奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第107話「対価」

「これからの話……?

 それはこちらも願ってもない話だ」

 

「……あなたは?」

 

「大和型戦艦二番艦の武蔵だ」

 

「……あなたが……」

 

 織斑さんは武蔵さんの名前を聞くと呆気に取られた。

 やはり、この世界での大和型の名前はあの長門型の二人よりも知られている。

 この世界の歴史を調べていく過程で私が知った事実だ。

 しかし、それはとても悲しい内容のものだった。

 同時にこの世界の私にとってはこの世界の彼女たちとは切っても切れない関係でもある。

 

 どうやって証明しましょうか……

 

 何れこのことは知られてしまうことだ。

 隠しきれないことである以上は話さなくてはならないことだ。

 

「それで今後のこと?」

 

「ああ、それについてだが……

 先ず最初にあなた方の処遇について話させて欲しい」

 

『!』

 

 織斑さんの口から出てきたその言葉に艦娘全員が反応した。

 当然だろう。

 既にある程度、この世界で偽りとは言え、身分を手に入れた私とは異なり彼女たちはまだこの世界において立場が不安定な立場だ。

 

 とは言え、私ももう同じですが……

 

 しかし、それは私にとっても当てはまることだ。

 元々、ただでさえ怪しい素性ではあったが、今回のことで私の正体は多くの人たちに知られることになった。

 つまり、もう「陽知 雪風」という人間は何時何処で「陽炎型八番艦 雪風」として正体を晒されてもおかしくない状況なのだ。

 

「あなた方の身柄は我々「IS学園」で保護させていただく」

 

「「学園」……ああ、そう言えば、先生や生徒などの呼び方をしているのはそういうことか……

 となると、この子らは予備役生みたいなもんか?」

 

「あなたは?」

 

「ああ、うちは龍驤や」

 

「そうですか……多少、語弊はあるがそういった認識で大丈夫です」

 

「そうか。大変やな」

 

 龍驤さんは「学園」という言葉に反応した。

 どうやらこの場にいる艦娘は全員、「IS学園」で保護されることになったらしい。

 それを聞いて私も安堵した。

 以前のシャルロットさんの件もあるが、「IS学園」はあらゆる干渉を受けない一種の治外法権を保持している。

 しばらくは安心だ。

 

「それとその代わりにあなた方に二つの要請をさせて欲しい」

 

「……!」

 

「何や?」

 

 やはりと言うか、無償で保護を得られる訳でもなく、織斑さんはある程度の見返りを求めてきた。

 

「一つ目にあなた方のいう艤装だが、恐らくは雪風のものと同じく「IS」に変質している可能性がある」

 

「え!?艤装が!?」

 

 艦娘たちの間でざわつきが生じた。

 当然だろう。

 艦娘にとっては生命同然の艤装が「IS」という彼女たちにとっては異質なものに変わっているのだ。

 混乱が生じるのも当たり前だ。

 

「え……雪風と同じって……」

 

「えっと……それは……」

 

「ど、どういうことだ?」

 

 同時に一夏さんたちも混乱し出した。

 こちらも無理もない。

 そもそも数の限られている「IS」が一気に増加した挙句、実は今まで一緒に人間の「IS」が自分たちのものとは異なる系統と告げられたのだ。

 

「今まで黙っていてすみません。

 私の「IS」のコアは皆さんのコアとは違って、今知られている数のものとは異なりその数に含まれないものなんです」

 

「「「「「ええええええええええええええええ!!?」」」」」

 

 彼女たちは私の隠していたもう一つの事実に驚愕した。

 何故ならば

 

「それって……469個目のコアってこと!?」

 

「はい」

 

 既に存在する467個のコアに「紅椿」を加えた468個目のコアに含まれない別のコア。

 それが傍に存在した。

 驚くしかないだろう。

 

「「打鉄」の新規パーツというのは!?」

 

「……ごめんなさい。嘘です」

 

 セシリアさんに前に言った「打鉄」の新規パーツという嘘に私は謝罪した。

 

「「第二世代」と「第三世代」の中間と言うのは!?」

 

「……すみません。はっきり言うと世代は不明で織斑さんたちと示し合わせた上での嘘です」

 

 ラウラさんに言われていた「IS」の世代分けに対しても流石に「倉持」や更識さん、轡木さんたちに迷惑がかからないように私は嘘と真実を織り交ぜて答えた。

 

「じゃあ、テストパイロットて言うのは!?」

 

「この機体を起動できるのは私だけらしいのでそのデータを基に新規パーツや次世代機の開発協力という点では本当です」

 

