奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「みんな、いいわね?」
『はい!』
『でも、二隻だけなら……』
『そうね……』
『油断はしませんけど……』
『敵は余裕か、それとも準備が出来ていない……
のどっちかね』
雪風の指示を受けた山田さんの指揮で全員で「単縦陣」を組んだが、全員何となくだがこの後の展開が理解出来て苦笑している。
「加賀、相談だけど」
『分かったわ……
翔鶴』
『はい。仕方ありませんね』
『ごめんなさい。
扶桑、後はお願い』
『えぇ、任せて。
朝潮と皐月は周囲に!
鳥海は私と一緒に!』
『『『はい!』』』
空母の二人と相談の上で私は鳥海と共に例の二隻を仕留めることにした。
今の状況で機動部隊を向かわせるのはこちらの機動部隊の戦力を無駄に消耗することになる。
となることここは砲撃戦が得意分野である私と鳥海がすべきだろう。
この選択を行うのは加賀が確りと偵察をしてくれていると信頼がある。
やはり、あの敗北で強かった加賀はさらに強くなっている。
でも、それは私達戦艦も同じよ……!!
私達戦艦は海域解放の時以外の出番は回ってくることが少なかった。
しかし、それでも私達は決して腐るつもりなどない。
だから、空母たちに負けられない。
「鳥海、最初は私がやるわ。
討ち漏らしをお願い」
「わかりました。
お願いします」
私と鳥海は共にそれぞれの役目を任せた。
先ず、私は外すつもりはない。
しかし、だからと言って一発で片付くとは思っていない。
けれども、敵に手傷を与えることで敵の戦力を低下させることが出来る。
それを鳥海に任せたい。
鳥海の『お願い』とは私の攻めの防御に対するものだ。
防御とは一見すると受け身だと思われる。
しかし、それは違う。
攻めもまた防御だ。
それも仲間を守る為の。
ただ守るだけの防御は確かに自分は安全だ。
しかし、それは味方全体に直接被害を分散させることに他ならない。
受け身の防御では相手の勢いをそのまま味方にぶつけるだけだ。
だからこそ、少しでも相手に打撃を与える攻めも守ることにおいては重要なのだ。
その一番槍を私は任された。
気付いたわね……
私達の姿を確認したのか例の二隻らしい艦影が迫って来るのが見える。
小型の鯨かと一見すると見間違える黒い巨体。
私達と大きさを比べると大きいので、人にとっては十分な脅威であろうし、何も知らない人間が見れば未知の恐怖で錯乱するだろう。
でも、私たちにとっては……!
けれども、私にとっては最早、これは慣れである。
こんな相手に怖気づいてしまえばそれこそこれから出てくる脅威に太刀打ちできなくなる。
よく狙って……!
私は加賀が偵察機を発進させていたことから敢えて、瑞雲を発進させなかった。
この作戦は一日で終わらせる必要がある。
そのことからトンボとりを戦闘ごとに行っていくことで時間が取られることは避けなくてはならない。
だから、今は目測で撃つ。
「主砲!副砲撃てぇ!!」
私は自らの「主砲」と「副砲」を放ち、開戦の号砲を鳴らした。
◇
「は、始まりました……!!」
インカムから轟音が聞こえてきたことでどうやら、扶桑さんが開戦の口火を切ったのが理解出来た。
「扶桑さん、水上機抜きで撃ったみたい」
「そうですね」
「……?
水上機?」
阿武隈さんは扶桑さんが観測機抜き、いや、そもそも瑞雲で先制攻撃を使わないで撃ったことを指摘した。
どうやら目測だけで長距離を狙ったらしい。
山田さんは初めて、耳にしたその言葉に耳を傾けた。
「山田さん。
水上機というのは……分かりますよね?」
「えっと、水上で離着水が可能な飛行機ですよね?
