奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「美味しい……!美味しい……!!」
「ほらほら、もっと食べて!」
「遠慮しないで!」
「今度、外で何か食べに行かない?」
最初の唐揚げを皮切りに次から次へと料理に手を伸ばす度に照月さんは感情のこもった『美味しい』という言葉を漏らし、それを見た事情を知らない生徒たちはまるで近所のおばちゃんたちの様に『これも食べなさい』と勧めていった。
「……えっと……」
しかし、そんな片割れと反して、阿賀野さんは戸惑っていた。
「どうしたのよ、阿賀野?
そんな顔をして」
「そうですわ?
もしかすると、料理がお気に召しませんでした?」
「それとも、こういうの苦手?」
「いや、前の私と違ってそういうことはないだろう?」
「いや、そうじゃなくって……」
未だに控え目になっている阿賀野さんに対して、鈴たちがもしかすると、こういった催しや出されている料理が嫌なのかと訊ねた所、どうやらそう言う訳ではないらしい。
じゃあ、何でだ?
きっと彼女はこの歓迎会を迷惑だとは思っていないだろう。
となると、何が彼女を戸惑わせているだろうか。
「そのぉ~……」
彼女は声を小さくした。
「……私みたいな艦娘がこんな風に歓迎されていいのかな……?
と思っちゃって……」
「「「「「!?」」」」」
彼女の口から出てきたその一言に俺達は照月さんの昼間の発言とは違う意味で衝撃を受けた。
そ、そっか……
そりゃあ、そうなるよな……
俺たちはもう阿賀野さんは自分の世界での出来事を吹っ切っていたと思い込んでいた。
しかし、それは半分正解で半分間違いだったのだ。
簡単には割り切れねぇよな……
阿賀野さんは確かに前に進むことを決意は出来た。
けれども、だからと言って、それは彼女が抱えている全ての負い目を取り払えたという訳ではない。
自分を言い訳にしなくなったとしても、自分がそんなことをされてもいいのかと考えてしまうだろう。
「……阿賀野さん。
一言いいですか?」
「……何?」
そんな彼女を見て、俺は引っかかってしまった。
「……自分が弱いと思っているのなら、強くなればいいじゃないんですか?」
「え?!」
「な、何言ってんのよ!?」
「それはあんまりですわ!?」
「ちょっと!?」
「何を言っているんだ!?」
失礼かもしれないが、俺はそう言うしかなかった。
「……ごめん。でも、自分が無力なのは嫌な事は分かってしまうんだ。
俺は他人に対して偉そうな立場で言えないぐらい弱いし」
はっきり言えば、俺は弱い。
千冬姉に守られ、那々姉さんに叱られて、雪風に負けてばかりだ。
でも、そんな俺だから阿賀野さんに言ってあげたい。
「それでも、自分を責めないでください。
阿賀野さんは不幸になっていい人じゃないはずですよ」
「!」
『自分なんて』という言葉で自分を責めて卑屈になって欲しくない。
確かに彼女からすれば、碌な人生経験も辛い経験なんかもしていない俺がいう何て生意気でしかないだろう。
だけど、彼女を見ていると痛々しくて仕方がない。
「……そうね。
分かったわ。ということで、阿賀野!
これを食べなさい!拒否は認めないわよ!」
「え!?むぐっ!?」
「そうですわ!」
「うんうん!」
「遠慮するな!」
「ちょ!?待っ―――むぐっ!?」
俺の言葉に乗じて鈴たちが次から次へと反論を許すまいと言わんばかりに阿賀野さんの口に料理をつぎ込んでいった。
それはこれ以上、自分のことを卑下する様なことは許さないという意思の表れだった。
もし、これ以上何かを言うのならば全員が怒るなんて言葉じゃ生温い怒りを表すだろう。
「あ、阿賀野さん。
これ美味しいですよ~」
「て、照月!
た、助けて……!!」
そんな混沌渦巻くパーティーの中、食事に楽しみを覚えた照月さんがその幸せをお裾分けしようと近くに来たが、阿賀野さんは彼女に助けを求めた。
ま、少なくてもこれで阿賀野さんが自分のことで卑屈になることの意味を知ってくれたからいいよな?
きっとそんな簡単に割り切れることでも晴れることでもないだろう。
それでも自分が自分を卑下することで周囲がどう思うのかは知ってくれただろう。
それだけでも意味は違ってくる。
ん?
そういえば、のほほんさんはどうしたんだ?
ふと俺はのほほんさんがここにいないことに気付いた。
人懐っこい彼女のことだから、こういう集まりには参加しそうな気がするのだが、全く見当たらない。
どうしたんだ?
普段は気付かないことだが、彼女がいないと寂しく感じてしまうと共にこの場に彼女がいないことが不思議に思えてしまう。
少なくとも彼女は友達じゃない人間を差別する様な人間ではないからだ。