奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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まず初めに皆様にお詫び申し上げます。

前回の投稿で私は今回の秋イベに関しては、レイテ関連と早とちりしてしまい、誤った情報を広めてしまいました。
多くの方々にご迷惑をおかけしてしまい、本当に申し訳ございません。

また、今回の話では台湾(中華民国)の話が出てきますが、そこら辺に関してはご了承ください。
雪風と台湾(中華民国)は切っても切れない関係ですので。


第9話「嵐の前」

「あ、織斑君おはよ!」

 

 衝撃的な事実を知った翌日、もう慣れた平穏な光景とは裏腹に私の心は重かった。

 

 どうすれば……

 

 私が今、悩んでいるのは昨日知った事実ををどうやって穏便に周囲に明かすかだ。

 恐らくだが、近いうちにあの少女はやってくる。

 その際に起きる修羅場はかつてないものになるだろう。

 セシリアさんも篠ノ之さんもかなりの負けず嫌いだ。

 しかも、二人とも一夏さんに対する好意の理由もかなり重いものだ。

 先ず、セシリアさんは色々と男性を好きになれない環境から来る偏見を初めて払拭できた異性が初恋の人になっている。

 また、篠ノ之さんの経歴を調べたところ、十代になる前から幼馴染と言うことと離れ離れになっていたことから相当、一夏さんに対する想いも大きいだろう。

 私が友人としてセシリアさんを積極的に応援しないのは双方の事情を知っていることもある。

 しかし、ここに来て最大級の爆撃が来るとは思いもしなかった。

 一波乱が起きるのは明らかだ。

 同時にセシリアさんの友人としても彼女の初恋が始まっているのに既に終わっていたなどどう説明すればいいのか分からない。

 

「織斑君、転校生の話聞いた?」

 

 そんな苦悩に苛まれている時に生徒の一人が一夏さんにそんな話題を持ち出してきた。

 

「転校生?今の時期に?」

 

 一夏さんは不思議そうに思っていた。

 彼の反応も無理もない。

 そもそも「転校」と言うものはなるべくならば、学生に負担をかけさせないように学期ごとにするべきもののはずだ。

 それに「IS学園」は国際機関でもある。

 そんな重要施設に転入するには国の許可がいるはずだ。

 

 ……代表候補生でも来るのでしょうか?

 

 そんなことは初耳だ。

 理由としてはなぜかここ三日間に渡って、更識さんが留守にしているからだ。

 布仏さんに訊ねてみると

 

『お嬢様は暫くの間、合宿で留守にしております』

 

 と返された。

 学園の治安維持の問題上、更識さんがいないのは少し気掛かりではあるけれど、彼女のことだ。

 色々と保険は用意しているだろう。

 むしろ、あえて自分がいないと言う状況を使ってスパイを動きやすくして誘き出すとかするだろう。

 そのために私に対して、『留守の間は任せる』との伝言も残していた。

 

「そう、なんでも中国の代表候補なんだってさ」

 

 ……中国(・・)ですか

 

 その生徒が口に出した国名に私は内心複雑だった。

 この世界では私のいた世界とは異なり「中国」と言えば「中華人民共和国」、つまりは私のいた世界で言う中国の北部に存在していた国家のことを言うらしく、私の所属していた「中華民国」は台湾でかろうじて国脈を保っているらしい。

 そして、この世界での「私」のことも私は知った。

 

 まあ、「深海棲艦」の影響でかろうじて人類が団結していたので、私たちの世界も下手していたらこうなってたかもしれませんね……

 

 「人類の敵」と言う存在が人類同士の表面上の戦争を止めると言う皮肉に私はどこか虚しさを感じた。

 そして、私たちと同じ名前を持つ軍艦が人類同士の戦いに使われていたことも、敵と言えば「深海棲艦」と言うことで戦いを割り切ることのできていた私には悲しいことだった。

 私たち「艦娘」はあくまでも人々を守るために戦うことに「誇り」を持つ。

 もちろん、この世界の人たちにも何かしらの理由があっただろうけれど理解はできても完全には納得ができない。

 何よりもかつて肩を並べることができた異国の戦友たちとも敵味方に別れて戦うことができるだろうか。

 私は米国の彼女らとこの世界と同じ路を辿らなかったことに安堵している。

 少なくとも、「あの世界」で彼女らと共に戦えた一人の友人(・・・・・)としてはそう思っている。

 もちろん、「世界」が違うし、「軍人」としては時にそう言った「覚悟(割り切り)」が必要だと言うことも理解しているが。

 

 て、今は感傷に浸っている場合じゃありませんね……

 

 つい、かつて「総旗艦」を務めた国と切っても切り離すことのできない国名を耳にして、「この世界」と「私のいた世界」との歴史の違いを思い出して感傷的になってしまったが、今はそれどころではない。

 変えられない歴史や過去の「たられば」を考えるよりは私は「今」を大切したい。

 それに「中国の代表候補生」よりも私は件の一夏さん恋人の方が気になって仕方がない。

 よく見てみると、朝早くからセシリアさんと篠ノ之さんが一夏さんの傍に陣取っている。

 二人とも席が離れているはずなのに。

 

