奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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 ここで一つお詫びしたいことがあります。
 本編入りが五月になると思います。
 本当に展開が遅くてごめんなさい。


第6話「困ったときの」

「雪風ちゃあああああああああああああああああん!!?」

 

「雪風さん!!?」

 

 一陣の風が巻き起こったと思った瞬間、雪風ちゃんは猛スピードで飛んで行ってしまった。

 これまた、初心者の出せる動きじゃないとは思うけれど、今回の場合は地上走行の場合の暴走とは異なってうかうかと驚いてばかりではいけない。

 

「お、お嬢様!

 早く「霧纏いの淑女」を!!」

 

 虚ちゃんは慌ただしく「霧纏いの淑女」の展開を求めてきた。

 

「わかってるわ!!」

 

―キュイーン!!ー

 

 彼女に言われずとも私は即座に自分の専用機を展開した。

 そして、そのまま全速力で雪風ちゃんの「IS」を捕獲できる距離まで詰めようと発進した。

 私の「IS」ならば、多少の距離を詰めれば止めることが可能のはずだ。

 

 くっ……!あれほど気をつけていたのに……

 雪風ちゃんの古傷を抉ってしまうなんて……

 

 なぜこのような事態に陥ったかと言えば、私と虚ちゃんが雪風ちゃんの口から出た「妹」と言う言葉に耳を傾けてしてしまい、それが原因で暗い雰囲気になりそうだったのを雪風ちゃんがなんとか配慮して、彼女が慌てて空気を切り替えようとしたのが原因だった。

 「陽炎型駆逐艦の唯一の生き残り」。

 第二次世界大戦で当時の最新鋭艦であった陽炎型は「奇跡の駆逐艦」ただ一隻(・・)を残して全て沈没している。

 もしかすると、「あちらの世界」の彼女(・・)も同じ道を辿ったのかもしれない。

 それも恐らくだけど、陽炎型は一隻はあやふやだけど19隻あったはずだ。

 彼女は19人いたと思われる姉妹の中でたった一人残されたのかもしれない。

 私たちの不注意な言葉は彼女にそれを思い出させてしまったのだ。

 

「くっ……!間に合わない……!」

 

 私が「霧纏いの淑女」の能力でなんとか壁との衝突を免れる距離に迫る前に雪風ちゃんは壁にぶつかろうとしていた。

 「バリア」や「絶対防御」のおかげで怪我をする可能性は低いとは言え、壁に衝突することになれば、真面目な雪風ちゃんのことだ。精神的にこたえるはずだ。

 そんな焦燥感を抱きながらそれでも距離を詰めようとするが

 

「……え?」

 

 次の瞬間に私は「奇跡」を目の辺りにすることになった。

 

 

 

「あわわ!?」

 

 私は今、爆走(?)している。

 最速の駆逐艦と競争していた「風を愛する駆逐艦」である天津風を思い出したことで風を強く感じる(・・・・・・・)姿勢をイメージしたことと諸事情によって慌てていた私は何も考えずにまるで鳥や魚のような姿勢で飛行しだしてしまった。

 

 どうやって角を曲がりましょう……?

 天津風のように考えるんです……天津風のように……

 

 悲しい性か、「二水戦」で常に極限状態の中の訓練をしてきたり戦場を潜り抜けてきたことか動揺しながらも冷静に私はこのまま爆走することで壁との衝突と言う迫りくる危機を脱しようと天津風のことを思い出そうとするが

 

 ……えっと、天津風てどうやって曲がってましたっけ?

 

 よく思い出してみれば、天津風もその競争相手の島風ちゃんもこんな慣れない動きで左折も右折もしてなかった。

 そもそも彼女たちだって、曲がるときは減速している。

 そして、私は減速の方法すら知らない。

 

「て、もう壁が目の前に!?」

 

 そんなグダグダの中、もう時間はなかった。

 万事休す。

 そう思った時。

 

『飛び越えてみれば?』

 

『ちょ、無理!?』

 

 天津風が目の前に想定外な陸地があることに指示を仰いだ時に冗談を言われた時のことをなぜか思い出した。

 「艤装」は水上じゃなければ浮いて移動ができないの陸地を飛び越えるなんて絶対にできない。

 波があるのならばまだしも。

 

 ……飛び越える。

 

 目の前にあるのは一面の壁。

 飛び越すなんてできない。

 けれど、そんな昔のこの事態を解決するには役に立ちそうにない出来事から

 

 だったら……!

