奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「何を言っているのデスカ!?
今のあなたのconditionでは危険デス!!」
怪我をしているのにもかかわらず私と共に戦おうとしているシャルロットという名前の子に私はそれを断ろうとした。
そもそも私が今から突撃しようとしているのはユッキーとこの子を戦闘から遠ざける為だ。
この子の艤装は明らかに軽装であることから駆逐艦の可能性があり得る。
そんな子に練度が低いながらも艦級が明らかに上な敵艦隊への突入など許可など出来るはずがない。
「……その……金剛さんは今「弾着観測射撃」という攻撃方法が出来ないんですよね?」
「え?あ、ハイ。
デスので、今からInfightingをしようと考えたのですが……」
私は遠回しに彼女が来れば巻き沿いを食らい、命を落とすことを暗喩して押しとどめようとした。
妙に歯切れの悪い発言だ。
どうやらこの時代では「弾着観測射撃」は馴染みのない戦術らしい。
思えば、機動部隊が主力になった時点で戦艦の時代は終わりに等しかったのだから仕方のないことかもしれない。
しかし、それにしても戦艦や重巡は兎も角として軽巡辺りは未だに現役だとは思うのだが一体どういうことだろうか。
「それをするにはあの敵の航空戦力をどうにかしないといけないんですよね?」
「?ええ、そうですが……
それをするにはこちらに航空戦力が―――」
シャルロットと名乗る彼女は少し曖昧な言い方で確認してきた。
何故こうも曖昧なのだろうか。
今の艦娘はこの戦術を学ばないのだろうか。
少し、この時代の養成所の教育が不安になってきた。
「それなら大丈夫です。
今から制空権を確保してきます」
「―――?」
航空戦力の欠片も見当たらないのに彼女はそれを問題視すらしてこなかった。
「それはどういうことデスカ?」
彼女が何を根拠にそんなことを言っているのかわからず私は訊ねてしまった。
少なくとも、目の前の軽空母は軽空母には航空甲板が見当たらないので思えない。
一体、何処に制空権を確保できる程の航空戦力があるというのか。
「あなたが敵を混乱させてくれたお陰です」
「?」
彼女は私にそう言った。
一体、彼女のこの自信は何処から湧いてくるというのだろうか。
「僕が敵の航空部隊を引き付けます」
「What’s!?」
彼女は耳を疑う様なことを言ってきた。
「Are you serious!?
No!!あなたの対空能力……いいえ、装甲では近付いただけで敵の砲撃によって轟沈させられる可能性があります!!」
どう見ても正気の沙汰とは思えない彼女の発言に私は何としても却下しようとした。
この子は駆逐艦のはずだ。
それなのに敵の戦艦が未だに三隻いる敵艦隊に近付いて敵の航空戦力を引き付ける囮になると言っているのだ。
無謀にもほどがあり過ぎる。
「駆逐艦の……それも怪我をしているあなたにそんなことはサセラレマセーン!!
早く戻りなサーイ!!!」
私は柄にもなく慌てた。
同時にこう思ってしまった。
ユッキーは何してるネ!?
あなたなら止めるはずでしょう!?
ユッキーが彼女を止めなかったことに私は心の中で抗議した。
あれだけ成長しているということはユッキーは最低でもその場の戦闘を指揮する水雷戦隊の旗艦を任されているはずだ。
いや、ユッキーの才能から一個艦隊の指揮艦になっていてもおかしくない。
そんなユッキーがこんな無謀なことをする戦友を止めないのは明らかにおかしい。
「いえ。僕が相手をするのは敵の航空戦力だけです」
「?」
しかし、私が幾ら止めようとしてもこのシャルロットという子は戻ろうとしない。
それどころか余計に訳の分からないことを言ってきた。
この子は敵の航空戦力だけを相手にすると言っているが、そんな都合のいいことになるはずがない。
今、前に出れば間違いなく乱戦になる。
「金剛さんは敵の艦隊をこの場から砲撃し続けてください」
「?
