奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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 友人に見てもらった中で前回の部分における「横文字」の箇所を修正しました。
 勉強不足を感じました。
 そんな私ですが、どうかこれからもよろしくお願いします。


第2話「姉」

「「織斑 一夏」さん……

 初の男性のIS適合者ですか……」

 

 更識さんに渡された資料の中で「専用機持ち」の項目の中で、今、最もこの世界において衝撃を与え、注目されている人物のことを確認した。

 

「まさか……織斑さんの……

 おっと、織斑先生(・・)の弟とは……」

 

 件の少年は織斑さんの実の弟らしい。

 ちなみに私が織斑さんのことを先生(・・)と呼び直したのはこれから私は生徒として、IS学園に在籍するのに織斑さんとの関係は「生徒と教師」と言うものだからだ。

 そう言った関係なのに「さん付け」は違和感があるし、周囲に示しがつかないだろう。

 別に織斑さんとは親しくはないが、「親しき仲にも礼儀あり」と言う言葉があるように分別は必要なはずだ。

 

「しかし、この少年は色々な意味で注目されるでしょうね……」

 

 私が辿るであろうこれからの人生に複雑な気持ちを抱いた。

 「専用機持ち」。

 「世界最強の弟」。

 「世界唯一の男性適合者」。

 彼は入学する前から少なくともこれだけの嫌でも注目を集める肩書きを持っている。

 一つ目の「専用機持ち」と言うのは、言わずもがな、どうやら世界中のIS操縦者を目指す者ならば憧れ同然の者だ。

 私たち、艦娘で言う改二に等しいものだろう。

 

 もしくは……あの指輪(・・・・)でしょうね

 

 二つ目の「世界最強の弟」。

 それが意味することは

 

「まさか……織斑……先生がこんなとんでもない人物だったとは……」

 

 世界最強のIS操縦者=ブリュンヒルデである織斑 千冬の弟と言うことである。

 更識さんが私にISに関わる者としては知っておいた方がいいと渡してきた資料の中には親切にも織斑さんの「モンド・グロッソ」における成績と実績があった。

 見たところ、織斑さんの実力は大会出場者の中でもダントツであり、二連覇も夢ではなかったようである。

 また、更識さん曰く

 

『織斑先生目当てでこの学園に入学する生徒も多いのよ?

 ファンクラブもあるほどだし』

 

 とのことらしく、ISの業界にとっては彼女の存在はかなり大きいらしい。

 

「あはは……私たちで言う長門さんですね……」

 

 織斑さんの人気の高さを見ていると、「ビッグ7」の一人であり連合艦隊の旗艦を務めた我が帝国海軍の花形とも言える長門さんを思い出す。

 私にとっては最強の戦艦は大和さんだけど、艦娘、特に年齢が見た目と中身双方が低かった駆逐艦の面々から憧れていたのは長門さんだった。

 しかし、だからこそ、織斑さんの弟さんに対する周囲からの注目については私は不安に思っていた。

 

「織斑さんの弟さんが……

 陸奥さんや武蔵さんだとは限らないんですけどね……

 だけど、周囲はそれに気づかないんでしょうね」

 

 私は織斑さんの弟に「世界最強の弟」と言う重荷が背負わされないかが不安だった。

 長門さんや大和さんにはそれぞれ妹がいた。そのお二方もその艦種に恥じない戦いをしていた。

 しかし、それは陸奥さんや武蔵さんだからこそ成しえたことなのだ。

 二人は姉と同じ艦種であることに誇りは感じることはあれど、そこに驕りなど存在しない。

 だが、この少年は未だにISの世界では自分で何もなしえていない。

 となると、織斑さんの弟は「ブリュンヒルデの弟」と言う色眼鏡で見られて個人を見てくれる人間も稀であろう。

 

「ところで、この織斑先生の代理として第二回大会に出た川神さんと言う人もとんでもないですね……

 まさか……ほとんどぶっつけ本番なのに相手の国家代表に勝っちゃうなんて……」

 