 

 私はあることを思いついた。

 そして、

 

「雪風は……沈みません!」

 

 久しぶりに気合を入れると同時に天津風との思い出から思いついたことを実行しようとした。

 

「うわあああああああああああああああああああああ!!」

 

 私は声をあげながら後方にある足を前に出した。

 私が思いついたこと。それは

 

 止まれないなら……ただ進むだけです!!

 

 壁を垂直に駆け上ることだった。

 止まることも曲がることもできないんだったら上に進むしかない(・・・・・・・・)

 そして、風を切ることを止めないまま私は壁を波面だと思って進んだ。

 

 

 

 私は思わず目を疑った。

 最初、雪風ちゃんがぶつかると思った私は形振り構わずに全速力で彼女を追った。

 そして、間に合わないと思い諦めが頭をよぎろうとした瞬間、雪風ちゃんは驚くべき方法でその危機を脱した。

 

 なにあれ……?

 

 雪風ちゃんは先ず、そのままの速度で前方の壁にぶつかる直前に後ろにある足を前方に持っていき、そのまま壁を地面のようにするかのように滑り出して垂直に走っていき、そして、そのまま壁を軽く蹴ってまるでバク転のように美しい軌道を描きながら地面に降り立とうしていた。

 

 ……どんなイメージを描いたの!?

 

 「IS」の操縦はイメージに強い影響を得るけれども、バク転はともかくとして、その前の壁を走るなんて動作は普通は想像できない。

 と言うよりもイメージできる例えなんかあるのだろうか。

 

 って、今は考えている場合じゃないわね。

 

 我に返った私はすぐに手を伸ばす要領でナノマシンによる水で彼女がもしも着地を失敗した時のために水のヴェールの応用でクッションを作り受け止め態勢に入った。

 

「あ……」

 

 私は冷静になったことであることを思い出した。

 

 ……通信使えばよかった。

 

「IS」に通信機能があることをうっかりと忘れていた。

 

 

 

 ……着地どうしましょう?

 

 私はとりあえず壁との衝突は免れたが、私はいざと言う時のために高所から発艦する訓練はしてきたことはあるが、一回転して着地なんてする芸当はしたことは先ずない。

 と言うか、そんなことがないようにするのが訓練なのだ。

 

 まあ、幸い「IS」の演習場ですし転んだり不時着しても大丈夫なようにはなっている……はずです……

 

 着地を失敗しても演習場に損害を与えないですむと言う希望的観測を抱きながら私は落下していった。

 自分の怪我を気にしないのは戦闘や訓練においては今まで小破ぐらいしかしてこなかったと言え多少の痛みや吐き気は当たり前だと言う自分の経験上から来る慣れだ。

 

 いや、神通さんは少なくとも事故は二度(・・)は起こしませんでしたね……

 

 「鬼百合」と言うちょっと物騒な異名を持ちながらも神通さんは事故(・・)のことに関しては人一倍気にしていた。

 普段は気丈な振る舞いが多いけれどこと衝突に関してだけはあの人は常に心配していた。

 理由としては私たちの一世代前の「二水戦」で起きた事故で危うく沈めそうになった駆逐艦がいたのが大きな理由らしい。

 そんな師の下で指導してもらったというのに不肖の弟子である私は今、事故を起こしそうになっている。

 

 ごめんなさい……神通さん……

 

 師の名前に泥を塗るようなことをしでかしたことに私は謝罪を胸に衝撃に備えようとした。

 

―バシャー

 

「え……?」

 

 しかし、そんな私の背中に伝わったのは地面とぶつかった感覚ではなく、ここにあるはずのない水面にぶつかって水しぶきをあげたかのような感覚だった。

 

 み、水……?

