奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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この二週間、セシリアの武装ですがこの状態では「ブルー・ティアーズ」は使えないことを忘れていました。
その指摘をして頂いた方のお陰で至急修正させていただきました。
皆様に多大な迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。
本当に申し訳ございません。


第52話「悪夢との遭遇」

 なんだあれは……?

 

 俺が目にしたのは海の上に浮かんでいる、いや、立っている三つの人の形をした影だった。

 しかし、その人影にはどれもこれも人の形をしていない異形だった。

 三つの内、二つは海月状の大きな帽子のようなものを被り、一つは腕を何か巨大なものに覆われている。

 極めつけにそいつらは妙に肌の色に血が通っていない様子にも思えた。

 だけど、それだけじゃない。その人影と同じかそれ以上の大きさの小舟の様な形をした二つの影と、どこか黒い直方体状のようなものから人の身体が這い出ているようなものも見えた。

 

 ……なんで封鎖している海域に?

 

 この海域は封鎖されているはずなのにそれらがそこにいることに俺は目を疑った。

 いや、それ以前にどうして海に人が立っているのだろうか。

 

 「IS」……?

 

 当然ながら俺はそう考えた。

 海の上に人が立つ。

 そんなことが出来るのは「IS」ぐらいのものだろう。

 

 味方……いや、敵なのか……?

 

 あの集団の正体が何にせよ先程の何の断りもなしにした「銀の福音」への攻撃から少なくても友好的な雰囲気は存在しなかった。

 何よりも例の「無人機」とも関連性があるのかもしれない。

 と俺が謎の人影に対して警戒心を抱いている時だった。

 

『警告。

 謎の飛行群が接近』

 

「……!?」

 

 「ハイパーセンサー」の警告音が鳴り響き複数の飛行体が俺たちに近付いていることを告げて来た。

 俺はその場を咄嗟に移動しようとしたが

 

「……!!」

 

 何かが俺の目の前を横切った。

 だけど、それは先程の警告通り一つだけではなかった。

 それらは鈍い鉛色をしていてまるで蝙蝠のように群れとなって一つの大きな影となり海鳥の様に次々と俺たちの目の前を急降下していった。

 そして、それらが過ぎ去った後

 

「がっ!!?」

 

「きゃあ!!?」

 

 置き土産と言わんばかりの爆発が訪れてきた。

 その爆発の要因や正確な詳細はわからなくても理解できた。

 今のはこいつらがやったのだと。

 そして、それはまた聞こえて来た。

 まるで降り続ける雨の様に続いた。

 

「ぐっ……!!

 セシリア!一旦離れるぞ!!」

 

「はい!!」

 

 今の一瞬で既に「シールドエネルギー」が半分以下になったがこの無数の爆撃の雨から逃れようとした。

 そして、そこから抜けた時だった。

 

「なんだと……」

 

「そんな……!」

 

 俺たちの目に映ったのは分かり易い脅威だった。

 今の二十基ほどの群れと同じ様な物体が水平線上に至る所に文字通り点在していた。

 しかも、今の倍かそれ以上も。

 

 あいつらは一体……

 

 何とか爆撃から抜け出し状況を確かめることの出来る束の間の時間を得られた俺は、少しでも海の上の三つの人影と謎の飛行物体に関して考えようとした。

 

 ビット兵器か……?

 

 ようやく俺たちに襲い掛かって来たその鈍い色をした飛行物体を「ハイパーセンサー」で目視できるようになった。

 それらはまるで昆虫をモチーフとしたSF映画の宇宙人が乗っているような形をした戦闘艇に似ていた。

 けれども、そんな全体のSF映画染みたモチーフと反して、それらには下部に小型の機関銃のような火薬の臭いがして来そうな武器が積まれていた。

 そのことからセシリアの「ブルー・ティアーズ」のようなビット兵器だと俺は考えた。

 

 なんだ……この……じろじろと見られているような感じは……

 

 ただそんな風に機械同然のそれらに俺は視線の様なものを感じて気味が悪かった。

 

 まさか生き物ってことは……ないよな……?

