奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「艦隊から入電!
敵影に戦艦在り!らしいです」
「せ、戦艦!?」
「来ましたか……!」
妖精さんたちの安否について私達が想いを馳せていると艦隊からの入電で戦艦の姿があることを把握した。
それを聞いて、「深海棲艦」のことをよく知らない山田さんも一気に緊張感を増した。
「……どうやら、本当の意味での戦いに突入ですね」
「そうだね」
「……?
本当の意味で?」
私と阿武隈さんは戦艦の登場で敵の主力との遭遇を想像し気構え、山田さんも元々油断していなかったが、私達の反応を見て何か感じ取ったらしい。
「……深海棲艦との戦いは戦艦と正規空母が現れて初めてようやく本番ということです」
「!?」
「深海棲艦」との戦闘は常に命懸けであるが、通常の個体でも戦艦と正規空母が相手となるとそれは本格的な意味合いとなる。
私達、艦娘の間では『正規空母と戦艦との戦いに生き残って初めて一人前になる』という格言がある程だ。
「戦艦にはル級と夕級、正規空母にはヲ級と呼ばれる個体がいて、それらが現れれば敵中枢は近いと思った方がいいです」
「……!
じゃあ!!」
「はい。この作戦もそろそろ山場といったところです」
「深海棲艦」の燃費なんてのははっきり言えばあるのかないのかすら分からない。
しかし、今までの経験則からすると「深海棲艦」にとっても戦艦や正規空母は重い物であるということは考えられる。
となると、現れれば作戦の終わりも近いと言ったことだ。
予想よりも増殖していなかったのは幸いです……
私は今の報告を受けて緊張感が高まるのと同時に少なくてもこの海域ではまだ「深海棲艦」がそこまで増えておらず、深刻化していないと判断できた。
……少し、慎重になり過ぎましたかね……?
少しばかり、私は自分が慎重になっていたと感じた。
当初、私は潜水艦の存在を危惧していたがこの規模ならその心配はないだろう。
そうなると火力が高い夕立ちゃんか対艦戦闘に秀でている叢雲ちゃんのどちらかを入れておいた方が良かったかもしれない。
夕立ちゃんの火力ならば露払いは可能であり、叢雲ちゃんならば対空能力は二人に劣るが、この状況の朝潮ちゃんよりは雷撃戦に秀でている。
後から言うは易しですね……
自分が慎重になり過ぎて、後からあーだこーだと思っていることに私は何とも言えない気持ちになった。
完勝なんて稀なことだ。
使える手段や時間は限られてのだから、何処かが踏ん切りをつけなくてはならない。
反省に使うのはいいことだが、巻き戻せない時間を悔やみ続けて思考を止めることだけはあってはならない。
「ただ戦艦の一撃には気を付けなくてはいけませんね」
「……!」
私は戦艦の一撃には特に気を付けるべきだと伝えた。
戦艦の一撃は重巡ですら時として一撃で大破に追い込まれる。
当たらなければいいと思っていても、当たる時には当たり、そして、それが致命的になる。
数多くの作戦があと一歩ということで我々を退かせ、時として、死へと誘う切符を渡して来たのは戦艦による待ち伏せによる一撃だ。
こちらに分があるとしても、ここでこの作戦の趨勢が決まりますね
戦艦の一撃が当たればどれだけこちらが戦略的に勝っていても退くことを考えなければならなくなり戦況は覆される。
この一回の作戦で片が付けば海が解放され直ぐに掃討戦に移れる。
そうすれば、あの旅館の人々の生活を追い込まずに済む。
しかし、ここで撤退すれば準備に一週間がかかり、敵は警戒し今回の様にいかなくなる可能性もある。
まさにこの状況にこの作戦の全てが懸かっている。
艦攻が中破以上に追い込んでくれれば比較的安全に戦えますが……
第一次攻撃部隊が戦艦を即座に仕留めてくれれば不安材料は一気になくなるが、それは楽観的過ぎるだろう。
……輪形陣でいきますか
まだこの先にどれだけの戦艦か正規空母がいるのかわからない。
ならば、ここは最も重要な存在である加賀さんと翔鶴さんを守る為に慎重策を取るべきだと考えたが
「……単縦陣でお願いします」
「……!」
「山田さん!?」
「……お願いします。
責任は……何て、言えませんけど……
私が取ります!」
「わ、わかりました!
扶桑さん!単縦陣でお願いします!」
『……!
