奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第56話「重み」

「ふ~……」

 

「雪風さん?」

 

「あ、すみません。

 ちょっと緊張してしまいましたので」

 

「緊張?雪風さんがですか?」

 

「はい」

 

 全員の出撃準備が整い、いざ指揮を取ろうとした瞬間私は深呼吸を久しぶりにした。

 その様子が気になったらしく、山田さんが声をかけてきたので私は自分が緊張していることを素直に告白した。

 それに対して彼女は意外そうだった。

 どうやら、私の軍人としての経歴から私が慣れていると思ったのかもしれない。

 確かに彼女が感じている様に私は並の軍人よりも長い軍歴はある。

 しかしだ。

 

「何せ、私の先輩格たちの……

 その中に私の育ての親の一人がいてその人の指揮も取るんです。

 緊張するなという方が無理なことです」

 

「え!?育ての親!?」

 

 今から、私が指揮を取るのは中華民国に渡った同期や育て上げた教え子たちだけではない。

 間違いなく全員が私よりも早く生まれた先輩たちなのだ。

 何よりも私が生まれた時から世話を看てくれた神通さんとは異なるもう一人の師匠にして母親がいるのだ。

 緊張しない方が無理だ。

 

『Don’t mind!ユッキ―!』

 

『そうよ、雪風。

 確かに私達よりもあなたは後に生まれてきたけど、私と千歳じゃ2,3年よ?

 気にしないの』

 

「……恐縮です」

 

 私のその態度を金剛さんと蒼龍さんが窘めてきた。

 蒼龍さんの言う通り、確かに空母の二人と私は生まれた時の差は2、3年だ。

 と言っても、それでも先輩と艦級の違いもあり緊張は解けない。

 けれども、そう言って貰えるだけで多少は気が楽になった。

 

「……わかりました。

 皆さん、こんな事を言うのもどうかと思いますが、今回の作戦は私にとっては専門分野と言っても過言じゃありません」

 

「え?」

 

『?』

 

 二人の言葉で安心した私は少しだけ大口を叩く余裕を持てた。

 

「私は長年、近海の警備任務を指揮してきました。

 ですので今回の様に激しい戦いを終えた後の戦いに関しての指揮に関しては自信があります」

 

 私は噓偽りのない自負を告げた。

 そう。私にとっては航路や近海の安全を維持や確保する任務は恐らくかつて帝国海軍に所属したどの艦娘よりも向いている自信がある。

 伊達に臆病者呼ばわりしても近海を25年以上守ってきたわけではない。

 だからこそ、ここで彼女たちに対してそのことを告げることこそ最大の敬意だと感じた。

 

『OK!』

 

『……そう。

 そういう戦いをしてきたのね』

 

『頑張ったわね』

 

『ありがとう』

 

『頼むわね』

 

『よろしくね』

 

「……はい。

 ありがとうございます」

 

 その私の主張に彼女たちは感謝を込めて返してきた。

 彼女たちは私の戦いを否定しなかった。

 

 「司令」……行きます!

 

 彼女たちに号令をかけるべく、私は司令の言葉を借りることを決意した。

 この作戦においてはこの言葉は不釣り合いだろう。

 そして、この中で本来ならば最も若輩者である私がこの号令をかけるのも多少は気が引ける。

 しかし、これ以外にかけるべき言葉が見当たらない。

 願いであり、やはり、しっくりくる覚悟の言葉。

 常在戦場。

 既に戦場に立つ身でこの言葉が適しているのかは分からない。

 しかし、仮令、どの様な戦場においてもその気概で挑まなくてはならない。

 だからこそ、敢えて言いたい。

 

「暁の水平線に勝利を刻んでください!!」

 

『Just trust me on this(任せてクダサーイ)!』

 

『任せて!』

 

『気合が入ったわ!』

 

『大丈夫!』

 

『任せなさい!』

 

『いっくよ~!』

 

 私の号令に対して彼女たちは待ってましたと言わんばかりの声で応えた。

 どうやら、先ほど私が抱えていたことは杞憂であった。

 彼女たちにとっては私が号令を出すことを不快に思うことも、そして、どの様な作戦と戦場においても気を抜くようなことはないのだ。

 

 今、私が出来ることを!

 

 山田さんが指揮を取れないのならば、今、指揮をするのは経験を持つ私が受け持つべきだ。

 それがこの世界を守る理由が出来た私達の役目だ。

 そして、それはきっともっと大きなものとなる。

 それまでの間、それを行うのは私達がしていこう。


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