奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「しかし……これから、未確認の「IS」が30機以上……
隠すのが大変になるね」
「はい。轡木さん」
私は今、更識家の当主として轡木さんとこれからの「IS学園」に滞在することになる雪風ちゃんの仲間たちの処遇に対して話し合っている。
世界中の政府が喉から手が出る程に求める「IS」が30機以上とそれらを扱える人間も30人以上。
これを隠すとなると、相当な労力が必要となる。
「このまま隠し切るのは無理だろうね。
となると、残された手段は彼女たちを如何にして、「救世主」として扱わせるかだ」
「……それしかありませんね」
轡木さんは無念そうに呟いた。
彼女たち「艦娘」を守る為の手段として残されているのは全ての人類に彼女たちを「救世主」だと認識させることだ。
もし、彼女たちに非道を働けば誰もが怒り悲しむ。
そういった扇動染みたやり方で人々を動かす。
彼女たちにとっては不本意だがそれが必要になってくるだろう。
「「深海棲艦」という存在がいなければ、普通に一般人として暮らして欲しかったところですね」
「ああ……」
私たちが彼女たちを「救世主」として扱うことでしか、この世界での彼女たちの立場を確立出来ないことを悔やんだ。
「深海棲艦」さえ現れなければ、彼女たちは普通に生活を送れただろう。
雪風ちゃんが来た時は既に管理していた「コア」を動かしたことで何時か露見する可能性があったから、事前に誤魔化すことにしたが、今回、彼女たちと共に現れた「コア」はそもそも存在しないものだ。
しかし、「深海棲艦」という脅威が現れた以上、彼女たちの助力は必要不可欠だ。
そうなると、彼女たち全員を世界にとって必要なものである共通認識を持たせる必要があるのだ。
「そうなると……
公表は相当な被害が出てからになるね……」
「……はい」
轡木さんは苦々しくその忌まわしい考えを口に出した。
私はそれに対して彼の苦悩を汲み取り肯定した。
彼の言う通り、彼女たちをこの世界のあらゆる悪意や欲望から守る為にはそれしかないのだ。
世界と自分たちを滅ぼしに来るという分かりやるい脅威に颯爽と現れる「救世主」たち。
人々は挙って彼女たちを受け容れるだろう。
「……我々は人類史上最悪の詐欺師にして、大悪人になるね……」
「そうなりますね……」
そして、私たちは自分たちがやろうとしていることへの愚かさと悍ましさを口に出した。
今、私たちが話しているのは彼女たち艦娘の存在をこの世界に認めさせ居場所を提供する為のデモンストレーション。
つまりは彼女たちの為に多くの無関係な人々の死や悲劇を利用していくことに他ならない。
「……これからの戦いの上では彼女たちの存在は必要になってくる……
しかし、その為の犠牲とは……」
「………………」
当然ながらこれは私が雪風ちゃんを含めた艦娘たちを救う為ではあるが、それは決してヒューマニズムの為だけではない。
勿論、私は雪風ちゃんを個人として好きであるし、彼女の友人たちも助けたいとも思っている。
しかし、今回の決定は今後のこの世界の存亡に関わってくることだ。
数が限られているコアを多く持っている戦力である彼女たち。
対して、ただの一般人。
優先順位を考えると前者だ。
もし、彼女たちがいなければ、これからの戦いで準備が整う前にこちらが負ける。
そちらの方が最悪のシナリオだ。
「川神海将補には……」
私は轡木さんにこの国における要とも言える人物にこのことを話すか悩んだ。
「ダメだ。
彼は良くも悪くも真っ当な自衛官だ。
こんな事は絶対に許容しない」
「……そうですね」
轡木さんの言う通り、川神先輩の父親は本人に言うと苦笑いするかもしれないが、どの人物よりも根っからの自衛官だ。
そんな人物が国民や多くの一般人を犠牲にするかもしれない不作為を善しとする筈がない。
流石……先輩のお父さん……
思えば、この国の防衛組織が未だに防衛力の体裁を保っていられるのは彼の存在が大きい。
仮令、どんな相手でも彼は苦言を呈し、出世を望まない。
ただこの国を守ることしか考えない。
そんな人がいるからこそ、まだこの国は大丈夫だったのだ。
先輩があの人の娘として生まれたのは……
運命だったのかもしれないわね
ただ彼が今でもその地位で戦えているのは娘である先輩の影響も否めない。
先輩の「もう一人の世界最強」という名はある意味、川神海将補の実力よりも遥かに過小評価であるが、それなりの地位を守っている(それでも、もっと上の階級が妥当であるが)。
しかし、本人たちにとっては不本意であるが、あの親子という存在が結果的にこの国をギリギリの状況で保っているのだ。
……でも、あの二人は高潔過ぎるわ……
しかし、同時にあの二人は余りにも高潔過ぎた。
あらゆることにおいて非道を許さない二人の強さは時として脆さと弱さになる。
結果、取るべき選択肢を自ら絞り、最善手を選べなくなる。
実力はあっても、実行力が二人にはない。
