奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「ほらほら行くで!」
「ぐっ!?」
「あ~、もうちょこまかと!!」
「「ブルー・ティアーズ」を展開している暇がありませんわ!?」
「振り払うので精一杯だよ!!」
「狙いが定まらん!!」
再び始まった、いや、継続していた訓練の中、先ほどまでは挨拶と言わんばかりの龍驤さんの「艦載機」による攻撃が俺たちに迫って来る。
その小ささと機動力の高さから俺たちは避けることに手一杯で中々反撃できずにいる。
いや、待て……!
割と隙はあるぞ……!
しかし、よく見ると「艦載機」の数はそこまで多くなく、どうやら「艦爆」と「艦攻」の攻撃は一発ずつが限度らしく、一度の攻撃ごとに龍驤さんの下に帰っていった。
なら、この戦闘機……!
「艦戦」を振り切れれば!
その交代の隙を突ければ勝ち目はある。
だが、それを埋めるように「艦戦」が龍驤さんたちを守っている。
合間を縫って行こうとしても中々できない。
隙があるようで隙がない。
何て恐ろしい相手だ。
だけど……隙がないのなら、隙を作るだけだ!!
しかし、だからといってこのまま避けてばかりでは何も意味がない。
敵の数は多数。
仮令、爆撃の直撃を受けなくても、艦戦の攻撃によってジリ貧になる。
なら、一か八かで打って出るべきだ。
「っ!!」
「一夏!?」
「何を!?」
「ふ~ん?」
俺が前に出ると鈴たちは少し反応するが龍驤さんは少し感心している様子であった。
どうやらこれぐらいは予測済みだったらしい。
なら、それを超えるだけだ……!!
しかし、だからといってここで止まる訳にはいかない。
龍驤さんは言っていた。
『死ねば文句すら言えないし、誰にも聞いてもらえない』と。
ここで活路を開けないのならば、それこそ本当の戦いでは話にならない。
この程度で泣き言を言っている限りじゃ、俺たちは何時になっても自分の身すら守れない。
雪風の力になるなんて……
それこそ夢のまた夢だ!!
『友達を助けたい』。
そんな些細ながらもかけがえのない譲れない願いに手を伸ばすことすら出来なくなる。
泣き言ばかり漏らしていて前に進むことを忘れたら結局はそれは大きな後悔になる。
そっちの方が最悪だ。
「……っ!
中々、やるね」
俺が龍驤さんの近くに寄ると、あのプロペラ音が高く大きくなってきていることから「艦載機」が近付いているのが理解出来る。
少なくても、他のみんなのことは守れている……!
俺が接近したことで龍驤さんの「艦載機」は彼女自身を守る為に後ろの鈴たちから俺の方へと集中した。
仮令、打撃が与えられなくてもこれぐらいは出来るんだ……!!
少しだけ理解した。
攻撃はただ相手を倒す為だけを目的としてない。
攻めることで相手に威圧感を与えて自分に注意を向けさせることで味方を守ることに繋がっていくのだ。
あと少し……!!
