奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第47話「希望を繋ぐ」

「よ~し、これで今日の訓練は終了……

 と言いたいところだが、てめぇら訓練に集中できてねぇぞ!」

 

「す、すみません!」

 

「申し訳ありません!」

 

「やっぱり雪風のことが……」

 

「気になって……」

 

「どうしても……」

 

 今日の分の訓練が終了し、全員が息を切らしていると天龍さんが俺たちが雪風のことに意識を奪われていることを指摘してきた。

 やはり、雪風のことが気になってしまうのだ。

 

「……言い訳したとして、凰、デュノア、織斑はこれが終わった後にこの校庭を五周してもらうぞ」

 

「「「「「えぇええええええええええ!!?」」」」」

 

 

 そんな俺たちの中で謝ったラウラとセシリアを除いた面々に天龍さんはペナルティを課してきた。

 それに対して、課された三人だけでなく、ラウラとセシリアも思わず叫んでしまった。

 

「それとボーデヴィッヒとオルコット。

 お前たちには阿賀野と照月に色々と説明をしてやって欲しい」

 

「え!?は、はい!」

 

「わ、わかりました!!」

 

 残った二人に対して、天龍さんは阿賀野さんと照月さんに基本的なことを教えて欲しいと言ってきた。

 

「阿賀野、照月。

 二人の話を確りと聞くんだぞ?」

 

「はい!」

 

「……はい」

 

「……阿賀野、お前も走るか?」

 

「え!?

 いえ!!」

 

「だったら、確りと返事をしろ!」

 

「は、はい!!」

 

 ラウラとセシリアの二人が肯いたのを見て、阿賀野さんと照月さんの二人にも促したが、落ち込んでいる阿賀野さんは気の抜けた返しをした。

 それを見て、天龍さんは彼女にもペナルティを課そうとした。

 

「よし、龍驤。

 四人を頼むぜ」

 

「うん、任せて!」

 

「え?」

 

 阿賀野さんが返事をし直したのを確認すると天龍さんは龍驤さんに何かを頼んだ。

 

「よぉ~し!お前ら、走るぞ!」

 

「「「「「え!?」」」」」

 

 龍驤さんが肯くと天龍さんは俺たちに『走るぞ』と言いながら足を少しほぐしながら急かしてきた。

 

「天龍さんも走るんですか!?」

 

「そうだが、それがどうした?」

 

 どうやら、天龍さんも走るらしくそのことに俺たちは驚いてしまった。

 こういうことは普通、言った人は走らないものだと思っていた。

 

「……あのなぁ。

 罰を与えるのはそれが可能かどうかも調べるのも上官や教官の役割だろ?

 それに俺は軽巡だ。

 自分はやらないとかそんなことはしねぇよ」

 

「「「「「!」」」」」

 

 天龍さんは俺達が想像していた鬼教官の様な価値観は持っていなかった。

 

「それとだ。

 上の人間に『あーやれ』、『こーやれ』なんて一方的に言われたら士気はだだ下がりだろ?

 俺はそんな馬鹿じゃねぇよ」

 

 最後に天龍さんはそう答えた。

 確かに上司とか、先輩とかに一方的に言われたら気分は悪くなるだろう。

 余程の自業自得でもない限りはそのはずだ。

 しかし、天龍さんはそのことも考えてくれた。

 

「おっし!

 走るか!」

 

「「「はい!!!」」」

 

 天龍さんの合図と共に俺たちは走り出した。

 何となく断り辛いものであったが、決してそれは悪いものじゃなかった。

 これは同調圧力なんかじゃない。

 俺たちが自分の意思で『やる』と思えるものだった。

 

 

「天龍たちは行ったな。

 しっかし、ここを五周って……

 君たちもすごいことしてるね?」

 

「え?まあ……その……」

 

「あまり走り込みはしないので……」

 

「ふ~ん、そうなんだ」

 

 天龍たちが走って行ったのを見てうちは鎮守府よりはマシだと思うけれどこのかなり広い校庭を五周走ることに驚いていた。

 走り込みは基本だ。

 それをこの校庭を使うとなるとこの子達も侮れないと思っていたが、どうやら流石にこの校庭を走ることは稀らしい。

 

「よし、改めてやけど……

 四人とも、それぞれの自己紹介をしよっか!」

 

「え!?」

 

「またですか!?」

 

 うちが再び四人に自己紹介をする様に促すとボーデヴィッヒとオルコットは戸惑っていた。

 

「まあ、君らがそう思うのも無理はないと思うんだけど、さっきの奴じゃ味気ないやろ?

