奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第87話「音と声」

「……っ!!」

 

「ぐっ……!?」

 

「あぐっ……!!」

 

 高機動形態である篠ノ之さんにいきなり停止を呼びかけたことで私たちは「PIC」の効果で前に投げ出されることはなかったが、それでも急停止の代償として加速分の反動を受けることになった。

 

「……うぅ……

 皆さん、大丈夫ですか?」

 

 今の急停止の衝撃で「IS」の特性上、けがはないと思うがそれでも身体の痛みは本物であることから私は全員に無事を確かめた。

 

「OH……I’m fine……」

 

「……大丈夫だよ……」

 

「少なくともけがはない……」

 

「そうですか……」

 

 声を出しても反応できていることからどうやら怪我はないらしかった。

 私は一先ず安心した。

 

「陽知、今のはどういう―――」

 

 篠ノ之さんは当然ながら今の私の指示に対する疑問をぶつけてきた。

 当然だ。私も今のは責められるべきことだと思っている。

 だけど

 

「すみません……

 気になってしまったことが出来て……」

 

「―――そうか」

 

 金剛さんが気付いたことがどうしても気になってしまったのだ。

 

「……金剛さん。

 一体、どうしたんですか?」

 

 私は金剛さんに訊ねた。

 確かに彼女は戦場でもいつもの雰囲気を崩さない性格だが、それでも作戦そのものを台無しにしたり、相手を傷つけるような冗談やおふざけは絶対にしない。

 そんな彼女が止めたというのならば知っておきたいのだ。

 

「……ユッキー。

 これから私たちが向かう場所は母港ですか?」

 

 彼女は私に自分たちが向かう場所について確認してきた。

 

「そうですが……それがどうしました?」

 

 正確には港ではないが、作戦本部であり帰還すべき場所という意味では同じであることから私は肯定した。

 もしかすると、金剛さんはこの辺りにはそういった規模の施設がなさそうに見えたことから向かっている場所が我々の世界の母港である鎮守府や泊地とは思えなかったのかもしれない。

 

「それで、今、あなたが焦っているのは母港が敵のAir raid(空襲)ないしはLanding(上陸)を受けていると思ったからデスカ?」

 

「?はい、そうですが……それがどうしまし―――」

 

 続けて出てきた金剛さんの追求に私はそれも肯こうとしたが

 

 ―――あれ……?

 

 その指摘で私もあることに気付いてしまった。

 

「雪風……?」

 

「陽知……?」

 

 その事実に気付き最初私は何も考えられなかった。

 いや、正確には考えることが止まってしまった。

 

 まさか……!?

 

 私は前方をよく見てみた。

 するとそこには

 

 煙が立っていない……?

 

 敵の襲撃を受けているにもかかわらず、そこには戦火の証拠ともいえる煙が立ち込めていなかった。

 

 どういうことです。

 さっきの音は明らかに艦載機の音だったのに……

 

 先ほど聞こえてきたこの世界では軍用ではヘリコプター以外でレシプロ機を使うことは趣味の範囲内でしか使われていないはずだ。

 加えて、ここは作戦領域だ。

 民間のセスナ機やヘリコプターなどの小型機が飛行しているとはとても思えない。

 となると「深海棲艦」しかこの音の正体の持ち主はいないはずだ。

 だけど、何故か、いや、奇跡的にも陸は襲われていない。

 

 何でですか……

 まさか、罠ですか?

 

 この奇妙過ぎる状況に私は罠を疑った。

 あえて、油断させるために陸地を襲わず、伏兵を潜ませる。

 

 いえ、それでも説明がつきません……

 

 しかし、そんなことをしてもその伏兵が挟み撃ちにあって壊滅するだけだ。

 いくら「深海棲艦」が無限ともいえる程の戦力を保持していると言ってもそれは無意味過ぎる戦術だ。

 何度も戦ってきたからわかるが、何故か「深海棲艦」は彼方にとっても無用な被害が出る様な戦いはしてこない。

 それが最大の謎の一つだが。

 

 一体、何が……

 

 謎のレシプロの音。

 襲撃の証拠であるはず黒煙が存在しないこと。

 人類に限りない敵意を持つはずの「深海棲艦」として不自然な行動。

 それら全てが一定の方向を指示しているように思えて、途中でそれぞれが空中分解を起こしているこの状況に私は混乱してしまった。

 

ユッキー

 

 どういうことです……

 訳がわからな―――

 

 襲撃がないのならばそれでいいと思ってはいる。

 しかし、それがただの淡い希望であったらと考えるとその分、深い絶望の底へと叩き落されそうな気になりどうしても結論を出すことが出来なかった。

 

「ユッキー!!」

 

「―――!?」

 

 私が思考の泥沼に沈もうとしていた瞬間、そこから引き上げるように金剛さんが私の名前を呼んでくれた。

 

「金剛さん……?」

 

 彼女の呼びかけで冷静さを取り戻した私は彼女がまたしても伝えたいことがあるのを理解し彼女の方を見た。

 

「どうしたんデス?

