奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
流石、金剛さんです……!
敵の全滅と味方が無傷であったことの連絡を受けてから進撃の指示を出し終えた後に鮮やかに相手を打ち破った金剛さんの手腕に胸を躍らせた。
恐らく、彼女のことから最も安全な手である航空戦力による攻撃を狙うところを山田さんの心情を考慮して砲雷撃戦を選択しその責任も全うしたのだ。
理想を決して、理想のままにしない
金剛さんはただ効率を選ぶだけではなく、時として情も尊重できる人だ。
しかも、情に流され過ぎて危うくなることもない。
確実に役目を全うし、何かを得ることが出来る人だ。
「……すごい」
「あ」
私が金剛さんの采配ぶりに感銘を覚えていると山田さんが驚きの言葉を漏らした。
そのことに私は焦った。
「えっと、山田さん……
今回のは金剛さんがいてくれたお陰でして―――」
このまま比べられて自信を喪失されることになると困るので私は何とか誤魔化そうとした。
「違います!」
「―――え?」
しかし、私の予想と反する反応が返ってきた。
「何となくですけど……
雪風さんと金剛さんが物凄くお互いに信頼し合っているな~と思いまして」
「!」
山田さんが感じ取ったのは私と金剛さんの信頼関係だった。
「さっきから二人のやり取り見ていると早いな~と思うんですけど……
それってお互いを疑っていないから出来ることなんですよね?」
す、鋭い……!
山田さんは私と金剛さんがお互いに信頼していることを今のやり取りで理解していた。
実際、今の様なやり取りは金剛さん以外の艦娘で出来るとすれば、神通さんかお姉ちゃんを含めた十六駆の姉妹ではないと不可能だろう。
互いに全幅の信頼を置いているからこそ必要最低限の情報と言葉のやり取りで速攻が可能なのだ。
「もしかすると、もう一人の母親と言うのは……」
「……はい。金剛さんのことです」
私は先程、山田さんに言った神通さんと並ぶ『もう一人の母親の様な人』というのが金剛さんであることを打ち明けた。
私がここまで金剛さんのことを信じる理由は他の艦娘たちが知っている彼女の「海の女王」とも言っていい程の艦歴もあるが、それ以上に私に艦娘としての在り方を教え呉へと旅立つまで私に愛情を注いでくれた母親の様な存在であることが理由だ。
少なくても彼女のことを信頼しているという点では私は司令と彼女の姉妹に次いで優れているという自負がある。
「私の今までの戦闘経験だけでは今の様なことは出来ません。
金剛さんがいてくれて、私と彼女がお互いを信じあえるから出来ることです。
だから、私達を超えることなんてことは柔なことじゃありませんよ?」
改めて、私が山田さんに私と金剛さんが特別なのであって、別に私達が出来ることを自分が出来ないことを嘆くことはないということを突き付けた。
「私達の信頼はそんなに軽いものではありません。
有能とか、才能とかで簡単に真似ることなんて出来ません!」
「!」
何故なら、私と金剛さんの絆は能力の有無などでは簡単に飛び越えられるものではない。
「……すごいんですね」
「はい。すごいんです」
山田さんの賛辞に私は年甲斐もなく嬉しく頷いた。
尊敬する人との信頼関係を褒められた。
それはどの様な言葉よりも嬉しいものだ。
何時かはこの世界の人たちとも……
同時に私は金剛さんと私と同じ様なことがこの世界の人々が出来ることを祈った。
簡単に乗り越えられるものなんかじゃない。
しかし、何時かはそれは乗り越えてくれる誰かが来てくれる。
そう考えるのは決して悪いことではないだろう。
◇
「あ~、HRの前に転校生が一人来ることを伝えておく」
―え~!!?―
天龍さんや龍驤さんが来てからしばらくして、今度は転校生が来たということにクラスが騒ぎだした。
「まあ、そうなるよな……」
「そうですわね」
「うん」
「そうだな」
転校生の件について、事情を知っている俺たちはこうなることをある程度予想できた。
「夏休み前に転校って珍しいね?」
「どんな子だろ?」
しかし、事情を知らない生徒からすれば、夏休み前、それも臨海学校の後というタイミングでの転校生と言うのは不思議なものらしく多少、疑問を持ち始めた。
「あ~、そう思うのも無理はない。
だが、転校生が畏縮してしまうので静かにしてくれ」
―は~い―
千冬姉も生徒たちが疑問を持つことは許容しており、それでも新しく入ってくる仲間のことを考えて静かにすることを指示した。
仲間か……
ふと俺はこの光景に複雑な気持ちを抱いた。
……この光景を俺たちはあと、どれくらいの間見ていられるんだろうな
俺は前に感じたこの光景が何処か遠いもに感じるものと同じ様な感覚に陥った。
今、事情を知らない生徒たちが抱いているのは多少の疑問もあるがほとんどは新しい仲間が来ることに対しての期待感を抱いているだろう。
そして、この中で何人が残るだろうか。
戦争なんて嫌だもんな……
人と人同士が殺し合う訳じゃない。
それでもきっと戦争そのものへの恐怖は変わらないだろう。
恐らく、深海棲艦の存在を知り、同時に深海棲艦との戦いが避けられない運命になった時にこの場でまだ見ぬ転校生に対してポジティブな感情を抱いている生徒たちが何人残るのだろうか。
そして、何時までもこんな風に疑問に思うことを思うことが出来るのだろうか。
「よし、入ってきてくれ」
千冬姉はクラスが静かになるのを確認すると廊下で待っているであろう人物に声をかけた。
「は~い」
「「「「あ」」」」
しかし、返ってきた返事と声音に俺たちは嫌な予感がした。
同時に俺たちはこうも思ってしまった。
『何て恐ろしいことを』と。
「……待て」
「え?」
千冬姉は入って来ようとしたその人物に物凄く低い不機嫌な声で待ったをかけた。
「全員、しばらく待っていろ」
―……はい―
久しぶりに那々姉さんではなく千冬姉の威圧感に全員が気圧されて素直に従った。
「少し、話がある」
「え?」
扉を開けて入ろうとしたその人物は一瞬にして、廊下へと戻された。
しばらくしてから、廊下からシクシクと泣き声と静かだけど怒気を含んだ声が聞こえてきた。