 これから君たち五人にはこの二人、いや、他の娘たちのことも指導して貰うんやからその前にこけられても困るって」

 

「え!?」

 

「他の!?」

 

「うん。そうやで」

 

 うちは戸惑っている二人に本当のことを話した。

 そう。今、うちらは二人だけでなく、それ以外の艦娘も「IS」の扱いを覚えて貰うことにした。

 特に巡洋艦や駆逐艦等の水雷屋にだ。

 その為にも今、教えてもらうことになっている照月と阿賀野以外の他の面々もこの場にいる五人に引き続いて教えて貰うことになっている。

 いや、あわよくば阿賀野には砲雷撃戦、照月には対空戦闘を主に覚えて貰い二人にも指導役になって欲しいと考えている。

 

「ですけどそれは……」

 

「大丈夫ですの?」

 

 二人はどうやら艦娘が「IS」を学ぶために自分達に頭を下げることには納得はしてくれている様子であったが、それでも違うことで疑問に思っているらしい。

 

「……何時かは知られることや」

 

 それは艦娘が堂々と「IS」を学ぶこと。

 つまりは一気に未確認のこの世界の最強戦力が増えることを意味する。

 それに気づかない人間や国家・軍事機関はいないだろう。

 だから、うちらは開き直ることにした。

 

「君らには悪いと思うけど……

 「深海棲艦」の存在を隠し切るのは無理や」

 

「龍驤さん……」

 

 うちはこの世界が故郷である二人に詫びるしかなかった。

 恐らく、うちらが命を懸けて死ぬ気になっても「深海棲艦」の存在は隠し切れない。

 それはつまるところ、この世界で「深海棲艦」の存在が当たり前になるということだ。

 そうなってしまうことに無力感を感じると共に目の前の本来ならば戦う運命にないはずの「人間」の子供たちに戦いに関わらせることになることが悔しさと申し訳なさを感じた。

 

「だから、艦娘の娘たちも何人かはこの学園に来る……

 すまんなぁ」

 

 うちらが秘密にすることを止める理由。

 それはもう隠せないのならば、それよりも先に戦う力を身に付けていくためだ。

 戦は戦う前から大体の勝敗は決まっている。

 戦術でそれを覆すのはそれこそ何度も何度も十二分の力を発揮しなくてはならない。

 それは無謀な綱渡りで、長続きしない上に何時かは破綻を迎える。

 

「……わかりました。

 お父様やお母様が残してくれたオルコット家の名前にかけてこの世界を守る力添えをさせていただきますわ」

 

「オルコット……」

 

「我々にも出来ることがある。

 それがお姉様……いや、お姉様が守ろうとしてくれるものの為になるというのならばやらせてください!」

 

「ボーデヴィッヒ……」

 

 二人はうちの説明に怒ることはなかった。

 むしろ、自分の生きる世界を、大切な人が残してくれた世界を、大切な人が守ろうとしている世界に何かしらの出来ることがあることを喜んでくれた。

 

 何や……

 この世界を卑下している人らもいるけど……悲観的になり過ぎや

 

 二人が見せてくれた輝きにうちはこの世界の現状を見て苦悩していた面々が悲観的になり過ぎたと感じた。

 少なくても目の前の二人には希望が見える。

 きっとそれは少なからず、他のこの世界の人間も同じはずだ。

 

「……阿賀野」

 

「……はい」

 

 目の前の二人にまだ多少青くて頼りないながらも真っ直ぐな強い意思を感じた後、うちは阿賀野に声を掛けた。

 

「……軽巡のお前が……

 教官ではなくて指導される側になることへの悔しさから卑屈になってしまうのはわかる……

 いや、それもうちが言っても上から目線なのはわかってる」

 

 本来なら最新鋭の軽巡洋艦として阿賀野は駆逐隊たちを率いる「水雷戦隊」の長となるはずだった。

 それなのに今は自分が教えられる側になっている。

 それも戦争の経験を子供たちに。

 そのことに劣等感を刺激されるのも無理はない。

 うちも「一航戦」を下ろされたが、それでもうちは後に続く者に託すことが出来た。

 阿賀野にはそれがなかった。

 だから、そんなうちが阿賀野に一方的に『我慢しろ』等と言えない。

 痛みがわからない人間に同情されたり、叱咤されることは誰もが反発する。

 それを理解出来ないで一方的にぶつける「正論」は「正論」ではなく、ただ「正論」という他人を殴るだけの道具だ。

 それだけはやってはいけないことだ。

 

