奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします。


第38話「攻守の在り方」

『扶桑、先ずは私と翔鶴で航空戦力を削るわ。

 その後はお願い』

 

「ええ、任せて。

 鳥海!あなたは敵の水上戦力を!

 私も後で加わるわ」

 

『はい!』

 

「皐月と朝潮は撃ち漏らしをお願いするわ」

 

『『はい!!』』

 

 既に加賀と翔鶴を中央に挟み、私と鳥海が後方、皐月と朝潮が前方を守る形で迎え撃つ態勢を整えた。

 一番槍は加賀と翔鶴、二番槍は私、トドメは鳥海とし、陣形とは逆に皐月と朝潮には後詰に入ってもらった。

 

『翔鶴、敵の第一波が来る前に』

 

『はい。わかりました。加賀さん』

 

 空母の二人は既に臨戦態勢などとうに終えて、むしろ、相手よりも先に出て出鼻を挫くつもりだった。

 古来より戦いにおいて味方に損害を与えない常套手段は二つある。

 一つは単純に戦わないことだ。

 相手を戦略的に雁字搦めにして無理に戦わせないようにすることだ。

 孫子でも「百戦百勝は善なる善に非ず」と言われているが、まさにそれである。

 しかし、それが不可能ならばもう一つの手段に頼るしかない。

 それは

 

 敵の準備が整う前に叩くこと……!!

 

 相手の態勢が整っていない状況で先に叩くことだ。

 つまりは奇襲、強襲だ。

 それが戦いが避けられない中で最も味方の命を守る最大の手段だ。

 

『一航戦、発艦します!』

 

 翔鶴がそれを唱え、加賀もそれに続いた。

 そして、彼女たちがつがえた矢たちは複数の艦載機となり編隊を組み、渡り鳥の様に敵へと向かって行った。

 

『扶桑!』

 

「ええ、分かっているわ。

 鳥海、海上をお願い。

 皐月、朝潮。大変だと思うけど上と下の二つをお願い」

 

『お任せを!』

 

『準備は出来てます!』

 

『いつでも大丈夫だよ!』

 

 加賀に言われ私たちは水上戦力も複数の構えをした。

 加賀たちが槍となるのならば私達は盾となる。

 それだけだ。

 

『敵も発艦してきたわね』

 

 加賀のその一言で私達は警戒感と集中力を高めた。

 そして、かすかに聞こえてくるあの魔群の羽音。

 それを訊くだけで無数の羽虫に迫れるよりもゾッとする気分に陥る。

 やはり、機動部隊は恐ろしい。

 

『……!』

 

『始まったわね』

 

『はい』

 

 突然ここまで聞こえてきた機銃の音、そして、レシプロの風切音。

 そのことからかすかにしか見えないあの黒い斑が繰り広げている戦いだと理解させられた。

 

 ……もしかすると、私たちもあの中に……

 

 雪風に教えられたことでこの「IS」で私達も空へと繰り出すことを想像してしまった。

 そうなると私達もあんな風に戦うことになるのかもしれない。

 

 正直想像できないわね……

 

 私には自分があの様に軽やかに立体的に戦う未知の姿が想像できなかった。

 

 ……何機か突破してきたわね

 

 一度目のお互いの機動部隊同士の戦いはこちらが敵の多くの艦載機を撃墜し、そのまま攻撃に移る形となり、残った敵はそれでも私達へと前進してきた。

 

 まるで鋒矢か魚鱗みたいね……

 

 意図してそうなったのかはわからない。

 しかし、集団戦闘になると古来から使われている陣形と同じ様になるのは必然なのかもしれない。

 

 でも、既に槍ではなくなっているわね……

 

 既に敵の陣形は陣形を維持出来ているのかすら分からない。

 数に劣ることで囲みを突破すると言う点では鋒矢か魚鱗の様な陣形は適している。

 一本の槍のように進むが、既に穂先しか残っていない。

 あの陣形は前の戦闘においては強さを発揮するが、他の三面、いや、この場合は五面からの攻撃されると崩れやすい。

 実際、目の前で何とか抜け出した敵機は槍の柄の部分を他方面からの攻撃で失っており、破片に近いものになっている。

 

 でも……油断はしないわ

 

 この局面における勝利は決まったとしても油断はすべきではない。

 「深海棲艦」は私たちとは違う意味で死を恐れない。

 私たちは死への恐怖があるにはあるが、それ以上に守りたいものの為に自分を奮い立たせようとする。

 しかし、「深海棲艦」は死そのものへの恐れを抱いていない様に戦ってくる。

 そこが私達との違いだ。

 そして、それは私たちに常に危機をもたらす。

 だから、一機の撃ち漏らしにも警戒を怠る訳にはいかない。

 

 今よ……!

