奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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今回、少し箒のアンチ側面が出ます。
ご注意ください。


第17話「敗者の答え」

「不戦勝……?」

 

「はい」

 

 俺は初めての「IS」の試合に負けてから敗北による悔しさの中に浸る前にすぐに試合に移ろうとした矢先に山田先生が告げた予想もしなかった事態に俺は戸惑ってしまった。

 俺の次の相手は陽知とは違い、「男」と言うだけで俺を見下していたあのオルコットだ。

 そのオルコットが俺相手に「試合放棄」とは信じられなかった。

 

 でも、逆に助かったのかな……?

 

 未だにヒリヒリともズキズキともジンジンとも続く脇腹の痛みを考えればいいのかもしれない。

 幸い「IS」のおかげでなんとか怪我をしないですんでいるらしいが、疲労骨折の可能性もありえる。

 

 ただ……それでも……

 

 しかし、そう言ったことがあると言ってもまるで「勝ち」を譲られた気分になってしまい釈然としない気分だ。

 

 あれ?ちょっと待て、俺はなんでそんな気分になっているんだ?

 

 大怪我をしないで済むと言うことは嬉しいことだ。

 だが、それでもなぜか不思議と俺はこの結末に納得がいかない。

 

 そうか……そういうことだったのか……

 

 俺は自分が感じているこの「勝ち」の虚しさの理由で一週間前のことを思い出した。

 

『相手を一度「ハンデ」何て言う言葉で見下しておいて、相手に敵わないと知ると撤回ですか……

 情けなくないんですか?』

 

「ははは……

 確かにこれは嫌だな……」

 

「一夏?」

 

「織斑君?」

 

 ようやく、俺はなんであそこまで陽知が俺のことを非難したのか解った気がする。

 確かにこんな気分は嫌だ。

 俺は自嘲しながら、「ハンデ」と言うものがどれだけ相手を侮辱していたのかを理解していた。

 そして、それを理解すると

 

「なんでオルコットは棄権したんですか?」

 

 どうしても納得がいかず意味がないと解りながらもオルコットの「棄権」に理由を山田先生に訊いた。

 

「そ、それは私にも―――」

 

 自分でも馬鹿だと思うが不満を抑えきれず理不尽にも当たるように俺は山田先生に訊いた。

 山田先生は困ってしまい、タジタジした。だけど、罪悪感を抱きながらも俺は訊きたかった。

 その時

 

「それは自分の未熟さを悟ったからですわ」

 

 山田先生よりも、いや、誰よりもその理由を答えられる人物がその答えを口に出した。

 

「オルコット……?」

 

 それは他ならぬ俺の対戦相手であったはずのセシリア・オルコットであった。

 意外な人物の登場に俺は驚いてしまった。

 しかし、彼女以上に意外過ぎる人物がもう一人いた。

 それは

 

「それに……陽知?」

 

 先ほどまで気を抜けない試合をせざるを得なかった今回の三人の中における暫定と共に絶対的な強者である陽知雪風そのひとであった。

 

「貴様……!何の用だ!?」

 

「お、おい!?箒!?」

 

 陽知の姿を見て途端に箒は陽知に殺気だった目と敵意を向けた。

 オルコットでさえ、箒のことを「あの人」のことで苛立せて怯んだ敵意だ。

 

「………………」

 

 しかし、そんな目を向けられながらも陽知は全く怯みもしない。

 一週間前の千冬姉に対する発言やセシリアやオルコットに対する啖呵、さらには先ほどの二試合においてもそうだが、どれだけこいつは度胸があるのだか。

 

「何とか言ったらどうなんだ!!」

 

 怯みもせず、ただ静かな陽知の姿に箒はさらに苛立った。

 どうやら、箒は俺にあれだけの攻撃をしたことに悪印象を抱いてしまったらしい。

 でも、一言言いたい。

 『剣道の時のお前は防具なしで攻撃している分、陽知よりもひどいぞ』と。

 ただそれだけ心配してくれていることや後のことが怖いので言えないが。

 

 あれ?意外と心配してくれていたのか?

 

 今まで割と辛辣であった幼馴染のその気持ちは嬉しくは思うが、あれが陽知の「本気」であるのならばそれを責めるのは間違いだ。

 俺はそれをさっきのことで理解した。

 その時、

 

「落ち着け、篠ノ之」

 

 この中で最も箒、いや、ほとんどのこの学園の人物を黙らせることのできる人物が口を開いた。

 

「ち、千冬さん……」

 

「織斑先生だ。

 みっともない真似はよせ」

 

 千冬姉は俺が帰還した時に久しぶりに見せたあの穏やかな表情ではなく、いつも、いや、いつも以上に険しい表情で箒を戒めた。

 

「し、しかし……!

