奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
『LAAAAAAAAAA!』
「ぐっ!」
「この弾幕にあの機動力……
やはり侮れんな……!」
「鈴は龍砲を拡散モードにして弾幕の一掃!
ラウラはその後ボクと一緒に左右から挟撃して!
捕獲のやり方は君に任せる!」
「わかったわ!」
「了解!」
くそ……!
鈴とラウラとシャルの三人が「銀の福音」と上空で戦っている様子を眺めながら自分があの戦いに参加できない状況に対しての悔しさに拳を握りしめた。
最初の「福音」との戦闘での「零落白夜」、突然の「謎の敵」の襲撃による「シールドエネルギー」の消耗、敵に拘束された際に使用した「零落白夜」、そして、雪風を助けようとした時に使用した「瞬時加速」。
それらのエネルギーの使い過ぎで俺は戦いに加わることが出来なくなった。
最悪、ここから帰還するエネルギーもないかもしれない。
その証拠にシャルは俺に指示を出していない。
つまりは俺が戦いに参加すれば間違いなく足手纏いになるだろう。
でも……
今はそれでいいのかもしれない……
今、俺は色々なことを考え過ぎてしまっていて気持ちと頭を整理したかった。
俺は背後に目を向けて自分が戦いに参加できないことへの無力感を噛み締めながらも俺を今悩ませているものを確認した。
「………………」
俺の後ろで雪風は俯いていた。
その俯きには悲しみや苦しみが込められていた。
『いたい……』
『いたいです……
ここに……いたい……です……』
雪風の『ここにいたい』という呟き。
まるでここにはいられなくなることへの恐れが感じられた。
それは「人殺し」という罪の重さからくるものではないことは感じられた。
雪風はあんなことを平気でするような奴なんかじゃない。
そして、仮にそれが悪いことならば自ら罪を認めて罰を受けるような人間だ。
じゃあ、何が……
それだけに俺は雪風のあの言葉がわからない。
そもそも雪風ならばそんな罪を犯すようなことはしない。
なのにどうして自分の意思であんなことをしてしまったのだろうか。
……待てよ……
そんな答えが見つからない何処までも続く深みに嵌まろうとした時に、あることを思いだした。
『また……
奪うつもりですか……?』
『また』……?
俺が殺されかけた時に雪風が漏らした『また』という言葉。それが引っかかった。
雪風は誰かが危害を加えられそう、特に殺されかけたり死にそうになったりすると『自分の目の前で誰も死なせない』と常に言う。
その意味を俺は昨夜の雪風にとって大切な存在である雪風のお姉さんの「死」が関わっていると考えていた。
だけど、今回の雪風はいつもと明らかに違う。
殺意……?
そう。
先ほどまでの雪風はそういったトラウマとか、悲しみとかがフラッシュバックしたことから来る敵意なんかではなく、直接相手に怒りをぶつけているようにも感じられた。
そして、それはまるで怒りなどの生易しいものではなく、「殺意」の様なものだった。
まさか、雪風はあの連中と会ったことがあるのか……?
雪風のまるで相手と会ったことがあるような『また』という言葉とあの殺意。
なぜかそれは具体的なものに感じた。
「!?」
それらのことから関連性を見つけようとした時だった。
まさか……雪風のお姉さんは……
雪風のあの悲しみが重なった。
あいつらに殺された……!?
雪風の『また……奪うつもりか』という言葉。
今まで雪風が誰かの生命が奪われそうになる時に見せる怒り。
雪風の姉に対する想い。
それが結び付き、漸く雪風のあの敵意を通り越した殺意の正体に気付いた。
それはあの連中こそが雪風の姉を殺した存在、すなわち「仇」だということだったのだ。
雪風の怒りの源。
それを植え付けた存在こそがあの連中だったのだ。
だから……
『また』なのか……
これはただの俺の憶測だ。
だけど雪風があんな風に躊躇いなく他者の命を奪おうとし、敵に殺意を見せるとしたらそれぐらいしか思い浮かばなかった。
……俺はどうすればいいんだ……
もしこの予想が当たっていたとすれば俺はこれから雪風にどんな風に接すればいいのだろうか。
あの連中は「福音」によって死んだ。
けれども、その死には間違いなく雪風が関わってしまっている。
雪風の攻撃で動くことが出来なくなったところに「福音」が爆撃して死んだ。
多少なりとも雪風が「仇討ち」をしたことになっている。
責めることなんて……出来ない……
雪風のしてしまったことを俺は『間違っている』なんて言えない。
雪風は愛する人を奪われた。
それだけで相手を憎んだりするのには十分すぎる理由だ。
それを他人である俺が横から口を挟むのは烏滸がましいことなのは理解できてしまえる。
俺だって千冬姉を殺されたりしたらその相手を『許せ』なんて言われても絶対に無理だ。
セシリアやシャルの時と違って……
どうしようもないのか……
セシリアとは雪風との戦いで意地を見せたことで彼女に認めてもらえた。
シャルとは彼女が「IS学園」にいる期間の猶予の間に対策をすることが出来た。
それらは全部、現在進行形で起きていたから何とかなった。
だけど、雪風の背負っているものは重さは言わずもがな、既に過去に起きてしまっている。
