奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「ぐっ……!!
フーッ……!!」
私は戦いにおける緊張感とそれによって生まれる集中力を途切れさせないように呼吸を落ち着かせようとした。
織斑君たちの退路を確保するために一人でこの場に残り、その後に隙を見て彼らを救出に向かおうとしているが、敵の猛攻によってそれを出来ずにいた。
一体、何なんですか……
この人たちは……
既に二十分近く交戦し相手のビット兵器のようなものをあらかた片付けたといっても、未だにその操り手とそれらを守るためにいる集団によって私は消耗戦を強いられている。
エネルギー残量も……私自身も限界が近いですね……
ビット兵器の群れと相手の本体を叩こうとした際に喰らった対空射撃によって私の「シールドエネルギー」はかなり削られている。
さらに回避運動による集中力と緊張から体力も消耗している。
それら以上に今まで感じたことのない「死」への恐怖から「精神」も同様に削られている。
何せあの集団が撃ってくる砲撃は人が持つサイズにも拘わらずその重量感と殺意がまるで戦艦のもののようなものだった。
もし少しでも当たっていれば間違いなくミンチ状態になっているだろう。
織斑君たちは無事でしょうか……?
自分に間違いなく死が迫っているという状況の中で私は生徒たちの安否が気になって仕方がない。
いや、むしろそちらのほうが気になって仕方がなかった。
……織斑先生……川神先輩……
私、「代表候補」止まりでしたが……
今はむしろ、それが誇りに感じます……!!
こんな状況で不謹慎であるが生徒たちに威厳を感じてもらえず頼りない教師であったが、それでも教師として生徒たちの心配をすることが出来ている自分に安心感を覚えている。
どうやら思ったよりも私は「IS」に携わる者としては劣ってなどいなかったらしい。
もし「代表候補」だったら私は「IS学園」の教員としてこの場にいなかったかもしれない。
そうなれば生徒を守ることが出来なかった。
そして、私の「代表候補」止まりだったこの力で生徒たちを今守ることが出来ている。
それを私は自分を認めてくれた二人の尊敬する先輩たちに心の中で強く感じた。
「直接助けに行けなくても……!!」
恐らく、私はこの敵に勝てない。
だけれどもここで少しでも粘ることが出来れば少なくともここにいるこの敵が生徒たちの下へと向かうことは防げる。
「行きますっ……!!」
◇
「………………」
「雪風さん……?」
躊躇っている一夏さんをセシリアさんとシャルロットさんが篠ノ之さんの下へと向かわせた後にセシリアさんが私を心配してきた。
篠ノ之さんが「福音」を沈黙させたとはいえまだ安心できない状態にもかかわらず私は友人たちに顔向けが出来なかった。
『深海棲艦が現れた』。
その脅威を目にしたのに私はそれを説明できずにいる。
本当のことを話しても信じてもらえないという不信が怖いのではない。
私が怖いのはそれを「言い訳」と思われることが怖いのだ。
信じてもらえなくてもいい。
だけど、私が『言い訳をするような卑怯な人間』だと軽蔑されることが恐ろしくて仕方がなかった。
「……セシリア……
ちょっと今は待ってあげて」
「……!」
「シャルロットさん……?」
「今の雪風は何かわからないけどきっと彼女にとっては小さくない何かが苦しめているんだと思うよ
だから、今はそっとしておいてあげて」
私が二人の顔を直視することすらできずにいるとシャルロットさんがセシリアさんにそう言った。
シャルロットさんは私が本当のことを言っていないのに、いや、自分たちに隠し事をしているのに私を庇ってくれた。
「……わかりましたわ。
雪風さん……その……何かあったのかわかりませんが……
それでも一夏さんを助けてくれてありがとうございます」
「え……」
シャルロットさんの頼みを快諾してくれた直後にセシリアさんは私に一夏さんを助けたことに対して感謝をしてきた。
「……あなたのことですわ。
それにあなたのその恰好からきっと一夏さんを助けるために無茶をしてくれたのですわよね……
一夏さんが無事なのはあなたがいてくれたからでしょう」
「っ……!!」
「せ、セシリア!?
