奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第100話「再会と集結」

「で、雪風。

 もう大丈夫なの?」

 

「……うん。ありがとう。

 叢雲ちゃんの方は?」

 

「アタシも大丈夫よ。

 夕立は?」

 

「私も大丈夫……ぽいかな?」

 

 二人は私がしばらく泣くのを止めるまで待ってくれていた。

 そんな彼女に私もまた『大丈夫か』と訊ねると叢雲ちゃんは強く気を持ちそのまま夕立ちゃんにも訊ねた。

 夕立ちゃんは完全に大丈夫とは言えないまでも優しく私たちを安心させようとしてきた。

 

 ダメですね……

 もう私の方が年上なのに……

 

 思えば、この二人は私よりも先輩であるが、既に実年齢は私の方が上になってしまっている。

 それなのに私は彼女たちに心配をかけさせてしまった。

 

 いけませんね……

 それこそが一番の心配になるというのに……

 

 二人に心配をかけさせまいとして逆にそれが心配になってしまう。

 そんなことはこの世界で何度もしてしまった失敗なのにまた私は繰り返しそうになってしまった。

 

 少しずつ……少しずつでもいいから……

 直したいです……

 

 既に身に付いてしまった悪癖であるが、それでも私は直したいと思った。

 少なくても、もう嘘を吐かないでいい人たちがいてくれて、嘘を吐かなくてはならない理由もなくなったのだ。

 だから、少しでもいいから直していきたい。

 

 本当に優しいですね……二人とも……

 

 私は色々な優しさに触れてきた。

 初霜ちゃんの様な誰かを思いやれる優しさもあれば、お姉ちゃんの様な根本的に愛してくれる優しさもある。

 時津風や本音さんの様なあたたかい優しさもあれば、シャルロットさんの様な献身的な優しさもある。

 そして、今回叢雲ちゃんも夕立ちゃんも異なる形の優しさを私にかけてくれた。

 

 ……その優しさに応えたいから

 

 この優しさにこれ以上偽りで応えたくない。

 私は強く感じた。

 

「雪風さん?

 大丈夫ですか?」

 

「……山田さん?」

 

「山田先生?」

 

 しばらく落ち着いていると部屋の外から山田さんの声が聞こえてきた。

 どうやら、彼女も何かしらの報告を終えたらしい。

 

「はい。大丈夫です」

 

「そうですか。良かっ―――」

 

 とりあえず、私は心身共に安定してきたことを伝えておいた。

 その直後だった。

 

「って、皆さん!?

 落ち着いて―――!?」

 

「え?」

 

 突然、山田さんの慌てる様な声と廊下の外で複数人の人間がどたどたしている様な足音と話し声が聞こえてきた。

 そして

 

「雪風!!」

 

「雪風ちゃん!!」

 

「えっ!?あ……」

 

 扉が勢いよく開かれてそのまま何人かの人たちが続々と入ってきて私に近寄ってきた。

 その人たちを見て私は呆気に取られた。

 

「雪風!大丈夫ですか!?」

 

「朝……潮ちゃん……?」

 

 私は最初に呼び掛けてきた人の顔を見て唖然とした。

 私と同じ「二水戦」の一員で、本来ならば陽炎姉さんと同じで次代の水雷戦隊を担うはずだった娘。

 私にとっては同門の駆逐艦娘であり、あまりの懐かしさに神通さんと金剛さんの時と同じくらいの衝撃を受けてしまった。

 

「本当に雪風ちゃんだ!」

 

「ああ、紛れもなく」

 

「髪伸ばした?」

 

「皐月ちゃん……若葉ちゃん……それに照月ちゃんも……」

 

 朝潮ちゃんに続いて皐月ちゃんと若葉ちゃんと照月ちゃんの姿とも再会した。

 既に金剛さん、加賀さん、叢雲ちゃん、夕立ちゃんとの再会である程度は予想できていたことであったが、それでも彼女たちとも再会できた衝撃は想像以上だった。

 だけど、これだけでは終わらなかった。

 

「おう!雪風!

 随分と立派になったらしいじゃねぇか!」

 

「そうクマ。

 まさか、駆逐艦がそうなるとは予想しなかったクマ」

 

「うん。それに随分と大人びてるね」

 

「本当だ……」

 

「!?

