奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「ふぅん、ここがそうなんだ……」
一年ぶりに第二の故郷、日本に帰ってきた私は夜風を感じながらこれから私が過ごしていくことになる学園の校門に立ちながら感慨深げに言った。
「え~と、受付ってどこにあるんだっけ?」
上着のポケットに入れておいた案内図で確認しようと取り出したが
「本校舎一階総合受付……て、だからそれどこにあんのよ」
案内図はくしゃくしゃになっていて読めなかった。
案内図が役に立たなかったことで私は苛立ちを感じてポケットにそれを突っ込むように戻した。
「自分で探せばいいんでしょ、探せば」
出迎えの人間がいないことや案内役をよこさない政府の人間、あと「先生」に用事があるからと言って、「先生」を呼び出しておいてアフターケアをしない日本政府にも文句を心の中で言いながらいつものように行動した。
ちなみにその「先生」はと言うと
『あなたも高校生なのですから、これぐらいのことはするように。
それとあなたは
先生……まだ、根に持ってんの……?
先生は私と別れる前に私の自主性を重んじることを建前にそう言った。
あれは確実に未だに出会った頃のことを根に持っての発言だ。
ただ多少の冗談は交えているとは思うが。
先生と出会ったのはちょうど一年くらい前のことだ。
あの時の私は『男って言うだけで偉そうにしている男子』や『年を食っているだけで偉そうにしている大人』が嫌いと言うだけで政府の高官が私に頭をペコペコと下げることに面白がったりするなどしていた。
そんな私に「IS」の指導をしたのは既に一年前から中国の「IS」部隊の教官になっていた「先生」だった。
「先生」は「IS」に関わる人間にとってはまさに雲の上の存在だった。
そんな人が教官になるとは感激だった。
しかし、彼女との初対面で私は命の危険を感じた。
あの時、私は彼女の前で政府高官にぞんざいな態度を取った。
それに対して、
『鈴音さん……
いいですか?世の中には
そう言ったことは弁えなさい』
彼女も多少はあの偉そうな政府高官には思うことがあったのだろうけれど、私の態度を叱ってきた。
そんな彼女に私は
『だって、あんな偉そうな連中が頭を下げているのは面白いじゃないですか?
それにあっちが怒ってもこっちには「IS」がありますし』
浮かれていたこともあって、軽い気持ちでそう言った。
『そうですか、なら―――』
だけど、先生は私の言葉を聞いた瞬間
『あなたも彼らと同じですね』
今まで、どんな人間にも向けられることもなかったまるで本当の意味で見下すような絶対零度の眼差しを彼女は私に向けながら軽蔑の言葉をぶつけて来た。
『……え?』
どんな大人にも、男にも、いや、女にさえ向けられることもなかった威圧なんて生易しいものじゃない「殺気」とも言える迫力に私は圧された。
そして、
『力があるからと言って、偉そうにする……
そんなあなたは豚と同じくらい……いえ、豚さんと比べることすら失礼なほどに醜いですよ』
『な、なんですって~!!』
こともあろうか、私を、私が最も嫌いな連中と同じ、いや、それ以上に『醜い』と断じたのだ。
『ぐぅ~!!
いいじゃない!!勝負よ!!勝負!!』
彼女のその言葉に完全に冷静さを失っていた私はいつものように感情を爆発させて喧嘩を売った。
だけど、次の瞬間に
『……あなたは自分が誰に喧嘩を売っているのか理解しているんですか?』
彼女はほくそ笑みながら私のことを完全に冷静にさせる、いや、恐怖させる一言を呟いた。
『……あ』
私はその言葉で自分の目の前にいる人間が誰なのかを思い出した。
川神 那々。
かつて、「第二回モンド・クロッソ」において、突然の試合放棄でブリュンヒルデがいなくなったことで生じた観客の不満を紛らわすために行われた特別試合において、大会の王者を下した「もう一人の世界最強」。
そんな絶対的な強者に「IS」初心者であった私は無謀にも喧嘩を売ってしまったのだ。
『ほら、あなたの前には猛獣がいますよ?
どうしますか?』
『あぁ……』
彼女は私を煽るかのように笑顔でそう言った。
いや、あれは煽っていた。
余りの恐怖に私は逃げることも言い訳もできなかった。
だけど、次に私が取った行動は
『……うるさい』
『……?』
なぜそんなことを口走ったのか理解できない。
だけど、今なら解る。
あれは「窮鼠猫を噛む」的な心理な気がする。
『うるさい!!って言ってんのよ!!』
『………………』
そして、勢いのままに私は逆切れをした。
あの時は目の前の彼女が気に食わなかったと思っていたが、今ならあれは逆切れだと言うことが解る。
『「もう一人の世界最強」が何よ!!
