奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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お気に入り数が一気に増えて驚きました。
感謝感激と共にさらなる努力の必要性を感じました。
読者の皆さんのためにできる限りの努力をしていこうと思います。
最後に本当にありがとうございました!


第2章「戦友の名前」
第1話「専用機持ち」


「これでやっと……十分の一ですか……」

 

 私はIS学園から提供された自室の机に同じように提供された恐らく、1000ページを超えるISのぶ厚い教本を一々、要点だと思われる部分をノートに内容を噛み砕いてまとめていた。

 昨日の更識さんとのやり取りの後に

 

『じゃあ、雪風ちゃん。

 この本に書いてあること、なるべく全部覚えて来てね♪』

 

 と笑顔で無理難題を言ってきた。

 この場合の「なるべく」とは、頑張れるだけでなく、無言で「絶対」と言っているに等しい。

 

「はあ~……この学園に入ってくる生徒たちはこれを全部覚えて来るんですから仕方ありませんね……」

 

 この教本に載っているのは「IS」の基礎知識だ。

 ISの基本操縦、性能、世代ごとの変遷、特徴などと言ったものが羅列しているが、さすがに学生向けとあって、この世界の学生ではない私でもよく読めば理解できるほどにまとめられている。

 これなら、一般教養さえ理解できればなんとか覚えられるだろう。

 ただ、やはりこれらの内容が一般教養に加えて必須科目としてこの学園に入学する者は知らなくてはならないとは敷居が高いことが窺がえる。

 我が帝国海軍においても士官学校の採用はとても狭い門だったことからもそれは納得できる。

 司令や一部の艦娘の養父とも言えた多くの提督たちは暇な時は私たちにそう言ったことを教えてくれていた。

 私にとっては母親が神通さんならば、父親は司令たち帝国軍人だった。

 そのお父さんみたいな感じが大好きだった。

 ただ悲しかったのは私が好意を抱いていた本人である司令には見た目もあってか、彼には私が娘にしか思われなかったことだった。

 と言うか、司令は今さらだが罪作りな男でほとんどの艦娘たちに好意を寄せられていた。

 その度に一部の艦娘の父親的存在だった彼の海軍の上司たちとその直属の部下のみなさんからはそれを理由に無言の威圧(かわいい愛娘を泣かしたら許さんと言った感じの)をぶつけられてたが。

 

 まっ……司令が本当に女性として観ていたのはあの2人(・・・・)だけだったんですがね……

 

 その本人が恋愛的感情を抱いていたのは二十人以上いる中でたった二人だけだったのだが。

 一見すると、司令が二股男にしか思えないが、彼はあの2人に真摯に向き合っていたことから周囲の艦娘も帝国軍のみなさんも彼らの三角関係にはやきもきしていたが、微笑ましいぐらいに三人の行く末を見守っていた。

 しかし、彼らのその決着は予想もつかない最悪な結末で決着してしまった。

 いつもいつも、提督を振り向かせようとしながらも誰よりも提督と恋敵であるが同時に大切な妹の幸せを祈っていた歴戦の「海の女王」とも称された彼女が沈んでしまった。

 それも私の妹と一緒に。

 

『ゆっきー、謝らないでください。

 私はあなたを恨んでないネ。

 ただ、あの子の分も生きてくださいネ』

 

 彼女の妹を守りきれず帰還した私は部屋の中で閉じこもって塞ぎ込んでいた時に彼女は妹を失ったと言うのに私を責めるどころか、『生きろ』と言ってきた。

 彼女は私たちの鎮守府におけるお姉さんだった。

 恋に対してはいつも真剣勝負だったけれど、だからと言ってそれを理由に他人を嫌わない。

 いや、正確には彼女は司令も姉妹も含めた鎮守府の人々が大好きだったんだろう。

 あの人がいなくなってからは鎮守府は既に多くの仲間を失ってきたことで悲愴感が漂っていたのに悲しみに明け暮れる日々だった。

 特に私が当時所属していた第十七駆逐隊も、既に一人の脱落者を出していながらその悲しみを薄れさせてくれた最も母性に溢れたと言っても過言ではない陽炎型の十一番目の姉妹が彼女と同じ戦場で沈んだことで、彼女たちを守れなかったことに磯風は悔しさに歯を噛み締め、浜風は冷静さを保とうとしたがそれもできず、私は自分の周りで再び仲間が沈んだことに当時、流れていたとある噂もあって自暴自棄になりそうになった。

