奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「加賀さん!!」
「……遅くなってしまったわね。
ごめんなさい」
雪風を助けに向かった一人である加賀と呼ばれる物静かな女の人は山田先生に代わって俺たちの知りたかった情報を答えた。
「……加賀さん」
「神通……!
……あなたまでいたとはね……それとその怪我は」
「………………」
加賀さんは余り動揺を顔に出してはいなかったが、やはり那々姉さんの存在と怪我の状態には衝撃を受けた様子だった。
「……あの!
雪風たちは本当に無事なんですか!?」
鈴は少し、物怖じしながらも加賀さんに突然訊ねた。
恐らくだが、加賀さんは事情を呑み込めていない。
それでも鈴は、いや、俺たちは本当に全員が無事であるのかを一刻も早く知りたかった。
「……ええ。
雪風と黒髪の女の子と金髪の女の子の三人は全員無事よ。
今は念の為に違う部屋で休んでもらっているわ」
「!?」
「本当ですの!?」
「よかった……!」
「ああ……!!」
俺たち四人は全員が無事でいてくれたことに心の底から安堵と喜びを覚えた。
こんな絶望的な状況の中で俺たちは『もしかしたら……』と不安になっていた。
しかし、それは起きなかった。
これ以上に喜ぶべきことがあるだろうか。
「加賀さん。
それ以上に喜ぶべきこととは何ですか?」
「せやな。
どうやら雪風を含めたこの子らの友達の無事以上に喜ぶべきことがあるとはどういうことや?」
「……?」
俺たちが喜びの中にいると那々姉さんが加賀さんの口から出てきた『雪風たちが無事であること』以外の『喜ぶべきこと』に言及し、龍驤さんもそれに続いた。
確かに加賀さんの言い方だと他にも何かある様に思えてしまう。
「ええ、それは……」
加賀さんが彼女たちに何かを告げようとした矢先だった。
「Wow!Amazing!!」
『!!?』
加賀さんの静かな声とは対照的な陽気な英語が突然、部屋中に響き渡った。
だ、誰だ……!?
俺は今までどこかしんみりとした雰囲気が一気に吹き飛ばしたこの不思議な声の正体を探そうとして部屋の入り口を確かめた。
すると、そこに立っていたのは茶髪をまるで某ドーナツ店の中身のクリームが丁度いい甘さの渦巻状のドーナツの様な形にまとめた巫女服に似た服装をした大学生位の女性だった。
「こ、金剛さん!?」
「え!?本当に!?」
「金剛さんだ!?」
「ば、馬鹿な……」
「?」
どうやら件の女性もまた艦娘であるらしく、名前は『金剛』という第一印象からとても考えられない勇ましいものらしい。
「本当に皆さんがいるなんテ……!」
金剛という人はこの場に彼女たちがいることに信じられない様子でいるが、それ以上に喜びが勝っている様子だった。
「……加賀さん。
朗報とは金剛さんのことですか?」
「そうよ。
それに深海棲艦の艦隊に襲われていた雪風とシャルロットという子を助けたのも彼女よ」
「え!?」
加賀さんの言う『朗報』というのは金剛さんの存在もあったが、更には彼女が深海棲艦に襲われていて絶体絶命だった雪風とシャルを助けてくれたらしい。
俺たちからすれば、それこそ何よりにも勝る朗報だ。
「ユッキーがあんなVery pretty girlにGrow upしていたのは驚きでしタ!」
「ゆ、ユッキー?」
なんだこの人……のほほんさんみたいな人だ……
まるでのほほんさんみたいに雪風のことを親し気に愛称で呼ぶ姿に俺たちは呆気に取られた。
「あの……あなたは?」
金剛さんの独特な雰囲気にすっかり、ペースを乱されている中、セシリアが意を決して声を掛けた。
すると
「これは失礼シマシタ!
私は英国のヴィッカーズ社生まれの帰国子女の金剛型一番艦の金剛デース!!
よろしくお願いしマース!!」
「え、英国!?」
何と目の前のどう見ても巫女服でイギリスらしさが感じられない彼女はイギリスの帰国子女らしい。
その事実を受けてイギリスの「代表候補」であるセシリアは特に衝撃を受けたらしい。
「ヴィッカーズと言えば……イギリスにあった重工業メーカーではないか!?
まさか、本当に!?」
ラウラは違う意味で衝撃を受けたらしい。
どうやら「ヴィッカーズ社」というのはイギリスの企業だったらしく、軍事関係者かミリタリーマニアにしか分からない衝撃なのだろう。
「……なんか、すごい人が来たわね……」
「あ、あぁ……」
俺と鈴は金剛さんの強烈な個性に困惑していた。
もう既に「艦娘」や「違う世界」、「深海棲艦」というそれ以上に衝撃的な出来事の影響で混乱はしなかったが、それでも彼女のキャラには圧されてしまう。
ただそんな俺たちでも感じられることがあった。
「しかし……まさか、あなた達と再び出会えるとハ……!!」
彼女が非常に嬉しそうだということだった。
彼女は笑顔でいるが、目に涙を少しだけ浮かべていた。
それは間違いなく喜びの涙だろう。
けれども涙を流しながらも彼女の明るさはそれ以上だったのだ。
「こ、金剛さん……」
「ふっ……変わりないな、お前は……」
「そうね……」
金剛さんの明るさに対して彼女たちは少し苦笑いしながらも今までの悲愴感が薄らぎ、癒されている様にも感じられた。
彼女の存在が一気に彼女たちを照らした様にも思えた。
「あの……那々姉さん……あの人は?」
俺は少し彼女の存在が気になって那々姉さんに訊ねた。
「金剛さんは現役の艦娘の中では最古参の方で我々にとっての重鎮です」
「えっ!?」
「あの人が!?」
那々姉さんの口から出てきた金剛さんの驚くべき事実に俺たちは驚愕した。
人を見かけで判断するのは悪いと思うが、あんな風にハイテンションかつ童顔の人がまさかこの場にいる人たちの中でも一番立場が上と言うのが信じられなかった。
「No!
