奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
あと、前回誤字多くてすいませんでした。
篠ノ之の之が乃になっていたのを見落としてました。
「あの……布仏さん。
昨日はその……すいません。
探りを入れるためとは言え、あなたのご友人を試すような言い方をしてしまって……」
私は昨日の非礼を更識さんには詫びたが、その場にいて私の発言に不快感を示した布仏さんには謝罪をしていなかった。
この人は「お嬢様」と更識さんに向けて言っていたことから、彼女とは一種の主従関係なのだろうし、一人の友人として彼女のことを大切に思っているのだろう。
友人を馬鹿にされたら怒るのは当然だ。
それは
私たち、駆逐艦は見た目や言動が幼く見えていたことでおとなしく思われがちだが、基本的には血の気が多い。
特に姉妹艦が多かったり、駆逐隊を組むことがあってか仲間意識が他の艦種よりもとても強い。
仲間を傷つけられたり、馬鹿にされるものならば、たとえ、素手一つであろうと深海棲艦はもちろん、人間であっても同じ艦娘であろうとお構いなしに殴りかかることも厭わないほどだ。
実際、同じ姉妹艦や僚艦が何の落ち度もないのにただ運が悪かっただけなのに、いつも「疫病神」とか「落ちこぼれ」とか蔑んだ言い方をしてきた軍の上層部に対して我慢できなかったのか、普段おとなしくておっかなびっくりと言う言葉が体現したような綾波型のおとなしい少女は、その上層部の人間に平手をかましたほどだ。
そういった中で育ったこともあってか私はそういったことには人一倍気にしてしまう。
簡単に言えば、「他人にされて、嫌なことはするな」だ。
「いえ、雪風さんの事情はお嬢様から聞かせていただきました。
雪風さんの立場ならば、私たちのような人間を疑うのも仕方ありません」
帰ってきたのは許しだった。
どうやら、更識さんは昨日、私に色々と資料や衣類を託してから別れた後に布仏さんに私のことを説明してくれていたようだ。
「あ、いえ、でも……」
それでも私はやはりどこかで不本意ではあるが、布仏さんの友人を馬鹿にしたことには申し訳なさを感じていた。
私の身内で例えると、私がしたことは陽炎型の長姉を次姉の目の前で侮辱したことに等しい。
そんなことをすれば、誰よりもあの長姉を尊敬する次姉は相手が謝っても海に叩き落すだろう。
もっとも、あの二人と駆逐隊を組んでいたいつもは何を考えているのかわからないほどに無口な朝潮型の9番艦と何かと口調はきつく、司令に対しても「クズ」と言い放つほどに他人にも自分にも厳しいが、その実面倒見が良くて、仲間想いな同じ朝潮型の10番艦も制裁に参加するだろう。
と言うよりも、次姉よりもむしろ、手が早く出るのは朝潮型の10番艦だと思う。
とまあ、例え話は長くなってしまったが、単刀直入に「駆逐艦」と言うのは総じて仲間想いで友達想いだ。
私がこれだけ今回の件を気にしているのはそんな中で育ってきたからだ。
「はあ~……
まったく、本当にあなたと言う人は生真面目なんですね。
私もお嬢様も気にしていないと言うのに……」
私が未だに昨日の件を引きずっていると布仏さんは多少、呆れながらも仕方ないなと言う感じに肩を竦めて微笑を浮かべてきた。
「私は……むしろ、あなたがお嬢様のご友人になられたことをうれしく思っておりますし感謝しています」
「え」
布仏さんの意外な言葉に私は驚いた。
「あなたはお嬢様のことを「更識」と関係なく、
お嬢様はああいった生まれですが、それを後悔せずに更識の当主になることを決められました」
布仏さんはどこか切なそうな目をしていた。
同じだ……
彼女のしている目は「あの人」と同じものだった。
「ですが、周囲はそれを当たり前としか見ていませんでした……
そんな中であなたはそれを『勇気のいる決断』だと言われました。
きっと、お嬢様も嬉しかったでしょう」
布仏さんが更識さんに抱く気持ちは「あの人」、いや「司令」と同じものだった。
自分では背負えない重荷を誰かに背負わせるしかない。
そんなことを「当たり前」だと割り切ることもできない人間らしさの中で、その苦しみを分かち合うことも許されない。
それでも、その人を支えたくなる。
そう言った葛藤の中で彼女もまた生きているんだろう。
「それにお嬢様が今のご年齢で当主であることにあなたは憤っておられたんですよね?」
「……!?
