奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第21話「真相への道」

「龍驤さんが!?」

 

「どうして……」

 

「まさか……」

 

「そうか……」

 

 予想外の人物の名前が出てきたことに先程と同じ様に鈴とシャルの二人は驚くが、やはり、ラウラとセシリアも同じ様に納得している様子だった。

 

「これからは会長とも連携していくということか」

 

「「!?」」

 

「……そうだ」

 

 ラウラがその答えを口に出してくれたことで俺が説明する手間が省けた。

 

「それと龍驤さんが話すことで今の話が虚偽のものではないという証拠になりますわね」

 

「あ!?」

 

「そっか……」

 

 続いて、セシリアが龍驤さんが話したという事実が齎す効果を説明した。

 セシリアの言う通り、会長の言葉だけでは半信半疑だっただろう。

 しかし、ここで信頼できる人物である龍驤さんの言葉というお墨付きによって今回知った事実が紛れもない真実であるということを決定づけることが出来たのだ。

 

「やっぱり……

 想像していた以上に恐ろしい敵なんだ……」

 

「う……そうね……」

 

 シャルは今までの会話から俺たちが戦っていく相手がそれ程までに強大な存在だという再認識し、鈴もそれに続いた。

 本来ならラウラやセシリアの言う通り、会長の実家のことは隠しておくべきことだ。

 だが、そんなことを構っていられる相手ではないということを今回の出来事は証明しているのだ。

 

「……会長がしていることやしてきたことはわかったわ。

 それじゃあ、どうして会長は妹の機体の開発を遅らせるような真似をしたのよ」

 

「そうですわね。

 今までのことで会長がそれを実行できる力を有しているのは理解できましたわ」

 

「うん。だけど、その理由がわからないよ」

 

「ああ。余りにも不自然だ」

 

 会長が対暗部組織の長であるという事実には全員が納得して、その次に出てきた疑問は会長がどうして妹の「専用機」の開発を遅らせているのかという理由だった。

 推理小説でいう犯人が誰か、犯行方法はどうだったのかという点は分かったが、それでもその動機が分からないという状況なのだろう。

 

「……それには二つの理由がある。

 一つは雪風と「初霜」を守る為だ」

 

「雪風と「初霜」を?」

 

 先ず一つ目の理由である合理的な動機を俺は打ち明けた。

 

「ああ。「初霜」はどうやら雪風以外には扱えない「IS」らしい。

 それと「初霜」と同じコアは他にもあるらしい。

 もし、それが周囲に知られたら―――」

 

「……間違いなく、雪風は世界中から狙われるわね」

 

「!」

 

「っ!?」

 

「そんな!?」

 

「―――そうだ」

 

 教えてもらった情報によれば、雪風の「初霜」とその同じように生産されたコアは今まで誰も扱えなかったのにもかかわらず、雪風はそれを起動してしまったらしい。

 それが意味することは他ならない俺自身が理解している。

 世界初にして、世界唯一の男性の搭乗者。

 それが知られた時、俺は世界中から注目されると共にとある一部の研究機関から『調べさせてほしい』とも言われた。

 連中からすれば『人類の明るい未来の為』らしいが、要するに実験対象にしようとしているのは丸見えだ。

 

 俺以上に雪風はもっとまずいんだよな……

 

 俺はまだ限られているコアに偶々適性があっただけだ。

 しかし、雪風はその限られているコアをさらに増やせる可能性があるのだ。

 それは明らかに人々の欲望を大きく搔き立てるはずだ。

 「IS」は当初、束さんが発表した際の開発目的ではなく、あの白騎士事件から「世界最強の戦力」としても見られる様になったのだ。

 その数を増やせる。

 雪風のことを狙う人間は確実に増えるだろう。

 

「そうか……

 だからか……!!」

 

 ラウラはかなり苦虫を嚙み潰したよう表情と怒りを込めた顔で一つ目の動機に納得がいったらしい。

 自分にとって千冬姉と並んで生きる道を教えてくれた姉に等しい存在が危うい立場にいるのだ。

 怒りを感じるのも無理はない。

 

