奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
第1話「僅かな違和感」
「うぅむ……」
「どうしたんだ、ラウラ?」
「ああ、織斑か。
ちょっと、悩みがあってだな」
「悩み?」
阿賀野さん達が編入してきてから一週間が経った後、学園は夏休みという中において、ラウラが少し渋い顔をしていた。
どうやら、悩みがあるらしい。
「……雪風のことか?」
俺はラウラの悩みが雪風のことではないかと考えた。
ラウラにとっては雪風は恐らく、千冬姉の次に出会えた他人とも言えるだろう。
やはり、信じていると言えども心配はしているのだろう。
「いや……
お義姉様のことは常に想っている。
それは最早、当たり前のことだから関係ない」
「え?そ、そうか……」
しかし、返ってきたのは否定交じりの肯定の言葉だった。
ラウラにとっては雪風のことを考えるのは最早確定事項らしい。
あ、愛が重い……
姉分である雪風に対するラウラの慕いっぷりに引いてしまった。
いや、よく考えなくても、千冬姉しか自分の世界に他人がいなかった時に第二回モンド・グロッソの件で俺に殴りかかってきた時からそういった側面があるので今さらなのかもしれないが。
「じゃあ、どうしたんだよ?
そんな顔を雪風のこと以外でするなんて」
しかし、となると彼女は何を悩んでいるのだろうか。
「深海棲艦」の脅威に対しての危機感だろうか。
それとも、阿賀野さんと照月さんとの人間関係だろうか。
色々と在り過ぎて予想が立てにくい。
「……布仏のことだ」
「え?のほほんさん?」
ラウラの口から出てきたのは予想外な人物の名前だった。
「実はな。
しばらく、一人部屋になってしまっている布仏のことが気になってお義姉様のベッドを借りて泊まったりしているのだが……」
「いや、ちょっと待て。
なにとんでもないことをしてんだ、お前」
ラウラが事情を話そうとした際に雪風と相部屋であるのほほんさんのことを案じて、彼女たちの部屋に泊まっていることを明かされたが、その際に出てきたとんでもないカミングアウトに俺は思わず突っ込んでしまった。
他人に自分の寝床を使われるのはプライバシーの侵害であると思うが、雪風のことだからラウラのことを甘やかして容認してそうなイメージはある。
物凄いアウトな気がするんだが!?
しかし、何だろうか。
こいつは雪風に対して、LikeじゃなくてLoveな感情を向けているはずだ。
そんなラウラが雪風に無断でベッドを借りていることはとてつもなく犯罪臭がしてしょうがないのだ。
「ふっ……
安心しろ。お義姉様の私物には手を出していない。
それぐらいは弁えているつもりさ」
「そ、そっか……」
安心していいのか分からないが、どうやら最低限の雪風の尊厳は守られているらしい。
少し、強引な気がするが。
「で、のほほんさんがどうしたんだよ?」
「あぁ……実はな。
最近、布仏が元気がないようなのだ」
「そうなのか?
俺にはいつも通りにしか……」
どうやら、のほほんさんが最近元気がないらしい。
俺にはいつも通りにしか思えない。
彼女はいつも通りクラスの癒し系マスコットの様に周囲を和ませてくれている。
そんなに変わっていない様に思える。
「いや……
私には分かる。
お義姉様を通して彼女と一緒に過ごしていたことで分かる。
何せ私にとってあいつは初めての友達だからだ」
「!」
それでもラウラはのほほんさんから僅かにだが違和感を感じ取っているらしい。
そして、それを感じ取れたのは自分にとって彼女が初めての友達だからだと豪語した。
「……そっか。
じゃあ、雪風がいないのが理由か?」
何となくのほほんさんが元気がない理由として俺は雪風の不在が関係しているのではないかと考えてみた。
雪風のことを信頼している口振りであったが、やはり、何時帰ってくるのかの連絡がない友人の不在に不安を募らせているのではないのだろうか。
「いや、それはないだろう」
「え?何でだ?」
しかし、その予想はあっさりと否定された。
「悔しいが、お義姉様に対する信頼という点では布仏にこの学園の生徒で勝てる者はいないだろう。
私を含めて」
「え?本当か?」
ラウラが意外にも自分よりものほほんさんの方が雪風のことを信じていると明言したことに俺は驚いてしまった。
ラウラのことだから、雪風に対することについては全てが自分こそが一番だと言い張りそうなのにそのラウラがのほほんさんがこの学園で一番雪風を信じていると言ったのだ。
「ああ。
だから、今更になって布仏がお義姉様のことで元気を失くすとは思えない」
「そうなのか……」
きっぱりとラウラにこうまで否定されるとこれ以上のことは俺には何も言えなかった。
「……実はな。
少しだけ不安なのだ」
「不安?」
ラウラは珍しく深刻そうな表情を浮かべた。
ラウラは不安を表に出すには出すが、それでもプライベートのことでここまでの不安を見せるのは珍しいのだ。
「布仏は……所謂、いじめを受けているのではないのだろうか?」
「何だって!?」
ラウラの口から出てきた衝撃的な発言に俺は耳を疑った。
「それ本当かよ!?」
あんないい子がいじめや嫌がらせに遭っているかもしれない。
それを想像して俺は嫌悪感と焦りを抱いた。
「いや、確定したわけではない。
これは私の推測に過ぎない。
だが、普段私と一緒にいることで彼女にそういった被害が行っているのではと思ってな……」
「……どういうことだ?」
今のはラウラの懸念らしいが、しかし、どうやらそう考えるのは彼女が自分と親しいからと言ってきた。
どうしてそれがのほほんさんがいじめられることに繋がるのか俺は分からなかった。
「この学園に来てからしばらくの間、私がしてきた態度や行動に反感を覚えている生徒は多い……」
「!?」
ラウラは自分の愚かさを自嘲する様に言った。
確かにラウラの転校から学年別トーナメントまでの彼女の在り方は周囲から敵意を向けられても仕方のないことなのかもしれない。
初対面で俺に殴りかかり、実習の際に他の生徒を見下す様な視線、アリーナでいきなり戦闘を吹っかけてきたこと、セシリアを殺しかけたこと、トーナメント本戦で鈴を味方である箒ごと戦闘不能にしたこと、ISを暴走状態にする等、ラウラの行動は明らかに敵を作ることばかりだ。
彼女に嫌悪感を抱く人間は少なくないのかもしれない。
「今まではお義姉様が庇ってくれていたが……」
「!