かなりダメージを負ってしまったが、それでもあと少しで組み付ける。
それなら何とかなるだろう。
その時だった。
「……惜しかったね」
「?!」
龍驤さんのその一言で俺は今、自分が置かれている状況を理解した。
彼女の方が何枚も上手だった。
「がっ!!?」
理解した直後、俺は爆撃に遭い、俺は吹き飛ばされた。
「ぐ……」
待ち伏せか……
龍驤さんは予め、自分の近くに相手が来るのを予測して、いや、むしろギリギリ引き付けて上空に「爆撃機」を移動させて返り討ちにすることを狙っていた。
正攻法だけじゃなくて……搦め手も一流かよ……
自分すら巻き込む危険性もある攻撃を彼女はしてきた。
普通に戦っても強いのにこんな搦め手すら容赦なく使ってくる。
この人がどうしてあの時、まとめ役みたいな立場になっていたのか理解出来た気がする。
そのまま、もう一度、立とうとした時だった。
「!」
「!?」
龍驤さんは何かに勘付いたのか急に後ろへ飛び退いた。
「へえ~……?」
「……反応が早すぎますわ!?」
「セシリア!?」
俺の背後から四つの影が前に出てそれが「ブルー・ティアーズ」であることに気付いた。
それらはそのまま龍驤さんを攻撃し出した。
「ですけど、一夏さんが作ってくださいました隙は無駄には致しませんわ!!」
セシリアは俺が龍驤さんに向かっている時に「ブルー・ティアーズ」を展開していたのだ。
「おっと!?」
「この距離は苦手でしょ!」
「鈴!」
セシリアの攻撃を回避した龍驤さんに対して今度は鈴が追い討ちをかけた。
その結果、龍驤さんは苦手な間合いに入られたことに戸惑い始めた。
「っ!?」
「一応、うちも軍艦やからね……
機銃ぐらいは持ってるで!!」
しかし、すぐに冷静さを取り戻すと龍驤さんは機銃を展開し、それを鈴に向けて牽制し鈴が少しだけ驚いた隙にそのまま間合いを取り始めた。
「はい、そこぉ!!」
「!」
「セシリア!」
鈴から離れるとすぐに龍驤さんは「艦載機」をセシリアへと差し向けた。
どうやら、「ブルー・ティアーズ」の存在を厄介だと判断したらしい。
そのままセシリアを沈黙させようとした時だった。
「そうはさせないよ!!」
「!?
シャル!?」
するとセシリアに迫り来る龍驤さんの「艦載機」を前にシャルがガルムを構えて、立ち塞がり迎撃し始めた。
「……う~ん、これはちょっ―――
っと!!」
「くっ!?」
「ラウラ!!」
「艦載機」による攻撃が芳しくない様子を見て困り顔を浮かべている龍驤さんに対してラウラが死角から強襲した。
「あちゃ~……
こりゃあ……」
それを間一髪回避した龍驤さんは何か悩んでいた。
「……うちの負けやな」
「……は?」
そして、その直後に腕をあげて降参のポーズをして『自分の負け』だと言ってきた。
「ま、負けって……」
「本当に……?」
龍驤さんの発言に俺たちは耳を疑った。
当たり前だ。
今まで戦ってきた「艦娘」の関係者は誰もが強過ぎて俺たちじゃ勝てるはずがないと思える人達ばかりだったからだ。
それなのにそんな人たちの一人が負けを認めて、俺たちは『勝った』と言われたのだ。
「そうやで?
いや~、まさか負けるなんてな。
アハハ」
龍驤さんは笑っていた。
どうやら、彼女にとってもこの結果は予想外であったらしく本当に負けたらしい。
しかし
「……本当はどうなんですか?」
俺たちは勝った気がせず、彼女に真意を訊ねた。
確かに彼女は自分の負けを認めているが、俺たちにはどうしても勝ったことへの実感が湧かなかった。
「負けは負けやで?
で、勝ったのは君らや。
それ以外に何かある?」
「……あります。
全く勝った気が……」
龍驤さんは俺たちにそう言い聞かせるが、それでも俺らは納得できなかった。
「うち、死んでたで?」
「え……」
俺たちが未だに龍驤さんの敗北宣言に納得できていないでいると龍驤さんは唐突にそう言った。
「君たち、自分の勝利に納得していない様子やが……
どんな形にせよ、決着が着いたらそれで終わり。
負けたら死ぬ。それが戦場やで?」
「「「「「!!?」」」」」
改めて龍驤さんに言われて俺たちはそんなことに気付かされた。
「まあ、確かに味方の損害や消耗、敵の残存戦力は後の戦いに関わってくることや。
でもな……
先ず勝たんと死ぬことになるし、次に戦えんぞ?
だから、君らの勝ちや」
「………………」
彼女は戦場の残酷で冷たいルールを突き付けながらも俺たちに改めて『自分の負けだ』と告げた。
「……そもそも、今回はうちも予想外やったな……」
「え……」
「……いいや、何でもないよ?
じゃあ、補給完了したら次行くで?」
「あ、はい……!」
龍驤さんは何か気になることを言ったがそのままエネルギーの補給を終えたら次の訓練にすると言ってきた。