奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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丹陽!雪風改二……!
最高です!可愛いし……
でも、強過ぎじゃないですか!?


第31話「与える役割」

「あの……山田先生。

 どうしたんですか?一週間も海水浴場を閉鎖なんて……

 その……稼ぎ時に……」

 

「うぅ……えっと……すみません……その……」

 

 例の海辺に到着すると女将さんの清洲さんが山田さんに海を閉鎖している理由を訊ねた。

 彼女の追求は尤もだ。

 恐らく、この辺りの人々にとっての一番の稼ぎ時は夏だ。

 夏になれば海水浴があり、この辺りの美しい海は多くの人々を虜にするだろう。

 そして、この辺りの産業もそれで動く。

 その為、彼女からすればこの季節の閉鎖は死活問題になってくるだろう。

 

「それは一週間前のことが原因です」

 

「あら?あなたは?」

 

「……!加賀さん!」

 

「「IS学園」の関係者の加賀と言います。

 色々と機密事項が関わってきて話せることがありません。

 ごめんなさい。その代わり、今日中に解放させるわ」

 

「……そうですか。お願いしますね」

 

 山田さんが言葉に迷っていると加賀さんが彼女を補佐する様に会話に入り申し訳なさと誠意を持って接したことで一定の理解を得られた。

 最後に加賀さんはこの海域を取り戻すことを遠回しに告げ、日常を戻すことも伝えた。

 それは一時的なものなのかもしれない。

 それでも、決意は伝わったのか不審な目で見られてはいない。

 しかし、これはやはり清洲さんが理知的な人であるのも大きいだろう。

 本当にこの人には頭が下がる。

 

「あら?そう言えば、そこの生徒さんはは?」

 

「はい。この度は生徒の代表として来させていただきました。

 よろしくお願いします」

 

「あら?そうなの?

 大変だと思うけれどよろしくお願いね」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

 清洲さんも薄々、一週間前の例の騒動が絡んでいると思い、「IS学園」の生徒である私がいることにそこまでの疑問は持っていないらしい。

 

 ……思ったら、「IS学園」という上客がいてもほぼ軍学校に近いのに許容しているこの辺りの方々も大変でしょうね

 

 恐らくだけれども、これには相当轡木さんも苦労したと思われる。

 ほぼ軍学校に等しいことから不慮の事故などを考えると地元住民に不安が生じてもおかしくはないはずだ。

 

 轡木さんって……本当に頑張ってますね……

 

 先週の「銀の福音」の騒動からわかることだが、「IS学園」の運営団体である「IS委員会」はかなりきな臭い。

 そんな万魔殿の中で戦いながらも学園をなるべく一般の教育機関に近付けようとしている轡木さん夫妻の努力は並大抵のものではない。

 加えて、様々な方面との調整を行っていることからその手腕は目立たないが改めて優れているものだと感じる。

 

「すみません……

 加賀さん……雪風さん……

 教師なのに私……」

 

 しかし、加賀さんと私が清洲さんにある程度話を付けたことに対して山田さんは本来ならば自分の役割なのにそれが出来なかったことへの不甲斐なさを後悔してしまっている。

 

「大丈夫です。山田さん」

 

「ええ……こういうのは……慣れてるから……」

 

「え?」

 

 しかし、私と加賀さんはそんな彼女の謝罪に対して遠い目をしながら気にしていないと答えた。

 思えば、加賀さんも一航戦時代は大変だったのだ。

 「悪夢のミッドウェー」前は現場を知らない参謀たちが碌な前準備をさせず、事実であったが連戦連勝の報告を発表し続け勢いだけで無茶な戦線拡大や攻勢を世論の力で押し切らせていた。

 それを止めるためにどれだけ、「司令」や他の提督、艦娘たちを含めた司令部が苦労したことか。

 私は一人の駆逐艦として何の権限もない中でその結束を目にさせられてきた。

 そして、その結果妹三人を無茶な作戦で奪われた。

 その後悔から総旗艦時代に私はどれ程「臆病者」と罵られようが耐えてきたものだ。

 

 あの程度と比べたら……まだ思いやりに溢れるだけいいものです……

 

 何かしなければならないのと、何かしてあげられないのでは全然違う。

 軍人ならば当然務めもある。

 しかし、それでもその誰かが明確な時にこそ強く頑張れるものなのだ。

 

「あの~?加賀さん?雪風?」

 

「あ」

 