セシリアのあの「女尊男卑」はまだ男の価値を見せることで彼女の固定概念を壊すことが出来たことであったが、雪風の心の底にある悲しみと怒りは壊すことの出来ないものだ。
シャルの件はシャルの今の状況から未来を掴むことや彼女の背中を押すことで何とか前に進めさせられたが、雪風を縛る鎖は遠い過去から続くどうやっても壊せないものだ。
でも……一つだけわかる……
そんな暗闇の中で一つだけ理解できたことがあった。
……雪風は復讐なんか……望んでなんていないんだ……
雪風にとってはさっきの行動は「復讐」よりも違う別の感情が突き動かしていた。
そうじゃなかったら……
『ここにいたい』なんて……言わないんだよな……
雪風の『ここにいたい』という言葉には矛盾があり過ぎる。
雪風は自分のしたことから逃げるような人間なんかじゃない。
仮に「復讐」を選ぶのなら、そのまま自分のしたことへの償いや報いを受け容れるはずだ。
だから、さっきの行動には彼女の「憎しみ」とは別の理由があって連中に牙を向けたはずだ。
良くも悪くも自分をしっかり持っている奴なんだよな……
雪風は自分を曲げない。
そうじゃなかったら、セシリアや俺にぶつからないし俺たちは友達になれなかった。
あのショッピングモールでの件でもそうだった。
あくまでも雪風は自分が間違っていると思っていることをそのままぶつけただけだ。
そんな雪風の意思がさっきの行動には感じられなかった。
だめだ……
わからない……
どうして雪風がこうも弱っているのか俺にはわからない。
なんで自分の意思がなくなっているのか見当たらない。
後少し、後少しで手が届きそうなのにわからない。
さっきは『連れ戻す』なんて言ったけれど、その自信がなくなりそうだ。
他に戦う理由があるのか……?
雪風がこうまでして追い詰められて戦わなくていけないのは「復讐」以外に何かあるはずだ。
俺は―――……
何も答えが浮かんで来ず俺は一瞬諦めそうになったが
―――でも、約束しちまったからな……
そんなことを気にすること自体が間違いであることを思いだした。
俺は雪風にさっき言った。
『どんなに遠くに行っても必ず連れ戻す』と。
こんな場所で迷っていたらその「約束」を果たせない。
一度した「約束」、それも女とした「約束」を守らないのは最低だと鈴に泣かれた時に痛感させられた。
それに……雪風が俺を助けてくれたのは本当の事だ……!
雪風は俺を助けてくれた。
自分が相手を傷付けることを理解しながらも雪風は俺を助けてくれた。
あの時、雪風が助けに入らなかった俺は間違いなく死んでいた。
それなのに俺はそんな雪風を諦めそうになっている。
そんなもの、俺は認めない。
少なくとも、誰かを守ろうとする意思は確かにあった……!!
考えてみればこんなことは簡単だった。
雪風には確かにあの連中への憎しみはあったかもしれないが、それ以上に誰かを守ろうとする決意があったのは事実だ。
……それに……雪風が悪いなら……俺なんか……
何よりも俺も、いや、俺の方こそ他者の命を奪ってしまっている。
殺されそうになったからと言って、俺は人を殺してしまった。
雪風は殺意を抱いていたが殺していない。
俺は殺意を持っていないのに殺してしまった。
どっちが罪深いなんかはわからないし決められない。
だけど
……それで雪風の手を掴めるのならいいか……
俺は自分の犯してしまった罪への後悔を抱きながらもそれによって雪風へと手を伸ばせることに僅からながらの救いを抱いた。
きっと雪風は俺が何を言っても『自分の汚れた手で他人に触れて相手まで汚れるのが嫌だ』とか言って振り払おうとするだろう。
俺だってそうだ。
俺だって、「正当防衛」とか色々と理由を付けられてもそれで納得できない。
箒みたいに。
箒も那々姉さんを傷付けてしまったことで周囲を拒絶し自分の殻に閉じこもろうとしている。
そこにどれだけ普通の人間が手を伸ばそうとしても相手を自分と同じ深みに沈めまいとして手を振り払おうとする。
だったら俺はこの汚れちまった手で無理矢理でも掴むだけだ……!!
もし俺の手が汚れていることで他人を救えるのなら俺は何度でも手を伸ばす。
それが友達ならなおさらだ。
そもそも俺は雪風の手が汚れているなんて思えないしな。
これは理屈なんてないのかもしれないが、俺からすれば雪風の手も箒の手も汚れてなんて見えない。
二人とも、何だかんだで色々と抱え込み過ぎている。
ちゃんと話してくれたらいいのになのに話してくれない。
他人を頼ることを他人に迷惑をかけていると勘違いしているだけだ。
「……雪風、後でいいから話を聞かせてくれ」
「え……」
俺は先ず彼女の話を聞きたかった。
「お前がどうしてそんなに辛いのかはっきり言うとわからない。
でも……このままじゃ嫌だ」
はっきりと俺は自分の感情を伝えた。
雪風がどんな辛く重いものを背負っているかなんて想像も出来ない。
だけど、それが何なのかわからないでこのまま雪風が何処かへと行ってしまうのは嫌だし彼女が自分の意思を殺してしまうのが嫌だった。
「だから―――」
せめて話して欲しいと願おうとした時だった。
『がっ……!?』
「!?
鈴!?」
「!?」
束の間の猶予期間は終わりを告げられた。