奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「……あれがいじめっ子?」
「う、うむ……そうだな……」
俺とラウラはようやくのほほんさんが最近落ち込んでいる原因、つまりは暫定的ないじめっ子を目にして困惑してしまった。
あんな大人しそうな子がいじめっ子なのか?
いじめっ子(仮)は眼鏡をかけていて、非常に大人しそうな子だった。
とてもいじめをするようには思えなかった。
……どっちかというといじめられそうな感じだよな
人を見かけで判断するのは悪いことだと思うが、件のいじめっ子(仮)の生徒はどちらかというといじめを受けてそうな雰囲気がする方だった。
「……なあ。
私が言ったことだが、本当にあの生徒からいじめを受けていると思うか?」
「……いや、そうとは思えない」
ラウラも何となく、あの少女がいじめをしているとは思えず自分の考えに揺らいでいた。
「だけど……
じゃあ、何でのほほんさんはあんな顔をしているんだ?」
それでものほほんさんが彼女を見る表情には何処か緊張感と憂いが込められていた。
だが、同時に親しみのある笑顔も存在していた。
ただその為に彼女に似つかわしくないぎこちなさを感じていた。
対して、眼鏡の表情は何処か鬱陶しそうな目でのほほんさんを見つめていた。
何か……那々姉さんを見てる時の束さんみたいだな……
ふと俺は件の生徒がのほほんさんを見ている顔が流石にあれ程酷くはないが、束さんが那々姉さんを見ている時の様なものと似ている気がしてきた。
「えっと……
かんちゃん。元気?」
「「……『かんちゃん』?」」
開口一番に出てきたのほほんさんの目の前の生徒のことを呼んだ『かんちゃん』という呼び名。
その言葉に俺とラウラは同時に困惑してしまった。
「……なあ、織斑。
普通いじめの加害者と被害者というのは相手のことをニックネームで呼ぶものだろうか?」
「いや、確かにあだ名とか付けて馬鹿にしたりとかはするとは思うけど……
あれは違うと思うぞ?
それにそれって普通はいじめの加害者がやることだぞ?」
今の明らかに悪意のないニックネームに疑問を抱いたラウラにいじめには相手が嫌がるあだ名を付けたりすることはあるが、今のは明らかにそれは違うと否定した。
加えて、今、彼女を呼んだのはのほほんさんの方だ。
明らかに立場が異なる。
確かに友達だったのに何かしらの理由で仲違いし合った友達がそうなることも考えられなくはないが。
「………………」
そんなのほほんさんの気さくな態度に対処、彼女は氷の様な冷たい目を向けるだけであった。
「……私が言うのもどうかと思うが、人に対して向ける目ではないだろう。あれは」
ラウラは例の生徒ののほほんさんを見る、いや、正確には一瞬だけ向けたその眼差しに対して自分もかつて他の生徒たちに対して侮蔑のものを向けていたことを言及しながらも指摘した。
ただ、ラウラの向けていたものと異なり、その眼はラウラの時に在った熱がなかった。
ただ鬱陶しいから何処かへと行けと言う感情しかない様に思えた。
「……あの。かんちゃん?」
そんな相手に対してのほほんさんは少し恐る恐る伺った。
あんなのほほんさんの姿は初めてだ。
「……出てって」
「え?」
そして、出てきたのは拒絶の言葉だった。
「いい加減にしてくれない。
そもそも入学してからずっと本当に迷惑」
「「え……」」
「そ、それは……」
件の生徒から出てきたのは意外な事実だった。
のほほんさんはどうやら入学当初から授業が終わったらいつも目の前の友人を訪れていたらしい。
「あの人の命令とかだったら本当にやめてくれない?」
……あの人?
「ち、違うよ!
私は―――!!」
新しく出てきた『あの人』という言葉。
それに対して、のほほんさんは動揺した。
どうやら、何かのほほんさんにとっては触れられたくない言葉らしい。
「じゃあ、何?
幼馴染だから?
あれだけ新しい友達と一緒に楽しそうにしているのに?」
「―――っ!」
「幼馴染……?」
「それに「新しい友達」だと?」
のほほんさんが何か言おうとした途端、それを遮る様に彼女は攻める様に彼女が新しい友達と一緒にいることを突き付けた。
同時にどうやら二人が幼馴染であり、現在その二人が仲違いしているのはのほほんさんが新しい友達とつるんでいるのが理由らしい。
「よりによってあの二人となんて……
嫌がらせのつもり?」
「……!」
「あの二人って?」
「誰だ?」
再び少女の口から出てきたのほほんさんへの非難。
どうやらのほほんさんに出来た友人は彼女にとっては非常に気に入らない相手らしい。
「かんちゃん!
ユッキーもおりむーもかんちゃんがそうなっていることを知らないだけだよ!
もし、知ってたらきっと……!!」
「俺!?」
「お義姉様だと!?」
何とその相手は俺と雪風だったらしい。
のほほんさんは流石に雪風を憎んでいる様な発言をしたことは許せず、珍しく声を荒げた。
あののほほんさんがあそこまで感情的になるなんて思わなかった。
それだけ、雪風のことを友だちだと思ってくれているんだな……
それはつまるところ、雪風のことをのほほんさんが大事に思ってくれているということに他ならない。
のほほんさんにとっては雪風はかけがえのない友人だったのだ。
「……あっそ。
あんなズルばっかりの人たち……」
「え……」
「そ、それは……」
しかし、そんなのほほんさんの訴えに対して例の生徒は俺と雪風に『ズルばっかり』という言葉を向けた。
それに対して思い当たることがなく俺は困惑してしまった。
「貴様!今、何といった!!」
「「え!?」」
「ら、ラウラ!?」
「……あ、しまった!?」
尊敬する雪風のことを『ズル』と侮辱したことに対してラウラは我慢出来なかったらしく姿を彼女たちに晒してしまった。
そのことにラウラは直ぐに冷静さを取り戻すが時すでに遅しだった。
「ラウラっちにおりむー!?
どうしてここに!?」
「え、いやその……」
「少し格納庫に用があってな」
流石にいじめられているのか疑問に思ってたからあなたを尾行してましたなんて言える筈がなく、俺達が苦し紛れに誤魔化しになっていない誤魔化しをした。
「………………」
「ん?」
「かんちゃん?」
そんな風にどうにか誤魔化そうとしていると例の生徒が俯いてた。
ただその纏っている空気は明らかに重く暗いものであった。
「………………」
「?」
すると、彼女は表情を見せることなくゆっくりとこちらに近付いてきた。
そして、俺の目の前に来た時だった。
「私にはあなたを殴る権利がある」
「え?」
ただその一言を告げて右手を振り上げてきた。