 

 目を動かすとそこには水しぶきが実際にあがっていて、先ほどの感覚が比喩表現などではなく実際に本物の水にぶつかったと言うことに私は気づいた。

 

「雪風ちゃん!」

 

 私が何が起きたのか理解できずに困惑していると私の名前を呼ぶ声が聞こえてきて、その直後に私を誰かが受け止めるような感触がした。

 

「雪風ちゃん、大丈夫!?」

 

「更識さん……?」

 

 受け止めたのは更識さんだった。

 彼女は私の無事を声を少し荒げながらも確認してきた。

 

「更識さん……すいません、心配をかけて……」

 

 彼女に大きな心配をかけさせたことに私は謝った。

 彼女の気持ちはよく解る。

 佐世保で「艤装」が竣工するまでは一緒に過ごした妹の磯風とは私が彼女と合流するまでは離れ離れだったことや僚艦であったお姉ちゃんや天津風と別行動が多かったりと彼女らの安否を気にしたり、さらには長年、いや、もしかすると帝国海軍時代にいた時よりも長く中華民国の旗艦や訓練艦と言う役目をしてきたこともあって自分の旗下の娘や教え子たちが怪我をしそうになったら心配になることが多くあったことから心配する身としての辛さを知る分、居た堪れなくなった。

 

「はあ……よかった……」

 

「お嬢様、雪風さんは!?」

 

 更識さんが安堵の息を漏らすと布仏さんも私の安否を確認しようと駆けつけてきた。

 

「大丈夫よ、ほら」

 

「ほっ……無事でよかったです……」

 

 更識さんは布仏さんに私が無事であることを示すために私を指さした。

 布仏さんも私の無事を確かめて安心したようであった。

 布仏さんにも詫びた後に私はあることに気が付いた。

 

「……それが更識さんの「IS」ですか?」

 

 それは更識さんの外見であった。

 今、彼女の格好は四肢は私と同じように鎧みたいな籠手や垂れを纏っているが、装甲はほとんどないものであった。

 

「そうよ、これが私の専用機、「霧纏いの淑女」よ」

 

 更識さんは肯定しながら自分の「IS」の名称を口に出した。

 

「もしかすると……この辺りの水も……更識さんが?」

 

 私はここら辺一体に発生した水が信じられないが彼女の「IS」が絡んでると考えた。

 

「そうよ、ちょっと見ててね」

 

 更識さんはそういうと私を立たせて何かをしようとした。

 しばらくすると

 

―ツーー

 

「……水が……動いてる?」

 

 私の周りに散らばっていた水が一滴一滴が動き始めたのだ。

 そして、

 

―バシャー

 

 一瞬のうちにその水、いや、その水だけではなく、突如、彼女の肩辺りから水が現れ始めてまるで一つの膜のようになって更識さんを包み込んだ。

 

「水を……纏った……?」

 

 私は信じられないものを目にして思考が止まりかけた。

 

「驚いた?」

 

 私の反応に気を良くしたのか、更識さんは少し満足げに訊いてきた。

 まったく、この人は本当に人をくった性格をしている。

 

「えぇ……びっくりしました」

 

 私は素直に感想を述べた。

 と言うよりもそれしか言えない。

 私のいた世界にも龍驤さんや飛鷹さんたちみたいな紙を艦載機に変える普通の科学じゃできないことをしていた「艦娘」もいたにはいたけれど、水を操るなんて魔法みたいなことをする「艦娘」はいなかった。

 

「この「霧纏いの淑女」はナノマシン……すごく小さい機械を操作してこの水を自由自在に操る能力があるの」

 

「な、ナノマシン……?」

 

 聞き慣れない言葉に私はしばし混乱しそうになった。

 まさか、こんな芸当までできるなんてどれだけ応用が効くんだ。

 

「……それって妖精さんみたいなものですか?」

 

「「……はい?」」

 

 私は思わず、私たちの世界で私たち「艦娘」を手助けしてくれていた存在の名前を口に出した。

 私たちの「装備」が人型の「深海棲艦」の障壁を突破できたのは一説には『妖精の力を借りている』と言う影響があり、さらには私たち「艦娘」も憶測ではあるが、もしかすると妖精さんたちのような存在ではないかとも言われている。

