奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「よぉし!
全員揃ったな!」
何でこうなったんだ?
俺たち四人はSHRの時間で私語をしたということでこのグラウンドで訓練を受けることになった。
元から訓練をしていたことでそれは別だが、何というか罰で受けると言われると嫌な気持ちになる。
また、四人と言うのも正確ではない。
「て、アンタたちも?」
「……それはこちらの台詞ですわ」
何故かお隣二組の鈴までもが天龍さんの訓練に参加することになった。
「……鈴、念の為に訊くけど、どうして君まで呼ばれてるの?」
「……あの二人の自己紹介中に大声を出して『アンタたち!?』って叫んだら、『教師に対する礼儀がなっていない!』て言われて……」
「……容易に想像がつくぞ、凰」
「それ、どういう意味よ、ラウラ」
鈴がどうしてこの場にいるのか分からず、シャルが訊ねた所、どうやら条件反射的に天龍さんたちについ何時もの口調で声を掛けてしまったらしい。
鈴は千冬姉や那々姉さんの様に年上でもある程度付き合いのある人間以外に敬語を使わない普段通りの話し方をしてしまう癖がある。
ある意味、ラウラの言う『想像出来てしまう』は全員の意見としては共通の認識だ。
「というか、それ言ったら、アンタらだって―――!!」
俺たちの反応が気に食わなかったらしく、鈴は抗議しようとしたが
「おい、お前ら。
何でこの場に呼ばれたか分かってんのか?」
「―――え」
「「「「あ」」」」
未だに会話を続けている俺たちに天龍さんが少し威圧的な口調で語り掛けてきた。
「あ~、たく……何でこんなに気が抜けてんだか……
仕方ねぇ、全員でかかってこい」
「「「「「え……」」」」
天龍さんは少し呆れ気味にそう呟いた。
「え?全員で?」
俺たちは思わず戸惑ってしまった。
「ああ、そうだ。
それが何か問題あるか?」
「え!?」
「でも、貴女……
「IS」に触れたのは―――」
「ああ、3日ぐらいだぜ?」
「なっ!?」
俺たちが知る限り、いや、正確にはこの人たちがこの世界に来てからは4日しか経っていないはずだ。
しかも本人が言うには「IS」を使い出したのもまだ3日しか経っていないということだ。
それなのにこの人は俺たちに『全員でかかってこい』と言ったのだ。
「ちょっと!?いくら何でも無茶でしょ!?」
「そうだ!何を考えているんだ!?」
鈴とラウラの二人は天龍さんの真意が分からず、彼女に反発した。
以前、山田先生が鈴とセシリア二人を相手にして勝ったことがあったが、それは山田先生が「IS」の搭乗経験が長かったことや二人の連携が取れなかったことにあった。
しかし、天龍さんは明らかに「IS」初心者であり、相手は以前の倍以上の五人、しかも、前よりも連携が取れている。
どう見ても、狂っているとしか言いようがない。
「あん?
おい、確か凰だっけか?
お前、自分がどうしてこの場に呼ばれたのか忘れたのか?」
「え?えっと……どういう見解なんですか?」
天龍さんにまたしても言葉使いの件で窘められた鈴は少し圧されて丁寧語になった。
うん。まあ、天龍さんは一応、立場上目上の人なので言葉使いは気を付けるべきだろう。
「よし。それでいい。
まあ、何というかあれだ。
一応、雪風に教えてもらったがアイツ以外の俺を含めた連中は初心者だからな。
だから、お前たちと戦っておきたい」
「え?」
「成る程……」
どうやら、雪風に艦娘の人たちは指導されているらしいが、やはり、雪風一人では「IS」の訓練は満足にいかなくて自分の実力を試しておきたいという理由だった。
だから、俺たちを相手にすることで自分の「IS」の腕がどの程度なのかを確認しておきたかったらしい。
と言っても、謙虚そうに思えるが、体罰染みた言い分で呼んでいることから多少横暴だとは思う。
「でも、それなら一人ずつが相手の方がよろしくては?」
しかし、いくら何でも五人同時に相手にすると言うのは無理があり過ぎるという疑問は残った。
「あ~、それか。
それについては
「え……?」
「『都合の一致』?」
そんなシンプルな疑問に天龍さんは自分と俺たちの都合の一致が理由だと返した。
「……一対五なんてのはな、俺たちの世界じゃ生温いんだよ」
「「「「「!!?」」」」」
「よく弱い奴や力のない奴らが身を寄せ合って戦えば勝てるっている一種の美談があるだろ?