「どうしたの?」

 

 今回出撃する面々の他にももう一人呼んでおいたもう一人の人物がいつも通りの声を掛けてきた。

 

「何で私なの?」

 

「何を言っているんですか、阿武隈さん。

 あなたほど、戦術指揮に秀でた艦娘は大淀さんか霞ちゃんぐらいしかいませんよ」

 

 私がもう一人呼んだ艦娘。

 それは阿武隈さん。

 私は彼女を戦術指揮官として呼ばせてもらった。

 彼女が自分が呼ばれた理由が分からずオロオロしていた。

 

「そうね。

 話に聞かせてもらったけれど、あなたの活躍は私も耳を疑ったわ。

 お願いね」

 

「えぇ~!?

 あれは木村提督の指示もあったんだけど!?」

 

 私と加賀さんは阿武隈さんにそう答えた。

 彼女は前代未聞の作戦を行った中心人物の一人だ。

 はっきり言えば、彼女ほどの活躍をする艦娘はこれから現れることはないだろう。

 加賀さんを含めたあの伝説を知らない人に教えた結果、全員が驚いていた。

 ただ本人はあれは木村提督の功績だと主張している。

 しかし、それでもあの作戦で彼の指揮を目にしてきたことから彼女の戦術眼は相当なものだ。

 何よりも扱いの難しい甲標的を扱える時点でそれはよくわかる。

 

 ただ……今回はそれ以外にも彼女を呼んだ理由があるんですけどね

 

 しかし、私が彼女を呼んだのは彼女の戦術眼だけが理由ではない。

 本当の理由はもっと重要だ。

 

「うぅ……

 結局、私……旅館の人との交渉にも役に立てませんですし……

 何のために私……」

 

 私たちが阿武隈さんを励まそうとしていると山田さんは気にしないでいいと言ったのにこの世界の人間、それも「IS学園」の教員である自分が交渉出来なかったことへの不甲斐なさを責めていた。

 失敗を気にかけてしまう気持ちは痛い程分かる。

 私自身、何度もそういった経験はあった。

 立場というものはそういったものだ。

 

「何を言っているんですか、山田さん。

 あなたの役割はこれからです」

 

「雪風の言う通りよ」

 

「え?」

 

 確かにこの世界の人間で「IS学園」の教員である彼女の肩書は大きい。

 だけど、彼女をこの場に連れてきた最大の理由は

 

「あなたにはこれから提督代理をやってもらいます」

 

「え……

 ……えぇぇえええええええええええええ!?」

 

 それは提督役としてだ。

 連れて来られた本当の理由を明かされて山田さんはまさに寝耳に水どころではなさそうだ。

 いや、実際、そんなものじゃないだろう。

 

「て、ててて提督って……

 あ、あの海軍のお偉いさんですか!?」

 

「そうですね。

 主に将官じゃないとなれませんね」

 

「そもそも佐官なのに提督をしていた人たちがそう言われたのが異例だったかもしれないわね」

 

 山田さんは「提督」という肩書に恐れおののいている。

 実際、「提督」は本来ならば艦隊指揮官のことを言い、将官でなることはない。

 駆逐隊規模ならともかく、佐官で提督は司令たちも驚いていただろう。

 

 と言っても……駆逐艦で艦隊旗艦や総旗艦やらされた私も……大概ですが……

 

 はっきり言うと、私も同じだ。

 僅か数日ばかりであったが第八艦隊の旗艦をやらされた時は理解が追い付かなかった。

 まあ、それはあくまでも臨時なのである程度は納得できた。

 問題なのは一国の総旗艦をやらされたことだった。

 あの時は本当に気を失いそうになった。

 なので山田さんの気持ちは非常に理解出来る。

 

「ど、ど、どうして私が!?」

 

 山田さんは動揺の余りに呂律が回っていない。

 確かにいきなり、というよりも直前に言われたらそうなる。

 

 ……事前に言わなくて正解でした

 

 ただそれを見て私は昨日、言わなくて正解だったと感じた。

 間違いなく、数日前に言ってたら彼女は不安で睡眠不足になって集中力が落ちていただろう。

 

「だからです。

 山田さん」

 

「はい?」

 

 私はあえて答えになっていない答えを返した。

 

「あなたは常に謙虚です。

 ですから、この世界で最初に私たちの指揮を執って欲しい人物です」

 

「え……」

 

