奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「成る程、つまりあなたは雪風と同じ」
「そうらしいですね。
まさか、こんなことになるなんて思いもしませんでした」
我々は今、教職員の方々を助けてくれた謎の少女たちと情報を共有するためと余計な混乱を生まない為に彼女たちの一人、本人は『神風型五番艦 旗風』と呼ばれる少女に代表して説明して貰っている。
本来ならば、他の年長の人たちに頼みたかったところだが、信じられないが彼女たち曰くこの「旗風」こそが最年長らしい。
理由としては雪風と強い信頼関係が築けている一夏たちならばただの生徒と教員の関係でしかない我々よりもあの人数でも情報を受け入れられると思ったのがある。
「違う世界って……」
「それに人類の脅威と戦っていたなんて……」
「そんなSFみたいな話が……」
「でも実際に襲われたし……」
「それに助けてくれたから少なくても悪い人たちじゃない気が……」
当然ながら今の話を聞かされてこの場にいる教職員の方々は半信半疑だった。
私も雪風と初めてあった時にそう感じたのだから、無理もない話だ。
ただ自分たちを助けてくれた彼女たちのことを教職員の方々は悪くは思っていないらしくそこは救いだった。
「へえ~……
あのチートちゃんそういうことだったんだ」
「………………」
私はこの場で、いや、世界と宇宙の中で最もこの話題を知って欲しくなかった人物にありったけの殺意を込めた眼差しを向けた。
「束……このことは他言無用だ。
それと雪風には絶対に手を出すな」
束は雪風の正体を知って好奇心を搔き立てている。
どうやら同じ天才という規格外という意味では束は雪風を私と自分の同類だと思っていた、いや、今でも想っているのかもしれない。
「やっだな~、ちーちゃん。
むしろ、そんな不思議な存在なんだから逆に手なんか出さないよ。
だって、天然物は何も加工しないから希少価値があるんだよ?
天然ダイヤモンドとジルコニア。どっちが価値があるなんて自明の理でしょ?」
「……そうか」
束の発言を耳にして私は逆に安心した。
こいつは隠し事はするが、嘘は吐かない。
と言うよりも嘘を吐く必要がない。
だから、ちょっかいはかけてくるが、雪風のことを貴重な観察対象としてか見ていない。
それに他言も他人に興味を持たならば問題ない。
「ところでこの方はどうしてこの様な服装をしておられるのですか?
艦娘の様な方なのですか?」
「あ~……あれは何というか……あいつの趣味だ。
というよりも艦娘にもこんな格好をしている者がいるのか?」
「はい。ただ服装は彼女の方が高くウサギの耳の様なリボンを付けているのが似ているだけですが」
「個性があるのだな」
「はい」
私は旗風の話を聞いて少しだけだが安心した。
こんな年甲斐のない恰好をしている束を見て異世界の人間である彼女にこれがこの世界の人間の一般常識なのだと思われるのならばこの世界の恥になる。
しかし、どうやら艦娘の方も割と服装は個性的だったらしく杞憂に過ぎなかったらしい。
「しっかし、「雪風」ねぇ……
まさか、「奇跡の駆逐艦」、「呉の雪風」、「最優秀艦」の異名が沢山ある伝説的駆逐艦の擬人化か。
そりゃあ、強い訳だ」
「……知っていたのか?」
この世界の駆逐艦雪風の戦歴を知っていたらしく、雪風の強さに納得していたらしい。
まあ、知っているとは私も感じていたが。
「当たり前だよ。日本の軍艦だと三笠や大和、武蔵の次くらいには有名だからね。
あ、台湾じゃ三笠レベルだっけ。
束さんが知らないはずがないじゃん」
「……そうだったな」
思えば雪風のことを調べてみると恐ろしいほどまでにエピソードに事欠かない軍艦だ。
ある程度、知っていれば誰でも知っているのは当たり前なのかもしれない。
「雪風はそんなに有名なのですか。
それと大和さんと武蔵さんもあの三笠さんと同じくらいと言われるとご活躍されたのですね」
「ああ、それは―――」
私は旗風の感想に何も言えなかった。
当然だ。
この世界での戦艦大和と武蔵の言われ様を知って入れば彼女、いや、彼女たちに言えるはずがない。
後ろの教員たちも全員困ったような顔をして『何とか誤魔化して!』と必死に訴えている。
その時だった。
「え~と、それは違っ―――ゲブッ!?」
「―――その装甲の厚さを見て敵側から『怪物』、『島を攻撃している様だった』と言われたらしい」
馬鹿が何か言いそうになったの力尽くで止めて、なるべく悪い情報は隠した。