 そんなに思い詰めて?」

 

「えっ……?」

 

 よくみると彼女の顔からは何処か緊張感が抜けていた。

 少なくても、戦闘中の彼女ではないのは確かだった。

 

「いえ、その……

 まだ敵がいるのかもしれませんので……」

 

 私は彼女のその表情と在り方に呆気に取られながらも緊張感を持ち続けながら本当に敵がいるのかすらわからないままそう言った。

 

「……ユッキー。

 It’s none of your business(余計なお世話)かもしれませんが……

 一つ言わせていただきます。

 あなたは気負い過ぎデース」

 

「え……」

 

 そんな私に対して金剛さんは窘めるように言ってきた。

 

「どうしてこの音だけで敵だとしか考えられないのデスカ?」

 

「こ、金剛さん……?」

 

 金剛さんの言っていることの意味がわからなかった。

 こちらにレシプロ機を飛ばせる人間は水上観測機を保有しているであろう金剛さんしかいない。

 だから、必然的に目の前のレシプロ機の音は敵機のものとしか考えられない。

 

「!?

 陽知!!誰かが近付いてくるぞ!!」

 

「!?」

 

 何時までも私が結論を下すことが出来ずにいると前方から近づいてくる人影が現れた。

 

 IS……?

 

 しかし、その人影は空中に在った。

 その形状から私はそれが少なくとも敵影ではないことは理解出来た。

 

 「深海棲艦」じゃない……

 でも、じゃあさっきのは……?

 

 「深海棲艦」の可能性はなくなったにせよ、先ほどのレシプロの音という謎があることから私は混乱した。

 その時だった。

 

『陽知さん!!篠ノ之さん!!デュノアさん!!

 無事ですか!?』

 

「え……」

 

 「オープン・チャネル」から聞こえてきたその声に私は耳を疑った。

 その声は声の持ち主の穏やかさと優しさがうかがえるものであった。

 

「山田さん……?」

 

 私は信じられない気持ちながらも前を眺めた。

 すると

 

『はい!!私です!!三人とも無事ですか!?』

 

「山田さん!?」

 

「「山田先生!?」」

 

 そこには涙で顔も声もぐしゃぐしゃで私たちが無事であったことを心の底から喜んでいる山田さんがいた。

 

「山田さん!?無事だったんですか!?」

 

 私は彼女が、いや、彼女を含めた教員の人々がてっきり死亡したのではと最悪の予想をしていただけに泣きそうになった。

 

「はい。危ないところでしたが()()()()()()()()()()()()()!!」

 

「!?それは本当ですか!?」

 

 彼女の口から出てきた信じられない朗報に私は衝撃と共に喜びを感じた。

 「深海棲艦」という未知の敵を相手にしながらも彼女たちは私のしていた最悪の予想とは反して無事だったのだ。

 全員生きている。

 ただそれだけで私は嬉しかった。

 

 ……少し、彼女たちを侮っていたのかもしれません……

 

 私は「IS学園」の教師たちの底力を過小評価していたことを自覚させられた。

 よく考えなくても彼女たちは私なんかよりも「IS」に精通しているのだから、「深海棲艦」にとっては対応できない戦い方を使えることも出来たかもしれないのだ。

 

 ダメですね……

 三十年近く戦歴を持つと言っても私も一皮剥けばこの程度ですか……

 

 この世界に来てから私は色々と偉そうにしていたが、私もまだまだひよっこだったということだった。

 神通さんや金剛さんに成長したと言われているが、そんなものだ。

 

 しかし、そうなるとあのレシプロ機の音は……?

 

 自分の未熟さを噛みしめながらも私は最後に残された謎であるあの音のことだけが気になってしまった。

 「深海棲艦」が少なくともこの付近にいないとなると何故、あの様な音が聞こえてきたのかが本当に分からなかった。

 

 空耳……そんな訳はないですし……

 

 私一人ならばともかくこの場にいる四人全員があの音を耳にしているのだから空耳の可能性はあり得ない。

 

『ところで、陽知さん……

 あなたに一つ知らせたいことが……』

 

「え?」

 

 私が謎の音の正体について未だに悩んでいると山田さんは少し戸惑いがちに何か言おうとしてきた。

 

『本当にあなたが……いいえ、それに金剛もいるなんて』

 

「!?」

 

「え!?この声は……!?」

 

 「オープン・チャネル」から聞こえてきたその落ち着きのある声に私は理解が追い付かなかった。

 何故ならば、その声は私、いや、金剛さんにとっても信じられない声だったからだ。




前回のあれは何だったのかぐらい台無しにしてしまったと思います

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