そんなの昔の話じゃない!!
それぐらいのことで私のことを見下すな!!』
『………………』
最早、後先考えずに私は自分に言い聞かせるように目の前の彼女に対して怒鳴り声をあげた。
あのまま黙っていたら絶対に呑まれていたと思ったからだ。
そんな私の自棄から来る虚勢を目にして彼女は一瞬、何かしらの反応を示したがすぐに平然として
『そうですか……』
とニッコリと笑い
―ビュン!!―
『……え?』
私の顔スレスレに彼女は右腕をいつの間にか突き出していた。
私は私の顔の左側面に訪れた風の感触と音が彼女の右拳によるものだと理解したのはしばらく経ってからだった。
もしあれが少しでもずれていて私の顔に当たっていたらと私は無意識のうちに考えてしまった。
そして、考えていくうちに私は初めて「死」と言うものを感じてしまった。
あまりに恐ろしくて、身体が背筋から冷えていった。
あれを生身で放つ時点で彼女には勝てない気がした。
それでも私は
『……っ!!』
生来の負けず嫌いもあってか強がるように目の前の彼女を睨んでいった。
私はあの時、
すると
『フ……』
『……え?』
彼女はいきなり微笑んだ。
あまりのことに私は混乱してしまったが
『今度から礼儀には気をつけなさい』
『……え?』
突然、踵を返して私に背中を向けた。
さらには
『明日から、あなたに付きっきりで指導します。
気合を入れるように』
そう言い残してその場を去っていった。
私は緊張感が抜けたことや彼女の突然の行動に理解できず、戸惑いと脱力感から床にへなへなと膝をついていた。
そして、翌日からなぜか彼女に気に入られた私は彼女のそれはもうスパルタなんて言葉じゃ表せないほどの訓練の日々を過ごした。
最初はただの「イジメ」だと思って、何度も反発した。
だけど、とある事件を通して私は彼女を、川神 那々を「先生」として見るようになった。
ただ「しごき」は勘弁して欲しいけれど。
「はあ~……あんまり、羽目を外すと先生に何言われるか分からないし自重しないとね……」
しばらく先生とは別行動とは言え、先生は私を信用しているのは確かだ。
もし、「IS学園」で不祥事を起こしたら後が怖くて仕方ない。
ま、
「先生の目」と言う恐ろしすぎるものはあるが、そんなこともアイツと一緒にいれるだけで十分許容できる範疇だ。
アイツはまだ私が男子に対しては、多少の嫌悪感を抱いていた時に出会った男子だ。
アイツは何というか、本当の意味で真っ直ぐな人間だった。
あはは……
よく考えてみたら、私……いつの間にかアイツが一番嫌いそうな人間になってたなぁ~……
私は自分の情けなさを嗤った。
アイツが一番嫌うのはかつての私のような人間だった。
『あなたも彼らと同じですね』
先生のおかげでようやく、アイツの隣にいられるようになったかな?
大切な、いや、好きな男子に胸を張って再会できることに私は胸を高鳴らせた。
そんな時だった。
「一夏!!だらしないぞ!!」
「……え?……一夏?」
アイツの名前を叫ぶ声が聞こえてきて私は耳を疑った。
「んなこと言ったて……
こっちはヘトヘトなんだよ……」
しかも、アイツに似たその声を耳にして私はその声がした方向、どうやら、IS訓練施設らしい場所にいつの間にか、足を進めていた。
やっば……どうしよう……心の準備が……!
久しぶりにアイツと会える。
それだけで私は胸をさらに高鳴らせた。
だけど、同時にまだアイツとどんな風に再会しようかと迷ってしまっている。
そんな私の葛藤をよそに私の歩くペースは再会を早めようと速まっていく。
そして、アイツの声が聞こえて来たアリーナの入り口に差し掛かって私は
「いち―――!!」
喜々としてアイツの名前を呼ぼうとした。
「あはは……すいません……」
「―――え?」
だが、私は次の瞬間を目にして言葉が続かなかった。
なぜなら、私の目に映ったのはアイツが前を歩いている黒髪の女子を追いかけていて、そんなアイツの傍らには茶髪と金髪の女子二人がいた。
それだけならば、別にいい。
だが、アイツはそれを全く気にも留めずに、普通にそれらに親し気に会話しているのだ。
目の前の光景を目にして私は衝撃と多少の嫉妬を覚えた。
そして、先生への恐怖とアイツへの苛立ちと言う二つの秤の均衡が今、崩れた気がした。
へ、へえ~……
私がこの一年間苦労していたのに……
随分と楽しそうね~……
私と
良くも悪くも鈴は暴力系と言っても恋に必死に生きてる点は他のヒロインにない特徴だと思います。