それは一体―――」
彼女の言っていることが益々分からない。
私にこの場に残って敵の艦隊を遠距離から砲撃しろと言っているが、そうなれば彼女が敵の集中砲火を浴びることになるのは火を見るよりも明らかだ。
「―――え」
それでも彼女を止めようとした時だった。
私は信じられないものを目にした。
「僕が空中で敵を引き寄せます!!」
「What’s!?」
なんと彼女が空中に浮かんだのだ。
「か、艦娘が空に浮かんでいる!?」
艦娘が海上ではなく空中に浮かんだのだ。
これは決してその場を跳ねた姿を誤認したわけではないはずだ。
その非現実的な現象に私は混乱してしまった。
「行きます!!」
「うぇ、Wait a―――!!?」
状況というよりも現実を飲み込めない私を放置したままシャルロットという少女は敵に向かって飛んで行ってしまった。
「―――ぐっ!!
仕方ありまセーン!!」
けれども、それを見た私は考えるよりも先に彼女が対空砲火に晒される前に砲撃を再開することを決めた。
「観測機、Take off!!」
衝撃的過ぎる出来事があったが私は彼女が作ってくれたチャンスを無駄にしない為に私はすかさず「水上機」を発進させた。
「今デス!!Fire!!」
最初に私は目測での砲撃を行った。
これによってあのシャルロットという不思議等という範囲をとっくに超えている艦娘を敵の砲撃から守ることに成功する為だ。
計算通りにこっちに攻撃を向けてきましたネ……!!
敵は私が砲撃したのを見て彼女よりも私を脅威だと見て砲撃してきた。
恐らく、火力ではこちらの方が上であることから私を放置するのは危険だと判断したのだろう。
もしくは私を先に処理した方が後であのシャルロットという少女を確実に始末出来ると思っているのだろう。
そんなことはさせまセン!!
私は艦娘としては古参。
それ故に私よりも年少の艦娘たちの死を何度も見せられてきた。
戦場なのだからそういったことは日常茶飯事なのかもしれない。
けれども私はその当たり前を当たり前だと片付けたくない。
だから私は戦う。
ただそれだけの為に今も砲撃するだけだ。
「初弾は外したネ……―――」
当然ながらいくら練度が低くてもそう何度も何度も当たってくれる筈もなく今回の初弾は外した。
だが
「―――けど次弾は外さないネ!!」
既に「観測機」が飛び立っている。
もうこちらに相手との僅かな距離の誤差の修正が出来ている。
「Fire!!」
「弾着観測射撃」を私は行った。
その結果、今まで上空に意識を向けていたこともあり再び戦艦を一隻を沈められた。
これであの少女に対空砲火が向くことはアリマセン!!
私が最初に戦艦を狙ったのは火力もあるが、他の艦級よりも対空能力が高い。
一隻でも削ることが出来れば、あの子が生命を危険にさらす可能性低くできる。
「しかし……私が眠っている間に何があったのデショウカ……?」
私は砲撃戦を行いながら空中で敵の艦載機との戦いを繰り広げているシャルロットの姿を少しだけ視界に収めた。
三十機近くの敵の艦戦に付き纏われているが、先ほどの私の三式弾による編隊の消耗が原因で連携が乱れていることで善戦している。
あれはまるで……
ShipというよりもFighterが艦娘になったというべきネ……
先ほどから彼女が右手に持つ小型の機関銃の様なもので敵の艦戦を落としていく様はまさに艦戦が擬人化した様に見えた。
もしかすると……彼女は航空機が艦娘と同じ様な存在になった存在なのかもしれまセン……
この信じられない状況に私はそう考えた方が自然だと考えた。
艦娘の私が言うのもどうかと思うが、私たちがこの世界に姿を現した時も当時の人々はこの世のこととは思わなかったのだ。
もしかすると、彼女は「艦」ではなく「航空機」の魂が具現化した存在かもしれない。
私たちの様な存在がいるのだからその可能性は十分にあり得る。