 あんな戦いで……!!」

 

 千冬姉の言葉を聞いて、少し怯みながらも箒は陽知に対する敵意を消さずに陽知のことを批判しようした。

 確かに陽知の戦いはかなり乱暴だったのかもしれない。

 でも、なぜか俺にはあの戦いをしている陽知の姿が

 

 綺麗だったな……

 

 綺麗に思えた。

 荒々しさがありながらも錨と銃、いや、砲を携えた彼女の姿は粗暴には見えず、女なのに雄々しかった。

 まるで、その姿は巨大な鉄の要塞が悠然とそびえ立っているかのようだった。

 

「貴様は「剣道」の礼儀すらも忘れたか?」

 

「え」

 

 しかし、その箒の反論に対しても千冬姉はあからさまに不機嫌だった。

 

「「剣道」においては互いにぶつかり合い、どのような結果に終わろうとも互いに礼儀をつくすものだ。

 「IS」は元々、自由な戦い方で挑むことができるがそこには「剣道」のそう言った心構えぐらいは貫けるはずだ。

 貴様のその態度は私の弟(・・・)に対する侮辱に繋がるだけだ。

 それは()として、断固許さん」

 

「っ……!」

 

「千冬姉……」

 

「織斑先生だ。馬鹿者」

 

 千冬姉の剣幕に箒だけでなく、その場にいる全員が固まってしまった。

 その中には陽知もいた。

 同時に俺はその言葉に誇らしさと嬉しさを感じた。

 あの千冬姉が「姉」として、俺のことを認めてくれたのだ。

 嬉しくないはずがない。

 

「で、オルコット。

 貴様が陽知と一緒に織斑の下を訪ね、さらには織斑に「勝ち」を譲ったのはなぜだ?」

 

 と千冬姉はオルコットだけじゃなく陽知の登場によって引き起こされた箒の行動で遠ざかってしまった本題に軌道修正をしてくれた。

 

「は、はい……そのことなのですが……

 先ほど言ったように私は自分の未熟さを雪風(・・)さんと一夏さん(・・・・)の戦う姿から理解したのですわ……」

 

「……え?」

 

 俺はその言葉に色々と衝撃を受けた。

 まず、今まで俺のことを「猿」などと言っていたオルコットが俺の名前を呼び、さらには敵対心を剥き出しだった陽知に対しても親し気に下の名前で呼んだのだ。

 そして、何よりも俺の『戦う姿』をあのオルコットが戦っていないのに評価したのだ。

 

「い、いや……

 俺はそんな大したことはしていな―――」

 

 俺はその評価があまりにも過大だと思った。

 実際、戦ってみたらみんなああなるだろうし、負けるのは嫌だろう。

 それに俺は結局のところ、負けたのだ。

 俺は自分がすごいことをした訳ではないことを口に出そうとしたが

 

「いいえ!

 私じゃなく、誰が見てもあなたの戦いは心を動かされるものでしたわ!!」

 

 オルコットは力説しだしてしまった。

 

 え?俺、そんなすごいことしたか?

 

 俺は自分のことなのに困惑してしまった。

 誰だって陽知みたいな相手ならば腹を括るだろう。

 それにオルコットだって最後は果敢に戦ったし。

 だが、そんな考えは次の一言で吹っ飛んでしまった。

 

「なにせ、他ならない雪風さん(・・・・)が認めましたのですから!!」

 

「!!?」

 

 その言葉はあまりにも衝撃的過ぎた。

 ここ一週間あまり続いた出来事を忘れてしまいそうになったほどだ。

 そして、それは俺が何よりも望んでいたことであった。

 

「なんだって……?」

 

 その言葉が信じられず、俺は陽知本人に目を向けた。

 すると、俺の目に入ったのは俺のことを敵意でも侮蔑とも異なる真っ直ぐな目を向ける陽知であった。

 その目はまるで俺を試しているのかのようだった。

 

 し、試合中じゃなくてもこれかよ……

 

 改めて俺は陽知の迫力に圧された。

 こいつの出す威圧感は暴力的ではないのに、ただいるだけで緊張感を感じる。

 しかも、試合中にはそこに猛々しさと荒々しさも加わる。

 

「織斑さんに一つ訊ねたいことがあります」

 

 周囲に妙な緊張感を与えながら陽知は俺に質問をしようとしてきた。

 

「な、なんだ?」

 

