奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「間違ってる……
どうしてそう思ったのか、聞かせてくれるかしら?」
俺の否定的な意見に対して会長は機嫌を悪くすることはなく、ただどうして俺がそう思ったのかを訊ねてきた。
「……それは妹の意思を無視しているからです」
「!」
色々と間違っているのは事実だ。
目の前の会長はかなり犯罪ギリギリか、それ同然のことをしている。
加えて、自分の妹を守る為に他人を利用している。
でも、俺が怒っているのはそっちじゃなくて、妹の意思を無視していることだ。
「会長の家の事情に関しては俺がとやかく言えることでもないし赤の他人の俺が解決出来ることなんかじゃないの分かってます」
自分の家の事情、それもかなり特殊なことから会長が必死に妹だけでも守りたいと願っているのは理解出来る。
そのことに俺が口出しすることが出来ないのも分かる。
そして、シャルの時と違って、根本的に解決出来る手段が殆どないのも分かる。
シャルの場合は三年の猶予の中で何かしらの解決の手段が出来ればいいし、何よりも被害者なのだから声を上げれば助けてくれる誰かや俺達、友達が何かしらの形で支える事だって出来る。
だけど、会長とその妹は違う。
この姉妹は助けを求めようとしても守ってくれる誰かがいない。
だから、本人たちが強くならなきゃいけないが、そうすれば余計に目を付けられるという悪循環にはまっている。
助ける手段がないのにただ目の前の姉を非難するのは間違っていると思う。
「だけど、同じ様に姉に守られてきた人間として会長の妹に対する向き合い方だけは許せません」
「!?」
それでも姉に守られてきた弟として、会長が妹の「強くなりたい」という願いを否定する事だけは許せないのだ。
『守るんだああああああああああ!!』
何時も千冬姉に守られてきて俺は育ってきた。
本当なら「IS学園」に来なくてもいい高校に入って、そのままいい大学に入って、それでいい企業に入って千冬姉に姉孝行をしてあげたかった。
それでも「IS学園」に入ることを強制されても、千冬姉と同じ輝きを使うことになって、誰よりも「守る」という言葉に強い意思と願いを込める少女に出会えた。
だから、会長の妹への押し付けを認めるということは俺の決意とその意味を教えてくれた人たちへの侮辱になってしまう。
「強いわね。
あなたも……織斑先生も」
何も知らない他人の俺の生意気な言葉に対して会長は怒ることなく羨ましそうに呟いた。
「……俺だって、強くないですよ」
「え?」
「……おりむー?」
だけど、会長のその言葉に俺はそう返した。
「……俺はまだ背負っている訳じゃないですし、ただ背負っている人たちみたいになりたいと思っているだけですよ。
ただそうなりたいと思っている自分を否定したくないから言っているだけで……俺
それに会長も十分、そっち側の人だと思いますよ?」
「!!」
俺は強い訳じゃない。
ただ背負っていないからそう言える若造だと理解出来る。
そんな俺からすれば目の前の会長は少なくても誰かや色々なものを守っている人間だと思える。
「そう言うことだよ、更識」
そんな俺たちのやり取りを先ほどまで見守っていたかの如く、何も言わないでいた龍驤さんがようやく口を開いた。
「確かに君のやっていることは依怙贔屓で妹の努力を否定していることになるけど、君は十分に色々なものを背負っている。
少なくても、目の前の少年は十分にそれを理解してくれているよ」
「?