あの耐久力から恐らく一個編隊分の戦力が具現化しているかもしれまセン
艦戦一機分が具現化している割には耐久力が異常だ。
そう考えると彼女は複数分の機体分の戦力が彼女の「艤装」には具わっているのかもしれない。
戦艦の時代は終わったとはいえ……
信じられないネ……
空母による機動部隊の台頭により戦艦等の水上戦力の大型艦の重要性は失われていった。
そのことから機動部隊の戦力向上の過程で彼女の様な存在が偶然生まれたのかもしれない。
「だけど、私はここにイマース!!」
そんな時代の流れに置いて行かれているかもしれなくても今、戦艦の私がここにいて再び戦えというのならば私は戦うだけだ。
◇
これが……「艦娘」と「IS」の共同戦線……
私は金剛さんとシャルロットさんの戦いを眺めながら異なる世界同士の戦術の融合を目の辺りにした。
「IS」が制空権を手に入れ、その後に艦娘が敵を壊滅させる。
私が見ているのは恐ろしいほどに効率的な戦術だった。
元々空中戦が主戦場であり既存の空中戦力よりも防御力を有する「IS」は敵の艦載機を制圧するのに適しており、制空権を確保するに適している。
問題はどう見ても単騎になってしまいがちなところであるが、今回の金剛さんの様に支援する味方がいればその穴を埋められる。
そして、その役目に艦娘は適任だ。
いや、もしかすると……金剛さんは―――
しかし、今私の前で繰り広げられている光景はそれだけに止まらない可能性を考えてしまった。
金剛さんはあり得ないことに三式弾と徹甲弾を即座に交換した。
戦場でしかも砲撃戦の最中にもかかわらずだ。
それはつまり今の金剛さんの「艤装」は
―――「IS」を纏っている……?
「IS」になっている可能性があるのだ。
つまり、今の彼女は
高速戦艦を超えた高速戦艦になっている……?
戦艦級の火力に加えて高い機動力を誇る存在になっている可能性があるのだ。
対深海棲艦においてここまで相性のいい組み合わせがあるなんて……
私はこの世界に「深海棲艦」が出現したことに半ば絶望感すら感じていた。
何故なら、この世界で「艦娘」に相当する深海棲艦相手に戦う有効な戦い方が出来る存在が「IS」だけというのは明らかに無理があり過ぎる。
「IS」も「艦娘」も数は必要以上に限られているという致命的な弱点が共通しているが、「IS」は「艦娘」以上にそれが顕著だ。
あの人が……素直に人類の危機だからといって協力するはずがないありませんしね……
「艦娘」が基となる艦を建造すれば増えるのに対して、「IS」はこれ以上増えることはない。
何故ならそれが出来る人間はこの世界でただ一人、あの「篠ノ之 束」という全く以って倫理観も具えていない人間だからだ。
実の妹にさえ、憐憫を感じない人間だ。
赤の他人や世界などどうでもいいだろう。
だから、「IS」は減ることはあっても増えることは期待しない方がいいだろう。
それにこの規模だから今は何とかなりますが……
私はシャルロットさんの善戦と金剛さんの圧倒ぶりを見て多少の希望を抱いていたが、それでも楽観は出来なかった。
数が圧倒的に足りません……
余りにも単純な事実に私は懸念を感じた。
今は金剛さんの古強者ともいえる戦い方で初めて深海棲艦と戦うシャルロットさんも危うさを感じさせていない。
しかし、本格的に「深海棲艦」がこの場に現れればこんなにうまくいくことはない。
何よりも今は最初の金剛さんの三式弾による奇襲で敵の艦載機を削れたのも大きいし、今はこの海域から逃れることを考えるだけで済むが、海域の奪還となればこの戦力では足りない。
せめて空母の人がいてくれれば……
「IS」が敵の艦載機を壊滅し、その「IS」を艦戦が護衛し、艦爆や艦攻が敵を混乱させ、そしてトドメに水上戦力で叩く。
それが出来れば何とかこの世界でもなんとかなると思うがそれは希望的過ぎるだろう。