奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「80年って……え!?」
武蔵さんの発言に俺たちは耳を疑った。
「うむ、そうらしいな。
だがそれも正確ではないらしいが……」
武蔵さんは少し困り顔をしながらもある程度肯定した。
「て、ことは……「タイムスリップ」てことなのか!?」
「ん?「時間跳躍」という意味か?
まあ、文字に表すとそうなるかもな」
俺はつい反射的に口走ると武蔵さんはそれを和訳して難なく受け入れた。
「ちょっと待ちなさいよ!?
それなら何で英語が分かるのよ!?」
「ん?」
「お、おい、鈴?」
そんな武蔵さんの抵抗のなさに鈴は噛みついてきた。
「どういうことだ?」
武蔵さんは少し不思議そうにその意味を訊ねてきた。
「だって80年前って……戦前てことでしょ!?
その時は確か「外来語禁止」とか言われていたはずなのにどうしてわかるのよ!?」
「あ……そう言えば……」
鈴はそう言って彼女たちが英語に対して抵抗感なく受けて入れていることに疑問を呈した。
実際、鈴の言う通り、戦時中の日本では英語は使うことを止められていたのはよくドラマや学校の授業などで知られている。
そう考えると、彼女たちの反応に違和感を覚えるのも無理はないと思ったが
「何だそれは?誰がそんな馬鹿馬鹿しいことを始めたのだ?」
「え……」
「ん?」
武蔵さんは少し呆れたように言った。
「だって、よくテレビとかで……」
武蔵さんの反応が予想外だったのと彼女の妙な迫力に鈴は怯んでしまった。
「テレビ……?
そんな希少なものがこの世界では普及されているのか!?」
「え!?」
「!?」
嘘だろ!?
この人、テレビを希少だと思っているのか!?
武蔵さんは「テレビ」が希少だと思っているらしい。
俺はその反応に深刻さを感じた。
俺は忙しくて見る暇はなかったが、テレビは今や一家に一台があるのが普通の日常品だ。
だからこの人の反応は明らかに異常に感じる。
「そんなにも進んでいるのか……」
少し落ち着きを取り戻して武蔵さんは未だに衝撃が抜けないまま『進んでいる』と呟いた。
「武蔵。しゃあない。
80年も経っていれば人間の文明は発展するやろ?
うちらの国やて開国してからそうだったやろ?」
「……そう言えばそうだったな……
すまん。少年よ、話を進めさせてもらうぞ」
「あ、ああ……よろしくお願いします」
龍驤さんの指摘を受けて武蔵さんは何か納得したらしい。
まさか、『開国』って……「明治維新」のことか!?
恐らくだがもし彼女たちの言っていることが全て本当ならば彼女たちが言っているのは「明治維新」のことだろう。
確かに江戸時代と昭和を比べればその科学技術はSFレベルの違いはあるだろう。
というよりももうそれしか考えられねぇ……!!
本当は納得できていないが、彼女たちの立場や場合を考えればそれぐらいしか条件に当てはまる出来事がない。
「ところでそこの少女……『外国語を禁じていた』というのはどういうことだ?」
「え!?えっとそれはその……違うの?」
武蔵さんに改めて突っ込まれて鈴は尻込みした。
どうやら彼女、いや、彼女たちからしても戦時中のあの愚行には疑問を感じざるを得ないらしい。
「当たり前だろう?
そもそも少なくとも我々は海軍だ。
帝国海軍は世界最強の海軍国家である英国を基に作られた海軍だぞ?
海軍の用語の中にはZ旗を始めとした英語が未だに使われている。
それに海の上で戦うのだから途中で海外の軍関係者と出会った時に意思疎通が出来なければ困るだろう?