 陽知の迫力に圧されながらもその質問を聞こうと思った。

 試合の時は気にしている暇などなかったが、日常ではこんなにも大きいと今になって感じ出した。

 いや、むしろ、戦った後だからよく解る。

 あの時の俺は那々姉さんの教えと陽知に認められたい一心で戦ったことでアドレナリンでも出まくっていたのだろう。

 俺が少し気圧されていると

 

「あなたはなぜあの時、織斑先生を『守る』と言ったんですか?」

 

「……え?」

 

 意外過ぎることを訊かれた。

 だけど、問いかけきた陽知の目がいつもとは違う感じがした。

 その目はいつもの真剣さとは違うもので今の目には何かを俺に望んでいるかのような目だ。

 

「そ、それは……」

 

 あの時、俺はなんでそう言ったのか自分でも理解できない。

 あの時の俺は陽知に認められたい一心と陽知から受けた痛みの影響で普通じゃない精神状態だった。

 

「………………」

 

 陽知の目が直視できなかった。

 今までの陽知の目がただ迫力が込められていた「強さ」に溢れていたものであったのに対して、今の彼女の目には少しだけ弱々しさが込められているかのようだった。

 彼女に何と言えばいいのか俺には分からない。

 だけど

 

「俺はあの時は千冬姉の「名前」を守りたかったんだ」

 

「え……」

 

「「名前」を?」

 

 俺の発した言葉に陽知だけでなく、その場にいる全員が面食らってしまった。

 だけど、俺はここで変に言い繕うよりも目の前の陽知に真っ直ぐと向き合いたかった。

 

「俺の使っていた刀は「雪片」って言うんだ……

 それは千冬姉が使っていた刀と同じものだったんだ。

 それでなのか、自分でも分からないんだけど自分が千冬姉の「弟」と言うことをなぜか強く意識したんだ」

 

 俺は「雪片」のあの能力を使ったときに心に感じたあの気持ちを説明した。

 あの時、俺には戦う術があれしかなかった。

 だから、強く印象に残ったんだと思う。

 そして、同時に今まで自分がどれだけ千冬姉に守られてきたことに改めて気づかされた。

 

「あと、今まで自分が千冬姉に大切にされてきたことを思い出したんだ……

 だけど―――」

 

 そんな当たり前のことを自覚したからこそ

 

「せめて、あの時は千冬姉の名前だけ(・・)でも守りたいと思ったんだ」

 

 いつまでも守られていちゃいけないと思ったんだ。

 

 

 

「………………」

 

 私は織斑一夏のその「答え」に多くの感情を抱いた。

 一つは単純に意外だと言うことであった。

 次に姉想いな好青年だと思ったことだ。

 その次に思ったのは『平和な時代の考え』と言うことだ。

 これは決して、彼の考えを茶化しているのでもなく、馬鹿にしているのでもなく、彼の育った世界と私の生きた世界が違うと思ったからだ。

 私の世界で誰かの「名誉」や「誇り」を守ると言うことは既にその誰かがいない(・・・)と言うことだ。

 私の世界で『守りたい』と考えるのならば、先ずはその誰か自身を守ることに他ならない。

 生き残った私だからこそ言えることだが、親しい誰かを失うのは何よりも辛いことだ。

 それなのに彼は守る対象が危機に陥ってもいないうえに「名前」を守ろうとした。

 

 ……危ういですね

 

 私は目の前の少年に危うさを感じた。

 彼は真っ直ぐ過ぎる。

 これはただの妄想だが、ここが私の世界ならば彼は何度も死地に向かってしまう。

 改めて、この世界が歪とは言え、「平和」であることが良かった。

 最後に私は

 

「……あなたは強くなりたいんですか?」

 

 彼が「強さ」を求めてしまっていることに納得がいった。

 今の彼は危うい。

 しかし、彼の『守りたい』と言う意思は変えられないだろう。

 かつての私のように。

 そして、私の問に彼は

 

「ああ」

 

 迷うことなく答えてしまった(・・・・・・・)

 それを聞いた私はあることを決心した。

 

「わかりました……

 織斑先生」

 

 私は織斑さんに再びわがままを言おうと思った。

 

「なんだ?」

 

 織斑先生がどこか達観した顔をしながら私の呼びかけに答えると私はわがままをぶつけようと思った。

 そのわがままとは

 

「クラス代表の地位を辞退させていただきます」

 

「「え?」」

 

「なっ!?」

 

 クラス代表の地位を蹴ることであった。




夏イベ色々と愚痴ったけど楽しかったです。

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