 シャルロットさんに「テストパイロット」について尋ねられたので具体的には言わないけれども私は本当のことだけを話した。

 

「……『私だけ』……じゃあ、雪風以外には「初霜」のコアは使えないのか?」

 

 一夏さんは私のコアが『自分しか「初霜」を使えない』と言ったことに対して気になったらしい。

 

「……恐らくこの世界の人間にはほとんど不可能だと言えるくらい無理だと思います。

 艦娘でももしかすると、若葉ちゃんならば出来るかもしれませんが……」

 

「え?若葉って……」

 

「ああ、私だ」

 

「……どういうことだ?どうしてこの子だけが使えるんだ?」

 

 一夏さんは「初霜」に対する私の推測に対して不思議に思ったらしい。

 初霜ちゃんと若葉ちゃんとの関係を知らなければそう考えるのもおかしくはない。

 

「はい。彼女は「初霜」の名前の由来となり、「初霜」の装備の基本となったものを使っていた娘のお姉さんですから」

 

「「「「「え!?」」」」」

 

 一夏さんたちはまたしても新たな事実を聞いて驚愕した。

 

「「初霜」って……艦娘の名前だったの!?」

 

「……はい」

 

「……どんな娘だったの?」

 

 鈴さんは「初霜」の名前の由来となっている初霜ちゃんについて気になったらしい。

 いや、彼女だけではない。他の五人も気になっている様子だった。

 

「……そうだな。割とおっちょこちょいな奴だった」

 

「え?」

 

「あと、優しくてほんわかしている娘だったよ」

 

 鈴さんの質問に対して、私の代わりに若葉ちゃんと阿武隈さんの二人が答えた。

 確かに私が言うよりも姉である若葉ちゃんと「一水戦」の旗艦だった阿武隈さんの方が詳しいだろう。

 

「ああ、何せ。

 「進水式」の際に転んで顔から海に乗り出した奴だぞ」

 

「え」

 

 あ~……そう言えば、よくそのことでからかわれて恥ずかしそうにしてましたね、初霜ちゃん……

 

 初霜ちゃんは「進水式」の日、天気も波も異常がなかったのに進水した際に派手に転んで周囲は居たたまれない空気になり、一部では『水の中に怖がっていた艦娘がいるらしい』という噂が流れていた。

 その度に初霜ちゃんはかなり恥ずかしそうだった。

 確かに初霜ちゃんは割とおっちょこちょいな一面が多かった気がする。

 それと同時にほんわかとして優しいところもあり、一緒にいると和んでしまう魅力があるのも事実だ。

 だけど、彼女はただ優しいだけじゃなかった。

 

「それでも、アイツの戦闘面での実力は本物だ。

 何よりもアイツの誰かを守ろうとする意思の強さは誰にも負けないぞ」

 

「……!!」

 

 そう。初霜ちゃんの最大の強さは精神面だろう。

 彼女の誰かを守ろうとする意思の強さはどんなことでも歪むことはなかった。

 それは姉妹が全員いなくなった状況でも変わらなかった。

 そして、あの「天壱号作戦」でも仲間や守るべきものが次々と散っていく戦場という地獄の中でも壊れず最後まで冷静であり続けた。

 

「……だから、雪風。

 何度も言うがお前がアイツの名前を使ってくれているのは嬉しく感じる」

 

「え……」

 

 若葉ちゃんはまたしてもそう言ってくれた。

 

「お前の戦いのことは神通さんに教えてもらった。

 長い間、戦ってくれていたお前には確かにアイツの想いは受け継がれているはずだ。

 それが私にとっては誇らしいのだ」

 

「!」

 

「きっと、お前が「初霜」を使うのは偶然ではなく必然だろう」

 

「……若葉ちゃん。ありがとう」

 

 若葉ちゃんは今度は初霜ちゃんの声を代弁するのではなく、姉として彼女の心が私に受け継がれているといった。

 そして、それらの因果となったのが「初霜」だとも語った。

 

「『誰かを守る』……」

 

 初霜ちゃんの強さの一つに一夏さんが反応した。

 彼ならばそこに反応するだろう。

 実際、私も彼女の強さに眩しさを感じた。

 お姉ちゃんも時津風も失った私にとっては彼女のその在り方は大きく思えたのだ。

 

 不知火姉さんや霞ちゃんとは違う意味で初霜ちゃんも強かったんです……

 

