奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「加賀、鳥海
周囲は?」
『敵影なし。
それと生存者も』
『こちらもです……』
「そう……
引き続き、お願い。
みんなもよく見回して!」
『『『はい!』』』
私達は残りの最後の一回の中、加賀の偵察機と私と鳥海の観測機でなるべく広い範囲を捜索しているが、同時に他の三人にも自らの目でよく周囲を見回して貰う様に言った。
艦娘が通常の艦船と劣る点ね……
基本的に深海棲艦と戦うのに適しているのは私達の場合が多い。
しかし、それ以外においては通常の艦船の方が優れているところも多い。
先ず、輸送に関しては間違いなく、船の方が圧倒的に積載量が上だ。
加えて、今回の様に広い範囲を偵察するという点においても通常の空母や軍艦がいてもらった方が情報を多く広く得られる。
それと戦闘面においても戦術という点では私達に分があるが、戦略面では通常の方が大きな影響を与える。
だからこそ、人間との共同戦線が重要になってくる……
どれだけ、装備や兵器が発達していてもそれは局地戦における優位にしか繋がらない。
そして、戦いは常に継続的で同時多発的だ。
私達に出来ることは限られている。
だからこそ、人間と共同戦線が求められる。
そうしなければ、勝つどころか負けることになる。
いや、それ以前に戦いにすらならなくなる。
わかってくれているといいのだけど……
私は二つの意味で危惧した。
一つは単純にこの世界で出回っているとされている「IS至上主義」というものだ。
戦場では確かに「IS」はその活躍が見込める。
しかし、その事でその他のことを軽視しないか不安だった。
決して、弱くなんていないのに……
もう一つはそれによって生じる無力感だ。
恐らく、通常兵器での撃破率が低ければそれを使用する一般の軍人は自分たちの誇りや自身を喪失してしまう。
決して、弱くなんてないがそれでも卑屈になってしまうことはある。
本人にしてみれば、自分たちが敵を倒すと言う明確な結果がなければ焦り、悩み、嘆いてしまうのだ。
実際に私達はあの世界で見た目が自らの娘や妹の様に見える私達を戦わせることに無力感を抱いていた軍人の人々を見た。
あなた達がいないと私達は戦えないのに……
彼らは負い目を抱いていたが、そのことに対して私達は必要性はなかったと考えている。
彼らいなければ、私達は満足に戦えず、私達はさらなる苦戦を強いられることになっていた。
そして、私達は多くの命が失われていくことへの恐怖と絶望を抱いていくことになった。
彼らは十分、私達の心を守っていてくれたのだ。
だけど……今は私達がやるしかない……!
そんな頼りとなる人々がいない今、妖精さんたちを探すのは私達の役目だ。
◇
「皆サーン!
扶桑たちがやりマシタ!」
「本当か!」
「やった!」
「流石、加賀さん!」
ユッキー達の報告から扶桑達が敵主力を打ち破ったことで作戦が成功したことを知り、私たちは喜んだ。
この世界に来ての初陣が勝利で終わった。
これ程喜ばしいことはないだろう。
「But!まだ妖精さん達、全員の捜索が終わっていマセーン!
はしゃぐのはまだデース!」
しかし、ユッキーから受けたもう一つの報告故に騒ぎ過ぎてはいけないと考え、私は直ぐにそのことを指摘した。
「そうだな。
金剛の言う通りだ。
みんな、考えなしに喜ぶのはまだ早い」
妖精さん達が行方不明なことを告げると一斉に全員が気を落ち着かせた。
やはり……こうなりマスカ……
こうなるのは当たり前だ。
戦いに犠牲が付き物である。
それが勝利か敗北のどっちだとしてもだ。
けれども、心は割り切れないが、それでも切り替えなくてはならないことでもある。
それが非情なものだとしても止まることは許されない。
そして、忘れてはいけないことだ。
難しいのはそれに引きずられて前へと進めなくなることだ。
So……少しでもBest(最善)を尽くさねばなりマセン……
戦いにおいては最善とは犠牲者を出さないことではない。
可能な限り、犠牲者を少なくすることだ。
それがこの世界における理だ。
完全は無理でも出来ることをしていく。
それが影響を及ぼすかもしれないものを得るためにも。
いずれにしても……
二つの意味で助けられる命は可能な限り助けるべきデース
感情的にも戦局的な意味でも命は可能な限り助けるべきである。
助けたいという個人的な感情でもあり、同時に少しでも共に戦う仲間に助けて欲しいという意味でもある。
生きていてまだ戦う意思が残っていれば、それは大きな力になっていく。
「死」とはその可能性すらも失くすのだ。
ユッキーのFriendと神通のFatherに期待するしかありマセン……
そう言った死を可能な限り減らすには人間の力が必要不可欠だ。
そして、それが可能なのはこの世界でユッキーの友人となってくれた少女と神通の父親だ。
一時のVictoryよりも次のVictoryを……!
