奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第48話「拾っていく可能性」

『こちら扶桑。

 敵戦力の一部と交戦しましたが、統制を失っていることから苦戦なし。

 加えて、妖精さん5人の生存を確保しました』

 

「!」

 

「………………」

 

 敵主力艦隊を撃破後、帰還と共に行方不明者の捜索を行っていると何体かの敵と遭遇した様子であったが、既に本隊を叩かれたことで数が少なく質も劣っていることから容易に撃破が可能だったらしい。

 しかも、幸いなことに撃墜された妖精さんの大半を回収することに成功している。

 まさに朗報とはこのことだろう。

 

「わかりました。

 後、何回交戦が可能ですか?」

 

 阿武隈さんは続いて、あとどれくらいの戦闘が可能かを訊ねた。

 既に作戦が終わり、敵の強さが最低値になっていることから万が一不覚を取ることはないだろう。

 しかし、それでもあとどれくらいなら満足に戦い、安全に帰還できるかを訊ねた。

 

『……あと二回というところね』

 

「……そうですか」

 

「………………」

 

 阿武隈さんと私はそれを聞いて心が重くなってしまった。

 

「あの……どうしたんですか?」

 

 私達の反応を見て山田さんも不安を感じてしまっている。

 いや、正確には「不安」というよりも落胆と言うべきかもしれないが。

 

「……あと一回しか、妖精さんの捜索を行えないということです」

 

「え!?」

 

 私は包み隠さずに扶桑さんが言った言葉の意味を伝えた。

 

「で、でも……

 あと、二回って!?」

 

 山田さんは扶桑さんが「二回」と言っているのに私達が「一回」と言っていることに疑問を抱いた。

 それは決して間違いではない。

 持つべき疑問だ。

 

「……あと一回は安全に撤退するための泣きの一回です」

 

「!?」

 

 私は「一回」の意味を伝えた。

 何故、あと一回しか生存者捜索に向かえないか。

 それは残り二回の内、あと一回は帰還するためのものだ。

 もし戦う余裕がない中で退却することになれば、その道中で敵と遭遇することになれば艦隊全体が危機に晒されることになる。

 そう。救出した生存者のいる艦隊そのものがだ。

 

「……残っている妖精さんは?」

 

 私の説明に納得してくれた山田さんはその一回出来ることを探そうと訊ねてくれた。

 

「あと二人です」

 

 私はそう告げた。

 この残り一回、そして、奇跡が起きて泣きの二回も使わず助けられるぎりぎりの人数だ。

 

「………………」

 

 山田さんは先ほどとは異なる意味で、いや、今まで以上に苦渋に満ちた表情を浮かべた。

 今、彼女は本当の意味で0と1を迫られている。

 死と生という二択をだ。

 今までは次はもしかすると助けられるかもしれないという僅かな希望があった。

 しかし、今度は違う。

 もしここで見捨てれば死は確実なものへと変わっていく。

 「次」がないのだ。

 そこに可能性があるのと、ないのでは選択の重さは大きく変わってくる。

 見方によっては見殺しにすると思い込んでしまうのだ。

 

「山―――」

 

 私が代わりに判断しようとした時だった。

 

「山田さん。耐えてください」

 

「!?」

 

「―――阿武隈さん!?」

 

 阿武隈さんが割って入り彼女に耐える様に言った。

 

「……「キスカの奇跡」なんて呼ばれるものを行った私が言っても説得力がないのはわかります。

 でも、ここで艦隊のみんなを危険に晒したらそれこそ助けられる命も助けられません!」

 

「!」

 

 普段弱気で「キスカの奇跡」を決して誇示なんてしない阿武隈さんがかなり強い口調でそう告げた。

 阿武隈さんは「キスカの奇跡」という前代未聞の撤退中の犠牲者0の偉業を成し遂げてしまっていることから、山田さんに押し付けることを間違っていると理解しながらも山田さんに艦隊を危機に晒すことで助けられる命が助からなくなることを告げた。

 

『ダメ!雪風ちゃん!

 磯風ちゃんの為にも!』

 

「っ!」

 

 私はあの「菊一号作戦」で磯風を置いて行くことしかなかった後、背後で大和さんたちのものとは別の轟音が響き渡った時、引き返そうとしてしまった。

 一度は磯風の頼みと理性で感情を抑えようとした。

 しかし、実際に生まれ故郷が同じ妹の死を理解した私は抑え切れなくなってしまった。

 その時、私を止めたのが初霜ちゃんだった。

 

 初霜ちゃんの……先生です……

 

 やはり、阿武隈さんは紛れもなく初霜ちゃんの先生だ。

 愛情や憐憫と言った人の心の善の部分。

 非難を恐れる保身や罪悪感といった人の心の弱さ。

 それさえも確りと包み、それを受け止めた上で決断する。

 その考えは間違いなく受け継がれていた。

 そして、私はその本流を目の当たりした。

 

「……山田さん。

 それにまだ希望は残っているよ。

 その一回と、そして、帰る途中に賭けよう」

 

「!」

 

 最後に阿武隈さんは最後の一回に賭けることと、そして、残り一回に残された泣きの運に賭けることを示した。

 彼女の言う通り、まだ一回は残っている。

 もしかすると、その一家で助けられるかもしれないのだ。

 

「わ……かりました……」

 

 山田さんは阿武隈さんの言葉に重々しく頷いた。

 阿武隈さんは彼女の心の為にも指示を出したのだ。

 

 不知火姉さんとは違う形の優しさです……

 