ちょ、ちょっと!!」
「……?
どうされましたの?」
そのセシリアさんの優しさが今の私にとっては辛かった。
セシリアさんはいつもの私の在り方や今のボロボロの「初霜」を目にして私が身を挺して一夏さんを助けたと思っている。
でも現実は逆だ。
私はむしろ、一夏さんたちに助けられて彼らを危険にさらしてしまった。
憎しみのままに「深海棲艦」を殲滅しようとし、トドメを刺そうとしたときに躊躇し、その隙を「福音」に突かれて窮地に陥った。
そして、何よりも私は一夏さんに身を挺して守られそうになった。
私は……
自分が彼らに見せてしまった鬼の姿とそれによって彼らを危険にさらしたことへの罪悪感が再び襲った。
『何、ぼーっとしてんのよアンタは』
『お姉様……!!ご無事ですか!?』
「「「!?」」」
私が再び俯きそうになった時だった。
「全く……!!
アンタ、何つう顔してんのよ」
「お姉様……!!ご無事で……!!」
「福音」によって撃墜された鈴さんと彼女を救助に向かったラウラさんが潜水艦の様に浮上してきた。
「鈴さん……!!」
「鈴……!!」
「生きてましたのね!!」
「ちょっと、セシリア!?
その言い方だとまるでアタシが死んだみたいじゃないの!?
勝手に殺すな……!!」
「え!?あ、ごめんなさい」
どうやらセシリアさんはこの場におらず撃墜されたことで命を落としたのではと勘違いしていたらしい。
そんなセシリアさんの発言に鈴さんは心外だったらしく抗議した。
「お姉様……!!」
「……っ!ラウラさん……」
「よかったです……お姉様がご無事で……」
ラウラさんは私に近付くとまるで不安に襲われた子供が母親の胸に飛び込むように抱き着いてきた。
彼女は私を心配してくれていた。
まだ「深海棲艦」がいるのかもしれないのだから安心できないが、少なくとも彼女たちにとってはいつものように戦いが終わった後の微笑ましい光景がこの場に存在していた。
それはとても尊いものだ。
笑えない……
「お姉様……?」
なのに私はこの尊い情景を喜べなかった。
戦いが終わり日常が帰って来た。
もちろん、「深海棲艦」がいるのだから油断できない状況だからある程度の警戒は必要だ。
しかし、そんな警戒心や危惧感とは別に私はこの光景がまるで絵画の中の情景を見ているように感じられなかった。
まるで自分がこの世界における異物のように感じてしまった。
「どうしたのですか?お姉様?」
「雪風?」
「雪風さん……?」
私が孤独感にも等しい疎外感を抱いているとラウラさん、シャルロットさん、セシリアさんが私を心配してくれた。
けれども、そんな彼女たちの優しさすらも今の私にはまるで実体のないようなものにしか感じられなかった。
こんなに近くにいる友人たちなのに手を伸ばすことに忌避感が生まれ邪魔をする。
まるで彼女たちが遠いものに感じる。
「……ラウラ。ちょっとそこどいて」
「……?
あ、あぁ……わかった」
私がまるで見えない境界線で彼女たちに応えることが出来ずにいると鈴さんが唯一私に近付いてきた。
「雪風」
「……鈴さん……?」
鈴さんは私のことを真っ直ぐ見つめてきた。
その直後だった。
「フンっ……!!」
「ぐっ!?」
「えっ!?」
「なっ!?」
「鈴さん!?」
突然、彼女は私の頬を打ってきた。
「……っう……」
「お姉様!?
凰!!貴様、一体何を!?」
「うっさいわね。
今は黙ってて」
「なんだと!?貴様ぁ!!」
私が殴られたことにラウラさんは鈴さんに怒ったが鈴さんはそれに取り合おうとしなかった。
「……ラウラ。待って」
「シャルロット……!?