「けれども……

 この子らが見せてくれた勇気と決意の為にも今は耐えてくれんか?」

 

「………………」

 

 けれども、頼みはしたかった。

 阿賀野にとってはこれがどれだけ辛いのかはうちは分からん。

 それでも、オルコットやボーデヴィッヒ、そして、今走っている五人や彼女たちを含めたこの世界で出来た大切な人々を守る為に決意をした雪風の為にも阿賀野には耐えて欲しかった。

 

「それと……すまんかった!!」

 

「りゅ、龍驤さん!?」

 

「どうしたんですか!?」

 

 同時にうちがもう一つ出来るのは頭を下げて詫びることだけであった。

 

「お前に十分な活躍の機会を与えられんかったのはうちら、機動部隊が確りせんかったからや!

 本来なら、水雷戦力であるお前は防空戦闘には不向きや……

 なのにそうするしかなかったのはうちらがだらしなかったからや!

 ごめん!」

 

「や、やめてください!龍驤さん!?」

 

 阿賀野が活躍できなかったのはそもそもうちらが空母がだらしなかったからだ。

 阿賀野型はそもそも、水雷戦隊の新鋭だ。

 防空戦闘には向いていない彼女たちがその役目を担わなくてはならなかったのはうちら空母が負けていたのが原因だ。

 その穴埋めを彼女たちにしてもらった。

 能代や矢矧の奮戦は雪風から聞かされたが、本来ならばそれは違う形ですべきことだった。

 それなのにどうして阿賀野を責められる。

 

「だから、頼む!

 この子らの為に……!

 阿賀野型の長女としての強さを見せてぇや!!」

 

「!」

 

 だからこそうちは阿賀野にとっては屈辱になるかもしれないが、目の前の二人や他の三人に頭を下げてでも教えを乞うて欲しいと懇願した。

 彼女たちが住むこの世界の為にも阿賀野型としての実力を見せて欲しいとも願った。

 同時にそれは阿賀野の長女としての矜持を、彼女の妹である能代、矢矧、そして、彼女にとっては会うことの叶わなかった末の妹である酒匂の為にも出して欲しかった。

 阿賀野にとっては酒匂はまだ顔も見たことのない妹だ。

 それでもあの世界でたった一人生き残った酒匂にとっては自分は「阿賀野型姉妹唯一の生き残り」だ。

 そんなまだ見ぬ妹の為に阿賀野には強く在って欲しいのだ。

 

「……わかりました!」

 

「!」

 

 一方的な頼みだった。

 しかし、それでも阿賀野の心には届いた。

 

「えっと……

 オルコットさんにボーデヴィッヒさん。

 さっきから、色々とぐちぐち言ってごめんね!

 改めて私は阿賀野型軽巡洋艦の一番艦、阿賀野だよ!

 よろしくね!」

 

 阿賀野は多少は吹っ切れたらしく今まで落ち込んでいたことを謝罪してから挨拶をした。

 その名乗りには長女(ネームシップ)としての誇りと自信が存在していた。

 

「はい!

 よろしくお願い致しますわ、阿賀野さん!

 わたくしはセシリア・オルコットと申します」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒです。

 よろしくお願いします」

 

 その阿賀野に対して、オルコットとボーデヴィッヒは快く迎えてくれた。

 

 良かった……

 

 うちは阿賀野にあれだけ偉そうなことを言っておきながらも阿賀野が立ち上がってくれたことを喜んだ。

 

 阿賀野、もしかするとお前が大きな希望をつなぐことになるかもしれへん

 

 同時に阿賀野がこれから大きな希望を繋げてくれることをうちは予感した。

 

「ほら、照月。

 お前も挨拶をせんと」

 

「はい!

 秋月型駆逐艦二番艦の照月です!

 二人ともよろしく!」

 

「はい、照月さんもよろしくお願いしますわ!」

 

「こちらこそ」

 

 阿賀野が一歩踏み出せたのを確認できたのでうちは今度は照月を促した。

 元々、阿賀野よりは気落ちしていなかったこともあり、照月はそれだけで挨拶が順調に進んだ。

 

 後は勝利を待つだけやな……

 

 うちは今日戦ってくれている面々が勝利しているのを確信してその報告を待った。

 間違いなく勝っている。

 それをうちは確信してる。


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