奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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金剛は台詞が本当に難しいです……


第76話「古強者」

 ユッキーがまさかあんなにも成長しているとは……

 

 私は日本への帰路において敵の潜水艦の奇襲を食らってからの後の意識を失っていた。

 あの時、私は愛する人の武運長久とただ一人残してしまうことになった妹榛名の幸福を願って海の底へと沈んでいった。

 

 提督……榛名……

 二人とも私のことを気にしないで幸せになっていてください

 

 ユッキーがあんなにも大人びているということは少なくとも、私が目を覚ますまでの間に五年の歳月は経ってしまっていただろう。

 そうなると真面目な二人のことだから私がいないのに自分たちだけが幸せになることを拒み、自分たちの幸せを先延ばしにしようとしてしまっているのかもしれない。

 

 特に榛名は優し過ぎますからネ……

 

 榛名は優し過ぎる。

 辛いことや我慢することがあってもいつもとは違う意味で『榛名は大丈夫です』と笑顔で無理をする。

 そんな子だ。

 恋敵の関係であったがそれ以上にあの子は私の妹だ。

 妹の幸福を望まない姉が何処にいるというのだ。

 だから、ようやく目を覚ませた私は二人の幸せの為に

 

「二人が安心して暮らせるためにも……Fire!!」

 

 今一度、戦うことが出来るからこそ私は戦う。

 きっと二人が、いや、あの戦いで戦った全ての人々が切り開いてくれたであろうこの暁の水平線の為に。

 

「Yes!!」

 

 私の放った徹甲弾が敵の駆逐艦の一隻を撃沈した。

 先ほどル級を一撃で沈められたがあれは相手が気付いていないからこそ出来た不意打ちだ。

 

 しかし、まるで艤装全体が新調された様に身体が軽いネ……

 

 先ほどから感じていたことだが今の私は驚くほどに身体の調子がいい。

 そもそも私は三笠お姉様よりも後の世代とはいえ旧式の艦だ。

 あの戦いの中でも艤装の老朽化により自分が限界に近いことを感じていた。

 何よりも私が意識を失ってから何年も経っていた原因の一つでもあった。

 

 それに……

 

 敵の艦隊は態勢を立て直すと機動部隊を向けてきた。

 しかし、よく見るとその編成に少しが穴が出来ている。

 どうやら私の放った三式弾により部隊の中枢を潰されたらしい。

 

「三式弾との換装が可能なんて……

 Unbelievable!!」

 

 徹甲弾から三式弾に切り換え私はそのまま乱れている敵の機動部隊に発射した。

 その結果、先程よりも少数ではあったが相手の戦力の減少に成功した。

 私は戦闘中にもかかわらず徹甲弾から三式弾に換装出来たことに驚きを隠せなかった。

 

「それでも……

 Be carefulネ」

 

 相手に先ほどから打撃を与えられているとはいえ数はあちらの方が上だ。

 しかも制空権は依然相手が握っている。

 いつもと同じ様に余裕を持つが油断しない。

 その気構えを私は固めた。

 

「デスガ……勝算はこちらにアリマス」

 

 何故ならば、目の前の敵艦隊は明らかに油断している。

 

「……Did you forget(忘れましたか)?」

 

 私は彼らのその一面にそう呟いた。

 

Our spilits(私たちの意地) and() strengs(底力を)!!」

 

 あの戦いの中期まで私たちは意地と底力で数に勝る彼らに何度も食らいついた。

 ただその後に彼らも学習したことやそれらで補える限界を迎えたことで通用しなくなった。

 しかし目の前の敵はそれ以前の敵だ。

 だからこそ、勝てるのだ。

 

「Slow!」

 

 三式弾の弾子と炎から逃れた敵機は一度態勢を整えようと離脱しようとしたが私はそれを逃さず、機銃で何機か撃ち落とした。

 統制が取れなくなったこともあり敵の艦載機は次々と落ちていった。

 

 これで敵の対空戦力は幾らか削れたネ

 

 一発目の三式弾、二発目の三式弾とその後の対空射撃で敵の航空戦力は粗方削れた。

 

 といっても油断は出来ないネ

 

 削れたと言っても敵にはまだ艦攻・艦爆は残っている。

 それに制空権は未だに彼方が握っており、こちらには弾着観測射撃のチャンスは巡ってこない。

 

 Battle Shipの最大の長所はLong rangeデスが……

 

 戦艦にとっての最大の武器は主砲の火力もそうだが、何よりも射程にある。

 そもそも戦艦に大口径の主砲が求められたのは火力もあるが、それ以上に大口径にすることで弾丸を撃ち出すための火薬量も比例的に増加し射程が伸びることもある。

 

 こうなったらInfightingネ!!