そして、それは二人だけでなく雪風ちゃんや艦娘、私が顔を合わせていない後輩たちも同じだ。
全員が真っ直ぐ過ぎる。
だから、こんな汚れ仕事は私たちがすべきだ。
彼らが美しいままでいる為に彼らの背負う汚れ仕事も私たちが引き受けるべきなのだ。
「……更識君。
君は未成年だ。こんな汚い役目はこの老体に任せて欲しい。
君が気負う必要などない」
轡木さんはこれから私たちがしていく汚れ仕事に対して、私に責任はないと実行役から降りる様に言ってきた。
だけど
「いいえ、轡木さん。
それは義務の放棄です。
そもそも更識の当主を受け継ぐことを決めた時から何れこうなることは覚悟してきました」
私は「楯無」として、そして、「刀奈」という一人の人間としてそれを拒絶した。
『楯無を継ぐ』と決めた時から私は自分が汚れていく未来は理解していた。
私が受け継いだ「更識」は確かに対暗部用暗部だ。
確かに暗部から何かを守る為の存在だ。
しかし、だからといって、どうして綺麗事で済ませられる。
『相手から仕掛けてきたから自分は何も悪くない』という考えを私は持っていない。
同時に「刀奈」として、最愛の妹を巻き込みたくないと決めた時から徹底的にやり遂げることを決めてきた。
既に一番、嫌われたくない相手に嫌われているのにこれ以上恐れることなどないのだ。
あるとしても、『雪風ちゃんの友人が果たして私なんかでいいのか?』と思うぐらいだ。
『こう言うのもどうかと思いますが、「帝国軍人」として……
いや、一人の人間として敬意を表したいです』
そして、こんな私のことを彼女は「友」として認めてくれた。
ならば、「刀奈」として彼女の支えになりたいのだ。
もう「刀奈」という名前は簪ちゃんや雪風ちゃんたちのいる陽の世界に置いてきた。
それだけで十分だ。
「……ふ~。
全く、君も雪風君も、川神君も……
大人の立つ瀬をなくしてくれるよ……」
轡木さんは嘆息した。
「すみません。
それでも逃げたくありませんので」
きっとここで逃げたら私は一生後悔することになる。
友達が必死にこの世界の為に戦ってくれているのに、私がここで子供であることを理由に逃げれば、これから色々なことから逃げてしまう。
そして、そのまま一生逃げて自己擁護ばかりをしていくだけだ。
「いいかい?
これは大人としての忠告だが、人生においては逃げることも大事だ。
分かっているのか?」
それでも轡木さんは私を止めようとする。
「お言葉ですが、だからといって何でもかんでも逃げてもいいということじゃありませんよね?」
「全く、近頃の若いお嬢さんは……」
私の返答に対して轡木さんは忌々しそうに愚痴った。
「それはパワハラですよ?」
「はあ~……そう言った言葉をその様に使う人間は君が初めてだよ」
「パワハラ」という言葉で受け流すと轡木さんは苦々しく答えた。
本来、「ハラスメント」問題とは相手が嫌がらせをした時に見せる防衛手段なのだが、私は相手が嫌なことから自分を遠ざけようとすることにそれを使ったのだから、彼が意外そうに思うのも無理はない。
「分かった。
しかし、これから我々がすることはなるべく被害を少なくする方向に持っていく。
だけど、それを決して言い訳に使ってはいけない」
轡木さんはもう私の説得を諦め、私にこれからしていくことへの事実だけを述べた。
どう足掻いても被害者は出るし、それを少なくしたからといって「免罪符」にはならないと彼は言った。
きっと、これは彼なりの最後通告なのだろう。
「それと……
君は自分の幸福を拒絶するだろうが、仮にほんの些細なことでも幸福が訪れるのならばそれを手放す様なことはしていけない。
これは大人として最後に言ってやれることだ」
「……分かりました。
ありがとうございます」
そんなことあり得ないと思う。
でもこの人はそう望んでいる。
そんなこと……望むことすら烏滸がましいわね……
これから私は小さな幸せを抱いていた人たちの死を助けられるかもしれないのにそれを利用とする。
そんな人間が幸せを望むのは明らかに道理に反するだろう。
きっと虚ちゃんは付いてきちゃうんだけどね……
間違いなく虚ちゃんは私を一人にしない為に私に付いてくる。
幼馴染だし、従者としてあの子は私のことを大切に思ってくれている。
月の役目は……本音ちゃんに任せますか
私はあくまでも夜の闇だ。
どんなに光に焦がれても私が光になってはいけない。
だから、私の残す光は本音ちゃんに任せる。
あの夜を照らす月明かりは彼女しか出来ない。
願わくば……
簪ちゃんの人生が平穏であるように……
闇でしかない私は昼に生きる妹の幸せを祈ることしか出来ない。
雪風ちゃんと同じ様に私にも戦う理由がある。
それは昼の光の中で生きる大切な妹が生きてもらうためだ。
そして、その世界を守る。
案外、私も個人的な動機があるのだ。
でも……それだけでいいのよね……
私は簪ちゃんを闇に引きずり込まない様に生きてきた。
それはあの子が生きるであろう世界を守る為だった。
結局、その相手が変わっただけなのだ。