奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
私は明かした。
十年間、胸の内に秘め続けていた
この十年間、私はずっと悩み続けた。
この記憶が本物なのかと。
もしかすると、この記憶は壮大な妄想なのかもしれないと心のどこかで感じていた。
恐らく、雪風が来ない限りは私は誰にもこの記憶を明かさず、この記憶は事実に成り得なかっただろう。
私は
海上自衛隊海将、川神
それが「この世界」における私だ。
この世界に生を受けて最初の十三年間はただただ父母の愛を受ける中で幸せだった。何かを忘れているようなモヤモヤとした気持ちはあった。
けれど、父が仕事で留守になることはあっても、それでも母の優しさと母が語る父の仕事に私は決して不満はなかった。
むしろ、誇りすら感じていた。
寂しさは子供心ゆえにあったが、それでも私は両親が好きだ。
故に記憶が存在しながらも私は
「じ、神通って……それって……雪風ちゃんが言っていた……」
楯無さんは私が明かした「艦娘」としての名前を聞いて驚きを隠せないようだった。
だけど、その直後に納得したような顔をした。
どうやら、雪風が二水戦時代の私のことを話したのだろう。
「……なるほど、これなら川神君の桁外れの戦闘能力に納得がいったよ」
すると、今度は轡木さんが何か納得したようであった。
私自身、自分の「IS」の操縦技術は前世における経験が大きく影響していると思っている。
だから、私はこの世界で周囲の誰よりも鍛錬を怠ろうとしなかった。
「神通」としての記憶は誇りだが、そのことによって生まれる経験や知識はどうしても他者との差を生み、一種のズルだとも感じたからだ。
確かにそれらは便利ではあるが、それに胡坐をかくようなことはしたくなかった。
何よりもそれでは教え子たちに申し訳が立たない気がしたからだ。
「……川神……お前……」
私の明かした事実に先輩が最も衝撃を受けたようだった。
当たり前だ。
十年以上の付き合いのある人間が突然として『違う世界の人間です』と言えば、誰であろうと訝し目になるのは仕方のないことだ。
本当は黙っていても良かったのかもしれないが、私は生憎、私は守らなくてはならないものが出来てしまった。
恐らく、
だから、私は雪風を守るために私は本当のことを、いや、ある意味では弱みに成り得る事実を明かしたかったのかもしれない。
少なくとも、私にはこの場に彼らを欺くことができない。
「……信じられないのは承知の上です」
きっと彼らは半信半疑だろう。
轡木さんにしてもこれが私だからいいもの、物証もないのに私のことを信用していることに関しては我ながら不安だ。
ただ轡木さんのことだから信用すべき人間とそうでない人間の区別はできているとは思う。
少なくとも、轡木さんは雪風の本質を言い当てている。
やはり、この人の人を観る目は確かだ。
ある意味では雪風に対する評価は私にとっては教官冥利に尽きて誉れに等しかった。
問題は楯無さんだ。
彼女は少女でありながらも日本の暗部の長だ。
万が一にも私との師弟関係や雪風との友情だけで信じようとするならば、これから先、周囲に付け入る隙を与えかねない。
彼女が戦っている戦場は私のいる場所とは異なる。
ここで全面的に私を信じるのならば私は心を殺して、何かを言わねばならない。
「……証拠はあるんですか?」
「……!」
しかし、それは杞憂で終わった。
「……私を信じられないのですか?」
私は少し意地悪気に訊いた。
「……信じたいです……
……けれど、全部を疑うのが私の義務です」
楯無さんの言葉に周囲に緊張が走ると同時に私の心に喜びと安堵、そして、虚しさが生まれた。
私は楯無さんが楽観的に動かずに疑うと言う強さを覚えたことに彼女の成長を喜び、彼女が決して私情に左右されずに理知的に動けることに安堵したが、同時にやはり、
「IS」での実力はまだまだ私や先輩には劣るが、それでも「化かし合い」ならば既に彼女は
ただそんなことで超えて欲しくないのが個人的な願いなのだが。
「……よくできました」
「……え」
私は本来ならば無縁であって欲しいとは思っているが彼女が満足にいく対応をしたことにそう言った。
彼女との出会いもまた、私にとっては宝物である。
『はあはあ……!うっぷ……!』
『どうしました?この程度ですか?
あなたが行かねばならない道はこの程度では生温いですよ?