 思えば、姉妹を失いながらも気丈に振舞っていた二人も強かったが、初霜ちゃんの強さは形が違うだけで彼女たちと比べても勝るとも劣らないものだった。

 そんな彼女と共に未だに戦えていることを改めて感じさせられて私は胸の奥が熱くなるのを感じた。

 

「……話を進めてもいいか?」

 

「あ、すみません」

 

 私たちが「初霜」の特異性と初霜ちゃんのことについて話していたら織斑さんが話の進行をしていいかを訊ねてきた。

 思えば、今はこの場にいる全員のその後のことが関わってくる。

 話の進行を妨げるのはまずいだろう。

 個人的な話は後にすべきだった。

 

「その為、定期的にこちら側で信用のおける研究機関で調べさせて欲しい」

 

「ふ~ん、つまりはそれも見返りの一つっちゅうことか?」

 

「ああ。すまない。

 ただこちらの方があなた方にとっても安心できると思ってな」

 

「まあ、そうかもな。

 こっちだけただ飯食らって生きるってのは性に合わんしそっちの方が信じられる」

 

「ありがたい」

 

「……?なあ、雪風?

 どうして龍驤さんはそっちの方が『信じられる』と言ってるんだ?」

 

 一夏さんは織斑さんと龍驤さんのやり取り、いや、この場合は取引に対して不思議そうに感じていた。

 しかし、その姿は褒められるべき純朴さと危うさを感じるものでもあった。

 

 まあ、更識さん以外でこの年齢で知っておくべきではありませんよね……

 

 更識さんの様に「裏の世界」で戦う人間ならばまだしも彼は義務教育を終えたばかりだ。

 そんな彼が駆け引きなど知っている方がおかしいのだ。

 

「……疑問に思うことはいいことです。

 でも、世の中には相手の善意に頼るよりも契約を交わした方が安心出来る時もあるんです」

 

「……何でだ?」

 

「契約は相手に対して対価を求めてこちらも対価を出します。

 その際にこちらが対価を出せる状況ならば相手も約束を守り続けるという最低限の安心感は得られます。

 ある意味では相手の善意よりも安心出来るんです」

 

「何でだ?

 千冬姉は―――」

 

「はい。私も織斑さんは信用……信頼するに値する方だとは思います。

 私も彼女に匿って貰いましたから」

 

 私が『契約の方が善意よりも信頼できる』という発言をすると一夏さんは納得していない様子だった。

 確かに私は一般論であり、中には契約を悪用する様な人間もいるのも事実で、今回に限りは織斑さんを信じてもいいとは個人的には私も考えている。

 だけど

 

「ですが、彼女たちは織斑さんのことを知りませんですし、私の時とは異なり彼女以外の複数の人間に存在を知られています。

 残念ながら、今の彼女たちにはある程度の見返りを求められることの方が安心出来るんです」

 

「―――!?」

 

 彼女たちは織斑さんの人格を知らないうえに、今回の契約の当事者は彼女以外の教員の方々も含まれている。

 人の善良さは邪悪さと同じで個人によって差がある。

 織斑さんのそう言った「あるべき姿」は誰でも模倣できるものではない。

 だから、ここは「契約」という大義名分がある程度の強制力を持たせた方がいいのだ。

 

 ただ……公的な内容ではないので法的な拘束力はないんですよね……

 

 結局のところ、今回の件はまだ公には出来ないので何時破られてもおかしくないものだ。

 だから、ある程度人の善悪の判断に任せるしかないのも事実だ。

 

 でも、破ったら破ったで「世界最強」に潰されそうですが……

 

 しかし、効力を持たせるのは良くも悪くもこの世界で絶対的な力の象徴である「IS」における最強の名を冠する織斑さんの存在だ。

 政治や法律などの権力をたまに象徴的なものとして剣で表現する時があるが、そういったものにはある程度の「力」=実行力が存在するからこそ秩序を保つことが出来るのだ。

 つまり、この場では織斑さんこそが「法」なのかもしれない。

 

 ……何処か危険な発想ですが背に腹は代えられないですね

 

 議会的な形態ではないのが不安な恐怖政治に近い形ではあるが、ここではそれがいい意味で役に立っているので大目に見た方がいいのかもしれない。

 

「そして、もう一つ。あなた方に頼みたいことがある」

 

「何や?」

 

 織斑さんさんはもう一つ用件を口に出そうとした。

 それは恐らく、私たちにとっては当たり前のことだろう。

 

「こちらの体制が整うまで「深海棲艦」との戦いをあなた方に任せたい」

 

「「「「「!!?」」」」」

 

 やはり、彼女は私たちに「深海棲艦」との戦いを要請してきた。


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