 

 その無数の眼球に見られているかのような生理的嫌悪感に俺はそれらが生きていると錯覚しそうになったがいくら何でもそんなことは馬鹿げていると一蹴した。

 

「あなた方!!

 ここは作戦空域です!!

 それなのに今の突然の武器使用と無断攻撃とは何事ですの!?

 所属と名前を言いなさい!!」

 

「……!?」

 

 そんな風に俺がこの飛行物体の大群の正体について推測しているとセシリアが恐らく今の謎の大量の飛行物体と関わりがある海上にいる三つの人影に対して呼びかけた。

 セシリアのやっていることは間違っていない。

 今、俺たちは作戦中だ。

 それなのに目の前の突然乱入して来たうえに俺たちを巻き込むことを承知で飛行物体をけしかけたであろう海上の三人に対して意見を求めるのは当然だ。

 どう考えても友好的ではないのは明らかだ。

 と言っても、相手の正体や真意が分からないでこのまま交戦する訳にもいかない。

 セシリアのやっていることは理性故の行動だった。

 

『フフフ……』

 

「……!?」

 

 返答を待っている俺たちに対してそれらが返してきたのはまるで雨が降った後に出て来る幽霊のような底冷えする笑い声だった。

 

「セシリア!!危ない!?」

 

「え―――?」

 

 海上の一つの人影がセシリアの方へと身体を向けると同時にそいつの両腕に装着されているものまでもがむけられたのを見て俺はセシリアの方へと一気に飛んだ。

 

「―――きゃっ!?」

 

「くっ……!!」

 

 その直後、普段耳にしているものよりも倍以上もする空が揺れたかのような轟音が響き渡り心が震えそうになったが、その動揺を抑えながら俺は何とかセシリアを抱きかかえて何か恐ろしいものが近付いてくる場所から彼女を移動させた。

 

「!?」

 

 危なかった……!!

 

 セシリアが浮かんでいた場所を禍々しい赤い炎を纏ったような何かが過ぎ去ったのを目にしてセシリアは俺に遅れて身体を震わせて俺は冷や汗を掻いた。

 今のは直撃していたら確実に死んでいた。

 間違いなく、今「死」が通り過ぎていった。

 

「セシリア!?

 大丈夫か!?」

 

「ええ……何とか……」

 

「そうか……よかった……」

 

 奴らからなるべく距離を取って何とか安全だと思える距離まで移動してセシリアの無事を確かめると安堵し俺はセシリアを解放した。

 

「一夏さん……その……こんなことをあまり言いたくありませんけれども……今の攻撃は……」

 

 自由になったセシリアは落ち着きを取り戻すと気まずそうに何かを言おうとしてきた。

 俺が感じ取ったものを彼女も感じているのだろう。

 

「ああ……

 今のは雪風の武器と似ていた……」

 

 あんな人を殺すことに躊躇いのない攻撃が、誰かを守るためや助けるために一生懸命な雪風と似ているなど思ってはいないし思ってはいけないとは思っているが、それでも今の攻撃は音の大きさは違えども雪風のそれを彷彿させた。

 

 何なんだ……あいつらは……!?

 

 結局の所俺たちが分かったのは連中が俺たちの味方ではなく俺たちすら殺そうとしたこと位だった。

 念のために他の学園関係者に連絡を取ろうとした時だった。

 

 ……!

 そう言えばどうしてこんなことになっているのに誰からも通信が入らないんだ……?

 

 今さらになって俺はこんな異常事態にも拘わらず誰からも通信が入らないことに気付いた。

 

『千冬姉!

 今、どうなっているか教えてくれ!!』

 

「……一夏さん?」

 

 俺は「オープン・チャネル」で誰かから応答を貰おうと試みた。

 けれども

 

 嘘だろ……!?