海軍では軍学校を出た者ならば必修科目だろ?」
「「………………」」
武蔵さんは英語を禁止していた人間への呆れをオブラートに包みながら丁寧に説明した。
俺たちはそれに驚くどころか感心してしまった。
「どうやら、彼女たちの発言にはある程度の真実味があるらしいな……」
「そうですわね……」
「ラウラ?」
「セシリア?」
武蔵さんの説明にラウラとセシリアは何かしらの説得力を感じ取ったらしい。
「どういうことなんだ?」
「……一夏さん。
彼女の発言には呆れは込められていましたが、悲しみはありませんでしたわ。
それはつまり……」
「彼女たちがあの大戦……いや、この世界の歴史を知らないということだろうな」
「!」
「え?どういうこと?」
セシリアの言う通り、武蔵さんの説明には外国語の使用を禁じていたことへの呆れは込められていたが、そこには悲しみは存在しなかった。
ラウラとセシリアはそれが意味していることに気付いたらしい。
「……そうか……」
「あ……!」
「うちの国は……そんなことをしたのか……」
武蔵さんと龍驤さんの二人は俺たちの会話からそれがかつての日本で行われていたことであること理解して先ほどとは異なり悲しみ出した。
「……それに戦時中……それで外国語が禁止となると……」
「そういうことだろうな……」
二人の間に生まれた悲しみは彼女たち全員に伝わり始めた。
「80年……それもどうやら「深海棲艦」のいない世界ならば……そうなるのも……」
「仕方のないことかもね……」
彼女たちの何人かは悲しみながらも何処か納得気だった。
「皆さん……」
そんな彼女たちのことを那々姉さんは同じ様な悲しみを抱きながら見詰めていた。
「先生……?」
「那々姉さん……」
那々姉さんの様子を見て俺と鈴はようやく何となくだが理解出来た。
本当に那々姉さんは……
とても信じられないが那々姉さんは彼女たちの仲間、つまりは「艦娘」らしい。
「……あなた達が異なる歴史を辿った世界から来たのはある程度理解しましたわ……
つまり、その……あなた方は……その世界の日本海軍の軍人なのですわね?」
セシリアは丁寧に彼女たちの身の上の確認をした。
「そうだ。
それで、どうやらここは「深海棲艦」も「艦娘」も現れなかった歴史を辿った80年後の未来……つまりは西暦の2022年ということだな?」
「はい」
武蔵さんはセシリアの質問の内容を肯定し、彼女は自分たちの現状を把握したらしい。
ようやく俺たちはお互いの状況を理解出来た。
どうやら彼女たちは「第二次世界大戦」が勃発しなかった世界から来たらしい。
同時にあの謎の敵と戦っていた存在でもあったらしい。
「……ところで神通。
お前はそこの少年に『那々姉さん』と呼ばれていたな?
それはどういうことだ?」
「はい!それは私も気になっていたことです!
神通さん!どういうことですか?」
「!」
「先生!アタシも!『神通』てどういうことですか?」
両者の理解が出来たことで残されたもう一つの謎は那々姉さんのことだった。
彼女たちは那々姉さんのことを『神通』と呼び、俺はこの人を『那々姉さん』と呼んだことに対してそれぞれが疑問を抱いている。
少なくとも、俺の記憶では那々姉さんは俺が子供の頃から世話になった人だ。
もし彼女たちの仲間だとする大きな矛盾が生まれてしまう。
「……そうですね。
私自身、雪風がこちらの世界に来なければあの世界での出来事はただの夢物語の様に感じるしかありませんでした」
「え……」
「『夢』だと?」
那々姉さんは雪風が来なければ目の前で起きていることを「夢」だとしか思っていないと言った。
一体、彼女は何を思ってそう考えたのだろうか。
「……簡単に言わせていただきますと、私は前世では「艦娘」だった人間です」
『!!?』
那々姉さんの告白に俺たちは『艦娘だった』という言葉に、彼女たちは『人間である』という言葉に、そして、全員が『前世』という言葉に驚愕した。
まさか、そんなオカルト染みた言葉まで出てくるとは思いもしなかったからだ。
「『前世』だって!?」
「はい。私はこの世界では「川神 那々」という人間として生まれ変わった「神通」という名前の艦娘です。
そして、神通としての記憶は7年前に取り戻しました」
「……生まれ変わりだと……?」
那々姉さんの言っていることがよくわからず俺は混乱してしまった。
彼女の言っていることが本当ならば那々姉さんは神通という名前の艦娘の生まれ変わりらしく、そして7年前まではその記憶がないらしい。
ん……七年前……?
