奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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今回は幕間で短めです


第4話「護衛任務」

 うぅ……護衛任務初日に何をやっているんですか……私は……

 

 休み時間になって私は二時間目にやらかしたことに自己嫌悪に浸っていた。

 私は感情に任せるままに演説めいたことをして悪目立ちしてしまった。

 実際、クラスの生徒の何人かは私のことをじろじろ見ている。

 演説自体は中華民国時代に何度かやっていたことで慣れてはいるが私としてはそう言ったこと自体は他人がしているのを見ていると自己陶酔している人間が大多数なので自分がああやっていると考えると気分が悪くなる。

 

「ゆ、ゆっきー、元気出そう?」

 

 私の落ち込みように本音さんは励まそうとしてくれていた。

 そして、私のことを励まそうしてくれているのは彼女だけではない。

 

「そうよ、やちさん!」

 

「すっごく、かっこよかったよ!」

 

 と続いて私のことを励まそうとしているのは本音さんがいつの間にか仲良くなった女子二人だった。

 本音さんとは違い、私がなぜ落ち込んでいるのかは解らないでいるし、私としては「演説」をしている姿をかっこいいと思われるのは複雑な気分ではあるが、二人は善意で私のことを励まそうとしてくれている。

 

「あ、そのありがとうございます」

 

 私としては自分の失敗を誤魔化したくはないが、それでもこの好意は素直に受け取っておきたい。

 

「あ、私は相川 清香」

 

「私は夜竹 さゆか。よろしくね」

 

 と二人は私に自己紹介をしてきたので私も彼女らに倣って

 

「陽知 雪風です。

 よろしくお願いしますね。

 相川さん、夜竹さん」

 

 更識さんに我が儘を言ってつけさせてもらった尊敬するネームシップである姉二人の名前から取って付けた苗字と自らの名前を告げた。

 ただもう一人の姉を尊敬しているのは本当のことだけどこのネームシップが二つと言うのは私たちにとっては悲しい話だが。

 

「雪風て、なんかかっこいい名前だね!」

 

 相川さんは私の名前であり艦名でもある「ゆきかぜ」と言う響きが気に入ったのかそう褒めてくれた。

 

「い、いや……その……ありがとうございます」

 

 まさか、名前を褒められるとは思いもしなかったので恥ずかしくなってしまった。

 

「それと「やち」って名前って珍しいわね……どう書くの?」

 

 夜竹さんは私の苗字が気になったのか訊ねてきた。

 確かに私の考えた苗字は中々いないだろう。

 だけど、私は苗字の由来を訊かれたことに対して

 

「はい!陽炎型の「(よう)」に不知火の「()」で「陽知」です!」

 

 待ってましたとばかりに嬉しくてドヤっとした表情をしながら胸を張って二つの蜃気楼の名を誇りながら説明した。

 

「う、うん……そのチョイスを選ぶなんて思いもしなかったわ……」

 

「陽知さんて……何と言うか、色々な意味で変わってるね……」

 

 あ、あれ……?

 

 二人の反応に私は首を傾げてしまった。

 

「でも、見ててひやひやしちゃったよ~」

 

「そうそう、織斑先生相手に真正面から『間違っている』なんて言うなんて……」

 

「陽知さんが殴られないか本当に心配だったよ」

 

 と二人は本当に心配していたらしくそう言った。

 まあ、確かに織斑さんの人柄を直に知らない人からすればあれを見た後だとただの暴君にしか見えないから彼女たちの心配は杞憂ではないだろう。

 

「あはは……すいませんね……

 でも、意外です。織斑先生に逆らったからてっきり嫌われるかと思いましたが」

 

 心配をかけたことを謝った後に私は二人の反応に意外だったことを伝えた。

 実際、クラスの何名かは私のことを生意気な人間だと見ている様であったし。

 

「いや~、そりゃあ、織斑先生は確かに憧れだけど……」

 

「流石に私たちだって理不尽な理由で殴られて喜ぶドMじゃないわよ」

 

「あ~、なるほど……」

 

 彼女たちはどうやら、織斑さんのことは尊敬しているようだが決して崇拝しているわけではないらしく、かなり人間らしい感想を口に出した。

 気持ちはよく解る。

 そもそも、尊敬する人間が間違っているのならばそれを間違っていると諫めるのが意味は違うかもしれないが「忠道」と言うものではないのか。

 もちろん、ただ相手を批判したいがための批判はただの悪口でしかない。

 相手に敬意を持って接することで初めて対話できると言うのが私の持論だ。

 