 

「主砲!副砲!

 撃てぇ!!」

 

 私の射程、それも最も適した地点に到着したと同時に私は対空砲撃を放った。

 

「金剛から戦術を借りてきたわ……!」

 

 敵が散開しようとした途端、空中に通常弾とは別に火の幕が生じそれが敵を飲み込んだ。

 「三式弾」。

 金剛が愛用する砲弾を彼女ほどではないが、少しは上手く使えただろう。

 至近距離でなければ対艦能力は低いが、複数の敵機を牽制できるという点ではまさに空中の機雷ともいうべきかもしれない。

 

 でも、あくまでもこれは牽制……

 

 しかし、それでも敵は残る。

 「三式弾」はある程度の距離を過ぎると、金剛ほどの技術がなければそこまでの撃墜は見込めない。

 火で網を張っても隙間から抜けてくるものは抜けてくるのだ。

 

『扶桑、ありがとう。

 十分よ』

 

 ただ逃げ場所にはさらに細かい網がある。

 

 最初に数で囲みズタズタにしてから、対空砲撃と三式弾という第二の守りで陣形を乱し、最後に残しておいた護衛部隊で待ち伏せ……

 恐ろしいほどまでに理想的だわ

 

 三つ目の網。

 それは残りの艦戦による残党狩りだ。

 加賀と翔鶴は攻撃隊の護衛だけではなく、此方の守りにも少しだけ余裕を残していた。

 本来なら、もう少しだけ与力を残すべきだが、敵の戦力、そしてもこちらの対空能力からこれで十分なのだ。

 

『ごめんなさい。二人とも。

 また出番をなくして』

 

『いいえ!

 むしろ、艦隊全体の安全が保たれるのならばこれ以上のことはありません』

 

『うん!僕たちは潜水艦の方にも注目しているよ!』

 

 実は四つ目の網もある。

 四つ目の守り。

 それは朝潮と皐月の対空戦闘だ。

 仮令、切り抜けたとしても数が少なければ二人が完全に撃ち落とす。

 ただ二人には悪いけれど今回は出番がない。

 と言っても、ない方がいいのが守りの役目でもあるが。

 

「……!」

 

 敵のいる方角から轟音が聞こえてきた。

 

『終わったわ』

 

「ええ」

 

 どうやら、此方の方が仕留めたらしい。

 

 軽空母一隻相手に一航戦……!

 大人気ない気もするわね

 

 至極当然の結果だろう。

 軽空母一隻対正規空母二隻。

 この時点で搭載機の数に差があるのに今回は加賀と翔鶴という新旧の「一航戦」が相手となっている。

 量でも質でも此方が圧倒的だ。

 

 攻めにも守りにも余裕があるのはいいことね……

 

 次第にこんな好都合な状況は滅多にないが、勝ち易い時に状況で戦えるのは理想的だ。

 

「朝潮、皐月。

 潜水艦は?」

 

 私は念のために二人に潜水艦の存在について訊ねた。

 目に見える戦場では既に決着が付いた。

 しかし、潜水艦がもし周囲にいて空母の二人が中破すればこれからの戦いは不利になる。

 それは避けなくてはならない。

 

『いえ、聴音に異常はありません』

 

『僕もだよ!』

 

「そう……

 加賀、念の為だけど」

 

 二人から潜水艦がいないことを把握し、私は次に加賀に訊ねようとした。

 

『そっちも抜かりはないわ。

 同じ事を繰り返すつもりなんてないわ。

 一機たりとも見逃さないわ』

 

「……そう、ごめんんさい」

 

『いえ、確認は大事なことよ』

 

 しかし、それに関してもやはり問題はなかった。

 加賀はあの敗北から仮令、それが相手の奇襲であろうと生き残りによる執念であろうと見逃すつもりはないらしい。

 愚問にも等しい彼女への非礼を私は詫びた。

 

「阿武隈。

 安全を確保したわ。

 全員無事よ。

 山田さんに繋いで」

 

『はい!

 山田さん、どうします?』

 

 空も海上も海中も安全と判断して私は山田さんに伝令した。

 既に問題ないと言えども、独断専行はすべきではない。

 

『……本当に皆さん、大丈夫ですか?』

 

 山田さんは開口一番に私たちの心配をしてくれた。

 本当に他人想いの人だ。

 

「はい。

 艦娘は全員、無事です」

 

 私はそれを伝えた。


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