 天龍さん……球磨さん……阿武隈さん……阿賀野さん……」

 

 次に呼び掛けてきたのは軽巡の人たちだった。

 天龍さんは気さくに呼びかけ、球磨さんはいつも通り飄々としながらも確りしており、阿武隈さんは嬉しそうにし、阿賀野さんは少し落ち込んでいる様に感じられた。

 

「もう、皆さん。静かにしないと」

 

「うむ。その通りだ。

 だが、これは目出度い。飲み明かそう」

 

「那智!直ぐに飲みに持って行かない!」

 

「その通りですわ。

 それにここには学生の方々もおられるのですし、レディとしては静かに振舞うべきですわ」

 

「そうですね。

 私もそう思います」

 

「古鷹さん……那智さん……鳥海さん……熊野さん……筑摩さん……」

 

 軽巡の人に続いて今度は重巡の人たちが訪れ、古鷹さんがやんわりと窘め、それに対して那智さんも続くがしかし、結局のところお酒好きな彼女はこの再会を祝って飲もうと言い出し、それを鳥海さん、熊野さん、筑摩さんが止めるというやり取りを繰り広げ始めた。

 

「お、賑やかでええなぁ」

 

「はい!やっぱり、こう雰囲気がいいですよね!」

 

「そうですね」

 

「ええ……でも、私には眩しいかも……」

 

「ふ、扶桑……ほら大丈夫だから」

 

「ああ。その通りだ。折角の再会だ!湿っぽいのはなしでいこう」

 

「……龍驤さん……蒼龍さん……翔鶴さん……扶桑さん……陸奥さん……武蔵さん……」

 

 そんな私と駆逐艦、軽巡、重巡とのやり取りを見て嬉しそうにしていたのは空母と戦艦の皆さんだった。

 龍驤さんは私たちの再会が明るいものであることを善しとし、蒼龍さん、翔鶴さんはそれに続くが、扶桑さんが憂いを帯びた姿を見せ、それを見た陸奥さんが慌てて励まそうとし、武蔵さんはこの再会を湿っぽくしたくないと言ってきた。

 だけども

 

「う……」

 

「雪風?」

 

 私はまたしても我慢が出来なくなってきた。

 

「うあああああああああぁあああ!!!」

 

「ゆ、雪風!?」

 

「どうしたの!?」

 

「あ~、もう……まあ、そうなるわよね……」

 

 私はもう先ほどとは異なり大泣きした。

 それに対して朝潮ちゃんと照月ちゃんは慌て出し、叢雲ちゃんは仕方なさそうにしながらも納得した。

 こんなにも沢山の私が守りたかった人たちがいる。

 そして、彼女たちは私を優しく迎えてくれている。

 その優しさに私は耐えられなかった。

 

「あっははは……

 何だ、雪風?それだけ立派になっていながら子供みたいだな?

 まだ子供か?」

 

「……天龍さんだって涙ぐんでいるじゃないですか?」

 

「なっ!?馬鹿ちげーよ!

 これはだな、目にゴミが入っただけでな―――」

 

「はいはい。

 そんなお約束は結構クマ」

 

「球磨、テメー!!」

 

 泣きじゃくる私を見て、天龍さんはからかっていたが、情に脆い彼女も涙ぐんでいたらしく、阿武隈さんがそれを指摘すると恥ずかしがって否定するが、今度は球磨さんに『お約束』だと片付けた。

 どうやら古参故に慕われているみんなのお姉さん分の天龍さんは変わっていないらしい。

 

「そうだな。

 そう言えば、雪風。お前も年齢的に酒は飲めるようになっているな。

 どうだ、この後―――」

 

「て、だからすぐにそっちに持って行かないの。

 ここには駆逐艦の娘たちもいるんだから」

 

「そうですわ!それに今、雪風は学生だと言われたばかりですわ!?」

 

「―――むっ。皆、堅いな」

 

 一方、重巡組は那智さんが私が既に実年齢を20歳を超えていることからお酒を進めて、それを口実に酒宴に持って行こうとしたが、重巡にとっては全てのお姉さんに等しい古鷹さんと基本的に真面目なお嬢様気質の熊野さんに止められて不満気だった。

 実際、私もお酒には強い。一升ぐらいはいける。

 けれども、酔うと寂しさが増してしまうのでお酒は苦手だ。

 

「も~……皆……」

 

「まあ、ええやないか。

 辛気臭いのは。それに皆変わらんなぁ」

 

「え……まあ、そうですけど……その……」

 

「あ、すまん……」

 

「龍驤!そこで黙るな!逆に空気が重くなる!!」

 

「そ、そうですよ!