それは分かります」
やはり、山田さんも「水上機」の存在は知っていた。
この世界では「水上機」は軍用機としてあまり使われなくなっていたことから知名度的に不安だったが、どうやら杞憂で終わった。
「はい。
扶桑さんが搭載している水上機は「瑞雲」と言って、爆撃も可能な機体です。
ですが、今回は使用していない様子です」
「え?どうしてですか?」
山田さんは説明を聞いて今回、扶桑さんが「瑞雲」を発進していないことを不思議に思ったらしい。
確かに爆撃が出来るのにそれを使わないのは普通に考えて奇妙だろう。
「そうですね。
その前に山田さんには水上機が持つ主な役割を教えさせていただきます。
阿武隈さん、何かありましたらお願いします」
「うん。わかった」
「ありがとうございます」
私は山田さんに「水上機」の持つ役割について説明することに決め、戦況については阿武隈さんに任せることにした。
「先ず、水上機の基本的な役割は情報収集です。
相手との距離、撃った弾丸の軌道などを母艦に報告したり、敵が何処にいるのか探る役割です。
これによって、敵の本拠地を叩けるかの鍵にもなります」
「情報は大事ですからね」
「えぇ」
私の説明に対して、山田さんが情報の重要さを分かってくれている回答をしてくれたことに安堵した。
情報収集は戦いの基本だ。
それを忘れてしまう人がいる中でそれを分かっている山田さんは将であることの基本が出来ている。
「加えて、情報収集を行った水上機は戦闘においても直接的な役割を果たします」
「直接的にですか?」
「はい。制空権を握って水上観測機や爆撃機を発進させておけば、正確な相手の動きや自分の弾丸の軌道を掴んでより正確な砲撃である「弾着観測射撃」が可能になります」
「そうなんですか……」
私は巡洋艦以上の艦娘が水上機を扱った「弾着観測射撃」について説明した。
特にこの戦いは昼間のうちに終わらせる必要がある事から重要になってくるだろう。
「他にも水上機には航空戦艦や航空巡洋艦等の瑞雲の様な水上爆撃機や二式水戦の様な水上戦闘機を使って先制爆撃や制空権確保を確保する役割もあります」
「水上機って色々な役割があるんですね~」
「はい」
私は駆逐艦なので専門家ではないが、巡洋艦以上の艦娘にとっては重要になってくることであるため、山田さんには是非とも知っておいて欲しいことだった。
「あ」
「……!」
「ど、どうしました!?」
そんな水上機の扱いに対して、ある程度の説明を終えると阿武隈さんが声をあげた。
何かあったらしい。
「いえ、もう戦闘が終わったらしいです」
「えぇ!?」
「あぁ……そうなりますよね」
阿武隈さんが受け取った扶桑さんたちからの入電からどうやら最初の戦闘は既に終わったらしい。
駆逐艦……それも普通のハ級二隻相手に戦艦と重巡、加えて駆逐艦二隻……
それじゃこうなりますよね……
私はその報告に対してそこまで驚くことはなかった。
◇
先ずは中破……!
初撃は当たり、一隻中破程度にすることは出来た。
撃沈に追い込めないのは「弾着観測射撃」を行わず、目測で撃ったのが大きい。
また、見た所目の色から見ても通常のハ級二隻らしい。
どうやらそこまで海域の侵攻も進んでいないらしい。
「鳥海!」
私はすぐに仰角補正を行う手筈を整えると共に鳥海に任せた。
『わかりました!
主砲、よーく狙って!てーっ!』
すかさず、鳥海はもう一隻のハ級を砲撃し、中破に追い込んだ。
結果、敵の動きは完全になくなったも同然だった。
しかし
「……向かってくるわね」
『はい』
既にあちらには退くつもりはなく向かってきた。
……本当に「深海棲艦」のこういうところは驚かされるわ……
私は変わらない敵の姿に驚くしかなかった。
「深海棲艦」の恐ろしさの一つには恐怖を感じていない様にこちらへと向かってくる点もある。
どれだけ、損傷を与えても怯むことなく押し寄せてくる。
私たちが抱く勇気とは異なる執念ともいえないもの。
既に魚雷を撃つことも出来ないのに砲撃だけでも撃ち込もうとしてくる。
それ故に恐ろしい。
「……とどめよ」
『はい』
だからこそ、私は鳥海と共にトドメの一撃を与えた。
そして、硝煙が晴れ、ようやく敵が沈黙したのが確認できた。
「こちら、旗艦扶桑。
最初の遭遇戦はこちらが制しました」
私はこの後の判断を仰ぐために山田さんたちに連絡を入れた。