 不知火姉さんと異なる姿の優しさを私は阿武隈さんに感じた。

 彼女たちが見せる優しさは世間一般で言う優しいと言うものじゃないだろう。

 不知火姉さんは厳しかったが、それは私達に生き残って欲しいと願ってのものだった。

 同時に阿武隈さんと初霜ちゃんが見せた優しさは相手を傷付けない為に自分からその業を背負うというものだ。

 もしかすると、優しさとは自らが傷付くことを厭わず、誰かの為に勇気を出せることなのかもしれない。

 

『こちら、扶桑。

 承知したわ』

 

 その山田さんの決断と葛藤を汲み取り、扶桑さんは相手に安心感を与えるため強さを感じる声で応答した。

 

「……お願いします」

 

『はい』

 

 山田さんは諦めなかった。

 いや、諦めないでいてくれた。

 

 ……やっぱり、いい指揮官です

 

 彼女は命が簡単に失われる状況下でも命を救うことを諦めないでいてくれている。

 それだけでどれだけ私達の心が救われることだろうか。

 

 

「みんな。

 予定通り、あと一回よ」

 

『……わかったわ』

 

『はい』

 

『わかりました』

 

『はい』

 

『うん』

 

 山田さんや雪風たちに現状を報告し、そして、山田さんの口から出てきた重々しい確認を返してもらった結果、私達は『あと一回』の意味を全員で頷いた。

 

「加賀、翔鶴。

 ごめんなさい」

 

 私は現在、最も妖精さんたちの関わりが深いであろう二人に予定通りであることを謝罪した。

 

『気持ちは不要よ、扶桑』

 

「加賀……」

 

 私の申し訳なさに彼女は気遣いは無用だと返した。

 それは空母という艦娘の役割上、妖精さんへの被害が必ず出ることからへの覚悟かもしれない。

 彼女たちからすれば最低限必要な覚悟なのだ。

 

 いや……でも……!

 

 その覚悟が必要なのもわかるし、それが避けられないのも理解している。

 けれども、だからといって諦めることと覚悟は異なるはずだ。

 

「……皆、予定通りあと一回よ。

 でも―――!!」

 

 

 確かに私達にはあと一回しか機会は残されていない。

 それは理解している。

 しかし

 

「―――残り一回でも……

 いいえ、帰りの中でも全員を見つけられる様によく周囲を見回して!」

 

 だからといって、その一回だけが妖精さんを助けられる最後の機会という訳じゃない。

 もしかすると、一回で残り二人を回収出来なくても、帰る途中で見付けられるかもしれない。

 諦めるということを覚悟の違い。

 それは現実に対する向き合い方だ。

 諦めも覚悟も現実を受け容れるという点では同じだ。

 しかし、その中でも迫り来る運命に何もせず、何もかも投げやりとなるのが諦めだ。

 覚悟は迫り来る運命の中でも決して待つのではなく、少しでも立ち向かっていくことだ。

 確かに避けられない定めというものは間違いなく存在する。

 けれども、それに立ち向かわないでいるともしかすると、あったかもしれない希望を未来へと繋げなくなる。

 

 かつて私がした様に……!

 

 あのスリガオ海峡の戦いは余りにも絶望的だった。

 夜の全く視界が開けない何処までも続いていく闇と、そこに蠢く魔群の無数の影。

 全滅するかもしれないという恐怖があった。

 しかし、突破しなければ仲間たちの下へと駆け付けられない。

 故に挑むしかなかった。

 そして、私達は山城や最上、時雨を含めた希望を送り出すことが出来た。

 もし、諦めていたら、私達はその希望を残せなかった。

 最初から望みを失って諦めるよりも希望を抱いて覚悟することの方が展望は見出すことが出来る。

 

『そうです!

 諦めるよりも今、出来ることをやりましょう!』

 

『うん!見付けよう!一緒に帰ろう!』

 

『これぐらい出来ないなら「深海棲艦」と戦うこと自体が無理なことです!』

 

「みんな……」

 

 空母の三人を除く、三人が私の意見に頷いてくれた。

 全員が全員、出来ることをしたいと願った。

 そして、この現実一つと立ち向かうことも出来ないのであれば、「深海棲艦」と戦うと言う現実において心が折れると鳥海は強く言い放った。

 そこには私と同じ後に続く者へと道を託した強い意思が存在していた、

 

『加賀、翔鶴。

 私達は諦めないわ。

 だから……!!』

 

 『絶対に』や『必ず』とは言えない。

 戦場においては死は当たり前の様に降ってくる。

 しかし、彼女たちの心を蔑ろにする皮肉屋染みた言葉を言うつもりはない。

 そして、守れない約束をして噓を吐く様な理想主義者の様な言葉を言うつもりもない。

 それでも、彼女たちに、彼女たちの部下であり、大切な我が子同然の妖精さんたちを見捨てる様な言葉をぶつけるつもりなどない。

 

『……ありがとう。

 扶桑、みんな……』

 

『ありがとうございます!』

 

「お礼はいいわ……

 それよりも今は!」

 

 加賀と翔鶴は私達の言葉に感謝するも私はそれは今は不要だと感じた。

 

「みんな!

 見付けるわよ!」

 

『『『『『はい!』』』』』

 

 まだ私たちは彼女たちに何もしてあげられていない。

 それなのにお礼を言われる筋合いが私達にない。

 だからこそ、彼女たちの心に生まれた喜びを悲しみで終わらせたくないのだ。

 

 それに……山田さんに少しでもいい勝利を捧げたい!

 

 通信で彼女は「後一回」の意味を理解し、悲しみを抱いてくれた。

 そんな彼女を悲しませたくないのも大きな理由だ。

 

 本当にいい指揮官……

 だからこそ、頑張って欲しい!

 

 これから彼女には辛い思いをさせるだろう。

 それでも頑張れるだけ頑張ってもらうしかない。

 彼女が拾えないものを私達が拾う。

 それが私たちに出来るせめてものことだ。


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