そうなのか……」
しかし、そんなラウラを敵意と悪意から守ってきたのは雪風だったらしい。
どうやら、ラウラに姉の様に慕われる中で戸惑いながらも本当に姉が妹を守る様にラウラを守ってきたのだろう。
流石に実力も名もある雪風を相手にするのは分が悪いと見て、ラウラに対する排他的な行動は抑えめになっているらしい。
納得の理由だ。
雪風は正しい時に勝てる気がしない。
いや、正しい時の彼女に勝てる人間がいないのだ。
真っ直ぐな彼女の心と言葉、そして、眼差しに相手は目を背けてしまうのだ。
だから、容易にラウラを偽善とすら言えない悪意で害そうとした人間を怯ませるのが想像できてしまうのだ。
そんな彼女がいるからこそ、ラウラも多少は普通の生徒の様に過ごせているのだ。
「……だが、今はお義姉様がいない」
「!?
大丈夫なのか、お前?」
「……ああ。
当然、納得しない生徒たちもいるが、表立って絡んでくる生徒はいないさ。
何……これも全部、自分が蒔いた種だ」
「そうか……」
今は雪風が不在だ。
そのことはきっと、ラウラに反感を持つ生徒にとっては絶好の機会となるだろう。
ただ表向きは彼女にその感情を向けてくる者はいないらしい。
ラウラは自分のしてきたことに潔く向かい合うつもりらしい。
自分がしたことで責められることは覚悟の上らしい。
「……問題は布仏だ。
彼女は私とも……私を守ってくれていたお義姉様とも親しい……」
「あ!?」
ラウラの口から出てきた彼女の懸念の根源を明かした。
今ので何となく分かった。
反感を持たれるラウラ。
その彼女を庇うほどに優しく強い雪風。
二人はお互いに異なる要素で敵意を持たれやすい。
前者は自分よりも下だと見下せる要素。
後者は正しいが故に妬みを抱かれると言う要素。
真逆とも言える要素を二つ持っている二人であるが、彼女たちは曲がりなりにも力を持っている。
それ故に直接害を与えられることはないだろう。
そう二人には。
「布仏は優しいうえに大人しい……
そんな彼女だからこそ私は不安だ」
のほほんさんは二人と比べると大人しい。
そして、穏やかだ。
そんな彼女は草食動物と変わらない。
何よりもいじめとは厄介なものでただ自分が気に入らない相手とつるんでいるというだけで、その人間すらも標的にされることもある。
気に食わない相手であるラウラとそれを守る雪風。
その二人の共通の友人であるというだけでのほほんさんがいじめられる理由は十分過ぎる程にある。
どうすりゃいいんだ?
いじめがあることが確定した訳じゃない。
しかし、雪風の友達であるのほほんさんが雪風のいないところで傷付けられるのは許せないことだ。
それにのほほんさんは既に阿賀野さんや照月さんと打ち解けている。
こんなところで人間の醜い一面を彼女たちに見せる訳にはいかないだろう。
「……悪いと思うが、放課後に彼女を付けてみようと思う」
「……!
分かった。俺も手伝う」
「……すまんな。ありがとう」
ラウラは本当にのほほんさんがいじめられていないかを確かめるつもりらしい。
それに俺も従うことを示した。
人数は多い方がいいだろう。
ここは雪風の帰ってくる場所だ……!
だったら、あいつの友達も守ってやるよ!
雪風の為に出来ることを俺はしたい。
彼女の『ここにいたい』。
その言葉を俺は聞いた。
だから、俺はここを守りたい。