神通、私はそういうことを気にしませんヨ?」
「……そういう人でしたね、あなたは」
「せ、先生が……」
「素直に従っている……」
金剛さんのそういった序列を気にしない振る舞いに対して那々姉さんは一歩引くように素直に従った。
那々姉さんは礼儀正しいが、何処か他人よりも決して引かない気構えを普段からしているので俺は那々姉さんにとっては先輩である千冬姉との関係とは金剛さんと那々姉さんの関係は違うと感じた。
「ですが、良かったです……
雪風にとってあなたの存在は大きいので」
「え?」
「先生、この人と雪風とはどういう?」
那々姉さんの『雪風にとって』という部分が気になり、鈴は訊ねた。
どうやら彼女もまた雪風と関係が深い人らしい。
「そうですね。
金剛さんは私よりも雪風との付き合いが長い方と言っても過言ではありません。
何せ「艦娘」としての在り方を教え、訓練を始めるまで雪風の面倒を見ていたのは彼女です」
「え!?」
「最初にユッキーに会った時、彼女はAngelだと思いました!
可愛くて可愛くて仕方ありませン!!」
なんと金剛さんは那々姉さんよりも雪風と付き合いが長い人らしい。
それを説明されると金剛さんは昔を懐かしむ様に親バカの様なものを発揮している。
どうやら、この人は相当雪風のことを可愛がっていたらしい。
「なんと!お姉様はそんなに愛らしかったのですか!?」
「ら、ラウラ!?」
そんな金剛さんの雪風への溺愛ぶりに雪風Loveのラウラが食いつかないはずがなかった。
「OH!
『お姉様』とはユッキーの事ですネ?
ユッキーも隅に置けません!
そうですネ……例えば、あれはユッキーに初めて紅茶を振舞った時でした……
あの子は紅茶の渋みと苦みで中々飲めないで砂糖を多く入れたり、お菓子を沢山入れてまるでハムスターの様でしたタ!
その時の笑顔ときたら……!!」
「え……」
「嘘……」
金剛さんはにこやかに雪風の子供っぽい、いや、もしかするとその時は名実共に子供だった時の微笑ましい一面を語りだした。
「意外ですわね……」
「え、ええ……」
「雪風てストレートで飲んでるのにな……」
雪風はたまにセシリアに誘われたりして紅茶を飲んでいる時があるが、その際には決まって無糖で飲んでいる。
その姿には俺たちだけでなく、セシリアに鈴、他の生徒たちまでもが『大人っぽい』と感じさせられたので雪風のそんな一面に俺たちは驚いた。
「ほほう……
雪風の奴……」
「割と大人ぶっているらしいな」
「間宮や大和のアイスや伊良湖の最中を貰うとあれだけ目を輝かせたり」
「間宮券を失くしたら泣きじゃくってたのに」
「あらあらこれは後で色々とからかわないとね」
「私たちを悲しませた罰として」
金剛さんの告げた雪風の意外過ぎた一面に俺たちが現在の状態を告げると彼女たちは少し楽しそうに言い出した。
しかも驚くことにからかうだけで自分たちを悲しませたことをチャラにしようとしている。
何だろう。ただそれだけでいいのだろうか。
「ふむふむ……
ユッキーも紅茶の楽しみ方を沢山知ったのでショウ!
今から、彼女とまたTea timeを楽しみたいデス!」
金剛さんは彼女たちとは異なる意味で雪風の紅茶の好みに興味を抱き始めた。
「あ、あの……
もしかしますと雪風さんに紅茶を教えたのはあなたですの?」
セシリアは金剛さんの口ぶりからそう理解し確認した。
すると
「その通りデース!
ユッキーには戦い以外のことも教えたいと思ってレディとしての在り方や英国の料理や娯楽、文化を教えてましタ!」
「!?」
「で、では……雪風さんの言っておられた『英国出身の人』とはあなたのことでしたの!?」
何と雪風がセシリアに対して怒った時に言及していた『イギリス出身の人』とは金剛さんだった。
その事実に俺とセシリアは衝撃を受けた。
「ユッキーにそう思っていられるのは嬉しいネ!」
金剛さんはまるで娘に『自慢の母親』と言われた時の様な母のように満面の笑みを浮かべた。
……でもこの人すごいな
俺はふとあることに気付いた。
あれだけ重かった空気がこの人のお陰でなくなったぞ……
今までの深刻さと悲愴さに満ちていたこの場の雰囲気が消え去り、暖かくて優しい空気がこの場にあった。
何か自然と会話出来てるし……
何よりも今まで何処か見えない壁の様なものが感じられたものが俺たちと彼女たちとの間から消えていた。
すごい人だな……
初対面、それも「異なる世界」の人間同士をすんなりと受け容れさせた金剛さんの姿に俺は感嘆してしまった。