 私は織斑さんがなぜか、決勝を欠場した第二回大会において、彼女の代理の人間の名前にも注目した。

 普通ならば、こんな特例は許されないが、どうやら対戦相手の国家が今まで公式大会に出てなかったこの川神さんを見くびって、それを認めたらしく、大会側も観客の不満を和らげるために認め、観客も退屈を紛らわせるためならば、何でもよかったらしい。

 私からすれば、「それでいいのか!?」と言いたいが。

 そしたら、結果は川神さんの圧勝だったらしい。

 私としてはオリンピックのような競技大会に政治や人種、国家のことを持ち込みたくないが、一応別世界とは言え『日本』が舐められるのは気持ちはよくないので、川神さんには感謝している。

 特に駆逐艦は『臆病者』とか『腰抜け』呼ばわりとかされるのは逆鱗に触れられるようなものだし。

 

「しかし……「ブリュンヒルデの弟」と言うのは……

 かなりの重荷になるでしょうね……」

 

 「モンド・グロッソ」とその優勝者の国際的意味を考えるとその近親者が注目を集めるのは確実だろう。

 と言うよりも、今まで何の変哲もない生活を送れていたことに私は驚きを隠せない。

 恐らく、織斑さんが色々と手を回していたのだろう。

 彼女の気持ちはよく解る。私だってできることならば自分一人だけで陽炎型の名前を背負いたかった。

 そうすれば、姉たちはもちろん、天津風や時津風、浦風、浜風、磯風、谷風、野分、嵐、萩風、舞風、秋雲たち妹は戦わないで済んだかもしれないのだ。

 姉と言うのはそういったものだ。

 それがあの子たちにとっての侮辱でもあるのはわかる。

 特に磯風なんかは一番怒るだろう。

 それでも姉と言うのは自分の弟妹(きょうだい)のことを大事にしたくなってしまう。

 だけど、織斑さんが守ろうとしていたそんな彼もまた日常から引き離されることになる。

 

「彼もまた……「IS」によって運命を歪まされた人間なのかもしれませんね……」

 

 彼には平穏で普通の人生を送る権利と自由があったはずだ。

 それなのにたまたま『男でISの適正があった』と言うだけで道を決められた。

 これは「人権侵害」というものではないのか。

 この日本(・・・・)においては「基本的人権の尊重」が憲法の基本理念らしいが、この少年がほとんど政府の意向でIS学園に入学させられるのは「人権の侵害」だ。

 もっとも彼を保護しなくてはならない気持ちもわからなくもないが。

 だが、それでも私は釈然としない。

 誰もそう言ったことに文句を言わないのはおかしいし疑問を抱くべきなのではないのか。

 彼が背負う三つ目の肩書である「世界で唯一の男性適合者」と言うのは名実ともに彼につきまとうことになるであろう。

 

「まあ……彼に少し期待しようとした私もまた……

 他人のことは言えませんがね……」

 

 私自身、この「織斑 一夏」と言う少年にどこか期待しようとしていた。

 この世界では男性は女性よりも下に見られている。

 しかし、同じ条件で戦うことのできる男性が現れたことでそういった「女尊男卑」の風潮に染まっている人間の認識を改めさせたり、そんな苦境の中にいる男性たちを勇気づけることも可能かもしれない。

 でも、それは『ISを使えるから偉い』と言う思い上がりによる根本的な歪みを正すことにならないし、「勝手な理想像」をこの少年に押し付けているに過ぎない。

 

「『文化は遅滞してから生ずる』なんて言葉がありますが、「遅滞」どころか「急激」過ぎますね……それも最悪な方向に……」

 

 私はどうしようもない「IS」による「歪み」をそう言って皮肉ることしかできなかった。

 どこぞの社会学者は『人間は科学技術の発展のあとに遅れて文化や哲学を発展させる』と主張したが、これでは「発展」どころか「後退」ではないかと愚痴りたくなった。

 いや、『退化もまた進化である』と言われているのでそこらへんの判断は難しいが。

 

「はあ~……それにこの少女(・・)も嫌でも注目されるでしょうね……」

 

 私は自分が所属するであろうクラスにおいて、注目されるであろう女生徒の項目を確認した。

 

「「篠ノ之 箒」さんですか……」

 

