奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
一見すると破れかぶれの突撃やけど……
局地戦でこれやられると戦略は兎も角としてその場にいる兵士としてはたまったものやないな
凰という少女が見せた意地とオルコットという少女の冷静ながらもその場に遭った援護、そして、それらに触発された残り三人の気迫をうちは侮れないものと受け取った。
……護衛なしじゃきついな
実際の戦闘じゃ彼らはこの場合、引くべきだ。
そもそも凰の突撃も戦局を変えるどころか、うちの所に届く前に無念の死を迎えるだけになるだろうし、仲間の遺志を無駄にしまいとする残った他の面々が突撃すればそれは道連れになるだけだ。
命を懸けるとしても仲間を守る為の最後の手段として使うべきだ。
それに今、うちが負ける可能性が僅かながら出てきているのは護衛なしだからだ。
明日から天龍と一緒に訓練するか……
目の前の子達は良くも悪くも若い。
そして、今はその青さが出ている。
今はこれでも問題ないが、次からはちゃんと現実を突き付ける必要がある。
でも……雪風もえぇ友達を持ったな
しかし、軍人として訓練艦としてこんな感想を持つのは失格だが、うちは凰とオルコットの今の様子を見て嬉しかった。
あの子たちは雪風の恋が破れたことに悲しみと憤りを覚えてくれた。
そして、雪風を殴るとも言った。
この子らはうちらと同類やな……
うちには分かる。
この子らも恋をしている娘だ。
だからこそ、雪風の恋が実る実らない以前の終わり方をしたことに怒ってくれたのだ。
余計に死なせたくないなぁ……
うちはそう思った。
うちは恋に破れる前に死んだ。
そんなうちが出来るのはこの子らが恋の決着を付ける前に死なない様に手伝うことだ。
でも、その前に……
「くっ……!!」
昨日、天龍が意見交換した際にこの織斑先生の弟君は精神的支柱であり、『絶対に死なせるな』と言った。
それはつまり、この子があの二人の想い人ということなのだろう。
この少年死なせたらそれこそあの子らはただの「死にたがり」になるだけやな……!!
天龍の考える通り、この少年だけは先に死なせるわけにはいかない。
もしこの少年を失えばこの少年を想うあの二人も心が死に、そのまま「死にたがり」になる。
一人の死が多くの人間の死に直結する。
それは考えられる限り最悪の事態だ。
何よりも……うちの心境的に目覚めが悪いしな……!
恋に生きている乙女たちがその恋の決着がつく前に相手に先立たれる。
そんなことは一人の男が好きだった同じ女として認めるわけにはいかない。
「……短時間で「艦爆」と「艦攻」へ注意を怠らなくなったのは偉いけど―――」
だから、うちは決めた。
「―――「艦戦」の存在を軽く見るなとも言ったよな!!」
「ぐっ!?」
「くっ!?」
「きゃ!?」
「っ……!!」
この子らを絶対に死なせないと。
この子らを死なせたらうちは後悔する。
どんな人間でも死なれたり死なせたら後悔するのは当たり前だ。
けれどもこの子たちは特にそうだ。
そうやろ……!!鳳翔!!
うちは相方にして戦友である鳳翔に心の中で呼びかけた。
空母の母。「お艦」ことおかん。
あの一航戦を始めとした多くの精鋭を育て上げた始まりの空母。
「悪夢のミッドウェー」の後、うちはあいつに会っていない。
だけど、あの母性溢れる優しいあいつのことだ。
我が子の様に思っていた赤城、加賀、蒼龍、そして、それらの艦載機の妖精たちの死を知った時、あいつが誰も見ていないところで泣き崩れたのは想像できる。
うちはこの子らを死なせん……!!
最高の相方の相方ならあいつが出来なかった望みを果たす。
それがあいつよりも先にくたばったうちが出来ることだ。
うちはいないあいつの代わりにこの子らを鍛える。
「ほらほら!
早う、うちに近付かんと他の攻撃隊が態勢を整えるで!!」
「ぐぅ……!!」
あいつの夢。
教え子らを必ず生き残らせる。
そんな無理に近いことをうちは叶えたい。
うちはあいつの代わりにあいつの夢を叶えたいのだ。
「ぬぐ……!
くそっ……!」
届かない攻撃に少年は躍起になる。
この子の為にも全員強くせんとあかんな……
先ほどから前へと前へと少年を始めとした四人は前に進もうとする。
オルコットは既に銃を突撃銃の様に扱い、デュノアという少女は突撃銃を持ち、ボーデヴィッヒという少女も刃と背後から鎖付き苦無の様なものを展開していた。
どうして、この少年にはその刀しかないんや!
外はまだ銃なり色々な装備がある。
しかし、少年は刀だけだ。
これは少年に刀だけを持たせて『死ね』と言っているものだ。
開発者出てこい!
仮に戦闘に使うのなら攻撃という守りを付けんかい!!
常に素の装甲と防御機構か回避か受け流しでしか防御出来ない少年の装備の実態にうちは怒った。
攻撃と言うのはただ相手を倒すだけでなく相手との距離やその対応で一種の防御にもなり得る。
なのにこの少年は近接用の刀しか持っていない。
「IS」は元々、宇宙開発の為のものらしいがこれはふざけているとしか言いようがなかった。
殆ど戦闘の道具になっているもんなのに搭乗者の生命を預かるもんを遊び半分で作んな!!
仮に最初がそうだとしても戦闘紛いの競技、しかも軍事用の者がある時点で兵器としての用途は十分考えられたはずだ。
加えて、この「白式」は最近になって調整できたらしい。
試験機なら兎も角実践紛いのものに何度も投入しているのに搭乗者の命を軽視した設計にうちは憤りを抱いた。
うちらの「艦載機」よりかは「IS」の方が防御は上やけど……!