「でも、織斑さんは関羽と言うよりも張飛ですね」

 

「「「はい……?」」」

 

 そんなやり取りの中でなぜか織斑さんの弟さんのボケに対する感想を口に出してしまった。

 私の感想に三人は呆気に取られてしまった。

 

「いや、関羽は部下に優しくて張飛は部下に厳しかったらしいですよ?」

 

「へえ~、そうなんだ」

 

「私、ゲームでしか知らないから初めて知った」

 

「ゆっきーて歴史得意なんだ」

 

 と中華民国時代に三国志の正史と演義を読んで身についた知識から冗談をかました。

 なぜ私がそんな知識を得ていたかと言えば、私のいた中華大陸では南北に政権が分かれていて北側の政権の歴史的文化財を破壊して新しい中華を創ると言う革命運動に対抗して、私たちの南側の政権が歴史的文化財の保護と研究を推進する方針を取ったことの影響でもある。

 文化財や芸術が政治の道具に使われるのは嘆かわしいことだが。

 と私が人間の業に対して虚しさを感じていると

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

「ん?」

 

 私がやらかした件の当事者の一人である織斑さんの弟さんに対して金髪のウェーブのかかった長髪の外国人女性が絡んでいた。

 

 あれは……セシリア・オルコットさんですね

 

 どうやら、英国の代表候補生が唯一の男性適合者に興味を抱いたらしい。

 少し、不穏ではあるが。

 私は二人の会話に注意しようと耳をこらそうとするが

 

「うわぁ……美人だね、あの子」

 

「そうね。陽知さんが可愛い系ならあのこは美人系かしら?」

 

「え!?可愛い……!?」

 

 オルコットさんのことを見て、相川さんと矢竹さんは彼女のことを美人だと評した後になぜか私の容姿のことまで触れてきて私は驚いて集中できなくなってしまった。

 あまりのこと私は声を高くしてしまった。

 

「うん、多分だけどこのクラスで一番かわいいのは陽知さんでしょ」

 

「あと、美人系ならあの子とあそこのポニーテールの子も入るんじゃない?」

 

 相川さんはそう言いながらオルコットさんと篠ノ之さんを交互に指差した。

 確かにあの二人は美人だとは思うが。

 

「いえいえ……!私なんてそんなに……!

 それに可愛い系なら本音さんの方が!」

 

 私は実年齢30歳と言うこともその手の評価に恥ずかしさを感じてなんとか本音さんを使って話題を反らそうとしたが

 

「え~、ゆっきー自分の武器を解ってなさすぎ~」

 

「え?」

 

 なぜか、その本音さんによってそれは封じられた。

 

「うん、まったく」

 

「え?」

 

 続いて相川さん

 

「しかも、そのうぶさ……」

 

「え?」

 

 夜竹さんが言い、そして

 

「「「十分、いいと思う!!」」」

 

「何が!?」

 

 最後に示し合わせたかのように何かを断言した。

 この三人は今日、初めて会ったばかりのはずなのだが。

 

 こ、これが学生生活……

 何と言うか、全体的に緩いのに……疲れますね……

 

 私は鎮守府よりもあまり緊張感がないが、妙な熱意のある彼女たちの迫力に圧されてしまった。

 これが若さと言うものだろうか。

 

―キーンコーンカーンコーンー

 

「逃げないことね!よくって!?」

 

「あ」

 

 チャイムが鳴り響いた瞬間、オルコットさんの言葉が耳に入り私は

 

 し、しまった……会話を内容を確認するのを忘れてました……

 

 三人との会話で私は例の二人の会話のことを聞き耳を立てるのを忘れてしまったことに気づいた。

 本音さんの方を見ると、彼女も『やってしまった』と言いたげな表情だった。

 この「任務」。割と大変な気がしてきた。

 

 

 

「う~ん……」

 

「どうしたんですか、お嬢様?」

 

 私、更識 楯無は今年入学した新入生に対して二つの懸念を抱いていた。

 

「い、いや……何と言うか、やっぱり簪ちゃんが少し心配になっちゃって……」

 

「またですか……」

 