今、勝利を祝うのはいい。
しかし、そこに浮かれて戦いの結果と、そして、その次に向かうことを忘れてはならない。
戦いの結果を知らず、勝利と敗北という単純な線引きに拘ればその勝利すら無意味になる。
その勝利を再び、次の勝利にへと繋げていく。
そうしなければ、結局勝つことが出来なくなる。
必ず……!
そして、もう一つの勝利という希望を持ってくる希望は彼女たちに任せている。
今ある勝利の意味と、そして、集結する希望。
それらが全て何時か大きな花を咲かせる。
間違いなくそうだろう。
◇
『……!一機発見!
回収をお願い!』
「!皐月!」
『うん!任せて!』
捜索開始から40分。
ようやく、残り二機のうち一機を発見できた。
私は、今この状況で最も燃料と弾薬に余裕がある皐月に回収を任せた。
あと一人!
恐らく、この使用している後一回に残されている時間は後、20分。
それ以上は帰りの航路で周囲を出来る限りで見渡して発見できるかという賭けだ。
つまりはこの20分で探し切れるかは、運良く敵の集団に出くわさないかだ。
『回収完了!もう大丈夫だよ!』
今まで分かっていたことであったが、潜水艦の存在と言った脅威や上空からの待ち伏せもなく皐月は回収出来た。
そして、彼女は妖精さんに『もう大丈夫だ』と言って安心させた。
雪風の友達のことは皐月に任せることを金剛たちに推薦するわ
皐月の気遣いに私は新兵同然となる雪風の友達のことを任せた方がいいと感じた。
皐月は経験が豊富なうえに人格も申し分ない。
彼女の明るい性格ならば相手に安心感を与える上に何よりも彼女は相手を気遣える。
その点において最初の戦友と先輩としては十分過ぎるだろう。
それに駆逐艦というのも大きいわ
同時に彼女が駆逐艦というのも大きい。
どうしても軽巡以上の艦娘が相手だと年長者だと思われて相手を萎縮させかねない。
となると、最初に同じ隊の教導役を任せるとしたら皐月が適任だろう。
『回収完了だよ!』
『ありがとう。皐月』
『うんうん!気にしないで!』
自分の偵察機が発見したとはえ、回収を実行した皐月に対して加賀はお礼を言った。
『あと、一機……!』
翔鶴は残されている後一人に対して、気合を入れて周囲を見回した。
彼女の気合は戦う時と同じくらいに満ちていた。
彼女の気持ちは理解出来る。
何故ならば、ここで後一人助けられるということはこの戦いでの犠牲は0ということになるからだ。
こんなことは二度と訪れない……!
もしかすると、本当に後一人見つけ出すことが出来れば、これからは起きることがないであろう犠牲者なしの勝利という奇跡を起こせるかもしれない。
それだけで私達は励まされる。
きっとこれからはこんなことはないかもしれない。
しかし、そんな奇跡の様なことが起きるのであれば幸いだ。
雪風の為にも……!
何よりも雪風の為にもこの奇跡を起こしたい。
あの子は現実を見過ぎた。
そして、その呪いに囚われている。
だからこそ、ここで私達が奇跡を起こすことで少しでも希望を持って欲しいと願うのだ。
雪風の心を救う第一歩。
それにも繋がると私達は感じている。
『……!扶桑さん!
あれを!』
「……!」
そんな希望への架け橋を求めていると朝潮が何かを発見したらしい。