まあ、それは当然なくちゃならねぇことだ。
だがな、深海棲艦の連中はそんな絆や友情なんてすらもそれ以上の質量で押し潰してくる。
だから、こんなもんで無茶とか、無理とか、精神論なんて言葉で否定して文句を言っている暇なんて相手は与えてくれねぇんだよ」
天龍さんは片方の目に忌々しさと悲しみと虚しさを込めてそう呟いた。
それはどれだけ多くの悲惨な光景を見てきたのかを物語っていた。
『無茶だ』、『無理だ』、『精神論だ』、『根拠がない』。
そんな人の理性に訴えかける言葉も弱音すらも吐くことが許されないという絶望そのものだった。
「……お前ら、雪風が何て呼ばれてたか知ってるか?」
「え?」
「雪風が?」
唐突に天龍さんは雪風のことについての質問を呈してきた。
どうやら、雪風には何かしらの異名が付いていたらしい。
けれども、どうしてこのタイミングでそんなことを訊いてくるのだろうか。
「……「奇跡の駆逐艦」や「幸運艦」ですか?」
「ラウラ?」
「「奇跡」……?」
「「幸運艦」……?」
ラウラは何となく知っていたらしく、「奇跡の駆逐艦」と「幸運艦」と答えた。
「ああ、確かこの世界におけるお姉様と同一の名前を有している駆逐艦はその幸運っぷりからそう呼ばれているらしい」
「そうなんだ」
「へえ~」
「「奇跡」ですか」
「「幸運艦」かあ~」
俺たちはその「奇跡の駆逐艦」と「幸運艦」という雪風の異名に何処か微笑ましさを感じた。
何というか、妙に親しみが感じられたのだ。
「あ~、和んでいるところ悪いが……
正確には違うぜ?」
「え……」
しかし、そんな俺たちの感想に対して天龍さんは気まずそうだった。
「確かにアイツはどんな激戦地でもほぼ無傷で何時も帰ってくるような奴だが、「幸運艦」じゃなくてあいつは「武運艦」て呼ばれてたぞ」
「え?「武運」?「幸運」じゃなくて?」
「それの何が違うのですの?」
どうやら、雪風は「幸運艦」ではなく一文字違いの「武運艦」と呼ばれていたらしい。
しかし、それ以上に俺は一つ気になることがあった。
「……ちょっと待った?
『どんな激戦地でもほぼ無傷』?」
この人は今、とんでもないことを言った気がした。
戦争の中でほぼ無傷。
いくら何でも信じられないことだ。
「ああ、そうだ。
あいつはな、俺の知る限りでも主要な戦いだけじゃなく、数知れない任務をこなしてきたのに無傷同然で生き残ってきた。
後、軽く地球を何周かするほどの航行距離を移動してるぜ」
「はあ!?」
「地球を何周!?」
「なんだそりゃ!?」
雪風の規格外の戦歴に俺たちは度肝を抜かされた。
地球を何周とか何の冗談だ。
しかも、天龍さんの話を聞く限り何時何処で死ぬかわからない海をだ。
ブラック企業どころの騒ぎじゃない。
何となくだが、雪風の規格外の強さの理由が分かった気がする。
「だろ?