「IS」同士の戦闘を考えるものの中で十分危険やないか!
うちらの「艦載機」も機動力と載せる機銃の火力を考えて装甲は軽量化されている。
しかし、目の前の機体はそれとは違う。
犠牲にしなくていい火力等の他の性能を犠牲にして常に搭乗者である少年の生命を危険に晒している。
こんなものは本人が理解しておらず、説明もされていなければ論外だ。
『死に逝け』って言ってるも同然や!
少年は先ほどから近付けない。
近付くことしか戦えないからこそ否応なしに前に進もうとする。
しかし、それでも近付けない。
その結果、生命を危うくする。
それも全て仲間の為に。
仲間の為に頑張り過ぎや!
仲間の遺志を無駄にしない。
実際の戦場でもこの子はそうして自らの生命を危険に晒す。
そして、今、実感したが目の前のこの子たちは全員いい子だ。
特にこの少年がそうだ。
織斑先生の愛情が本物だった証だろう。
しかし、だからこそ近接武器しかないことがここまで悪い方へと出てしまっている。
「はいよっと!」
「ぐっ……!」
うちはトドメの「艦爆」と「艦攻」に爆撃と艦攻の波状攻撃をお見舞いした。
結果、燃え上がった闘志はそのまま火元が絶たれてそのまま残りは煙となるしかなった。
「よし、今日の訓練は終了や。
とりあえず、みんな気合いは十分や。
そこは合格」
全員が倒れ伏している中、いつもと同じ声の調子で振る舞いながらうちは「気合い」に関しては『合格』だと告げた。
「でもな、今の振る舞い方は全員不合格やな」
「「「「「!?」」」」」
しかし、あえて心を鬼にしてうちは敢闘賞を与えることは止めた。
「何でだ……?」
「負けたから……?」
「………………」
全員が今のうちの言葉に打ちひしがれた。
確かに頑張っていたこの子達に今の言葉は酷だ。
だけど、それでも言わないといけないことがある。
「……君らの今の負け方は一番あかん」
「え……」
うちは単刀直入にそう言った。
「……負け方?」
「……そうや」
「でも……勝負に勝ち方は関係ないって……」
目の前の子たちはうちの言葉に戸惑いを覚えた。
それはそうだ。
うちはさっき、勝ち方についてはどうでもいいと言ったばかりだ。
「それはあくまでも勝つことに関してや。
でも、負け方は気を付けんとあかんのや」
それでも負けには気を付けるべきことがある。
「それは一体……?」
オルコットが訊ねてきた。
「ええか?
君らの世界で「IS」は幾つある?」
「「「「「!?」」」」
今のうちの発言で全員が何となく理解したらしい。
「うちら艦娘にも言えることやが、君らの「IS」は数が限られてんやから、自分たちの生命を自分たちのものだけと思ったらあかん。
「深海棲艦」は人間大や。それなのに火力と装甲は軍用艦と変わらん。
それを倒せる火力を当てるのは至難の業や。」
「深海棲艦」は人と変わらない大きさの癖に火力と装甲が軍用艦とかわらない。
この世界にある「ミサイル」という兵器は割と有効打にはなると思うが、それでもかなり苦しいのが実情だ。
となると「IS」の様にある程度、艦娘と同等の大きさの兵器がこれからの戦闘を左右する。
だからこそ、この場にいる人間一人一人の生命を守っていくことが人類の未来に繋がっていくことになる。
「だから、仲間が死んでも自分も死ぬ様な真似はすんな」
「!?」
うちは今回の減点理由の本質を言った。
仲間が生命を懸けたのだから自分も生命を懸ける。
それは絆ゆえの行動だろう。
しかし、それで自分たちまで死んだら自分の後ろにいる多くの未来を失うことになるのだ。
「だけど―――!!」
少年が噛みついてきた。
本当にいい子だ。
「……そうやな。今回みたいに敵が一人だったら、ええ。
でも、他に敵がいた場合は相手を倒し切れないと判断した場合はダメや」
「―――う!?」
しかし、それでもこの子達を死なせる訳にはいかない。
もし、その仲間への想いが悪化させるのならばそれこそ救いようがないからだ。
「ええか?
もし仲間が勝つためやなくて、君らを生き残らせるために生命を懸けたらどうするんや?
それこそ、仲間の想いを踏みにじることになるで?」
「!?」
「それは……」
うちは勝ちではなく、負けの時についてのことを言及した。
「今はええ。
そんなことは知らん方がええしな。
でもな、いつも同じ様に考えたらあかん。
ちゃんと仲間の想いも汲み取って動くんや」
「……!
仲間の想い……」
この子たちは仲間想いだ。
その点に関しては満点をあげたい。
でも、だからこそ仲間の想いを無駄にするようなことはして欲しくない。
「そうや。
君ら、もし自分が助からないのに自分を助けようとして友達が巻き込まれたら我慢できるか?」
「……っ!?」
この子たちは恐らく自分が助ける側の目線しか持っていない。
だから、助けることに躊躇がない。
でも、それは助けられる側にとっては大きな悔いにもなる。
この子たちは仲間想いだからこそ、このことを想像させるだけで十分だ。
「だから、君らもこれからはそのことも考えないとあかん。
勝ち目がなかったら、直ぐに逃げる。それも大事なんや」
「そんな……」
「っ……」
全員が衝撃を受けた。
でも、これで前準備は済んだ。
「そのことも含めて明日はうちと天龍の二人相手に訓練してもらうで」
「「「「「!!?」」」」」
最後にうちは明日の訓練について述べた。
さてと……答えを待っとるで