「そうなのですか……
あのその方は大丈夫ですか?」
「問題ない。
こいつは簡単に死なん」
「は、はあ……」
大和や武蔵は確かにスペック上では「最強の戦艦」と呼ばれるに相応しい戦艦だった。
しかし、それらを有名にしたのはむしろ時代に合わなかった悲劇だった。
大艦巨砲主義の終焉が見えていたのに造られた世界最強の戦艦。そのスペックを活かす機会に恵まれず、最期は滅びの美学に使われるために自殺にも等しい作戦に投入されたというのがこの世界一般での二隻の評価だ。
あるのは『無用の長物』と馬鹿にされる後世の人々の評価と敵の攻撃を何度も受けてなお耐えたという完成度だ。
そんな救いのない話を彼女たちにわざわざ話す必要がない。
「ところで「深海棲艦」だが、あれらはどれぐらいでこの辺りの海を支配する」
「え!?」
「織斑先生、どういうことですか!?」
私は話題を反らすと同時に彼女たちと共に姿を現した脅威である「深海棲艦」について訊ねた。
私の知る限りあの「深海棲艦」という謎の敵は過小評価すべきものではないと思える。
雪風の話からしてもし奴らが本格的にこの世界に現れれば、直接的な被害だけでなく間接的な被害でも億単位になりかねないだろう。
雪風の『全ての海を奪われ、さらには島どころか北米大陸すらも取られた』の発言から勢力の拡大を許せば、上陸する可能性は間違いなくあるだろうし、人類は内陸部への後退を余儀なくされ、日本などの島国国家は下手をすれば滅びる。
そうなれば、多くの難民が生まれるのも明らかだ。
また今回受けた敵のビット攻撃から対空能力と制圧力も高いことから空も危険だ。
そうなると海は勿論、上陸することから陸路にも、対空能力から空路すらも危うくなり物流も途絶える可能性がある。
しかも更なる問題として敵が未知の存在であるということだ。
どういった条件であれらが発生するか分からない以上、何時何処に現れて見えない敵と戦うも同じになり間違いなく民衆がパニックになり治安すらも危うくなる。
話を聞いただけであったが、実際に現れるとここまで厄介とはな……
雪風から散々「深海棲艦」の脅威を聞かされてきたが、私はそのことに驚いてはいたが何処か他人事にしか感じていなかったと初めて自覚させられた。
実際に現れたことで「深海棲艦」が紛れもなく人類にとって最悪の敵だということを理解させられることになってしまった。
「……私たちの世界では約五年程で日本は大陸以外と遮断され、米国は本土喪失、ソ連は内陸部に引きこもり、欧州はヴェルサイユ体制を放棄し一致団結せざるを得ない状況におかれました」
「!?」
「たった五年で!?」
「アメリカすらも!?」
旗風の具体的な説明で「深海棲艦」の戦力が如何にして凄まじいのかを我々は確認させられた。
前から雪風にアメリカが北米大陸を奪われたことを聞かされていたが、まさか他の国家までもそこまで追い詰められていたとは思いもしなかった。
後の東西冷戦で東側の盟主であったソ連までもが内陸部に撤退する形になった。
広大な領土を持ちながらも極寒の地から出たいという渇望が大きく不凍港への執着も強いあの国が内に引きこもるしかなかったというのだ。
それも焦土作戦などではなく、反撃の目処のない状況でだ。
それとヨーロッパの情勢は予想外だった。
まさか、1930年代にEUの様な体制を形成するとは思いもしなかった。
EUは物や人の流通を活発化させるだけでなく、長い歴史の中でヨーロッパの国々同士の争いが勃発していたことからそれを克服しようとしたのが形成された理由の一つだ。
つまりは人類同士の争いをしている余裕がなかった、いや、失ったということだろう。
それ程までに追い詰められたか……
海からも人々を遠ざけ、陸地を牢獄とし、空からも恐怖を振り撒ける。
その結果、理性が消え、生命は失われ、文明が意味もなくなっていく。
霊長などという名前が驕りだと見せられているかのようだった。
……雪風たちの世界の人間が一か八かに賭けた理由が理解出来る……
たった5年で人類の歴史がただの自然史になろうとしていたのだ。
人類は援軍なき籠城戦を強いられていた
一般的に籠城戦をすべきなのは援軍の保証があること、もしくは相手の継戦能力が尽きることが大前提だ。
しかし、話を聞けば「深海棲艦」の物量は世界全体に同時に圧力をかけられたことから援軍は期待できないうえに、その継戦能力も桁違いであることも把握できる。