 

 結果はセシリア以外の誰も通信に応えてくれなかった。

 

「……セシリア。

 俺たち、孤立しているぞ……」

 

「え!?」

 

「今、「オープン・チャネル」で周囲に呼びかけたけど誰も応答してくれなかった……

 通信が遮断されている……」

 

「そんな!?」

 

 今の事で判明したこと。

 セシリアが反応したことで少なくても機械の故障ではないということと同時に、最悪なことにこの場にいるセシリア以外の誰も反応しなかったことから俺たちの通信は外部と遮断されていると言うことだった。

 まるでパニック映画の序盤から中盤にかけて突然通信が使えなくなって外界から孤立しているような状態だった。

 

 どうする……!?

 一か八か逃げるか!?

 

 俺は情けなくても逃げることを考えた。

 今、俺たちと「銀の福音」一機と謎の人影三体と無数の飛行物体の群れと言う三つ巴に近い状況だ。

 けれども、この中で最も戦力が低いのは俺たちだ。

 ここで戦うということは少なくともセシリアもこの戦いに巻き込むことになる。

 先程の一射で分かったが連中は俺たちを殺そうとしてきた。

 つまり、負ければ死ぬ。

 

 死ぬ……か……

 

 思えば、俺は「IS」が安全とか社会の常識以上に、以前に一度たりとも人の「死」を経験したことがなかったことで『死ぬ』ということへの実感が湧かなかった。

 俺には両親がいないけれどもそれは親が俺を捨てたからだ。

 いや、「死」を実感することに近いことはあった。

 「モンド・グロッソ」の決勝で千冬姉が助けに来なかったら俺は死んでいただろう。

 俺は生きていた。

 それでも俺は「死」がどういうものなのかを知らない。

 

『貴女のお母さんはきっと最期まで貴女のことを愛していたはずです。

 それなのにその貴女が諦めてどうするんですか』

 

『でも……じゃあ……どうすれば……』

 

『お姉……ちゃん……』

 

 でも、それがもたらすものを二人の友達から教えられた。

 シャルロットと雪風。

 あの二人が俺に親しい人間の「死」がどれ程までに悲しませるのかを教えた。

 もし俺が死んだら千冬姉は悲しむことになるだろう。

 

「セシリア―――」

 

 セシリアを連れてこの場から去ろうとした時だった。

 

「一夏さん!!あれを!!」

 

「―――え?

 !?」

 

 セシリアのその叫びで俺は彼女が見ているであろう方を振り向いた。

 そこで俺が目にしたのは俺たちにとっては作戦対象である「銀の福音」にあの無数の飛行体が次々と襲い掛かっている光景だった。

 「銀の福音」は弾幕で応戦するが、それでもその飛行群は何機か落ちるが、それでも何機かが潜り抜け「福音」に道端にいる獲物に群がる蟻のように纏わりつきダメージを与えていった。

 

「………………」

 

 それを見て俺は気付いた。

 このままいけば「銀の福音」は「シールドエネルギー」を失い機能を停止する。

 それはある意味では俺たちの作戦の目的と一致する。

 けれども、決定的に異なることがある。

 

 死んじまう……

 

 それは「銀の福音」の搭乗者が『死ぬ』ことになるということだった。

 先程の攻撃で分かった。

 あの連中は生命を奪うことへの躊躇がない。

 むしろ、率先して殺しに来る。

 もし、「銀の福音」がエネルギーを失い「IS」としての機能が停止しても奴らは容赦なく撃ち続ける。

 

「……セシリア、悪い。

 お前だけで逃げてくれ」

 

「え!?」

 

 そんな想像をしてしまった俺はこの場に残ることを決めてしまった。

 

「一夏さん!?