「……会長のお陰で助かったね……

 この世界……」

 

「……ええ」

 

 シャルとセシリアは雪風が無事であったことでこの世界の方も助かったと語った。

 そう。もし俺たちが考えていた最悪の運命を雪風が辿っていれば、雪風だけではなくこの世界は間違いなく終わっていた。

 先ず初めに俺たちの方が「深海棲艦」と初遭遇時に死んでいたし、そもそも相手がどういった存在であったのかすらも分からないままだったはずだ。

 そして、艦娘の人たちと手を携えることも無理だったはずだ。

 誰が自分たちの仲間を傷つけた相手を好き好んで救おうとしたり、守ろうとするだろうか。

 仮令、艦娘でさえ、この世界に愛想が尽きる以前に、見捨てるだろう。

 会長は結果的にこの世界を救ったのだ。

 

「それで二つ目の理由だけどこれはその……

 会長の個人的な動機なんだ」

 

「は?」

 

「個人的……どういうことだ?」

 

 雪風の為にも行った妹への仕打ち。

 それはあくまでも千冬姉と山田先生に頼まれたことを果たす為の目的の手段だ。

 あくまでも結果的に会長はそうしただけだ。

 しかし、もう一つの動機はそもそも目的そのものが全て手段と一致しているのだ。

 

「妹を守りたいっていう……純粋な動機、いや、願いだ」

 

「え?」

 

「妹を……」

 

「な、何で……!?」

 

「何故そうなるのだ!?」

 

 妹への妨害。

 俺が明かした妹を守りたいという動機と明らかに反している会長の行動。

 

「会長は実家のしていることに妹を関わらせたくなかったんだよ。

 だから、憎まれるのを覚悟で妹を妨害した」

 

「!?」

 

「あ……」

 

「そう……でしたの……」

 

「そっか……」

 

 けれども、既にその答えに導くための論理式は出来ていた。

 既に会長の実家が代々、担ってきた役目を知らされていた四人は動機という答えへの計算式を導き出すのは容易に簡単だった。

 そして、同時に妹を守る為にしていることとそれによって自分が

 

「……でも、それって―――!!」

 

「ああ……悲しいよな」

 

 鈴はそれでもその理不尽に怒りを見せた。

 鈴ならそう思うだろうし言うだろう。

 何故なら鈴は艦娘が守る為に戦い、その為に生まれてくるという運命に初めて怒った人間だ。

 当然の反応だ。

 俺は会長を否定できなかった。

 鈴の抱いている憤りはこの場にいる全員が抱いているものだからだ。

 妹を愛し、守る為に憎まれようとする。

 いくら何でもあんまりだろう。

 

 

「……会長はそれを止めるって決めた」

 

「―――どういうこと!?」

 

 でも、既にその憤りは過去の物になるだろう。

 

「……俺のせいだ」

 

「え……」

 

「一夏のせい?」

 

 会長が今までの行動を変えた理由。

 それは間違いなく、俺にも原因がある。

 会長が妹の好きな様にさせると決めたのは俺も原因の一つだ。

 

「弟として、妹の想いを踏みにじっているのは『間違ってる』と言っちまったんだよ」

 

「う!?」

 

「成る程……」

 

「それで会長は妹の好きな様にさせるって決めたんだ。

 どっちの道を妹が選んだとしても」

 

「?」

 

「何よそれ?」

 

 会長は妹の意思を尊重すると決めた。

 それがどちらの道であろうと。

 

「これからの戦いに加わっていくか……

 それとも、そこから逃げるかのな」

 

「「「「!?」」」」

 

 会長が妹に選ばせようとしている二つの道。

 それはこのまま妹の望むままに専用機を完成させ、そのままそれを纏って戦争へと身を投じる道か。

 もう一つは本人が自分の夢を諦め、戦いから身を遠ざける道か。

 その二つだった。


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