これが嫌ならとっととやめなさい……
そっちの方が楽ですよ?』
最初の稽古で彼女を何度も叩き潰して私は恐ろしい未来と甘い言葉をちらつかせて彼女の心を試した。
若い女の子が裏の世界で生きるなどと言うことは覚悟がなければ、とっとと逃げればいい。
『……いいえ……私はやめません……』
『……!』
だけど、彼女は逃げなかった。
『私がやらなきゃ……誰かがやらなきゃ……いけませんから……』
彼女の目には確かな決意が込められていた。
それはかつて、私が雪風たちに見たものと同じであった。
その言葉を聞いて私は諦めた。
彼女は折れない。
そう心で感じてしまった。
「……あなたの言う通り、私には今回の件が事実だと証明できるものなんてありません……」
「……そうですか」
私の楯無さんとのやり取りで周囲に再び緊張が走った。
「……だったら、私は更識の当主としてあなたの秘密を握らせていただきます」
「……!」
彼女は私に対して不遜にもそう言った。
情報こそが武器。
それが彼女の生きる世界における絶対的なルールだ。
彼女は私の秘密を今握った。
たとえ、それが嘘であったとしても私が妄言を放つような人間だと言うことを握ったも同然だ。
彼女はどうやら表向きは
それでいいと私は思った。
……私は教え子に恵まれてますね……
雪風と楯無さん。
両者とも生まれが違い、世界が違い、戦場も違うことから一概に同じ評価を与えるべきではない。
けれど、両者とも違う生き方をしながらも芯は腐ることはなかった。
それだけは同じであった。
「……か、川神先輩……」
最大の問題は山田さんだった。
彼女はかつての戦い方以外を除いては常識人だ。彼女にとっては私の発言は明らかに受け入れられないものだろう。
彼女の人間性に関しては私は「IS」の乗り手の中では最も評価している。
だから、私も彼女には一目置いている。
目立つところはなかったが、私は彼女は木村提督のような人間だと考えている。
普段は評価されないが、いざとなれば最も的確な行動を取れるのは彼女だろう。
ただ問題なのは彼女は押しが弱い。
そこさえ直せば、彼女なりの才能が開くはずだ。
「……無理に信じなくてもいいんですよ?」
「……え?」
私は彼女が迷いをふっきれる様にそう言った。
「元々、雪風の話にしても証拠はありませんし、そこに私の話も加わった……
それを信じろと言うつもりはありません。
ですが―――」
しかし、それでも私には譲れないものがあった。
「―――これは私の意思表明です。
……私が雪風のことを守り抜くと言う」
「……!川神先輩!?」
たとえ世界を敵に回しても私は
この世界で彼女のことを知っているのは私だけだ。
私しか彼女の本当の意味での共感者はいない。
私以外の誰が彼女の孤独に寄り添えるのだろうか。
……せめて、彼女が心を許せるであろう人が現れるまでは……
しかし、私はその役目は彼女を愛し私の代わりに世界を敵に回すことすら厭わない人間が現れるまでの役目だと思っている。
いづれ、雪風も巣立っていく。
その時まで私が母鳥になるだけだ。
「……川神、つまりはお前は私たちが信じようと信じまいと雪風の味方であり続けると言うことだな?」
最後に織斑先輩が確認してきた。
それに対して、私は
「はい。
それが私が
迷うことなく言い切った。
かつて「IS」によって断たれた自衛官への夢。
その後に訪れたのは「もう一つの最強」と言う名の偶像。
胸には空虚さが渦巻く日々であった。
だけど、それでも日本を守れる。
形は違えども私の存在で抑止力となるのならば、それでいいと思っていた。それに私は
恐らく、
しかし、そんなこの世界で生きていく中で私は
今更、和解を求めたり、言い訳を述べるつもりはない。
守るために多くを得て、守るために少ないながらも大切なものを失った。
それでも私は妥協できた。
漂うだけの人生かもしれないがそれでもいいと思っていた。
そんな時に再び私が雪風と出会えた。
具体的な目的がないながらも日々を過ごす人生の中で私は衝動に駆られるままに彼女を守りたいと思った。
驚いたことだった。
それなのに
「……はあ……
これは
織斑先輩はそう呟いた。
「……解かった。
真偽はともかくとして、お前には雪風の護衛を任せる……
頼んだぞ?」
先輩は確かな信頼を込めてそう言った。
長い付き合いで解る。
彼女は間違いなく私を信頼している。
「はい。ありがとうございます」
私は彼女への裏切りにならないように雪風を守るつもりだ。
それが今の私にできる唯一のことであるからだ。