何故邪魔をする!!」
そんなラウラさんのことをシャルロットさんは止めた。
「……大丈夫。
きっと、鈴は……」
「シャルロット……?」
「シャルロットさん……?」
シャルロットさんは鈴さんに信頼と期待を込めた眼差しを向けた。
それを見たラウラさんとセシリアさんは落ち着きを取り戻した。
「いきなり殴ったのはごめん……
でも、アンタ何時まで自分に嘘を吐いているつもり?」
「え……」
「何……?」
鈴さんは最初に殴ったことを謝った後に私に対してそう諭してきた。
「……今のアンタが何かおかしいのは誰でもわかるわよ。
何か言えない事情抱えているのも。
でもね……アタシ、確信したわ。
アンタ、無理している以上に自分に嘘吐いているでしょ」
「え……」
鈴さんは唐突にそういった。
嘘を吐いている。
身に覚えがあり過ぎて私はそれが何なのかわからなかった。
「……何となくだけど……
気づいちゃったのよ……アンタ、もっと笑顔の似合う女の子だったんでしょ?」
「!?」
「え……」
「……?」
「それは一体……」
鈴さんはまるで私の心を見透かすように畳みかけてきた。
「前に見たアンタの笑顔……
ちょっと寂しそうだったのよ……」
「……っ」
以前、私が暴走した「VTシステム」を止めた後に鈴さんもラウラさんも無事であったことに私は安堵の笑顔を見せた。
けれども、鈴さんは私の笑顔に違和感を抱いたらしい。
「……普通、みんな無事だったらもっと喜ぶか泣くものでしょ?
それなのに……アタシにはアンタの笑顔が寂しそうに見えたのよ……
だから、確信したのよ。アンタにはあんな笑顔なんかよりももっと似合う本当の笑顔があるはずだって」
「……!?」
私は何も言えなかった。
確かに安心する笑顔をしていた。
いや、違うそうじゃない。
私の笑顔て……
どんな顔でしたっけ?
私はその笑顔しかできなくなっていたのだ。
もう自分がどんな風に無邪気に笑っていたのか忘れてしまった。
あの頃の写真ももうない。
そもそも笑顔を忘れること自体がおかしいのにそれを今更になって気付いてしまった。
「それと……
アンタがどうしてさっきみたいなことしたのか薄々だけどわかっちゃった気がすんのよ……」
「え……」
「……さっきの?」
「鈴!それは……!!」
鈴さんは私が「深海棲艦」にした戦い方からも何かを掴んだらしく私の表情と結び付けてきた。
「……アンタをそんな風にしたの……
アイツらなんでしょ?」
「……!?」
「えっ!?」
「なんだと!?」
「それはどういう……!?」
「……今回のアンタの戦い方……それと今のアンタの状態……
あの連中がアンタのたまに見せる暗さと関係しているように感じられるのよ」
「それは……」
鈴さんは確かな証拠もないのに私の今の表情から私と「深海棲艦」との関係を探り当てた。
「雪風……
アタシはアンタが何者であろうと友達と思っているわ……」
「え……」
「それはどういうことだ?」
鈴さんはまるで私の正体に気付いているような言葉を言った。
「……アンタたち。
あの連中が普通の奴らだと思ってんの?」
「……!」
「え……」
「なんだと……?」
「一体、それは……」
さらに信じられないことに鈴さんは「深海棲艦」が人間じゃないという事実に近い答えに至っている。
しかも、そこからそれらを憎む私との関係にも気付いている様だった。
言うべきなんでしょうね……
隠せないところまで来てしまった。
私はそう悟ってしまった。
もしここで隠すのならばそれこそ目の前の彼女たちへの侮辱になる。
信じる。信じない。とかそれ以前の問題に話さなければならない状況になってしまった。