 鎮守府にとっては一つ、私たちの駆逐隊にとっては同時に二つの太陽を失ったも同然だった。

 そして、あの人の死は司令やあの人の妹の間にも暗い影を落とし、一時は2人の関係が修復不可能に陥るかと思われた程だった。

 

「て……今は昔話よりも目の前の問題をなんとかしないと……」

 

 私は一瞬、過去を思い出して集中力が途切れたが、すぐに現実に向き直った。

 

「せめて……この縦読みだったら少しは疲れないんですがね……」

 

 私が愚痴りたくなったのは目の前の横書きの日本語が多いからだ。

 私のいた世界でも日本語の横書きは稀だった。

 一応、英語は海軍の必修科目でもあるので横読みはできるにはできるが、やはり、日本語は縦読みに限る。

 あと、なんか漢字がおかしい。

 

「「絶対防御」か……」

 

 私は慣れていない日本語の文体に苦戦することで過去の失恋や仲間との別離に一瞬、囚われそうになったがすぐに頭を切り替えてノートにまとめた「IS」の重要な部分に目を凝らして見るとその中で「IS」の最も大きな特徴とされる防御面と生命維持の役割を果たす「絶対防御」に自然と注目した。

 

「……致命傷を完全に防ぎ、操縦者を絶対に生存させる機構……

 ありえませんね」

 

 私は「IS」のこの能力に対しては懐疑的だ。

 もちろん、安全面が保障されているのはこれまでの記録を見れば理解できる。

 しかし、見た所この能力の使用は著しく「IS」の燃料とも言える「シールドエネルギー」を浪費させるらしい。

 それはつまり、「IS」の性能を過信する人間が「IS」を纏えば、すぐにエネルギー切れを起こして、丸裸同然になる可能性も高いとも言える。

 

「結局はどれだけ優秀な装備をまとっていても肝心な使い手が劣っていれば……

 玩具同然ですね。

 ……いや、「力」があるだけ玩具よりも厄介ですが」

 

 「IS」に弱点があるとすれば、その性能から生じるであろう操縦者の「慢心」だろう。

 また、慢心は傲慢を生む。

 実際、昨日散々聞かされて嫌になった「女尊男卑」と言うのはまさにその愚の骨頂。

 

「……神通さんが教官だったら別でしょうけどね」

 

 私の敬愛した「華の二水戦」こと「第二水雷戦隊」の旗艦であるあの人ならば、そんな幻想なんか一瞬で破壊するだろう。

 はっきり言えば、あの人の前で慢心なんかしたら吐くまで(・・・・)訓練をやらされる。

 いや、正確には慢心しなくてもやらされるかもしれないが。

 

 中華民国のみんなには初日でやり過ぎちゃいましたね……

 

 そして、彼女の教え子である私も彼女の基準と言うよりも私たち、二水戦の基準を平均として扱ったことで中華民国の旗艦就任後の初演習で初めて持つことになった部下たちに私にとって(・・・・・)の当たり前である二水戦の基準をやらせてしまった。

 と言っても、私の基準なんかは二水戦の中じゃ下の方だ。

 私と同じくあの戦いまでは生き残った朝潮型の10番艦の娘なんかはさらに自主練をしていたほどだ。

 しかし、そのせいで翌日は何人かが筋肉痛で演習が不可能になってしまい演習どころではなかった。

 言っておくが、神通さんの訓練は厳しいが本当にためになる。

 神通さん直伝の探照灯による目潰しは実際に強力だったし。

 とまあ、はっきり言えば強力な兵装や武装に慢心するようでは私たちからすればまだまだひよっこ同然だ。

 

「あと……900ページ以上……これ、あと20日で覚えるのはきついですかね……?」

 

 私は下線を引いていないページの枚数を確認しながらこれからの自分の課題について悩ましくなった。

 神通さんの訓練と比べたらまだ軽いが。

 そもそも私がなぜ「IS」についての教本を読んでいるかと言えば

 

「まさか……生前(・・)通えなかった学校に通うことになるとは……」

 

 私は三週間後にIS学園に入学することになっているからだ。

 更識さん曰く

 

『監視と護衛を同時にやっておきたいからIS学園に入学してもらうわ』

 

 とのことだ。

 言っていることはかなり物騒だが、「一石二鳥」と扇子を広げながら笑顔で彼女はそう言った。

 彼女は良い性格をしていると思った。

 

「時津風が生きてたら……あんな感じだったのかな……?」

 