わかったわ』
山田さんの予想外な発言に私達はまたしても驚かされてしまいながらも彼女の決断に圧されてそれを通した。
今の発言には扶桑さんも驚かされたらしく彼女も戸惑いながらも従った。
「……山田さん。
どうしてですか?」
意外過ぎる彼女の決断に私はその理由を訊ねた。
今までの彼女の言動からすると今回の彼女の行動は余りにも想像出来ないことであったからだ。
一体、どうしたと言うのだろう。
「……雪風さん。
あなたは先ほど、相手を早めに倒せるうちに倒した方が安全だと言いましたよね?」
「……はい」
確かに私は彼女にそう言った。
最も戦争をするうえで味方に被害を出さない方法はそもそも戦争をしないことだ。
しかし、それはあくまでも相手がこちらに危害を加えてこない場合に限られる。
それが不可能ならば次の手段は相手の攻撃態勢が整っていないうちに攻撃をする等をして、敵の攻撃能力や継戦能力を奪うことだ。
「戦艦の一撃は危険……
なら、先に打撃を与えて戦艦を弱らせることが出来れば皆さんの安全は確保できるはずです」
「そうですが……」
山田さんの言っていることは間違ってはいない。
彼女は私が言ったことを確りと理解した上で決断したのだ。
「……大丈夫なんですか?
山田さん……」
「………………」
そう…ある程度には理にかなっている。
しかし、それはあくまでも「理」にはだ。
戦艦の一撃は防御に秀でている陣形でも打撃を与えてくるが、そうではない陣形ならば直撃の可能性が高くなる。
一太刀目を外せば危うくなる。
その賭けを彼女はしたのだ。
ただ私はその危険性のことで彼女に疑問を投げかけたのではない。
それは彼女が優しい人柄であるからこそ、艦娘を危険に晒す作戦を下して自らを追い詰めてしまわないかという不安だった。
「本音を言えば……
あまりしたくないことです」
「……!」
やはり、彼女にとっても苦渋の決断だった。
優しい彼女にしてみれば今の決断は辛いものであった。
「……ですが、ここで勇気を出さないと旅館の人たちを含めた人や、今戦ってくれている人たち以外の艦娘の人たちも危険に晒すことになりますから……」
彼女は自分も苦しめる判断にも関わらずその選択を取ったのは彼女の、いや、私達、艦娘にとっても同じ戦う理由のためだった。
「……私はその……
生徒たちにそう思われていませんけど……その……
これでも教師ですから……
本来ならこんなことを言っている時点で教師失格ですけど……
それでも自分に与えられたことの意味は全うしたいんです……!!」
「山田さん……」
彼女は自嘲しながらも強い意思でそう言った。
彼女は教師だ。
それ故に彼女は『教師ならば教え子の為に命を張る』と普通に考えてしまう。
それは私の師も、私自身もそうだ。
自分が代わりになればそれでいい。
そう思えてしまうものなのだ。
しかし、今はその選択を彼女は取るべきではないし、取ることが出来ない。
今の彼女は恐らく本人にとって最も忌避しているであろう『誰かの命を守る為に誰かの命を危険に晒すと言う天秤』を抱いている。
それでも彼女はもう一つ、教師としてのあるべき姿である最後まで役目を果たすと言う在り方で辛うじて示している。
「……いえ、山田さん。
それは違います」
ただ一つ私は彼女の発言に間違いがあることを指摘しようとした。
「あなたは立派な教師です。
少なくてもあなたは助けられる人を、教え子を決して見捨てる様な人じゃありません」
「……!」
「そうだよ。
私も……うん、何というか偉そうなことは言えないけど……
長年、「水雷戦隊」の隊長を務めてきたからわかるけど、山田さんは大事なものを持っているよ」
彼女の発言で間違っていたこと。
それは彼女が自分は生徒にそう思われていないということだった。
確かに普段からの山田さんへの生徒の態度を見ていると彼女がそう思ってしまうのも無理はない。
しかし、
「少なくても私達は山田さんが、いいえ、山田先生が副担任で良かったと思ってます」
「!」
実年齢が30歳を超えている私が言うのでは余り嬉しくはないと思うが、少なくとも私は彼女が生まれて初めての学生生活の先生で良かったと思っている。
それに私だけではない。
本音さんや相川さん、夜竹さんといった一般の生徒たちや一夏さん、セシリアさん、シャルロットさんといった専用機持ちの中にも彼女を慕っている人はいる。
何だかんだで彼女を先生と認めているのだ。
「ですから、教師としても自信を持ってください」
「雪風さん……」
彼女は恐らく、教師としての在り方と私達が背負わせてしまった提督としての責務との在り方の板挟みに合っている。
本来、彼女が志していたものと異なる在り方のせめぎ合いになっているのだ。
苦しいのは当たり前だ。
しかし、だからといってそれを理由に教師としての山田さんが否定されるわけではない。
彼女はある意味、双方に適しているから苦しんでいる。
たったそれだけなのだ。
「……ありがとうございます」
山田さんは私達にお礼を言ってきた。
それはきっと教師としての自分を認められたことへの感謝だ。
英雄よりも教師……
やはり、この人は大器です
私はこの人を改めて大器だと感じた。
お願いします……皆さん……
必ず、山田さんに勝利を……!
同時に初めて勇気を出して自らの指示を出した山田さんの想いを無駄にしない為にも私は今、戦っている仲間たちに願った。