奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第57話「想いと真逆の道」

『神通……その……すまん……』

 

 病室にてかかってきた龍驤さんの電話に伝えられた彼女たちが昨日議論していた提督役の選出についてとその結論に対して龍驤さんは謝罪をしてきた。

 

「………………」

 

 それに対して、私は何と返せばいいのかわからなかった。

 いや、何を考えるべきかわからなかった。

 

「……私はそれを肯定すべきですか?否定すべきですか?」

 

『神通……』

 

 彼女たちの下した結論を私は肯定すべきなのか否定すべきなのかわからなかった。

 この世界に生まれる前の私ならば彼女たちの出した結論に動揺することはなかっただろう。

 そして、もし、あの世界に生まれてなければ私は冷静でいることは出来なかっただろう。

 

「……すみません、龍驤さん。

 ですが、頭では分かっていても私は……」

 

 頭ではそれしかないということは分かっている。

 しかし、長年この世界を守ってきた理由の一つが揺らぎ出した。

 そのことで私は迷ってしまうのだ。

 

『すまん……』

 

 私の心の中を察して龍驤さんは重ねて謝罪をしてくれた。

 

「……すみません。龍驤さん。

 少し、落ち着かせてください」

 

『分かった……』

 

 しかし、それでも心の中で納得が出来ず、龍驤さんに少し一人で考えさせてくれる時間を求めた。

 

「私は……何のために……」

 

 龍驤さんの通信が切れた後、私は先ほどのやり取りで陥った川神那々として生きてきた道を否定された感覚に陥った。

 私はこの様な事が起きない為に強くなろうとしてきた。

 そうすれば、誰かがこうならずに済む。

 その願いと想いもあって私はこの道を選んだはずだった。

 

 ……私だけじゃないのは分かっています……

 

 同時に今、私が抱いている感情は決して自分だけのものではないことも理解していた。

 誰もがそうなって欲しくないから自分の役目を果たそうと思っていた。

 私達、艦娘だけではなく、それは戦いに身を投じた全ての軍人の願いであり、誓いであり、信念であるはずだった。

 自分たちが前に出ることでその務めを誰かがしないで済む様にしたい。

 その願いが今、壊されそうとしている。

 

 わかっています……

 今のうちに準備していた方が……

 犠牲が少なくて済むことも……

 

 後で苦し紛れに急ごしらえの策を弄するよりもまだ戦いが始まったばかりの状態でその案を吞んだ方が結果的に被害が少なくて済むのは理解出来る。

 けれども、そうしない為の私達の想いが壊されようとしていた。

 

 どちらも間違っていてもどちらも合っている……

 

 戦いを知るからこそ、あってはならないことであると分かり、結果的にそれが正しくなることも理解出来てしまう。

 あってはならないと言うのは感情論であり、正しいと言うのは冷静さだ。

 しかし、仮令、合っていてもその先に虚しさが残るのも事実だ。

 いや、その先ではなくその道中こそが最も辛いのだ。

 

 そうしなければ勝てない……

 そして、多くの犠牲が出る……

 決して負け方のためのものではない……

 

 勝つことでしか生きれないから形振りなど構っていられないのは分かる。

 そして、彼女たちの考えが決して負けを少しでもよくするものではなく勝つためのことであるのも分かる。

 博打ではなく、冷静な勝利への道筋を立てる布石。

 

 こうするしかない……

 と思うしかないのですか……

 

 戦いに倫理が時として心の贅肉になるのは長年、前線で戦ってきたことから解かってしまう。

 だから、マシとは言え、このことも受け止める必要があるのも分かってしまう。

 

 辛いのは分かっています……

 

 同時に私はこの決断するしかなかった龍驤さん達のことを自分だけが非難することも出来なかった。

 時として非情な決断を下す時に相手の立場や義務を考慮せずにその人物を一方的に責める人間は実際にその立場に立った時に自分が責められることを極度に恐れて何も出来ずにいる傾向がある。

 実際にその立場に立たないと分からないものなのだ。

 そして、こんなにも悲しみ、苦しんでいるのに私自身も同じ結論に至る可能性を捨てきれないのだ。

 だから、辛いのはみんな同じなのだ。

 

 雪風……あなたを裏切ることになるかもしれません……

 

 私は私と同じか、それ以上に苦しむことになるであろう雪風に自らの非力さを詫びた。

 あの娘にとっては、今、私達が向かおうとしている道は彼女にとっては忌むべきものなのだ。


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