 ちなみに人類の既存の兵器でも一応は人型の深海棲艦にも打撃を与えられる。ただそれには至近距離からの魚雷や戦艦の主砲級の一撃が必要とされるし、さらには生物的な動きをする「深海棲艦」に砲雷撃を当てるのは至難の業だし航空戦力でも致命打を与えられずそれだけで駆逐しようとしたら燃料の関係から片道の攻撃になりかねない。

 だが、それでもあの世界の帝国の軍人だって、命懸けで戦っていたのも事実で彼らの奮戦がなければ生き残った私たちの中にも犠牲者が出ていたのも事実だ。

 決して、彼らの戦いは無意味ではなかった。

 

「よ、妖精……?」

 

「えっと……それて何かの通称かしら?」

 

 「妖精」と言う言葉に二人はある意味、これまで以上に呆気に取られた顔をしてしまっている。

 

「いえ、これぐらい小さい人間の姿をしていて「艤装」や「装備」の整備や開発とか戦闘の手助けをしてくれる存在です」

 

 私は妖精さんと言う存在を解りやすく説明した。

 よく考えてみれば、「艦娘」や「深海棲艦」がいないのならば妖精さんだっていないはずだ。

 

「そ、そうですか……」

 

「と、とりあえず……雪風ちゃんのいた世界が私たちの理解の範疇を超えているのを改めて感じたわ」

 

「いやいや、更識さんだって、今、魔法みたいなことをしたじゃないですか?」

 

 どうやら二人は私の発した事実をおとぎ話のように感じたらしいが、私からすれば、更識さんが妖精さんの力を借りずに水を纏うと言う信じられないことをしたことの方が衝撃的なのだが。

 

「まあ……お嬢様の「霧纏いの淑女」も十分、魔法としか思えませんね……」

 

 私のツッコミに布仏さんは肯いた。

 水を自在に操るということは操れる量にもよるが、物理的にとんでもないことだ。

 水は鉄等の金属と比べれば軽くはあるが、実際に持ってみるとかなり重いしどうやら更識さんは「水を纏う」ことができるらしく、それをまるで障壁のように扱えるのも想像できる。

 それに物理的な攻撃に対する障壁としては、水の衝撃吸収を考えると鋼鉄の装甲よりも軽くはあるが、かなりの防御力を持っていることが窺える。

 実際、大和さんや長門さんでも水の中にいる敵は水が壁として立ちはだかって自慢の火力が通じない。

 だからこそ、私たち駆逐艦や軽巡には対潜水艦としての戦力としても期待されていたのだ。

 

「「「………………」」」

 

 私たち三人はしばらく沈黙した。

 

「発達した科学は魔法と変わりないと言われますけど……」

 

「改めて身に染みたわ……」

 

「いや、妖精さんは科学の産物じゃないんですけど……」

 

 お互いの技術の方向性や生まれた過程、原理の違いに私たちは所謂「カルチャーショック」を受けてしまい、話が進まなくなり、私の暴走の前後の話もどこか去っていった。

 私としてはそちらの方がお互いにとって、気が楽になるので渡りに船なのだが。

 

 

 

 「妖精」ねえ……

 

 ファンタジーやおとぎ話に出てくる存在にどう反応すれば困ってしまった。

 

 もしかすると、雪風ちゃんの世界の科学技術て科学と魔法が融合したものなのかもしれないわね……

 

 私たちの世界と全く異なる原理で動いているであろう文明の存在を想像してしまった。

 

 まあ、とりあえず次の訓練に入ろうかしら。

 

「えっと、じゃあ雪風ちゃん。

 次は止まり方を覚えましょう?」

 

 気持ちを切り替えて先ほどのアクシデントが再び起きても大丈夫なように「霧纏いの淑女」を展開して付きっ切りで緊急措置を教えようと思った。

 

「……はい」

 

 次の訓練の内容を伝えると雪風ちゃんはばつの悪そうな顔をした。

 そんな申し訳なさそうな顔をされると今回の暴走の一因を作った身としては心苦しいので止めて欲しいのだけど。




 夕雲型が妹分ならば朝潮型も陽炎型の姉分として扱うべきだったとひどく反省して、ちょっと改定してこようと思います。

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