もしただ内に引きこもっていれば滅びの時間の到達を遅くすることが出来たとしても、ジリ貧になり最終的に滅びを待つだけだろう。
その緩やかな滅びも外からの襲撃に怯え、ネズミの様に逃げ隠れるか、食糧や資源の枯渇による餓死、略奪、口減らしなどといった救いようのない未来しか残されていないだろう。
そして、最期に思うのは『どうして勝てるうちに、戦えるうちに戦わなかったんだ……』という無念だろう。
「へえ~。
すごい継戦能力だね。それに加えて昔の戦艦並みのスペック。
しかも、生物の様に増えて、指揮も統一出来ている。
理想的な軍隊だね」
「え……」
「……束。貴様に一般的な倫理が分からないのはこの際、放っておく。
今は黙っていてくれ」
「え~?」
私は「深海棲艦」をべた褒めしている束に黙っていて欲しかった。
別にこいつのこの性格は慣れているし、一対一ならば別に問題ない。
だが、今は目の前にこいつの「
その前でウキウキするのは本気でやめて欲しい。
「じゃあ、今の内に叩かないと……!!」
「そうよ!早く倒さないとこの世界も……!」
教職員の態度は完全に戦々恐々だった。
きっと彼女たちも初めて目にした「IS」でどうにもならない未知の敵に対して確かな恐怖を抱き始めたのだろう。
彼女たちの言う通り、私も叩き潰すべきだと考えている。
「……いや、それは無理だろう」
「え!?」
「どうしてですか、織斑先生!!」
だけど、私はそれは不可能だと理解した。
「あの「IS委員会」が大きな影響を及ぼしている今の世界情勢でこんなことを言っても動くと思うか?」
「うっ……」
「それは……」
「?」
「IS」を唯一絶対のものだと思っている「IS委員会」が強く及ぼしているこの世界で「深海棲艦」相手に本格的な対策をすることは不可能だろう。
この世界では『ISは無敵だ』と過信し絶対神話の域に陥っている。
仮に「深海棲艦」が本格的に表れたとしてもそれこそ『IS至上主義』の名の下に高を括り続け、それが敗れた際には思考停止に陥るだけになる。
何よりも今回の「銀の福音」の騒動で「IS委員会」が当てにならないのは容易に想像できる。
またしても川神さんの危惧が当たってしまったか……
あれ程「IS」に頼り過ぎる軍縮に警鐘を鳴らしてきた川神さんは「当たり前」のことを言っていたことを突き付けられる形になった。
仕方ない……川神さんと楯無、轡木さんと一緒に考えるか……
表立って何も出来ないのならば、今のうちに川神さんと裏で活動できる楯無さんと「IS学園」の影の経営者であり政財界に影響のある轡木さんの三人と示し合せて善後策を考えるしかないだろう。
恐らく、この世界で何れ訪れる本格的な脅威に備えることが出来るのはこの三人ぐらいだろう。
「……旗風、こんなことを初めて会った人間に言うのはどうかと思っている。
だが、お願いだ。力を貸して欲しい」
「………………」
「!」
「織斑先生……」
だけれども、訪れようとする破滅と脅威をただ待つわけにはいかない。
情けないことではあるが、目の前の彼女、いや、彼女たちにはそれを先延ばしに出来る力がある。
彼女たちに時間を稼いでもらい、その間にデータや証拠を示し、こちらの体制を整えるしかない。
本格的な敵の出現までに少しでも敵の戦力を、いや、人類側の犠牲を少なくせねばならない。
この世界で雪風を戦わさなくてはならないとは……
旗風に協力を仰ぎながらきっと私が頼まなくても雪風は自分の意思で戦ってしまうだろうが心の中で雪風に再び、それも彼女が長い間戦ってきた相手と再び戦わせることになってしまったことが悲しかった。
雪風にはこの世界で価値観が異なるとはいえ、平和に暮らして欲しかった。
「……わかりました。
ですが、これはあくまでも私の意思です。
他の皆さんの意思も尊重していただきませんか?」
「!
ああ……!すまない……!」
旗風は全員とは言わないが、彼女個人の意思では引き受けてくれると言ってくれた。
そのことに私は僅かながらの希望を感じた。
そして、同時に
私が生んだ歪み……
それが原因でこいつらを死なせてなるものか……!
彼女たちを私が生んでしまった世界の歪みの犠牲者にするまいと誓った。
この世界が「深海棲艦」を「IS」の存在の影響でまともに取り合おうとしないのは「白騎士事件」による「IS至上主義」が原因だ。
それは私の罪だ。
その罪に彼女たちを巻き込んでなるものか。
ちょっと。ア〇ゴジとマブ〇ヴ、進撃〇巨人みたいになってしまいますが、あれってある意味では艦これ世界の最悪の未来図だと思います。