「どんなやつなんだろうな?」

 

 私の不安と危惧も露知らず、一夏さんは例の「代表候補生」に興味を抱いている。

 

「む……気になるのか?」

 

 一夏さんが興味を示すとと篠ノ之さんが訝しめになった。

 

「ん?ああ、まあな」

 

「……ふん」

 

 一夏さんがそのことを肯定すると、篠ノ之さんが不機嫌になった。

 胃がキリキリしてきそうだ。

 なんだろうか、一応、「呉の雪風」と言う二つ名の下に多くの激戦地をくぐり抜け、「中華民国の総旗艦」として多くの修羅場を経験してきたが、こんなことは初めてだ。

 そして、しばらくすると、篠ノ之さんが「クラス対抗戦」の話題を持ち出して、転校生のことを有耶無耶にしようとすると続いてセシリアさんが「専用機持ち」と言う肩書きを使って水面下で篠ノ之さんを牽制している。

 すると、二人を筆頭にクラス中の生徒が一夏さんの周りに集まった。

 しかし、二人とは異なり軋轢はなさそうだ。

 大方、「クラス対抗戦」のフリーパス目当てなのだろう。

 

 ……私も間宮さんと伊良湖さんのアイスと最中食べ放題ならやる気出しますね

 

 あの二人の甘味が食べ放題(ただし、一部の艦娘の影響で一日一回制になりそうだけれど)ならば、私も本気になるだろうし、彼女たちの気持ちも解らなくはない。

 それに流石の国際施設と言うこともあってここの学食は帝国海軍の料理と比べても味は負けていない。

 

「はあ~……」

 

 ただ一夏さんを巡る火花を目にしてさらに私は気が重くなった。

 

「どうしたの、ゆっきー?昨日から、妙に疲れてるけど?」

 

 そんな私のことを気にかけて、本音さんが声をかけて来た。

 

「いえ……何というか、昨夜衝撃的なことがありまして……」

 

 実のところ、私は昨夜のことを本音さんに話していない。

 「任務」とは無関係な上に他人様の恋愛事を大ぴらに語るのは流石に品性が疑われるので。

 

「え~?ここ最近で起きたことよりも衝撃的なの?」

 

「……そう見えますか?」

 

「うん」

 

 どうやら、私の動揺はかなりのものらしい。

 確かに任務初日で色々と目立つことをやらかして自己嫌悪に駆られていたりはしたけれど、自分でもまさかここまで周囲に解るほどとは思いもしなかった。

 

「……ある意味そうかもしれませんね」

 

「うわぁ……」

 

 私がそう返すと、本音さんはかなり驚いていた。

 確かに色々とセシリアさんの件や一夏さんの件、篠ノ之さんの件で衝撃的な出来事に巻き込まれているが、私としてはそこら辺は得意分野(戦闘面)での出来事なので気にしていなかったが、苦手分野(恋愛面)での出来事などどうすればいいのだろうか。

 本当にここ最近において、本音さんが癒しに感じて来た。

 時津風が生きていたら、恐らくこんな感じで私を支えてくれていただろう。

 ただし、本音さんよりもやんちゃそうだけれど。

 私が本音さんと話していると

 

「今の所、専用機持っているの一組と四組(・・)だけだから、余裕だよ!」

 

「え……」

 

「………………」

 

 一人の女子の楽観的な発言の一部に私は妙に気になってしまった。

 そして、気のせいかもしれないが、一瞬だが本音さんが妙に反応した気がした。

 そんな時だった

 

「その情報古いよ」

 

「……!!?」

 

 教室の入り口から聞こえて来た昨夜聞いたばかりの声に私は即座に意識を奪われてしまった。

 

「ど、どうしたの?ゆっきー?」

 

 動揺を隠しきれず本音さんに心配をかけてしまった。

 だが、今の私には平静を保てる余裕はなかった。

 なぜならば、

 

「二組も「専用機持ち」がクラス代表になったの。

 だから、簡単に優勝できないから」

 

 よりによって、爆撃機が弾薬目掛けて急降下してきたからだ。

 




軍人としての雪風が人間同士の戦いにどこか引け目を感じているのに違和感はあると思いますが。
軍人だからこそ、命を大事にできると私は思います。

マッカーサー元帥の言葉にこんなものがあります。
「我々軍人は誰よりも平和を愛する。
 なぜならば、戦争が起きれば最初に死ぬのは他ならない我々だからだ」
と常に死と隣り合わせの環境にいるからそう言った価値観も持てると思います。

また、雪風が引き合いに出した「米国の友人」に関しては、史実の伊藤中将とスプルーアンス大将の関係から着想を得ました。
大和に乗艦した最後の第二艦隊司令官である伊藤中将はアメリカ留学時代にスプルーアンス大将を始めとした多くのアメリカの方々と親交を深めていました。
また、坊ノ岬海戦において大和に対する攻撃命令を下したのは他ならないスプルーアンス大将でした。

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