ばれていましたか……」
布仏さんは私が心の中で抱いていた更識さんを取り巻く状況への憤りに気づいていたようだった。
「あなたは遠回しにお嬢様が当主になられた経緯とそれを生んだ世の中を批判してくれました。
なんとなくですが、それであなたがお嬢様のことを案じていてくれていたのがわかりましたよ」
恐るべきかな、「更識」。
伊達に十七代続いて「専守防衛」と言う圧倒的に不利な状態だけでこの国を守ってきたことはある。
人材の層はしっかりとできている。
「あなたなら……もしかすると……」
私が「更識」の潜在能力に驚きを隠せずにいると、布仏さんは何か呟いた。
「あの……どうしたんですか?」
私はそんな彼女の様子に彼女が何かを言いたいのかを確認しようとするが
「いえ、なんでもありません。
失礼いたしました」
とはぐらかされた。
この場合の『何でもない』は『何でもないわけがない』ですがね……まあ、彼女たちの抱える秘密なら、所詮は部外者である私が介入するのは……
間違いですね……
私は何となくだが、彼女たちが背負っている何かを察するも当事者である彼女たちが話すのを躊躇うのならば、私が追究するのは間違いだ。
もっとも……彼女たちの方から持ち掛けてくるのならば別ですがね。
だけど、私は心のどこかで仮に彼女たちが私を頼ると言うのならば、できる限り協力するつもりだった。
この世界では私はよそ者だ。
しかし、それでも昨日出会ったばかりとは言え、かつての私たちと同じように生まれながらの「宿命」を背負った彼女に対してはできる限りの手助けをしたかった。
もちろん、彼女たちに世話になる私が言うのもどうかしている気がするが、それでも私は彼女たちの力になりたい。
「もう、遅いわよ。
二人とも」
そんなことを考えているとあの明るい声が聞こえてきた。
「もう、おっそ~い!
二人ともらしくないわよ?」
私は別にそこまで待っていないし、遅刻なんかしなそうな生真面目な私の幼馴染と恐らくだけれど同じく生真面目なことがうかがえる昨日出会ったばかりの新しい友だちに冗談でそう言った。
理由としてはこの二人のことだ。
昨日の件で虚ちゃんが私のことを大事に思っている人間なのを把握したであろう雪風ちゃんが昨日の私への非礼を詫びて、それに対して虚ちゃんも『頭を上げて』とか言って、重苦しい雰囲気になってる可能性もあると思った。
普段は周りのことを振り回す私だが、それは私が周りが暗い雰囲気になるのが嫌いだからだ。
「すみません。お嬢様」
「すみません」
二人は私を待たせたことを詫びてきたが
「ぷっ……」
「「え?」」
私は二人がめんどくさいことにならないうちに少し吹出したふりをして即座にネタ晴らしをしようと思った。
「うそうそ、冗談よ。
引っかかったわね、二人とも♪」
「……はい?」
と別に気にしていないことを物凄くふざけた口調でそう言った。
それを受けた雪風ちゃんはぽかんとしていた。
「お嬢様?」
といつも、いや、今回はいつも以上に悪質に感じる私の振る舞いに私の幼馴染である種のお目付役が低い声を出してきた。
「
それに雪風さんは割とこういったことに関してはかなり気にする方なのは昨日の件でよくご存知だと思われますが?」
……あら?