あんな中で雪風と同等と言えたのは、時雨と後、野分ぐらいだ」
「時雨……?」
「野分……?」
また違う艦娘の名前の登場した。
どうやら、雪風クラスの奴が他にもいるらしい。
「時雨ってのはな……夕立、あの金髪で赤目の語尾に『ぽい』が口癖の彼奴の姉だ」
「え?そうなんだ」
「夕立も武勲艦だが、時雨は雪風と同じ位の戦いぶりから「呉の雪風、佐世保の時雨」て異名が付くほどだ」
「お姉様と同格……」
「どんな子なの……」
雪風と同じ位の実力者。
たったそれだけでその時雨という艦娘がどれ程強いのかが窺える。
「えっと……じゃあ、野分っていうのは?」
「………………」
「天龍さん?」
もう一人の野分という艦娘の名前について訊ねると、いきなり天龍さんは黙り込んだ。
何だろうか。
「……野分は雪風の妹の一人だ」
「え……!?」
「雪風の妹の一人……?」
「そうだ」
その野分という艦娘は雪風の妹の一人だった。
「「呉の雪風、佐世保の時雨」て言う歌が流行った時にな、横須賀に所属していた連中が『横須賀の野分」も加えろ!』と強く推してたんだよ。
その際に野分は物凄く恥ずかしそうだったがな」
「へえ……」
「妹も強かったんだ……」
その「横須賀の野分」と言われた野分という雪風の妹は雪風たちと同じ位、強かったのだろう。
ただ結構の恥ずかしがり屋か真面目な人だったのかもしれない。
「あれ……でも……雪風の妹って……」
「あ……」
しかし、野分という雪風の妹という言葉で俺たちはある事を思い出してしまった。
「……神通の話を聞く限り……そういうことだろうな」
「!?」
「そんな……!?」
那々姉さんは雪風は姉妹全員を失っていると語った。
つまりはその雪風と同格の一人と言われた野分という艦娘も同じだということを俺たちは気付かされ、言葉を失った。
「ちょっと待ってよ!?
その……野分って「武運艦」なんでしょ!?
それなのにどうして!?」
鈴は理解したくなくて天龍さんに突っかかった。
当たり前だ。
今まで、天龍さんは「武運艦」をまるで運のいい存在の様に語っていた。
それなら死ぬはずなんてないはずだ。
「……んな訳ないだろ?
死ぬ時は死ぬんだよ」
「え……」
天龍さんは苦々しくそう答えた。
「「武運艦」なんてのもは「武勲艦」の中で今の所、死にかけていないか死んでいなかったりしている連中のことを言うんだ。
それだけ周囲では自分以外の連中が死んでいくのを目にしながらな。
だから、「幸運艦」なんて言葉は使わないんだ」
「そんな……」
「武運」という言葉の中に隠されていたその重みに俺らは愕然とした。
自分以外の仲間が死んで逝く。
そんな生き地獄を戦い続ける。
それがどれだけの苦しみなのか想像を絶する。
「……お前らが踏み込もうとしているのはそう言う世界だ。
どうする?今なら引き返せるぜ?」
そう言って、天龍さんは俺たちにそんな地獄に入って来るのを止めようとした。
自分だけでなく周囲も死んで逝く。
『そんな地獄に足を踏み入れるのか?』と彼女は確かめた。
俺は……
俺はそれを『覚悟している』と言おうとしたが一瞬、全員の顔を見てしまった。
四人とも戸惑っていた。
それは決して、自分たちの身の安全を考えてのことじゃない。
もし、ここで一人でも頷けばなし崩し的に全員をその地獄に道連れにしていくことを恐れていた。
一人の決定が全員の意思を決定してしまう。
俺を含めた面々はそれが怖かったのだ。
でも……
どうしても、俺は『出来ない』という発言も出来なかった。
それは雪風の存在だけが理由ではなかった。
この人もきっと……
天龍さんは同じ苦しみを味わってきたのだ。
それでもこの人はそこに誰かを巻き込むことを善しとしなかった。
この人たちが戦っているのに自分だけがのうのうとして生きるなんて無理だな
この人たちは地獄に誰かを送り込まない為に戦っている。
もしここで俺たちが逃げても彼女たちはそれも本懐だと感じるだろう。
しかし、そんなことをしてしまえば俺たちは自分を許せなくなる。
悪いな、みんな……
俺はみんなに心の中で詫びた。
「それでも、やらせてくれ」
「!」
「一夏!」
この中で俺は「言い出しっぺ」になった。
これで全部、俺が悪いことになる。
それぐらいやらなきゃ、それこそ俺は男として失格だろう。
「その様子だと、他の連中も同じか」
「「「「………………」」」」
呆れてる様子の天龍さんに言われて周りを見てみると、全員が強い意思を込めていた。
そこには「逃げたくない」という意思が込められていた。
それを見て、俺は覚悟を決めた。
「全くよぉ……
このお人好しどもが」
天龍さんは残念そうに呟いた。