奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第64話「割り切れぬもの」

『凰!!

 聞こえるか!?

 確りしろ……!!』

 

『んん……

 ラウラ……?』

 

 「オープン・チャネル」から聞こえてきたラウラの声を耳にしてアタシは水の中で目を覚ました。

 水中でも相手と会話できるのは「IS」のいいところだ。

 どうやらアタシは「第二次形態移行」に至った福音による、あのまるで人間が羽虫を両手で叩き潰すかのような爆圧を受けた後にそのまま落下したらしい。

 

『!

 ラウラ!「福音」は!?一夏と雪風は!?』

 

 思考が少しはっきりしてきたアタシはラウラに直ぐに今の戦いの状況と一夏たちの無事を訊ねた。

 ラウラがここにいるということは、ある程度戦闘に片が付いたということだろう。

 あの状態の「福音」はあの障害物のない狭い戦場においてはあの運動性もあって殆ど無敵だ。

 しかも、「逃げる」という手段も今の一夏と雪風たちにはできない。

 

『お姉様と織斑は無事だ』

 

『……!

 本当……!?よかった……!!

 じゃあ、「福音」は今はシャルロットが相手をしているの?

 それだったら、早く助けにいかないと……!!』

 

 二人が無事だった。

 そのことにアタシは安堵を覚えるとともに先ほどまでの状況から今戦えるメンバーがシャルロットだけであることから彼女が一人で戦っていると考えた。

 そのことからアタシは一刻も早く海上に出てシャルロットの援護に回るか、最低でもラウラだけでも向かわせようとした。

 けれども、ラウラはアタシが予想していたことよりも衝撃的な言葉を口に出してきた。

 

『……福音は今、()()()()()()()()()()()

 

『……はあ!?』

 

 彼女は「福音」と戦っているのは篠ノ之だと言ってきた。

 信じられない人間の名前にアタシは混乱しそうになったが

 

『なんであの女がいるのよ!!?』

 

 それ以上にあの女がいることへの苛立ちが上回ってしまった。

 アタシは今まで、いや、それ以上に先生をあんな目に遭わせたあの女が来たこと自体に反感を覚えたのだ。

 今のアタシの言っていることや考えていることは最低なのは解っている。

 それでもあの女が来たことが納得がいかないのだ。

 先生や雪風、一夏たちはあの女を気にかけているようだがアタシには無理だ。

 

『オルコットが呼んで来てくれた』

 

『!?セシリアが……?』

 

 そんなアタシの苛立ちを察したのかラウラはあの女が来た経緯を説明した。

 セシリアが呼んだ。

 恐らく、彼女のあの取り乱し様からなりふり構わずあの女に頼み込んだのだろう。

 

 だけど、よりにもよってあの女に……!!

 

 一夏と雪風を助けてもらった。

 その事実は喜ぶべきだ。

 なのにアタシは未だにあの女に怒りを抱いている。

 あの女はあれ程までに先生が気にかけていたのにそれを全て無下に扱い、終いには先生を殺しかけた。

 いや、殺しかけたどころじゃない。

 もしかすると、()()()()()()()()()()()

 先生をそんな状況に追い込んだあの女が憎くてたまらない。

 

『凰……

 篠ノ之に対する怒りは理解できるが落ち着いてくれ……

 それにアイツは……』

 

『……何よ?何が言いたいのよ?』

 

 アタシの胸の中で篠ノ之への憎しみにも等しい怒りが煮えたぎっているとラウラが私に冷静になるように言ってきた。

 どうして赤の他人であるラウラがあの女を庇うようなことを言い始めたのかが理解できなかった。

 少なくともラウラは篠ノ之と交友関係がある訳ではないし、それに今までの雪風に対するあの女の行動を見ればラウラは篠ノ之に敵愾心を抱いてもいいはずだ。

 

『アイツは……

 一ヶ月前の私と同じなんだ……』

 

『え……』

 

 ラウラは自嘲と自戒が混ざったかのような声音でそう続けた。

 

『私は……お姉様に救われるまで誰も信じようとしなかった……

 しかも、ただ自分だけが救わることばかりを願って初めて自分にぬくもりを教えてくれた教官のことしか見なかった……

 なのに私はその教官の気持ちも理解しようとせず教官すらも信じずにいた……』

 

 一ヶ月前のラウラは彼女の言っている様な人間だった。

 千冬さんを除く全ての人間を眼中に入れようとせず、千冬さんと強い絆を持つ先生や一夏を倒すことしか考えていなかった。

 嫉妬に狂っていたように。

 

『それでアンタと同じで可哀想だからアイツを許せって?

 ふざけんじゃないわよ……!!

 先生は……先生は……!!』

 

 先生が死ぬかもしれないという現実から生まれた不安が胸の奥から全身に伝わった。

 泣くのを我慢していたがもう無理だった。

 自分に愛情を与えてくれる相手を独占したい為に暴走してしまった。

 確かにラウラとあの女は似ている。

 だけれども決定的に異なるのはラウラはまだその過ちが取り返しのつく行為だったからだということだ。

 それにラウラの一連の行動の被害者はセシリアや篠ノ之、そして他ならないアタシ自身だった。

 本人であるアタシだから許せた。

 それは取り返しのつく行為だったからかもしれないし、アタシ自身が許す意思があったからできたことなのだ。

 けれども、今回は違う。

 アタシは大切な人間を傷付けられた。

 それを許すことなどできない。

 仮に頭で出来たとしても心が許せないのだ。

 

『……わかっている……

 そんなことは私が……』

 

『……?