 ここは細かいことは気にしない方針でいきましょう!」

 

 空母と戦艦の皆さんは温かい目で見守ろうとしたけれども、ちょっと複雑な境遇でみんながここにいる理由を思い出して顔を暗くした。

 

 ……ここは触れるべきではありませんね……

 

 あえて私はそこに触れまいとした。

 私と彼女たちでは歩んできた境遇が違う。

 彼女たちはあの頃と変わらず、私だけが変わった。

 

 ……私には浦島太郎の故郷の人たちですね……

 

 過去の人たちは今のままでここにきて、私は過去から未来へと進み今に至った。

 私にとっては過去の傷なのに対して、彼女たちにとってはあの出来事は直前のことであったのだから仕方ないのかもしれない。

 

「雪風」

 

「……何ですか?」

 

 私が少し彼女たちと歩んできた時間と感情のずれに揺れていると朝潮ちゃんが声を穏やかな声で語り掛けてきた。

 

「あなたが元気そうで安心しました」

 

「え……」

 

 朝潮ちゃんは真っ直ぐな目でそう告げてきた。

 

「あの戦いであなたは生き残ってくれていたんですね。

 それだけで私は嬉しく思っています」

 

「あ……」

 

 朝潮ちゃんはあの「ダンピールの悲劇」で私が生き残ったことをただただ喜んでくれた。

 彼女にとっては自分や味方だけでなく、実の妹すらも命を失った戦いであり、それは直前のことであったはずなのに私が生きていることを彼女は喜んでくれた。

 

「ありがとう。雪風」

 

「っう……朝潮ちゃん……」

 

 朝潮ちゃんのその純粋な発言に私は幾らか救われた。

 

「雪風。今、お前が使っているのは初霜の艤装か?」

 

「若葉ちゃん……厳密に言えば違いますが、大体はそうです……」

 

「そうか……」

 

 次に私に語り掛けてきたのは若葉ちゃんだった。

 どうやら私が自分の妹の初霜ちゃんの艤装を模した「初霜」を使っていることを知って何か思うことがあったのだろう。

 私自身、「初霜」には何度も助けられてきたこともあるが、若葉ちゃんが何か言いたいことがあるのは理解出来た。

た。

 それに最後に初霜ちゃんと駆逐隊を組んでいたのは私だ。

 そのことについても何かあるのだろう。

 

「……お前が使ってくれているのならきっとあいつも喜ぶはずだ」

 

「え……」

 

 身構えていた私の反応とは反して彼女は私が「初霜」を使うことを喜んでくれた。

 

「話は聞かせてもらっていたが、この世界でお前は初霜の艤装で何度も多くの人を助けていたらしいじゃないか?

 ありがとう。あいつの姉として礼を言わせて欲しい」

 

「若葉ちゃん……ありがとう……」

 

 彼女は「初霜」を使っていたことを認めてくれた。

 それだけで私はどれだけ報われただろうか。

 

「……全く、あなた達。

 先に行かないの」

 

「あ……」

 

「加賀さん……」

 

 私たちが再会の余韻に浸っていると加賀さんが部屋に入ってきて窘めてきた。

 

「此処はあくまでもそこの山田先生を含めた「学園」が借りていて私たちは一応は部外者よ?

 気持ちはわかるけど落ち着きなさい」

 

「堅いこと言うなぁ……加賀は」

 

「節度は大事です」

 

 加賀さんはこの場にいる艦娘たちに騒ぎすぎないように釘を打ってきた。

 確かに彼女の言う通りだ。

 私もうっかりそのことを忘れていた。

 

「それと雪風。

 あなたも忘れてはだめよ」

 

「え?」

 

 加賀さんは唐突に私に忘れていることがあると言ってきた。

 

「ある意味、と言うよりも私たち以上にあなたのことを心配していた人たちがいるのだから」

 

「あ……」

 

 加賀さんは少し厳しめだけど思いやりに溢れる言葉で私のことを待ってくれていた人たちのことを言及してきた。

 

「ごめんなさいね。

 割とこういう人たちばかりなので」

 

 そして、彼女は部屋の外で待っている人たちに入る様に促してきた。


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