淡々としながらも冷静に的確にいつもとは多少は異なって怒気を含めてはいるが虚ちゃんが私の振る舞いを咎めてきた。
そのいつもとは異なる雰囲気に私がどうやら、虚ちゃんは移動の中で雪風ちゃんのあの「生真面目さ」に触れたことが想像できた。
はっきり言えば、雪風ちゃんの真っ直ぐさは反則だ。
聡いくせに腹黒くはない。
また、軍人としての凛々しさはあるけれど彼女にはたまに一種の暖かさを感じる時がある。
恐らくだけど、彼女はこちらの世界で言うあの「伝説の駆逐艦」である「雪風」に相当する存在だ。
そして、彼女は中華民国に所属していたと言うことは彼女は雪風、いや、
丹陽は戦後の台湾において活躍した軍艦で台湾の海軍の旗艦を長年務めたほどの存在なのだ。
その丹陽と同一人物(?)とも言える艦娘のこの少女のことだ。
中華民国では同僚や部下たちからは一目置かれていたはずだ。
本人は自覚していなさそうだが、その立場はこちらの世界でいう「国家代表」と同格かそれ以上だ。
つまりは目の前の少女はかなりの大物だ。
そのくせして、この性格……うん、惹かれない人間はまずいないわね……
雪風ちゃんの器はかなり大きい。
この私自身、昨日の雪風ちゃんのあまりこちらからすれば頭など下げてなど欲しくないにも関わらずにすぐに謝罪する度量の大きさやその彼女の怒りのツボを知って、彼女の器の大きさを感じた。
よほどのニーチェ先生のかく言うルサンチマンが強い人間じゃない限りは彼女に対して好意的じゃない人間などいないだろう。
私は彼女の人柄に当てられた虚ちゃんがいくらか雪風ちゃんとの距離を縮められたということに安堵した。
なぜならば、雪風ちゃんに任せる「お願い」の手伝いには彼女にとっての大切な人間を充てるつもりだからだ。
しかし、私の質の悪いジョークは完全に無意味だったらしい。
ここで私が虚ちゃんに怒られて謝ると雪風ちゃんが気にする可能性もある。
ならば、ここはどこまでも我を貫こう。
「いや~、だって二人とも見るからにめんどくさそうな会話をしていそうでお堅い雰囲気になってたんだもん。
私、そういうの嫌いだから♪」
私は多少、素ではあるがおちゃらけた雰囲気をさらに強くした。
これでも私は大好きな妹にすら、嫌われようと努力して常に仮面を被っているのだ。
これぐらいの演技や気まずさなんて軽い軽い。
「……お嬢様、お願いですから、少し慎みをお持ちください」
「はいはい」
「「はい」は一回です!」
私がマイペースを貫きながら受け流そうとすると虚ちゃんは『私の母親か?』と思えるような叱り方をしてきた。
とてもありがたいことだが。
「えっと……更識さん?」
そんな私たちのいつものようなやり取りに困惑していた雪風ちゃんが声をかけてきた。
「ごめん、ごめん。
ま、少しからかっただけだからあんまり気にしないでね?」
「はあ~……
すみません、雪風さん。
お嬢様はこういう人なのであまり気にしないでいただけると嬉しいです」
私は雪風ちゃんに対してそう言った。
虚ちゃんは少し諦めと呆れを感じていた。
「あ、はい」
雪風ちゃんは私のテンションに若干、と言うか、割と引きながらも許してくれたようだ。
この子が割と真面目なのは昨日の理事長室での会話で理解していたので、私の今の余計なやり取りで傷ついていないのならよかった。
私は言動は楽天家そのものでお調子者だが、しっかりと罪悪感や引け目を感じる程度には責任感はある。
そう、本当は誰よりも可愛がったり、自慢したり、甘やかしたりしたい妹のことを「無駄な努力」と心にも思っていない言葉で傷つけたら自慢の防弾加工を施した硬いハートにヒビが入るほどには情はある方だ。
「じゃあ、いきなりで悪いんだけど……
雪風ちゃん、「IS」を展開して」
私はいつまでもこの話題で躓いていると埒が明かないと考え、本題に入ろうと思った。
「わかりました」
「IS」の展開を頼むと彼女は素直に展開しようとした。
―キュイーンー
すると、瞬く間に彼女は右手に軍艦の単身の砲身を模したマシンピストル型の装備、左手には二連装の砲身が固定され、両脇には小型ミサイルの発射装置、頭部には妙に丸いどこか小動物の耳っぽい装備が左右双方に現れ、その間にメーターに似た装置を身に纏っていた。
……何と言うか、男の子が喜びそうな渋さを持ちつつも可愛らしいデザインね。
今日で見たのは二度目になるが、雪風ちゃんの「IS」はよく見ると可愛らしくも男の子が見たら目を輝かせそうな「IS」だ。
これで「IS」が女性限定の装備じゃなかったら男女双方に一定の人気が出そうだ。