 

 弾着観測射撃が封じられている今、もう一つ火薬の量の使い道である近接戦闘を私は試みた。

 ただこれは本来夜戦で行う戦い方であり、昼間で行うのは明らかに愚行だ。

 接近するということはこちらも敵に直接火力を浴びせ外すことなく相手に打撃を与えられるが、それは裏を返せばこちらも敵の攻撃をまともに受ける可能性も上がるということだ。

 

 思えばユッキーに途轍もないTalentを感じたのはそれが理由でしたネ……

 

 私は生まれたばかりのユッキーに少しだけ訓練をしたことがある。

 その時、私はユッキーに止まっている私に向かって直進するように言った。

 その結果、彼女は私が予想するよりも速度を出し、しかもそれを落とすことなく見事に私の真横を通り過ぎて行った。

 それを見て私は『A courageous girl……』と思わず口ずさんでいた。

 そして、水上戦闘と夜戦、護衛任務問わず生き残りつつ周囲の生存力を上げる希代の駆逐艦になると感じた。

 その後、ユッキーが「華の二水戦」に配属されたのは自然の成り行きだと納得していた。

 

 デスガ……私も霧島の姉ネ!!

 

 どれだけ危険なことであろうと後ろにいる味方の為に勇気を出す。

 それを私の末の妹を始めとした多くの艦娘がしてきた。

 普段は「艦隊の頭脳」を目指し、そういった荒事よりも頭脳面で活躍したいと願いながらもあの娘は自らの理想を捨ててでも誇りを取った。

 ならば、姉の私もまた妹の勇気に恥じないようにしなくてはならないだろう。

 

「行っきマース!!」

 

 私はただ進もうと決めた。

 それがこの場における最も近い勝利への道だったからだ。

 

「待ってください!!」

 

「!」

 

 私が近距離砲撃に向かおうとした矢先、私を呼び止める声がした。

 私は後ろを振り返ってしまった。

 

「アナタは確か、ユッキーの……」

 

「はい。雪風の友達のシャルロット・デュノアです」

 

 私を呼び止めたのはユッキーが肩に背負っていた金髪紫眼の私の知らない艦娘だった。

 どうやら、彼女は『シャーロット』のフランス語読みからフランス出身の娘らしい。

 

 ソウデスカ……

 ユッキーには今も友達がいてくれていますカ……

 

 彼女のユッキーの『友達』という発言に私は安堵した。

 ユッキーはあの戦いで多くの姉妹や戦友、自らの師さえも失ってしまった。

 特に比叡を守れず、面子だけを重んじていた参謀の叱責にシッグー、ツッユーたちと共に浴びせられあの子は心が壊れそうになっていた。 

 あの時ほど、私が憤慨したことはなかった。

 あの参謀はよりにもよって比叡が守った大切な娘たちを侮辱したのだ。

 それは比叡のことを侮辱したも同然だった。

 けれどもあの子は私が慰めても悲しみ続けた。

 あの子は私の妹である比叡を守れなかったこととその比叡に嘘を吐かれてでも救われたことが悲しかったのだ。

 しかもそれだけでなく彼女は次々と仲の良かった姉妹たちすらも失っていった。

 そんなユッキーが喪失の恐怖を恐れず新たに友達を持ってくれていることに私は嬉しかったのだ。

 

 イッシ―は生き残ってくれたのでしょうか……?

 

 同時に私はユッキーと同じで佐世保で生まれた陽炎型の妹であるイッシーの生存についても考えてしまった。

 あの子は何かとユッキーをからかっていたが、あれは彼女を姉として慕い尊敬していたことへの裏返しだった。

 ユッキーが何をやらしても天才だったのに対して、イッシーは決して折れない心を持つ秀才だった。

 だから、あの子は誰かを守る戦いにおいてはユッキーに勝る子でもあった。

 

 いえ……今は安心している場合ではありませんネ

 

 あの多くを失くした戦いを得てもユッキーが孤独に逃げず、友と呼べる人間を作っていることに私は安堵を覚えたが、今は戦うことを優先すべきだ。

 

「ソウデスカ……

 デスガ、ここは危険デース。

 ですので、アナタは―――」

 

 私は目の前のシャルロットと名乗る少女に彼女の状態からこの場から離れることを勧めた。

 

「僕も戦わせてください!!」

 

「―――え」

 

 けれども、彼女は自分も戦うことを告げてきた。


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