 私は妹のことが心配で仕方がなかった。

 ちゃんと友達は作れているのか、例の件で落ち込んだことから立ち直れているのか、心配で仕方なかった。

 妹にまた(・・)嫌われることをしておきながらも結局の所、私は過保護でいた。

 

「はあ~……

 ただでさえ、開発が遅れている簪様の専用機の開発をほとんど嘘とは言え「新世代型量産機」のテストで遅れるとしてしまいましたからね……」

 

「うん……」

 

 そう、私は雪風ちゃんの「初霜」をコネで倉持の開発中の「新世代型量産機」のテストケースと言う形にして、そのテストパイロットに雪風ちゃんを推すと言う形で雪風ちゃんの隠れ蓑にした。

 雪風ちゃんは「初霜」に誰かが触れたり実験に使おうとするのを嫌がる素振りを見せるが、それでも私の伝手と言うことや私に対する義理から一応、倉持で「初霜」のメンテナンスやデータを取ることを承諾してくれた。

 だが、それはただでさえ「世界で唯一の男性操縦者」の専用機の開発の弊害で予定されていた簪ちゃんの専用機開発が遅れることになってしまう。

 

「お嬢様……天秤にかけたことを自己嫌悪しておられるのですか?」

 

「うん……」

 

 虚ちゃんは私の中に渦巻くジレンマをズバリと言い当てた。

 簪ちゃんと雪風ちゃん。

 どちらかの機体の開発と調査を取るかと言えば、後者の方が両方の安全を取れる。

 簪ちゃんの機体の開発が遅れれば遅れるほど、私と簪ちゃんとの距離は離れていき、簪ちゃんも目立たなくなって簪ちゃんが狙われる危険性は低くなっていく。

 逆に雪風ちゃんは信頼できる研究機関である倉持に任せないと危険になる。

 いつまでも雪風ちゃんの専用機のことを隠しきれるわけではない。

 だから、今のうちに隠す必要がある。

 どちらを優先するとなれば私の目的とエゴを考えれば一目瞭然だ。

 だけど

 

 本当は……簪ちゃんのことを傷つけたくないのに……

 

 それでもただの姉(・・・・)としてはもっと悩みたかった。

 

「お嬢様、私は―――」

 

 と虚ちゃんが私を慰めようとするが

 

「いいのよ、それに……もう、慣れたから……」

 

 いつものように私は強がった。

 

「そうですか……ところで本音と雪風さんはうまくやっているでしょうか?」

 

 彼女は私の強がりを察するとこれ以上は踏み込むまいと自分の妹と私たちの共通の友人が「任務」をこなしているのかと話題を変えた。

 

「そうね~、多分だけど雪風ちゃんは目立ってんじゃないかしら?」

 

「……は?」

 

 私は想定できる彼女たちの任務の現状を即答した。

 虚ちゃんはそれを聞くと豆鉄砲を食らったような顔をした。

 まあ、当然だろう。

 だって護衛任務と言うのは目立たない方がやりやすいだろうし。

 

「だって、雪風ちゃんのことだから曲がったことがあったらだれであろうとズバズバと言うでしょう?」

 

「え!?」

 

 雪風ちゃんはそう言う娘だ。

 この三週間で十分、それは理解できた。

 現実と言うものを理解しながらも人の弱さをしっかりと受け止めてそれでも間違っていることを間違っていると言える。

 「女尊男卑」とかその他諸々の歪んだ価値観なんて真正面から粉砕するだろう。

 そう言った真っ直ぐな彼女だから私は信頼できた。

 

「し、しかし……!それでは、二人が!」

 

 と虚ちゃんは血相を変えて二人のことを案じたが

 

「ああ、それなら大丈夫よ?

 むしろ、雪風ちゃんにはもっと目立ってもらわないと」

 

「……はい?」

 

「ふふふ……」

 

 私はむしろ、雪風ちゃんは目立つべきだと思っている。

 それは打算的なものでもあるし、彼女と言う友人を持つ身としての希望だった。

 ちょっと、虚ちゃんの慌てようが面白くて笑ってしまった。




多少、雪風がドジっていますが割と雪風はこう言った雰囲気に慣れていないのが理由です。
一応、艦娘の訓練時代手士官学校みたいなものなのですし、何よりもモラトリアムの最中に戦火に身を投じていますしその後は元帥クラスの仕事をしてますので。

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