「あの……雪風に何か落ち度でも?」
私が雪風ちゃんの「IS」に対しても一定の感想を抱いていると、雪風ちゃんが私の反応がないことに声をかけてきた。
「ごめんなさい。
とりあえずだけど……雪風ちゃんの反射神経と想像力が豊かなのは理解できたわ」
私は雪風ちゃんの「IS」のデザインに色々と思うところがあるにはあったが、それと同時に雪風ちゃんの「IS」の展開速度に目を見張るものがあると考えた。
「IS」を操縦するうえで最も重要なのは「イメージ」だ。
「想像力」が優れていれば、展開速度も早まるし、運用能力も向上する。
そう考えると、この「IS」は雪風ちゃんが愛用していた「艤装」と呼ばれる装備なのかもしれない。
「じゃあ、雪風ちゃん。
まずは「IS」を纏いながら、このアリーナを一周してくれないかしら?」
とりあえず、私は雪風ちゃんに初歩として「IS」を纏っての移動を指示した。
雪風ちゃんが歴戦の勇士なのは理解してはいるが、さすがに「IS」に関しては未体験のはずだ。
いかに「IS」が安全面と操縦者保護の面で優れてはいても初心者には危険が付きまとうものだ。
私はまだ通ってはいないが、自動車の教習所でもまずは単純に外周から始めて、緩いカーブや速度の微調節を学ぶ。「IS」ははっきり言えば、感覚さえ掴めば後は問題はないからだ。
そして、最初にそこら辺のさじ加減を覚えてから右左折に入る。
昨日、「IS」の訓練に参考になると思って調べたが確かこんなはずだった。
さすがに飛行訓練は時期尚早だと思った。
「わかりました。
じゃあ、行ってきます」
私の指示を聞くと雪風ちゃんはどこか幼さとあどけなさを感じさせるにこやかな表情で従ってくれた。
そんな彼女に私は
「いってらっしゃい」
「がんばってくださいね」
短い距離ではあるが、不慣れな動作に苦戦すると思い健闘を祈ってそう言った。
虚ちゃんもなんだかんだで雪風ちゃんの人柄に触れたらしく、彼女自身も応援したくなったらしく、微笑を浮かべながら見送ろうとした。
「はい!ありがとうございます!」
彼女は私たちに返礼すると、早速、「IS」を使っての移動を始めた。
「……虚ちゃん、本音ちゃんに苦労をかけさせるわね……」
私は雪風ちゃんが去ると、いつも苦労をかけさせている幼馴染に今度は彼女の妹にまで迷惑をかけることを詫びた。
雪風ちゃんに頼んだ依頼の助手として、虚ちゃんの妹である本音ちゃんを付けることになった。
元々、本音ちゃんには私の妹のことも頼んでいるが、タイミングの悪い時期に織斑先生の弟と雪風ちゃんが同時に来てしまい、本音ちゃんにかかる負担も三倍になってしまった。
そんなことに私は申し訳なさを感じてしまったのだ。
「いいえ……元々、本音も簪様の付き人なのです……
ですが、
むしろ、そちらのほとんどを雪風さんが警戒してくれるので本音の負担が軽くなると思います」
虚ちゃんは私が雪風ちゃんに「世界唯一にして初の男性適合者」と「ISの生みの親の妹」の警護と監視を依頼した理由の中の一つを理解してくれていたようだった。
本音ちゃんにあの年齢であの学年の中における重要人物二人と私の妹である簪ちゃんのことをマークしきれるかと言えば、それは困難だ。
だから、今回の依頼の目的は元軍人、士官どころか下手したら将官クラスの猛者であると思われる雪風ちゃんにあの二人のことに関してのことを依頼することで本音ちゃんの負担を少しでも軽くしようと考えてのことだ。
「……本当は私が簪ちゃんを信じなくちゃいけないんだけどね」
本来ならば、簪ちゃんにも「更識」の仕事をやらせるべきだ。
それなのに私はただ
虚ちゃんにも、本音ちゃんにも、雪風ちゃんにも。
「……お嬢様。
雪風さんも言っておられましたが、お嬢様はご立派ですよ」
私がみんなに対して後ろめたい感情を抱いていると虚ちゃんはまるで私の心を見透かしたかのように言った。
きっと、本音ちゃんも『かんちゃんのためなら!』と言って私のことを決して責めないだろう。
そんな周りの優しさに私は
「そうね……」
本来ならば納得したくないのだが無理矢理納得しようと思った。
「さてと……雪風ちゃんの様子は―――
え?」
私は雪風ちゃんが慣れない「IS」の運用に苦戦していると思い、不安と心配、ちょっとした子供や後輩のことを見守るような気持ちで彼女の訓練の様子を確認しようと目を向けたが、私はそこで驚くべきものを目にした。
雪風の生きた世界で生き残った艦娘の中には史実の生存組+IFもいます