奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第12話「覚悟への問い」

「一夏の奴、どうしたんだろ……」

 

「そうですわね」

 

「うん……

 何というか、あの落ち込みようは……」

 

「すまん……」

 

 昨日の今日で織斑が訓練にしばらく不参加となっている状況の中、あいつに好意を持っているオルコットや凰だけでなく、デュノアや昨日の現場にいたボーデヴィッヒすらも顔を暗くしていた。

 それは単純にあいつがいないということでやる気が出ないというものではない。

 少なくとも、こいつらが訓練に参加し戦いに備えているのは雪風という友人が動機だが、友達が理由で責務を放り投げる様な奴らではない。

 ただ友が悩んでることを気に病んでいる。

 それだけなのだ。

 

 

「あの……天龍さん」

 

「どうします?」

 

 自分たち以外の面々のこの状況に阿賀野と照月も戸惑っていた。

 今まではこの二人の方が思い詰めたりしていたが、今度は目の前のこいつらがこの様なのだ。

 困ったところだ。

 

 ま、龍驤には頼んであるけど

 

 一応、念のために織斑と更識の件についてはしばらく龍驤に任せてある。

 しかし、本当に困ったところだ。

 

 いや、いい機会かもしれねぇな

 

 俺は今回がいい機会だと考えた。

 

「……なあ、お前たち。

 家族に対してはどう話すつもりなんだ?」

 

「え?」

 

「家族?」

 

 昨日の更識の件で俺は目の前のこいつらが戦うことに対して、家族とどう向き合うのかを知っておくべき、いや、考えさせるべきだと考え訊ねた。

 

「それは―――」

 

 この中で唯一、家族らしい家族がまだ健在の凰は俺の発言に言葉を詰まらせた。

 それが普通だ。

 

「そんなことは「代表候補生」になった時から、覚悟は出来ていますわ!」

 

 凰が言葉を詰まらせていると、オルコットが先に応えた。

 その通り。両親がいようが、いなかろうが一度でも予科練生に等しい立場である「代表候補生」となったのだから、緊急時には自らの身を投げ出してでも戦うことは当然の義務だろう。

 その覚悟についてはなった時から再三言われていることのはずだ。

 だが

 

「……そうだな。

 だが、それはあくまでも緊急時においてだ。

 平時が常に緊急時になったらどうするんだ?」

 

「え?」

 

 それはあくまでも今までの状況だったから言えることだ。

 

「今まで、お前たちがそれを善しと出来ていたのはあくまでも平和の中にある緊急時だったからだ。

 一回終わればその後は日常に戻れる。

 だけど、これからはそうじゃない。

 日常は二度と返ってこないかもしれない。

 お前たちも帰ることが出来ないかもしれない。

 お前たちの「覚悟」は理解出来るし、尊重できる。

 ただ……お前たちを大切に想っている人間は果たしてどうなんだ?」

 

「ですから、それは!!」

 

 俺はオルコットの覚悟に対して、その前提を再確認させようとした。

 今まで、こいつらが修羅場をくぐってきたのは俺も知っている。

 だが、それはあくまでも一時的な出来事なものだ。

 これからこいつらにかかるであろう負荷は相当なものだ。

 そして、その覚悟はこいつらだけじゃ足りないのだ。

 

「……もし、お前が死んでお前の家が好き勝手にされたらどうする?」

 

「!?」

 

「「「?」」」

 

 オルコットの主張に対して俺は少し意地の悪い問いを投げかけた。

 オルコットが凰と異なり、既に覚悟が出来ていると言えたのは単純にこいつの両親がいないことも大きな要因だろう。

 すでに家族のいない人間とそうではない人間とでは残される者への考え方に大きな隔たりが生じるのは当然だ。

 少しでも家族がいれば情が動かされる。

 絆されると言うべきかもしれない。

 彼の如来が愛すべき子の誕生に対して、我が子に「障害」という意味の名を付けたのもそれが理由であろう。

 オルコットにはそれに該当する人間がいない。

 だから、すぐに覚悟が出来ていると答えることが出来たのだ。

 しかし、そんなオルコットにとっては唯一残された家族との繋がりについて言及することで当事者意識と現実感を与えられるのだ。

 

「……悪いが。お前たちの家庭環境などは色々と知っている。

 それが戦争に携わっていくお前たちを指導する人間としての義務だからな」

 

「なっ!?」

 

「えっ!?」

 

「!?」

 

「………………」

 

 俺は全員に轡木さんと更識から教えてもらったこいつらの経歴や家庭環境を知っていることを打ち明けた。

 はっきり言えば、どうしてこうまで辛い過去を持っている子どもがこんなにも平和な時代において多く集まるのか疑問に思うほどだった。

 

「……オルコット。

 仮にだが……お前が死んだ時、お前の家はどうなる?」

 

「そ、それは……」

 

 俺は貴族、そして、残された子供としてのオルコットに当主としての責任を訊ねた。

 オルコットは確かに両親がいない。

 しかし、その両親が残してくれた家は残されている。

 何よりもこの年端も行かない少女であるオルコットが「代表候補生」になったのはその家を守る為であることも理解出来る。

 

「いいか?

 残したものを忘れて戦うなら俺は絶対に許さねぇ。

 お前らは一つ勘違いしているようだが「覚悟」なんてのはな、自分のことしか考えていない様だったら独り善がりな「逃げ」なんだよ」

 

「逃げ!?」

 

 よく『覚悟が足りない』なんて言葉で他人に潔さを求める人間がいるが、俺はそういう人間が一番嫌いだ。

 

「当たり前だ。

 自分が色々なもんを背負ってんのにそれに目を背けて死にに逝って、残された連中に深い傷を残す。

 それを考えないでいっちょ前に「覚悟」なんて言葉で片づける。

 それは何も考えない大馬鹿野郎の典型例だ。

 怖くても背けるな。

 苦しくても耐えろ。

 自分が背負っているものを忘れるな。

 そういうことを考えて初めて「覚悟」って言うんだよ」

 

「「「「………………」」」」

 

 少なくても、生まれた時から決められていた俺たちと違ってまだ戻れるかもしれないこいつらにはそういうことには気付いておいて欲しかった。

 せめてこいつらが既に何かを背負っているのかを理解してから戦いに身を投じるのは悪くないことだ。

 

「家族がいる奴。

 家族に託された奴。

 家族に残された奴。

 家族が出来た奴。

 それぞれ覚悟が違っても絶対に忘れるな」

 

 俺はそれを知っている。

 いや、この世界に来て教えられたことだ。

 

 雪風みたいな思いをする奴は少ない方がいい

 

 

 雪風を含めた生き残った連中は残され託された。

 そして、戦い続けた。

 特に雪風ほど「覚悟」という言葉が嫌いでありながら振り回された奴はいないだろう。

 

「確りと考えろ。

 お前らはそれが出来る」

 

 ただそれでもこいつらを俺は信じている。

 どんな選択をしようとも、こいつらなりの答えを必ず見付けることが出来るはずだ。


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