『依怙贔屓』?」
龍驤さんは会長の背負っているものを理解し、それを責めることなかったが「依怙贔屓」という明らかに妹が利益を得ているような言葉を出した。
しかし、俺からすれば妹のことを散々、妨害している会長が龍驤さんが言う様な依怙贔屓をしているとは思えないので違和感を覚えた。
「……織斑君。
君は好き好んでこれから始まる戦い、いや、戦争に肉親を巻き込みたいと思うかな?」
「!?」
龍驤さんの当たり前過ぎる質問に、いや、決して忘れてはいけない質問に俺は会長の「依怙贔屓」の意味を理解した。
「……それは嫌だと思います」
「………………」
そんなことは嫌だろう。
自分なら兎も角、自分の大切な誰かが戦う、それも戦争に出なければならないなんて誰も嫌がることだ。
そうか……
だから、会長は苦しんでいるのか
会長の依怙贔屓。
妹の妨害という意味では真逆の意味になるが、それが戦争となればむしろ、危険な戦いから遠ざけるという意味では意味は合っている。
「「専用機」持ちが生贄同然になるってことですよ?」
今まで特権的な意味が込められていた「専用機」。
それが戦争になれば、それは義務という強制となり、嫌でも死地に赴かざるを得なくなる。
それは間違いなく生贄と同じ意味だ。
「そうだよ。
うちら艦娘と違ってそんな風に思うのが大半じゃないかな?」
龍驤さんは肯定した。
彼女の言う通り、現代日本の価値観では好き好んで戦争に身を投じる様な人間はいないだろう。
言っちゃ悪いが、それはかなりの外れくじだ。
もし、俺が「IS学園」に入らなくて、一般の高校生として過ごしていた俺だってそう思っていただろう。
そうか……
「専用機」持ちの更識が戦争から遠ざかるってそういう意味だよな
今まで俺は雪風を助けたい。
それとこの世界を守れるのなら守りたい。
それらの為に戦える力を持っていたことに感謝していた。
しかし、逆にそれが不幸になる人間だっているのだろう。
もし、他人が知ったら非難は確実だな
平和な時にその特権を有していたのに義務を果たさない。
そうなればバッシングは当たり前だろう。
その理由は正しい。
でも、その動機は正しくなくて、中には醜いものもあるだろう。
「……それでも、それは当然の感情だと思います」
「……!」
「依怙贔屓」の意味を知っても尚、俺は会長の感情を否定しない。
何故なら、それを軽蔑するという事は
「雪風や那々姉さん、龍驤さんたちが背負ってきたものを否定することになりますし」
「……そうだね」
雪風や那々姉さんたち艦娘が守りたいと願っていたのは自分の大切な人たちだけではなく、自分の後ろにいたその感情を当たり前の様に持っている人々の営みだ。
その中で誰かを守りたいと動こうと他の人以上に頑張り続けているであろう会長のことを否定するという事は彼女の様な願いを持つ人々を守ろうとする艦娘の戦いを否定することにもなってしまう。
俺にはまだよくわからないけど……
俺はただ雪風の力になりたいことやこの世界を「深海棲艦」に荒らされたくないという気持ちで戦おうとしている。
だから、艦娘の人たちみたいに綺麗な願いで戦えるか難しい。
「……少なくとも、俺には会長を責める理由なんてないですよ」
俺には会長を非難する理由はない。
そういった理由で戦っている訳ではないのだからそもそも会長を責める必要性すらない。
「……そう」
一連のやり取りの中で改めて出した会長を責めないと言う結論に会長は短く答えた。
「……ありがとう、二人とも。
そして、改めて謝らせて。
ごめんなさい」
「お嬢様……」
「「………………」」
会長は感謝の言葉を伝えるとともに、改めて謝罪の言葉を向けてきた。
「……決めたわ」
「え?」
「ん?」
そして、会長は何かを決意した。
「……もうあの子の好きな様にさせるわ」
「!?」
「え!?」
先程と打って変わって、会長は妹が『強くなる』ことを認めると言ってきたのだ。
「どうしてですか?」
今までの会長の発言からすればあり得ない方針の転換に俺は訳を尋ねた。
「……私としてはこれ以上、あの子が「戦争」に関わっていくことなんて避けたいわ。
本当に嫌だから。
でも、織斑君。あなたが言ってくれたわね。
私が簪ちゃんの意思をぞんざいに扱っているって。
だから、これからの戦いの意味を知った上で、それでもあの子が強くなりたいと言うのなら私はもうあの子に自分の願望を押し付けるのはやめるわ……
それにもしそうなった時には……もう更識の家の役目とか関係なしに強くなった方があの子は生き残れるかもしれない」
「会長……」
「お嬢様……」
本当は妹が戦争に関わっていくことを止めたいと思っている。
しかし、妹の意思を無下に扱っていることを指摘されたことや、状況の変化を理解したうえで妹にとって何が大事なのかを理解したのだ。
恐らく、妹が『戦いたくない』と言えば、彼女は何があっても守ろうとするだろうが、その妹がそれを否定するのならばこれ以上は何も出来ないと判断したのだろう。
そして、それこそが妹が生き残る可能性が最も高い方法だと彼女は考えたのだ。
「わかってたつもりなんだけどな……」
会長は辛そうに自分の過ちを嘆いた。
きっと会長は賢い人だ。
そうじゃなかったら、生徒会と自分の家という二つの組織の長を務めることなんて出来ないだろう。
自分がしていることだどれだけ歪んでいるのかも理解しているのだろう。
それでも改めて、他人に指摘されて我慢することを止めたのだろう。
『ここにいたいです……』
それは雪風が呟いたあの言葉と重なった。
二人とも強くて、賢くて、責任感があって、並外れた精神力もある。
それでも色々と耐え続けて本音を我慢してしまう。
その姿が俺には痛々しく見えてしまった。