だけど俺はその7年前という言葉に何か引っかかるものを感じた。
「!?
もしかすると、あの時の……!!」
俺は7年前のとある出来事を思い出した。
いや、とあるではない。世界を震撼させたあの大事件の際に俺と箒の前で起きた世界にとっては些細な事ではあったが、俺たちにとっては大きな出来事だった。
「そうです……一夏君。
私はあの時に全て思い出しました……」
「………………」
あの時とは、あの「白騎士事件」の時だ。
那々姉さんはあの時、俺と箒を連れて避難している際に突然苦しみだし、その後意識を一日失っていた。
「……あの時、色々な記憶が頭に蘇ってその負荷か分かりませんでしたが頭痛で倒れてしまいました。
心配をかけてごめんなさい」
「……そうだったんだ……」
那々姉さんは申し訳なさそうにあの時の真実を打ち明けた。
確かにあの時、俺と箒は日本中がパニックに陥っている中で頼れる人が倒れたことで不安になった。
その翌日、目を覚ました彼女が俺たちを心配させまいとしていた子供ながらに分かった。
だけど、まさかそんなことになっているとは思いもしなかった。
「最初はただの「夢」だと思ったのですが、次第にその記憶から感じた悲しみや切なさ、愛おしさが全て自分のものだと自然と受け容れられたんです……
それを私は胸の中に秘めて今まで生きてきました……」
「那々姉さん……」
「先生……」
「神通……」
「神通さん……」
俺たちは彼女の独白にこの人が7年間何を感じて生きてきたのかを想像してしまった。
雪風と同じなのか……
那々姉さんは雪風と同じだったのだ。
かつて那々姉さんは俺に『』と言っていたのは雪風と同じ様に彼女もまた後悔を抱いていたのだ。
そして、この人は7年間孤独だったのだ。
一人で抱えていたのか……
誰にも相談することも出来ず那々姉さんはたった一人で自らの過去を抱えていた。
それがどれだけ辛いことなのか俺には想像できない。
「……雪風が来た時、私は何処か救われた気がしました……」
「!」
「雪風が……?」
「……はい」
那々姉さんは後ろめたそうに雪風の存在に『救われた』と語った。
恐らく、それは自らの秘密を共有できる人間と自分の記憶が決して偽りではなかったことへの安堵だったのだろう。
それだけ那々姉さんにとっては雪風の存在は那々姉さんにとってはかけがえのない存在なのだろう。
「……でも、あの子の悲しみは私以上でした……」
「え……」
だけど、那々姉さんは悔やむ様にそう告げた。
「……?
神通、それはどういうことだ?
……!?まさか……!?」
那々姉さんのその表情に最初、武蔵さんは怪訝に思ったが直ぐに不穏なものを感じ取り、焦りを見せた、
いや、彼女だけではなかった。
「嘘……」
「そんな……!?」
「じゃあ、私たちの戦いは……!!?」
全員の表情が絶望に染まり始めた。
一体、彼女たちが想像している絶望とは何なのだろうか。
「……いえ。
そうではありません。少なくとも、あの戦いは人類が勝ったらしいです……」
「え!?」
「本当か!?」
「……はい」
那々姉さんは彼女たちの想像している答えは違うと答えた。
その結果、彼女たちの間から絶望は薄れていき全員が希望に満ちた顔をし出した。
「……ですが、彼女にとっての悲しみは終わることがなかったんです……」
「?」
けれども、那々姉さんだけは表情を曇らせたままだった。
それはまるで雪風が辿った人生を暗示しているかのようだった。