奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「……なあ?ラウラ……」
「……何だ?」
「どうして俺らは正座させられているんだ?」
「……わからん」
のほほさんから例の日本の「代表候補生」、更識簪のことを聞かされた後、俺とラウラは今回知ったことについてどうするべきかと俺の部屋で相談することにした。
正直に言えば、俺達が関わるべきじゃないのは理解出来る。
あっちからしてみれば、これ以上俺が話しかけるどころか俺のことが耳に入ることすら不愉快だろう。
しかし、これからも「白式」を使う人間としては使うたびにあの泣き顔をちらついてしまう気がするのだ。
加えて、この件は雪風も関わらざるを得ない。
万が一、雪風がこの学園に戻って来た際に彼女が今日、俺にした態度をしたら間違いなく雪風は傷付く。
だから、今のうちにそのことへの対策を考えようと思っていたのだが。
「で、お二人はどこへ行ってらっしゃったのですの?」
「正直に話しなさい」
何故か俺とラウラは俺の自室で正座をさせられていて目の前のセシリアと鈴に問い詰められている。
「な、なあ……シャル?
どうして二人は怒っているんだ?」
何故か俺の部屋に上がり込んでいるどこか非常に疲労していながらも腕を組んで仁王立ちしている二人がどうしてここにいるのかをルームメイトのシャルに訊ねた。
「ごめん……
ちょっと、二人の迫力というか……
天龍さんさんのいつもよりも倍増しの訓練を受けたことによるストレスが原因の不機嫌さに負けちゃって……」
「え?
何かやったのか、二人とも?」
シャルの申し訳なさそうな返しに驚いた。
どうやら、二人が放っている妙な迫力は何故かいつもより厳しかったらしい天龍さんの稽古が原因らしい。
一体、二人は何をやらかして天龍さんにしごかれたのだろうか。
「「………………」」
「あ、あれ?」
「な、何だ?」
「い、一夏……
いや、その……決して君が悪いんじゃないんだけど……
それは今、言っちゃ……!?」
俺が理由を訊ねたとたん、目に見えて二人の機嫌がさらに悪化した。
その異様な光景に俺だけでなく、ラウラも怯みだし、シャルロットは俺は悪くないと言ってくれるが言うべきことではなかった。
「へえ~……」
「本当に……」
あ、もしかすると……
地雷、踏んじまったか!?
何が原因か分からない。
しかし、俺は二人を怒らせてしまったらしい。
「悪い……」
「「……え」」
「え?一夏?」
そんな俺の様子を見て、俺は先ほど自分がしてしまっていたことを思い出してしまい謝った。
「理由は分からないけどごめん」
「え!?ちょっと!?」
「どうしましたの!?」
「い、一夏!?」
「………………」
シャルは俺は悪くないと言ってくれた。
しかし、仮令根本的に俺が悪くないとしても結果的に俺が原因で誰かを傷付けたと言うのならばそのことに対して謝らなくてはならないだろう。
ただ、それが余りにも理不尽で自分勝手な理由でない限りは。
「……織斑、お前さっきのことを……」
「え?」
「さっきのこと?」
「………………」
ラウラは俺の態度を見て、先ほどの出来事が原因で俺が今の行動をしたと察した。
そんな俺とラウラのやり取りとそれらが醸し出す重たい空気に他の三人が呆気に取られた。
「え?二人は何してたのよ?」
重苦しくなりそうな空気に耐えられず鈴が俺たちを訊ねた。
「それは……」
俺は一瞬、答えそうになったが踏みとどまった。
俺たちが今回、訓練を休んだのは元々、のほほさんがいじめを受けているかもしれないという疑惑を追及するためだった。
「……悪い、言えない」
「はあ!?」
「どういうことですの!?」
「一夏?」
俺は本当のことを言えなかった。
こんなデリケートな話を言うべきではないだろうし、何よりも真実は違ったのだ。
……まさか、俺と雪風の機体が原因で暗くなっている幼馴染を励ましに行ってたなんて言えないよな。
実際は俺と雪風が意図せずに加害者となり、苦しめられていた被害者である幼馴染をのほほさんは友情から励まそうとしていたのだ。
美談とはいえ、広めるべきじゃない。
噂が広まれば余計に更識が惨めになってしまうだけだ。
それに噂が捻じ曲がってあの少女をいじめっ子と誤解する人間も現れかねない。
「……ラウラ、あんたは?」
「……すまん。
私も言えない」
「ラウラさんまで!?」
何としても俺たちが今日していたことを訊き出そうと相手をラウラに変えたが、ラウラも姉分である雪風が関わっているということもあり語ろうとしなかった。
その様子にセシリアや鈴だけではなく、シャルロットも衝撃を受けていた。
しかし、ここで話すわけにはいかない。
もしここで話して、万が一にも噂が広まれば多くの人間を苦しめ、傷付けることになる。
「……二人とも、もうやめよう」
「う……」
「そうですわね」
そんな俺たちの様子を見て、シャルロットがこれ以上の追求を二人に止める様に言い、二人はそれに従った。
どうやら、俺達が抱えているものを理解してくれたらしい。
「……悪いな、みんな」
「すまない」
「……いいわよ、というよりも……」
「謝らないでください」
「あはは……」
「?」
俺たちが謝ると鈴とセシリアはバツが悪そうな表情を浮かべた。
心なしか、どこか罪悪感めいたものを抱いている様にも感じた。
「あ、そうだ。
一夏」
「ん?どうした?」
俺たちへの尋問が終わりを告げた時、シャルロットが何か思い出したかのように言ってきた。
「天龍さんが訓練に身が入らないから今抱えていることを解決してから訓練に戻れだって」
「「「「はあ!?」」」」
その天龍さんからの伝言に俺だけではなく、この場にいる全員が驚愕した。
「え?あの天龍さんが!?」
「あり得ませんわ!?」
「信じられん!?」
「あ、うん……」
鬼教官など生温い天龍さんからの訓練に参加しないでいいという言葉に誰もが信じられない様子だった。
それを伝えたシャルロットも目が泳いでいる。
恐らく、彼女自身も信じられないのだろう。
「あれ……でも……」
「『今、抱えているものを解決してから』……?」
「………………」
しかし、冷静さを取り戻すと全員が天龍さんが俺に向けた訓練に戻る前提について言及してきた。
あ~……
もしかすると、俺たちが醸し出していた空気で察せられてたか……
きっと「専用機」の件のことを言及したのではなく、のほほんさんのいじめ被害疑惑を調べようとしていた時の空気から感じ取っての発言だろう。
天龍さんには詳しいことは言わなかった。
それでも、俺たちの抱えているものを理解してくれているらしい。
「一夏、あんた……」
「相談ぐらいは……」
鈴とセシリアは俺が訓練に戻れないことと抱えている事情を心配して先ほどと打って変わった態度をしてきた。
「……悪い。
ちょっと、この話は色々な人間を傷つけかねないことなんだ」
「え……」
「そんな……」
それでも今回は差し伸べてくれる手を掴めなかった。
今回の件は本当に他人が踏み込んでいいものではない。
俺自身が踏ん切りを付けなければならないことなのだ。