奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「あなたは……」
「あんたは……」
その人物の登場にこの場にいる全員が目を大きく開いて驚きを示した。
「那々姉さん!?」
「先生!?」
「神通!?」
「神通さん!?」
「「「「………………え?」」」」
この場に現れたのは車椅子を自ら動かし所々、いや、既にそれが本来の皮膚だと錯覚するほどに包帯を右目と左手を除く身体の全てに巻いている那々姉さんだった。
その姿に全員が度肝を抜いた、若しくは生きていたことに衝撃を受けている人間が多数を占めたが、その衝撃が一瞬なくなった。
それは俺や鈴が彼女の名前を呼ぶと同時に那々姉さんのことを『神通』という違う人の名前で呼んだ龍驤さんと朝潮と呼ばれている子が同時にそのことで呆気に取られて、その空気がこの場の全員も感じたからだった。
「あの……すみません。
龍驤さんと……朝潮さんでしたっけ?
神通さんて誰のことですか?」
俺はまたしてもよく分からないことが出来たのでとりあえず確認しようと思った。
「何言ってんねん?
どう見てもこいつは神通やないか?
君こそこいつの知り合いか?」
「は?」
だけど、逆に龍驤さんに変な人を見るかの様な目を向けられた。
「先生!?もう大丈夫なんですか!?」
「神通さん!?
一体、その怪我は!?」
俺たちが那々姉さんの呼び方に戸惑っていると鈴と朝潮という娘が血相を変えて那々姉さんの方へと駆け寄った。
「「え」」
しかし、ここでも顔を見合わせてお互いを呆気に取られながら見つめる状況が訪れた。
「フフフ……」
那々姉さんはそんな二人の様子を見て微笑んだ。
「神通……その怪我はどうしたんや!?
とっとと入渠せんと!!?」
「にゅうきょ……?」
龍驤さんは那々姉さんの怪我の様子を見て慌てて『にゅうきょ』という言葉を促したがそれは何を意味するのだろうか。
どこに「入居」するんだ……?
俺は何処かの家に移る「入居」を連想したが全くこの場合に当てはまらないので混乱した。
いや、それよりも……!!
だけど、それ以上に那々姉さんの状態を見てどうしてこんな大怪我をしているのにこの場にいることの方が重要だ。
「那々姉さん!?病院は!?怪我は大丈夫なのか!?」
俺は動揺しながらも何とか訊ねた。
すると返ってきたのは
「処置が済んで目が覚めて病室でこの状況を内緒話をしている先生たちと病院の人たちを耳にして箒ちゃんが心配になったので「IS」を展開して車椅子を抱えながら抜け出してきました」
「「「「えぇえええええええええええ!!?」」」」
衝撃的過ぎる事実だった。
あんな大怪我をして、しかも傷が塞ぎ切っていないにも拘らず「IS」を動かしたらしい。
しかも、千冬姉曰く殺人マシーンレベルの「鬼百合」を。
それどころかこの人、箒を恨んだり憎んだりするどころかむしろ心配になってこの場に来たらしい。
滅茶苦茶過ぎる彼女の行動にこの場にいる全員が驚愕するしかなった。
ま、間違いなく……
精神力じゃ「世界最強」だ……
千冬姉には悪いが、メンタルでこの人に勝てる人間は世界中を探してもいないだろう。
俺はそう思った。
「病院……?
どういうことや神通?まるで人間みたいなことを言うなぁ?
どうして入渠せんのや?それにそんな大怪我なら「高速修復材」の使用許可が下りるやろ?」
「え……」
那々姉さんの説明に対して龍驤さんはそう訊ねこの場にいる四人は絶句した。
「ちょっと!?
それどういうことよ!?」
鈴はまるで自分の師を人間扱いしない龍驤さんの言い方に反発した。
「鈴音さん。
待ちなさい」
「せ、先生!?でも……!!」
しかし、よりにもよって言われた当の本人である那々姉さんに止められたことで止まった。
「ありがとうございます。
……大丈夫です」
「う……わかりました……」
那々姉さんのその言葉に鈴は飼い主に叱られた犬の様にしょんぼりしながら引き下がった。
どうやら那々姉さんは鈴の自分を想ってくれる心には嬉しく思っているらしい。
しかしだ。
あの表情は……
鈴に向けた那々姉さんの表情が俺には目の前の彼女たちと重なって見えてしまう。
それは彼女たちが見せた心配してくれたことへの感謝に対するものだった。
「龍驤さん。
残念ながら私はもう「高速修復材」を使うことが出来ない身体なんです」
「何やと!?」
「高速修復材」……?