 私が彼女を選んだ理由。

 それは彼女の人柄にあった。

 

「これから先、艦娘も「IS」を使って戦います。

 その際に「IS」に詳しい人間が求められます。

 その中で山田さんが最も提督として人格的に適しています」

 

 何故か、私たちの艤装が「IS」になっていることから、提督には「IS」に詳しい人物も求められる。

 本来ならば、妖精さんが見えるのが条件であるが、この世界にあまり妖精さんがあまり来ていないことからすると、しばらくは前述の基準が求められる。

 しかし、ただ知識と経験があるからいいと言う事ではない。

 

「あなたにはこの世界で最初の私たちの提督として私たちと信頼関係を築いていって欲しいんです」

 

「……信頼関係を」

 

「はい」

 

 私が山田さんを選んだ最大の理由は彼女が優しいからだ。

 これは偏見かもしれないが、この世界で「IS」に携わる人間の中には多少なりの優越感が見受けられる。

 もし、それが表に出れば艦娘との間に亀裂が生じる。

 だから、そんなことが起こさないような山田さんを選ばせてもらったのだ。

 

「それに今回は加賀さんと阿武隈さんもいます。

 安心してください」

 

「ええ。だから、安心して頂戴」

 

「うぅ……戦艦や空母の人たちを差し置いて私が……」

 

「……阿武隈さん。

 それは私にも刺さるのでやめてください」

 

 確かに未経験という事から不安かもしれないが、現場には加賀さんと扶桑さん、本部には私と阿武隈さんがいるのでそこら辺は問題ないだろう。

 ただ加賀さんは流石の風格で構えているが、阿武隈さんはやはり戦艦や空母、重巡を差し置いて自分が戦術指揮官になっていることに萎縮してしまっている。

 それは彼女以上に私の方が一番刺さるのでやめて欲しいところだ。

 

「わ、わかりました……

 じゃあ、お願い……します……」

 

 山田さんはまだびくびくしているが了承してくれた。

 

 良かった……山田さんなら安心です……

 

 彼女が提督役を受けてくれたことに私は安堵した。

 実は刀奈さんや織斑さん、轡木さん、神通さんのお父さんも候補に入れていたがそれぞれが立場もあって断念せざるを得なかった。

 刀奈さんは暗部の長である上に、神通さんが「IS学園」不在の今は負担が増えていることから無理だ。

 織斑さんはこの世界で知名度が高すぎることから現段階では秘密裏にしか作戦を行えないことや「IS」関連の組織に私たちや深海棲艦の存在を嗅ぎ付けられる可能性もあって不可能だ。

 轡木さんや神通さんのお父さんも視野に入れていたが、普段から「IS委員会」から目を付けられていることからこの二人も不可能だ。

 

 ……神通さんが健在なら……何とか出来たんでしょうが……

 

 はっきり言うと殆どの面々が断念せざるを得なくなったのは神通さんという「IS」が戦略的な価値を有するこの世界における最強戦力がいなくなったことで今、世界中が騒がしくなっているのが原因だ。

 もし、神通さんが健在ならば何人かの即戦力を直ぐに提督役をしてもらえたはずだった。

 

 でも、何だかんだで一番好ましい山田さんが提督役をしてくれるのはありがたいことです

 

 しかし、唯一残った候補が山田さんだったのは幸運だった。

 人格面においては間違いなく艦娘たちとの間に軋轢が生まれずさらには謙虚だ。

 何故、提督として謙虚さが求められるかと言えば、勝気な人が指揮官をやれば注意されたりすれば直ぐに苛つき、耳を傾けなくなる可能性があり、暴走しかねないからだ。

 それに山田さんは決して大人しいだけの人じゃない。

 

 何せ……神通さんが認める一流なんですから

 

 山田さんはあの神通さんが認めた人物だ。

 神通さんがただお利口さんなだけの人を認める筈がない。

 それだけの資質を彼女は持っているという事だ。

 

 それに……こういう人ほど、応援したくなりますしね……

 

 また山田さんの完璧ではないところも艦娘たちがやる気を出せるところだ。

 一生懸命な人ほど、支えたくなる。

 そういった魅力を山田さんは直属の上官として持っている。

 

 後は場数だけですね……

 

 残っている課題はそれだけだ。

 しかし、それすらもこの人は乗り越えていけると私は確信している。

 大事なのは折れない様にしていくことだ。

 最初の課題はそれだけだろう。


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