない生活へと進もうとするのは無茶苦茶だ。
それをいくら説いても彼女達が出した折衷案に変更はなく、連れていかなければ勝手に着いていくと宣う。
そこで俺は悟ったのだ。
親父はこうなる事を解っていたからあの言葉を最後にかけてきたのだろう。
『いいか、八幡。俺がいない間、お前が
小町と雪乃ちゃんを守るんだ』
ああ、解ったよ。親父。
親父達が帰ってくるまで必ず俺が小町と雪ノ下を守ってみせる。
この決意を下すのに時間は掛からず、行動も瞬時に起こした。
必要最低限の荷物だけを持ち、僅かばかりのお金を懐にしまって住宅地を去った。
俺の変わり身の速さに驚いたのか、二人とも大人しく俺の指示に従ってれたお陰で、新な宿を確保することに成功した。
だが、今後、衣食住の安定した生活を送るためにはやはり俺が稼がねばならない。
学もなく力もない俺が出来る事。
そして、親父との約束を守る方法。
この二つをクリアした仕事は一つしかない。
小町と雪ノ下をあの住宅地から連れ出したときに決意した、もう一つの事。
「親父。俺はモンスターハンターになるよ」
何処かで陽気に笑っている親父と母に向けて、昇る朝日に俺は誓ったのだ。
***
「──谷。比企谷!」
何処からか俺の名前が呼ばれている気がする。
まってくれ。眠たいたんだ。
なんなら一生寝てられる。あ、それだと小町を愛でる事が出来なくなるから駄目だ。
微睡みの中で小町の事を思ってると俺の名前を呼ぶ声はしなくなる。
小町は魔法の呪文だな。やはり、我が妹は世界いちぃ!
「そうか、そんなに寝ていか。ならば私の一撃をもって永遠に眠らせてやろう」
あ。ヤバイ。
「お、起きます!」,
暗黒の呪文を耳にした俺は即座に体を起こしたが、時既に遅し。
「衝撃のぉ、ファーストブリットォォォォォッ!!!」
覇気の籠った声と共に音速の拳が俺の腹に食い込む。
「滅殺のセカンドブリットを食らいたくなければさっさと起きて狩りの準備をしろ」
「……はい」
平塚師匠から久々の拳を貰い、俺は目を冷ました。あれ、モンスターにもやってみろよ。アプトノスなら殺れる気がする。
目元に感じる冷たさから、長く、昔の夢を見ていた気がする。
だがそんなものは何の足しにもならないからどうでもいい。
今必要な事は一つ。
彼女達を守る覚悟───ではなく。
「吐きそう……」
バケツだ。