奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第58話「地獄への道」

「龍驤、神通は?」

 

「……一人にして欲しいだって」

 

「……そうか、仕方ねえよな」

 

 神通に連絡を入れて、思っていたより早くに戻って来たうちの様子を見て天龍はある程度察し、納得していた。

 

「……何せ、学園、軍、民間問わずに妖精が見える人間を片っ端から見付けて半強制的に提督役にしていくって……

 そりゃあ、思うことがあるなんてどころじゃねえよな」

 

「う……」

 

 頼みの綱とも言えた山田の精神が提督としての役割を全うできる程丈夫ではなかったことで現状考えられる苦肉の策。

 それは軍・民間問わずの提督としての適性がある人間を片っ端かな見付けるという最早、力技にならないものだった。

 これは軍人として艦娘として本末転倒と言わんばかりのものだった。

 軍人の中で、またはそれに準ずるISの関係者の誰かが見つかればいいが、民間人や未成年が該当するとなれば最悪だ。

 

 そりゃあ、いきなり一般人を提督にするなんてことはせんけどな……

 

 流石に一般人の中で見つかった場合にはその人間をいきなり提督役にするということはないだろう。

 そんなことをすれば、逆にその人間だけではなく、うちら艦娘を含めた軍人や妖精、加えて、守るべき民間人すら危険に晒すことになるだろう。

 そのことからある程度の知識や技術を身に付けて貰ってから本格的に協力してもらうつもりだが。

 

「……なあ、龍驤…

 神通にもお前にも悪いと思うけど、これってよ。

 この世界の人間が織斑たちにしてることと変わらなくないか?」

 

「………………」

 

 うちが自分たちが外道とも言えることをすることに悩んでいると天龍はそう指摘してきた。

 

「「代表候補生」や何やら知らねえが、要するに『お前には特別な力がある。だから、選ばれた人間なんだ』とおだててその気にさせて軍人にしてぇだけだろ?」

 

「それは……」

 

 天龍の指摘は間違ってはいなかった。

 この世界において「IS」とは最強戦力であり、それを扱えるそれも優れた適性を持つ人間を求めることに対して各国は血眼になっている。

 そして、その中で最も効率の良いやり方となると思春期の頃から訓練を積ませて兵士を育てることだろう。

 そう言ったこの世界で実際に起きている歪さを天龍は指摘したのだ。

 実際、うちらが鍛えている五人のうち、四人がその特別な適性を持つ人間だ。

 そこに分類されない織斑もある意味、同じくらいの歪さに巻き込まれている。

 

「それをスポーツみたいにしているだけで俺たちがやろうとしていることと変わらねえよ。

 だから、気に病むな」

 

 天龍は既にこの世界の人間がしていることなのだから、仮に非難されたとしても気にするなと言ってきた。

 

「……いや、それは違うよ」

 

 けれども、うちは素直にそれを受け止め、免罪符に出来る程頭がいいわけでもなく、厚かましくもなかった。

 実際に行うのと、その後に納得するのとでは違うのだ。

 

「……こっちの世界とあっちの世界じゃ死亡率が違い過ぎるよ」

 

 そして、何よりもその道を選んだとしても命を落とす可能性が段違いだ。

 うちらの選ぶ道は狂気であることは確定しており、こっちの世界は狂気へと繋がることは確定しない。

 明らかにうちらの方が確信犯だ。

 

「……わかってるよ。

 ああ……クソ……やっぱり、無理か……」

 

 天龍は自分に言い聞かせるのを止める様に悪態をついた。

 やはり、彼女も自分に嘘を吐けない人間だった。

 

「俺だって……あの五人、特にデュノアの様な人間は戦わせたくねえよ……

 恐らく、俺らが見付ける人間もアイツと同じ様な人間だ」

 

「ああ……あの子か……

 恐らくだけど、あの子の様な人間がこの世界の人間の基準だろうね」

 

 天龍は今、鍛えている五人、特にデュノアを戦わせることを嫌がっていることを告白した。

 凰は仲間想いの熱血さ、オルコットは貴族としての義務感、ボーデヴィッヒは元々軍人であること、織斑は最近まで一般人であったことを踏まえてもそれを上回る決意の強さで何とか乗り越えられるだろう。

 それぞれが戦いへの恐怖を抑えられる強さを持っているが、デュノアは繊細さが上回ってしまっている。

 織斑と同じで最近まで一般人であったこともあるが、織斑と異なり元々の性格が穏やかなところから、戦いを重ねていくうちに精神的に摩耗していく可能性がある。

 恐らく、あの子ぐらいがこの世界の人間の基準だろう。

 

「……俺はアイツらは生き残れるぐらいの強さを持っていると思っている。

 その実力と技術は付けてやるつもりだ」

 

 天龍は決してあの五人が弱いと言わない。

 実際にあの五人、その中で精神的に最も脆そうなデュノアでさえちゃんとした戦略と戦術の中で戦い、余程の不運にさえ巻き込まれなければ生き残れる可能性は高い。

 

「それでも……考えや価値観の違いはどうにもならねぇ……」

 

 天龍の言う通り、大きな戦いもなく、戦いに慣れる必要もなく、軍属と民間の境界がはっきりとしているこの世界の一般人にかかるであろう戦いへの恐怖や苦しみ、悲しみを考えるとどう言い繕っても無にはならない。

 特にうちらにとっては無理なことだ。

 

「いっそのこと……うちらが金剛の言うヴァルハラに住む英霊や戦乙女みたいなもんだったらよかったのにな……」

 

 うちらが不死身で永遠に戦い続けることのできる存在だったならばどれだけ救われたことだろうか。


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