奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第74話「そこに住む人々」

「ユッキ―は何時、学園に戻るのデスカ?」

 

「え?」

 

 作戦が終わり哨戒任務を秘密裏に行いながら「深海棲艦」の更なる出現が確認されない状態が一週間続く平穏の中、金剛さんは唐突に問いかけてきた。

 

「『戻る』……ですか?」

 

「Yes!」

 

 金剛さんの問いに私は思わず訊ね返した。

 そんな考えを私は考えもしなかったからだ。

 

「……今の所、考えていませんよ」

 

 私は曖昧な答えで誤魔化した。

 そもそもそんな選択肢はない。

 既に私は彼らと袂を分かってしまった。

 彼らが差し伸べてくれる手を払って、この場にいる。

 そんな私が今更、のこのことあのささやかな平穏に存在する日常をもたらしてくれた場所へと回帰する権利などない。

 

 それに……

 私が戻れば必ず彼らを……

 いや、彼ら以外の生徒も巻き込んでしまいますからね……

 

 何よりも私が少しでも戻れば、彼ら以外の学園の生徒すらも巻き込まれる可能性がある。

 憐憫とは美徳ではあるが、同時に多くの人を不幸にするものでもある。

 もし、私の、いや、私以外の艦娘の過去や本質を知れば、ある人は義憤から、ある人は優しさから、ある人は義務感から、ある人は友情から助けようするだろう。

 あの時のシャルロットさんの様に。

 だからこそ、戻る訳にはいかない。

 ただ正義感だけでは人は動けないが、そこに感情が後押しするだけで前に出てしまう。

 私という存在によって、感情を動かす様な真似は少しでも少なくせねばならないだろう。

 

「Hum……

 ソウデスカ……

 ユッキ―。あなたは少し、彼らを過小評価してはイマセンカ?」

 

「過小評価……!?」

 

 私の誤魔化しを見透かすかのように彼女は言った。

 

「ユッキ―。

 あなたは戻ることを最初から否定してイマスネ。

 それについては置いておきマース。

 だけれども、あなたの考えていることは彼らを、いいえ、この世界に生きる人々を馬鹿にしていマース」

 

「……一体、どういうことですか?」

 

 金剛さんは私がIS学園の生徒たちどころか、この世界に生きる人々を全て過小評価していると断じた。

 

「First,ユッキー。

 恐らく、あなたは自分が原因であのBoy and Girlsが戦いに身を投じると思ってマセンカ?」

 

「……!

 それは……そうですけど」

 

 金剛さんが私が学園に戻らない動機を理解した上で確認してきた。

 

「確かに彼らにとってあなたの存在は戦うに値する動機になるデショウ。

 But……この世界は彼らにとってのHomelandデース。

 それだけで十分過ぎる程の動機デース」

 

「あ」

 

 金剛さんは私が彼らにとっての戦いの動機となることを肯定しつつも、それだけでは不十分だと語った。

 そう。この世界は彼らにとっては故郷なのだ。

 

 過小評価……

 ああ……そうでした……忘れてました……

 

 金剛さんの言う通りだった。

 私はあの学園の生徒たちのことを軽く見ていた。

 この世界を守りたい。

 そんなことを願うのは私たち以上にこの世界に生まれ育った彼らの方なのは自明の理だ。

 

「ユッキ―。

 前にも言いましたが、この世界を守ることを役目とするのはこの世界の人々デース。

 And,彼らのこの世界を愛する気持ちは私達よりも圧倒的に上デース。

 それを忘れてマセンカ?

 それに私たちはあくまでも客将デース。

 So,抱え込んではイケマセン」

 

「………………」

 

 金剛さんはあくまでもこの世界を守る義務があるのはこの世界の人々であると語った。

 そして、私達はそれを助ける存在に過ぎないと言った。

 

「でも、守れなかったら……」

 

 それでも私は怖かった。

 どれだけ自分に義務や責任がないとはいえ、命を守ることが出来ないかもしれないという不安。

 そして、何よりも戦いとは今まで無関係だった知人が戦いに巻き込まれて死んで逝くかもしれない恐怖。

 免罪符をどれだけ言い渡されてもそれだけで拭えるようなものではないのだ。

 

「That’s right。

 あなたの言う通りデース。

 私も恐いデース」

 

「え?金剛さんが?」

 

 私が不安を吐露すると金剛さんは自分もまた恐怖を感じていると語った。

 

「私はこの世界に愛着はアリマセン。

 But、艦娘として生まれたことから力の前に蹂躙されていく人々を守れないかもしれないという不安はアリマス」

 

「……あ」

 

 金剛さんははっきりとこの世界に対して、愛着はないと言い切った。

 しかし、その直後に艦娘として生まれ持った善性から生じる恐怖を告白した。

 いや、彼女だけではない。

 恐らく、全ての艦娘が抱いている恐怖だ。

 

「ユッキ―。あなたはこの世界でまた多くのことを学んでいくことになるデショウ。

 いいえ……私達もまたそれは同じデショウ」

 

「学んでいく…」

 

 最後に彼女は私が多くのことを学んでいくと語った。

 そして、それは自分も同じであると。

 

「特にあなたは本当に……Pureデスカラネ」

 

「?」

 

 既に生まれてから三十年近く経っているというのに、子どもの様に言われながらも私は彼女の言葉に怒るのではなく不思議に思ってしまった。

 彼女は何を言いたいのだろうか。

 そして、この世界で私が学んでいくこととは何なのだろうか。


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