 彼女を見ていると私の相棒で一番仲の良かった妹である陽炎型の10番目の姉妹、時津風を思い出す。

 私が守るべきだった妹だった。

 もし、あの子が生きていたら天真爛漫さを残しながら周りを振り回すけどみんなに愛される子に育っていただろう。

 更識さんの性格はそんな感じだろう。

 

「しかし、さすが国際的研究機関と学校施設だけあって倍率がとんでもないですね……」

 

 あと、私にやる気を出させるために更識さんはわざわざこの学園の倍率を教えてくれた。

 その倍率を見た瞬間に私は無様な姿を見せまいと思った。

 この学園に入りたくとも入れなかった生徒たちはたくさんいるはずだ。

 その中で私はやむを得ない事情があるとは言え、裏口入学をしてしまったのだ。

 幸いにも私が入学することで蹴落とされた生徒はいないらしいのだが、やはり、全員が必死に努力しているのに自分だけが努力しないのは気が咎める。

 

「どうやら、私の「IS」は「専用機」らしいですからね……」

 

 「専用機」。それは数少ない貴重なオリジナルの「IS」のコアから展開される個体ごとに強力な「IS」らしい。

 各コアは国家ごとに管理されており、私の「初霜」のコアはどうやっても展開されなくてお手上げ状態の代物だったらしい。

 つまりはただでさえ、厳しい素養が求められるIS学園において、私はさらに「専用機」と言うさらなる品格が求められるものを受領(?)してしまったらしい。

 嫌でも、さらに努力する必要がある。

 

「それに……初霜ちゃんの名を冠するものを纏う以上はその名に恥じぬようにしなくてはいけませんね……」

 

 「IS」の名が私の最後の戦友である初霜ちゃんの時点で私はこの「IS」に恥じない使い手になるつもりだ。

 初霜ちゃんほど、心優しくて強かった艦娘は私はいなかったと思う。

 その彼女の名前を借りているのだから私は無様なことだけはしないつもりだ。

 

「「専用機持ち」のほとんどが代表候補生か……」

 

 嫌味なことに更識さんはさらに「専用機持ち」の意味を教えてくれた。

 その中で今年度の首席らしい英国からの留学生のことも事前に教えてくれた。

 

「「セシリア・オルコット」……

 英国の代表候補生ですか……」

 

 欧州列強の代表格にして、かつて世界中に広大な植民地を保持していた大英帝国。

 我が帝国でもかの国の海軍をお手本として帝国海軍が創設された海軍の大先輩と言える国家だ。

 まあ、世界の覇権を現在握っているのは相も変わらず米国らしいが。

 そんな大英帝国からわざわざオルコット女史は留学してくるらしい。それも「国家代表候補生」として。

 

「……彼女こそ、私が所属する学年の中で最も注目すべき相手ですね」

 

 私はそう断じた。

 ただでさえ、「専用機持ち」と言う国家から認められた存在だ。

 それだけの肩書を持っていることを考えれば、それに見合った努力もしていれば、実力の高さもあるはずだ。

 彼女の「専用機」と私の「初霜」は相性的にはこちらに分があるだろう。

 しかし、ISの(・・・)熟練度はあちらの方が上だ。

 戦闘経験ではこちらの方が一応、上でも慣れない戦い方ならばそこに隙が生まれかねない。

 となると、この三週間で何としてもその差を埋める必要があるだろう。

 「専用機持ち」と言う嫌でも注目されかねない立場では何かと他の「専用機持ち」と関わっていくことになっていくだろう。

 一応は相手のことを知っておく必要がある。

 実際、情報は重要だ。

 私たちは「深海棲艦」と言う未知の敵と戦っていたことで情報が少なすぎて苦戦していた。

 それに私にとっては自らの恥はどうでもいいことだが、初霜ちゃんの名を冠する「初霜」への侮蔑だけは許すつもりはない。

 仮に私ではなく、「初霜」を侮辱されたら殴りかかる自信がある。

 これでも私は駆逐艦(・・・)だ。仲間を馬鹿にされて放っておけるほどできた人格はしていない。

 

「それに……もう一つ……注目すべきは……いや、期待すべきなのは……」

 

 私は更識さんに渡された今年の「専用機持ち」に関する資料の中の一つに目線を移した。

 その資料には

 

「この少年(・・)ですね……」

 

 「織斑 一夏」。

 「世界初にして唯一の男性(・・)のIS適合者」。

 「世界最強の弟」。

 

 このIS学園に入学してくる男子生徒(・・・・)のものであった。




個人的には神通さん時代の二水戦の面々で一番天才肌なのは雪風で努力家かつ実力者は霞だと思う。

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