奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第64話「境界線と希望」

『敵艦隊、一掃完了デース!』

 

「分かりました。

 では、進撃をお願いします」

 

『OK!』

 

 作戦開始から二時間が経過した。

 その間、危うい所もなく金剛さんたちは出会う敵を次々と撃破していった。

 

「あの、雪風さん……」

 

「?

 何ですか?」

 

 私が金剛さんに指示を出し終えると山田さんは少し困惑がちに声をかけてきた。

 

「早すぎませんか?」

「………………」

 

 山田さんは私に改めてそう言ってきた。

 彼女の言い分は間違ってはいない。

 確かに私達の行動は早いだろう。

 金剛さんの現場での対処の早さもそうだが、私の指示の早さも早い。

 彼女が戸惑うのも無理はない。

 一応、理由は説明しているが、頭で考えるのと心で理解するのとでは別なのだ。

 

「ま、まあ……

 今回は事前に山田さんが主力艦隊を叩いてくれているので敵の戦力が弱体化していますから」

 

 何度も言うが、今回は既に山田さんが前日の作戦で敵の主力を倒してくれたことで著しく敵の戦力が弱体化しているのだ。

 確かにその前提がなくても私と金剛さんならば、他の誰よりも早く進めることが出来たが、それでもここまでの快進撃とも言える早さはないだろう。

 

「このまま雪風さんが続けても?」

 

 山田さんは今の様子を見て私に提督役を行うことを提案してきたが

 

「いいえ。

 私も数少ない艦娘の一人です。

 ですから、この役目をしている余裕はありません」

 

「う……確かに……」

 

 私は自分が艦娘であることを理由にそれを否定した。

 この世界にいる艦娘が百人にも満たないことや使用できる「IS」が限られる以上は私が現場に出ない訳にはいかない。

 これは決して、私が特別な戦力だとという自惚れではなく、単純に戦力不足で猫の手も借りたい状況だからだ。

 

 出来れば……

 一夏さんたちが「IS」を手放してくれればいいのですが……

 

 同時に私は一夏さんたちが専用機を放棄してくれることを願ってもいる。

 もし戦いが深刻化すれば間違いなく、「専用機持ち」は戦いに駆り出されることになる。

 だから、彼らには「IS」から手を引いて欲しいのだ。

 それが彼らの尊厳を貶めることになるとしてもだ。

 

 それでもこの規模なら……!!

 

 ただ希望がないわけではない。

 私達の世界では私達、艦娘が現れるのが遅かった。

 私達が現れるよりも先に「深海棲艦」が増え過ぎたことであの世界での人類があそこまでの戦力を注がなくてはならなくなったのもあの世界での惨状の原因でもあった。

 しかし、幸福にもこの世界ではまだこの程度の規模の状態で私達がいる。

 つまりは私達のこの戦力規模でまだどうにかなる状況でもあるということだ。

 

 問題は……

 そのことで「深海棲艦」の脅威を軽視されかねないことです

 

 一つ懸念があるとすれば、それが成功することでこの世界の人々が「深海棲艦」の脅威を軽視して手を緩めて「深海棲艦」の勢力の拡大を招くことだ。

 どうしても脅威というのは目の前の現実で起きなければ分かりにくくなり、楽観的に捉えられてしまうものだ。

 「狡兎死して走狗烹らる」。

 本来ならば、用済みとなった功績者を組織の長が自らを脅かす存在として粛清する言葉であるが、由来となった韓信が項羽という彼以外に対処できない相手にそうなったのだ。

 もし、「深海棲艦」を侮る様なことがあれば仮令、倒しきれていない状況、最悪、戦う前に仮想敵のまま軍縮の憂き目に遭う可能性がある。

 この世界での「IS」以外の戦力の現状を考えれば「深海棲艦」を弱いと考える人間が出てくることでそうなる可能性は否定しきれないのだ。

 

 私達だけなら兎も角として……

 

 別に私達がぞんざいな扱いを受けたり、最悪、一生軟禁状態になるのならば問題はない。

 しかし、それが切っ掛けで「深海棲艦」への備えが疎かになれば一気に「深海棲艦」の規模は私達のいた世界と同等になるのだ。

 つまりはそこまで来れば、私達の世界と異なりその時点で終わりという最悪の状況なのだ。

 

 そうなれば、この世界の戦力では……

 

 最悪なのはこの世界と私達の世界の保持する戦力に大きな隔たりが存在することだ。

 もし、そうなれば一気にこの世界の海と空は奪われ、この世界は徐々に滅びていくだろう。

 人類はただゆっくりと自分たちは何時死ぬのかと怯えるか、あの時の選択を後悔するだけだ。

 

 せめて……

 「深海棲艦」がどうして現れるのかさえわかれば

 

 もう一つあるのかないのかわからない希望があるとすれば、「深海棲艦」が生まれてくる要因を見つけ出し、二度と出現しないようにすることだ。

 私達のいた世界でも叶うことのなかった奇跡。

 それを見つけるしかないのだ。

 

『ユッキー!

 恐らく、Last enemyネ!』

 

「分かりました。

 詳細を!」

 

 恐らく、今までの航路を考えるとこの海域の最後の敵となるであろう敵を発見の報告を受けて私は意識を彼女たちが戦っている現実へと戻した。


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