 ラウラ?』

 

 アタシの答えを目にしてラウラは悲しそうな顔をした。

 

『許さなくてもいい……

 それでもいいから……せめて、川神先生が悲しむようなことはしないでくれ……』

 

『先生が悲しむ……?』

 

 切実そうにラウラはアタシに訴えてきた。

 

『……川神先生が無事なのかは私にもわからない……

 だが、もしお前が篠ノ之を傷付けたらきっとあの人は―――』

 

『……っ!!?

 うっさい……!!

 アンタに何がわかるのよ!?

 先生が悲しむ!?もし先生が死んだら先生はそんなことすらできなくなるのよ!!?』

 

 ラウラのその言葉が癪に障りアタシは叫んだ。

 きっと先生が生きて帰ってきたのならばあの人はあの女を許すだろう。

 でも、それはあくまでも先生が生きていればの話だ。

 もしそうじゃなければ先生は篠ノ之に文句や恨み言すらいう権利を取り上げられたことになる。

 それを先生を理由にして黙ることなどアタシには不可能だ。

 

『……頼む……!!!』

 

 アタシが引き下がらないのを目にして逆に頼み込むように言ってきた。

 

『何よ……?同情?

 いくらアンタが頭を下げてもこれだけは無理よ……!!』

 

 アタシはラウラに八つ当たりをしているかのように言った。

 ラウラを責めても無意味なのは理解しているl

 それでも今のアタシにはラウラの言葉が受け入れられなかった。

 

『……それもある……

 だけど……()()()()()()()()()()()……!!』

 

『……雪風の……為……?』

 

 雪風の名前が出てきたことにアタシは少しばかり冷静さを取り戻した。

 

『……今のお姉様は苦しんでいる……

 その理由はわからないが……

 だけど、きっと今の状態でもお姉様は篠ノ之を庇おうとするはずだ……』

 

『……何ですって?』

 

『普段のお姉様なら戦いに集中している……

 でも、今のお姉様はそれすらも出来ていない……

 何よりもあのお姉様が泣き叫ぶように縋るように自分を犠牲にしようとした織斑を止めようとしたんだ』

 

『えっ!?』

 

 今の雪風の様子がおかしいのは知っているし、苦しんでいることも薄々気付ていた。

 だけれどもアタシが海に落ちていた間に一夏が何か無理をしようとし、それを雪風が信じられない態度で止めようとしたのだという。

 

『……詳しいことは後で話す。

 けれども、そんな精神状態の中でお姉様はお前が篠ノ之を傷つけようとしたのならば止めに入る……

 それは……作戦前に見せたあの行動からわかるだろ……?』

 

『……!』

 

 ラウラの言っている言葉には説得力があった。

 雪風は先生が篠ノ之に殺されかけた際にアタシが激昂し「龍砲」を撃った際に身を挺して庇った。

 自分の師を傷付けた相手にもかかわらず雪風は篠ノ之を庇った。

 そう考えると雪風が今の状態でも篠ノ之を守ることは十分考えられる。

 

『頼む……!!

 今だけでいい……!!

 せめて、帰還するまでの間は……!!お姉様の前では篠ノ之を責めないでくれ……!!』

 

『ラウラ……』

 

 ラウラは敬愛する姉分の為に懇願した。

 その中には当然、自分と篠ノ之を重ねたことへの憐憫もあるが、それでもそれ以上に雪風の心への負担を軽くしたいという考えもあった。

 

『……わかったわよ』

 

『……!』

 

 ラウラの姉分に対する想いと姉妹弟子としてのアタシ自身の雪風への友情によって動くしかなかった。

 

『……だけど、あくまでもアンタと雪風に免じてのことよ?

 許したわけじゃないわよ!?』

 

『……凰!!

 ありがとう……!!』

 

 別に許したわけじゃない。

 だけど、今の雪風にこれ以上心の負担を負わせるようなことをしたくなかったのだ。

 

『上に出るわよ。

 あの女との連携は取れなくても一夏たちを守ることぐらいは出来るはず』

 

『ああ……!』

 

 癪ではあるが、今空では最新鋭機のワンオフ機を纏っていることから少なくとも手負いの相手にあの女は十分渡り合えているだろう。

 だけど、普段一緒に訓練をしていないことや普段の態度から連携は取れないことから共同戦線は無理だ。

 そうなるとアタシたちが出来るのは一夏と雪風を守ることぐらいだ。

 

『それじゃあ、行くわよ―――!!』

 

 と浮上しようとした時だった。

 

―逃ガサナイ―

 

『―――え!?』

 

 突然、どこからともなく底冷えのするような低い女、いや、まるで暗い暗い海の闇から聞こえてくるような声が聞こえてきた。

 

『……?

 どうした、凰?』

 

『え?今の聞こえなかった?』

 

『……?何がだ?』

 

 どうやらラウラには今の声は聞こえなかったらしい。

 一瞬、「プライベート・チャネル」から入ってきたものだと思ったが通信障害が発生しているこの地域でありえないと思った。

 アタシはその海の底から聞こえてくるような声にまるでホラー映画を見た後にシャワーを浴びた際に後ろに気配のようなものを錯覚して振り向くように辺りを見回してみたが今の声の音源になりそうなものは見えなかった。

 

『……ごめん。アタシの気のせいだったらしいわ』

 

『そうか。まあ、朝から色々とあったのだからそんなこともあるだろう』

 

『そうね。じゃあ、急ぐわよ』

 

『そうだな』

 

 どうやら今のは気のせいらしい。

 ラウラの言う通り、朝から色々なことがあって心身ともに疲れがたまっているらしい。

 アタシはそう考えてラウラと共に海面に向かって上昇した。


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