 何を言っておりますの!?」

 

 当然ながらセシリアは俺の発言を聞いて正気か疑ってきた。

 

「悪い……

 でも、ここで「銀の福音」をどうにかしないとパイロットが殺されちまうよ」

 

「それは……」

 

 自分でも馬鹿だとわかっている。

 つい先ほど、自分が死んだら悲しむ人間がいると理解しているのに俺は死ぬかもしれないのに知らない誰かを助けようとしている。

 

「だったら、わたくしも―――!!」

 

 セシリアは俺がこの場に残る意思を固めていることを知ると自分もこの場に残ろうとするが

 

「ダメだ!!!」

 

「―――?!」

 

 珍しく本気で怒鳴って俺はセシリアのその訴えを遮った。

 

「これは俺のワガママなんだよ。

 それなのにセシリア、お前を巻き込んだら俺は自分を許せなくなる。

 だから、お前は逃げろ」

 

「ですが……!?」

 

 これは俺が人が死ぬのが嫌だからと言って行動する俺のワガママだ。

 それに他人を巻き込むことを俺は許せないのだ。

 

「……だったら、セシリア。

 お前はこのことを雪風たちに伝えてくれ」

 

「え……」

 

 こうなったら絶対に引き下がらないと俺は理解して俺は雪風のマネをした。

 

「雪風たちはここに向かって来てくれているはずだ。

 でも、この状況を知らなかったらあいつらもきっと対処に困るはずだ」

 

 雪風たちはこの異常事態にも拘わらず作戦通りこちらに向かっているはずだ。

 あいつらは仲間を見捨てるような奴らじゃない。

 だけど、この状況を知らずにいれば間違いなく不意を突かれてしまう。

 それを防ぐにはセシリアが雪風たちにこの状況を伝える必要がある。

 

「それに……

 お前が作戦空域から離脱して千冬姉たちにこのことを教えてくれれば他の場所からも助けが来てくれるはずだ。

 頼む」

 

「……っ!!」

 

 加えて、通信が使えない今において助けを求めるには最早直接助けを呼びに行くしかない。

 そして、俺とセシリアだったらセシリアの方が早く作戦本部まで辿り着くことが出来る。

 これは簡単なことだ。

 

「それが一番助かるんだ」

 

 セシリアを巻き込みたくないと言う本音のための建前を考えてみたがまさかこうまでしっくりくるものが出て来るとは思わなかった。

 俺の頭も捨てたものではないらしい。

 

「……ずるいですわ……」

 

 セシリアは納得せず恨むように従ってくれるようだった。

 

「わかりましたわ……

 でも、約束してください……

 どうか……どうかご無事で……」

 

 セシリアは途切れ途切れに縋るように俺にそう懇願して来た。

 セシリアは俺が死ぬことを恐れている。

 誰かが死ぬ。

 そんな当たり前の怖さを俺は遠いものだと思っていたが、どうやらそれは決してその意味を薄れさせるものではないことを教えられた気がした。

 

「……ああ。約束する。

 だから行ってくれ」

 

 俺は胸の中に存在する先程から感じる焦りを隠しながらセシリアを安心させようと強がってそう言った。

 

「必ず……必ず助けを呼んでまいりますわ!!!」

 

 セシリアは泣くのを堪えて行きと同じかそれ以上の速さで去っていった。

 

「さてと……」

 

 俺は振り向いて再び戦場の方へと顔を向けた。

 

「約束したんだから……

 絶対に帰らないとな」

 

 目の前に広がる絶望的な状況を改めて認識しながら俺はそう決めた。

 

「それに……

 誰かを泣かせる。それも女を泣かせたら絶対にダメだよな」

 

 俺の知る限り、俺が死んだら泣いてくれる奴らは少なくても九人はいる。

 千冬姉は当然ながら、今泣きそうだったセシリア。幼馴染の鈴。中学時代からの悪友の二人とその中の一人の妹。

 そして

 

 箒もシャルも雪風も泣かせたくないしな……

 

 那々姉さんが死にかけていて悲しんでいる箒を悲しませる訳にもいかない。

 シャルと雪風が流していた涙の理由を知ることから死ぬわけにはいかないだろう。

 結局のところ、誰も悲しませたくないから俺は死にたくない。

 

 絶対に死んでやるか……!!!

 

 俺はそう心に決めた。


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