 それはこの世界の歪みの大元を作ったとも言える「IS」の発明者、篠ノ之 束博士の妹のことであった。

 私は一度、読んで危うく怒りでグシャグシャにしそうになった手元の書類をもう一度確認した。

 

「なんで……平和(・・)な世界で家族が引き離されなくちゃいけないんですか……」

 

 彼女の一家は一度読んで理解したが、ISに関わる人間を「保護」と言う名目で監視する「重要人物保護プログラム」によって離散させられている。

 これを知ったとき、いや、しばらく冷静になった今でも姉妹を全て失った私からすれば、吐き気が出るほど不愉快極まりない。

 あの戦いの中で自分以外の姉妹艦を失った艦娘は多かった。

 そんな私たちだからこそ、「家族」と言うものに「憧れ」を抱く。

 それを犯罪を犯したのでもなく戦争でもないのに平時に壊すなんて許されることではない。

 そんなことを国家が行うなど以ての外だ。

 確かに「篠ノ之 束」の家族と言うのは狙われるのかもしれない。

 それでも、家族を引き離すのは間違いだ。

 この少女もまた、「IS」によって日常を失った人間だと思える。

 

 家族が引き離されたのに……彼女は何をやってるんですか……!

 

 私がもう一つ憤慨したのは篠ノ之 束のことであった。

 彼女はそれに対しても何も言わないで行方を眩ましたままだ。

 まるで他人事のようだ。

 資料には『身内には甘い』と書かれているが、私からすればこんなので身内に甘いなどすれば『ふざけるな!』と叫びたくなる。

 本当に身内、つまりは家族や友人を大切にするならば()を蔑ろにするはずなどないはずだ。

 少なくとも、私の知る「姉」と言うものはそうだったし、私ができなかった(・・・・・・)「姉」と言うのはそういうものだ。

 それだけ、この「篠ノ之 箒」と言う少女の経歴には苛立つものがある。

 

「……と言うか、更識さん?

 私がまだ〝シロ〟か〝クロ〟かわからないのにこういった重要な情報を渡すのは……

 迂闊過ぎませんか?」

 

 私は天を仰ぐようにしながら、この資料一式を渡した対暗部のための暗部の頭領に対して愚痴をこぼした。

 そもそも、なぜ私がこんな重要情報を渡されたかと言えば

 

『雪風ちゃんに頼み事をさせてもらうわね?』

 

 更識さんに「とあるお願い」をされたからだ。

 その「お願い」とは

 

『雪風ちゃんのクラスには私たちが護衛する予定の子たちが二人ほどいるんだけど……

 こっちからも手伝いをよこすからその二人のこともよろしくね?』

 

 と言うものだ。

 

 ……いくらなんでも昨日出会ったばかりの人間を信用し過ぎじゃありませんか!?

 

 彼女たちのことを騙すつもりなど毛頭どころか、欠片も、いや、まったくと言ってもそのつもりはないが、こんな極秘事項を私に託して尚且つ協力させるのはいくらなんでも適当過ぎないかと心配になってきた。

 ある意味、私を選んだ点では人を観る目はあるようだが、もし、普段から彼女があのようだったら物凄く彼女の行く末が不安になってくる。

 

―コンコンー

 

「雪風さん。

 お嬢様との時間です」

 

 私が書類を再確認していると昨日の更識さんのとんでもない行動に私と同じくらい肝を冷やしていたであろう更識さんの幼馴染であり、従者に近い存在の布仏さんが例の時間に近くなったことから私のことを呼びに来てくれた。

 

「わかりました」

 

 私は書類を机の鍵付きの棚の底に少し、細工を施してしまってからすぐに外に出れる準備を整えて更識さんが待っているであろうアリーナにと呼ばれる演習場に向かおうとした。

 これから、私は初の「IS」の訓練を行うのだ。

 私はすべての準備を終えると、ふと鏡を目にしたことでその鏡の前に立つと

 

「雪風、抜錨します!」

 

 私たちの長姉であり、ネームシップである姉の言葉を借りて気を新たに引き締めた。




 瑞の海読破。
 やっぱり、なんかいいですね~。
 ああいったカップルは応援したくなります。

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