何だそりゃあ?
那々姉さんは「高速修復材」と呼ばれる何かを二度と使えないと言っているが、再び出てきた新しい専門用語らしい言葉に俺は混乱した。
「……使えないって……
……そうか!?」
「!?」
那々姉さんのその返答に対して一転して龍驤さんは目を輝かせていた。
那々姉さんはあんなに重傷なのに喜んでいるかの様な彼女の反応に俺は疑念を抱いた。
この人はどうして那々姉さんの状態を見て喜べるのだろうか。
俺は本気で分からなかった。
「退役になったんやな?」
……え……『退役』……?
心底嬉しそうな龍驤さんの口から次に出てきたのは『退役』という言葉だった。
『退役』って……軍人とかに使う言葉だよな……?
俺は何となくだが「退役軍人」とかの映画に出てきそうな言葉から連想した。
いや、確かに那々姉さんは自衛官に近い立場だけど……
那々姉さんは一応は自衛官に近い立場だった(「IS」の軍事利用はアラスカ条約で禁止されていることから)らしいので「IS学園」に赴任したことでその立場はなくなっているので「退役」には遠からずも当たってるかもしれない。
って、どうして「退役」するのが関係しているんだ?
しかし、那々姉さんが退役したのが事実だとしても結局のところどうしてそれが那々姉さんの怪我に関係するのかが分からない。
「……いいえ。
そういう訳ではありません」
「何やと?」
「それは……」
那々姉さんは龍驤さんの指摘に対してそう答え、一瞬戸惑うが
「……私は確かに
ですが、
『え』
意を決した顔をして右目に強い意志を込めて本日何度目かの謎すらも通り越す衝撃的な事実を俺たち、いや、この場にいる全ての全員に対して打ち明けた。
それを聞いて、全員が一斉に言葉を失うが
『えええええええええええええええぇぇえええええええええええええええええええ!!!?』
即座にその衝撃の大きさを物語るかの様に絶叫するしかなかった。
「何や……何やそれ!?」
「この世界って……え?」
「それに「人間」だと!?
神通、どういう意味だよそれ!?」
龍驤さんたちは先ほどまでの冷静さをかなぐり捨てて那々姉さんに詰め寄った。
いや、それはこちらも同じ事だった。
「「艦娘」って……先生が……え?」
「ふぁ、凰!?」
「鈴さん、少し落ち着きなさいな!?」
こっちでも那々姉さんの衝撃的な告解に鈴が頭を抱え出し、辛うじてセシリアとラウラはそこまで那々姉さんとは付き合いが短いことで冷静さを保っていた。
そのことからどうやら、目の前の彼女たちも俺たち同様那々姉さんと同じくらいの付き合いであることは理解出来た。
しかしだ。
な、那々姉さんが……「艦娘」……?
そんな、馬鹿な……!?
俺自身が一番理解出来なかった。
那々姉さんとは俺自身幼い頃に弟分として世話になった身から彼女が「艦娘」ということがあり得ないのを知っている。
今までの龍驤さんの発言から「艦娘」とはどうやら人間に近い存在であるが、それでも人間とは厳密には異なる存在でもあるのは把握できた。
そして、彼女たちが「深海棲艦」と呼ばれるあの敵と戦うための存在でもある事も。
だけど、俺の知る限り那々姉さんにはそんな一面が見受けられなかった。
確かに彼女が何かを守ることへの拘りがあるのはわかる。
実際、俺も彼女のその強さに憧れを抱いていた人間の一人だ。
それでも那々姉さんが「艦娘」であるというのが俺には理解出来ないのだ。
もう訳がわからない。
「……皆さん。落ち着いてください。
……お気持ちは理解出来ますが」
那々姉さんは少し複雑そうにしながらも落ち着くように言い聞かせた。
彼女もどうやらこの反応は予測していたらしい。
「今から説明させていただきますが先ず始めに言っておかなければならないことがあります」
那々姉さんは深刻そうな顔をして
「この世界は私たちがいた世界とは異なる歴史を辿った世界なのです」
「え……」
答えになっていない答えを口に出した。